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博士(医学)加藤幹子 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(医学)加藤幹子 学位論文題名

妖精症(Leprechaunism) における成長障害機構の    解 析 と IGF‑1 治 療 の 基 礎 的 , 臨 床 的 検 討

学位論文内容の要旨

妖 精症 は, 子宮 内及 び生 後の 発育 不全、 イン スリ ン抵 抗性 糖尿 病、 皮下 脂肪 の滅少、

特 徴的 な妖 精様 顔貌 を呈する疾患であり、インスリン抵抗性の成因としてインスリン受 容 体遺 伝子 など の異 常が同定されている。近年本症の治療において遺伝子工学手法で作 られたインスリン様成長因子‐1 (rhIGF‐1)が使用できることになったことから、それに よ る治 療が 試み られ ている。しかし、その治療効果は一様ではなく、本症における障害 部 位の 異質 性が 示唆 されている。それゆえ症例ごとにthIGF−1治療効果を評価すること は,IGFー1治療の有用性、さらにはインスリンノIGFー1の情報伝達機構の理解に示唆を与 え るこ とに なる 。本 研究では、妖精症の一女児例を対象として、患児の皮膚線維芽細胞 を 用い たIGF‑1の 生物 学的作用の検討、IGFー1の生体内動態、IGF‑1投与による糖代謝、

成 長に 及ぼ す短 期的 、長期的効果を検討し、さらには患児の成長障害機構についても検 討を加えた。

対象と方法

対 象は7歳4カ月 の女 児で 、イ ンス リン受 容体 遺伝 子異 常が 認め られ 、そ の異 常は母由 来 のア リル に、 エク ソン4から6の 間に1.3kBの欠 失、 父由 来の アリ ルに は87番目のア ミ ノ酸 がロ イシ ンか らプロリンに置換するミスセンス変異である。IGF―1の生物学的作 用は、患児の上腕部皮膚から確立した皮膚繊維芽細胞を用い、インスリン受容体結合能、

|GF‐1受容 体結 合能 、IGF−1受容体ローサブユニットの自己リン酸化能、IGF‑1による チ ミ ジ ン の 取 り 込 み を 検 討 し た 。IGF‑1の 生 体 内 動 態 及 び 治 療 効 果 は 種 々 の濃 度 の thIGF‐1を単回及び持続皮下投与にて検言寸した。患児の成長障害機構の解析は、成長ホ ルモン分泌能、IGF―1産生能、IGFBP―3値、ALS値を検討した。

結果

1) 患児皮 膚繊 維芽細胞における|GFー1受容体結合能、IGF−1受容体ロ_サブユニツ卜 の 自 己 リ ン 酸 化 能 、IGF−1に よ る チ ミ ジ ン の 取 り 込 み は 正 常 で あ っ た 。 2) IGF‑1の 生 体 内半 減 期 は 約90分 と 短 か く 、 有 効血 中濃 度を 保っ ため にはIGF‐1を

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持続皮下投与と単回投与の組み合わせで1 .6mg/kg/日を投与することが必要であった。

  3) 糖 代 謝 ,成 長 に及 ぼ すIGF一1の 治療 効 果に は 用量 依 存性 が 認め ら れた 。 4) IGFー1治療に伴う網膜症の発症、腎肥大を含めた臓器肥大などの副作用は6年に及 ぶ長期投与にても認められなかった。

  5)成長障害機構の検討において、成長ホルモン分泌は正常に保たれていたが、|GF‑1 産生能の低下、IGFBP―3、ALSの低値が認められた。

  考察

  thIGF‐1が入手できるようになり、インスリン抵抗性糖尿病へのIGF‑1治療が試みら れている。しかし、報告されている治療効果は一様ではない。その原因として、低栄養 状 態、細胞レ ベルでの変 異インスリ ン受容体に よるdominant negative効果による IGF‐1抵抗性、結合蛋白であるIGFBP−3の低下などが示唆されている。今回の解析から、

患児皮膚線維芽細胞におけるIGF‐1受容体結合能、IGF‑1受容体ローサブユニットの自 己リン酸化能、|GF‐1による細胞増殖作用は正常であったことから、細胞レベルにおい ては変異インスリン受容体の内因性|GF‐1受容体に対するdominant negative効果は 存在しないと考えられた。しかし、本患児において血中IGF‐1濃度の低値、IGFBP―3の 低値を認め、さらにIGF―1の生体内動態の検討から、患児生体内におけるIGF−1の半減 期は非常に短かく、有効血中濃度を維持するには大量のIGF‐1投与が必要であった。ま た|GF―1generati on試験にてもIGF‑1、|GFBP‐3の分泌は低値であった。これらの結 果から、本症において、主に肝臓における成長ホルモン(GH)受容体及びGH受容体以降 でのGH抵抗性が存在し、GH作用発現の一部にインスリンの作用が必要であることが示 唆された。本疾患においてIGF‑1の低値とともに|GFBPー3、ALSの低値があることから、

遊離型IGF‐1が増加し、尿中の排泄が増加し|GFー1の半減期が短くなったものと推察で きる。さらにこのIGF‐1欠乏状態が、子宮内および生後の成長障害をもたらしたと考え ることができる。従って、治療効果を期待するためには、比較的大量にIGF‐1を投与す ることで血中IGF‐1濃度を正常範囲内に維持することが必要であった。IGFー1の糖代謝、

成長に対する効果には用量依存性の関係も認められた。

  IGF‑1治療において問題になるのは、IGF‐1の細胞増殖作用である。しかし、本症の ような重症型インスリン抵抗性糖尿病においては、IGF―1欠乏状態にあり、IGF‐1投与 量が大量であっても、その血中濃度をモニ夕一した限りでは生理的範囲を超えるもので はなく、IGF‐1治療は生理的補充療法と考えられた。事実6年間に及ぶ治療にて臓器肥 大、網膜症などの副作用は認めていない。

  以上、対象とした妖精症において、インスリン受容体の異常によるインスリン作用の 欠如、さらにそれによるIGF−1欠乏状態および部分的なGH抵抗性が存在し、このニっが 本症の臨床的特徴である糖代謝異常と成長障害に大きく関与していると考えられた。

IGF―I治療は、インスリン受容体と細胞内シグナル伝達経路をある程度共有するIGF‑1 受容体を介し、インスリン様の糖代謝に対し効果をもたらすとともに、|GF−1欠乏状態 を是正し、成長促進効果をもたらすことから有用かつ合理的な治療法と考えられた。

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学位論文審査の要旨

     学位論文題名

妖精症 (Leprechaunism) における成長障害機構の 解析と IGF‑1 治療の基礎的,臨床的検討

  妖精症は,子宮内及び生後の発育不全、インスリン抵抗性糖尿病、皮下脂肪の減少、

特徴的な妖精様顔貌を呈する疾患で、インスリン受容体遺伝子などの異常が同定されて いる。近年本症の治療にりコンピナン卜のインスリン様成長因子ーl(rhIGF一1)が使用で きるようになったことから、それによる治療が試みられている。しかし、その治療効果 は一様ではなく、本症における障害部位の異質性が示唆されている。それゆえ症例ごと にthIGF―1治療効果を評価することは、IGF−1治療の有用性さらにはインスリンノIGF−1 の情報伝達機構の理解に示唆を与えることになる。本研究では、妖精症の一女児例を対 象として、患児の皮膚繊維芽細胞を用いたIGFー1の生物学的作用の検討、IGFー1の生体 内動態、IGF−1投与の糖代謝・成長に及ぼす短期的、長期的効果を検討し、さらには患 児の成長障害機構について検討を加えた。[対象と方法]対象は7歳4力月の女児で、イ ンスリン受容体遺伝子異常が認められ、その異常は母由来のアリルでは、工クソン4か ら6の間に1.3Kbpの欠失、父由来のアリルには87番目のアミノ酸の口イシンがブ口リ ンに置換するミスセンス変異である。IGF‑1の生物学的作用は、患児の上腕部皮膚から 確立した皮膚繊維芽細胞を用い、インスリン受容体結合能、IGF−1受容体結合能、

IGF−1受容体ロサブュニッ卜の自己リン酸化能、thIGF‑lによるチミジンの取り込みを 検討した。IGF−1の生体内動態及び治療効果は種々の濃度のthIGF―1を単回及び持続皮 下投与にて検討した。患児の成長障害機構の解析は、成長ホルモン分泌能、IGF−1産生 能、IGF結合蛋白―3(IGFBP−3)値を検討した。[結果]1)患児皮膚繊維芽細胞における IGF―1受容体結合能、IGF―1受容体ロ―サブュニッ卜の自己リン酸化能、IGFー1によるチ ミジンの取り込みは正常であった。2)IGF―1の生体内半減期は約90分と短かく、有効血 中濃度を保っためにはthIGF−1を持続皮下投与と単回投与の組み合わせで1.6 mg/kg/

日を投与することが必要であった。3)糖代謝と成長に及ぽすthIGF―1の治療効果には用 量依存性が認められた。4)IGF−1治療に伴う網膜症の発症、腎肥大を含めた臓器肥大な どの副作用は6年に及ぶ長期投与にても認められなかった。5)成長障害機構の検討にお

彦夫 郎       一 邦隆 征 林池 本 小小 藤 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副

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い て、 成長ホ ルモ ン分 泌は 正常 に保 たれ てい たが 、IGF‑1産生能の低下、IGFBP−3の低 値 が認 められ た。 [考 察]インスリン抵抗性糖尿病へのthIGFー1の治療効果は症例によ り 一様 ではな い。 その 原因として、低栄養状態、細胞レベルでの変異インスリン受容体 に よ るIGF受 容 体 へのdominantnegative効 果 に よ るIGF−1抵 抗 性 、 結 合 蛋 白で あ る IGFBP−3の低 下な どが 示唆 され てい る。 今回 の解 析か ら、 患児 皮膚繊 維芽 細胞 におけ るIGF−1受容体結合能、IGF―1受容体ローサブユニットの自己リン酸化能、IGF―1による 細 胞増 殖作用 は正 常で あったことから細胞レベルにおいては変異インスリン受容体の内 因 性IGF−1受 容体 に対 するdommantnegative効 果は 存在しないと考えられた。しかし、

本患児では成長ホルモン(G印の分泌が正常であるにも関わらず血中IGF−1濃度の低値、

IGFBP―3の低 値を 認め 、またIGF−1産生試験でもIGFー1、IGFBPー3の分泌は低値であっ た 。 以 上 か ら 、 本 症 で は 、 主 に 肝臓 に お け るGH受 容 体 及びGH受 容体 以降 でのGH抵 抗 性 が存 在し、GH作 用発 現の 一部 にお いて イン スリ ンの 作用 が必 要であ るこ とが 示唆さ れ た。 さらにIGFー1の 生体内動態の検討から、患児生体内におけるIGFー1の半減期は非 常 に短 かく、 有効 血中 濃度 を維 持す るに は大 量のIGF―1投 与を 必要で あっ た。 本疾患 においてIGF・−1の低値とともにIGFBPー3の低値があることから、遊離型IGF―1が増加し、

尿中の排泄が増加し,IGF―1の半減期が短くなったものと推察できる。さらにこのIGF‐1 欠乏状態が,子宮内および生後の成長障害をもたらしたと考えることができる。従って、

治 療効 果を期 待す るた めには比較的大量にIGF‐1を投与することて血中IGF一1濃度を正 常 範囲 内に維 持す るこ とが必要であり、その効果は用量依存性と考えられる。IGFー1治 療 に お い て 問 題 に な る の は 、IGF―1の 細 胞 増 殖 作 用 で ある 。し かし 、本 症の よう な IGF―1欠乏状態では、rhIGF−1投与量が大量であっても、その血中濃度は我々がモ二夕ー し た限 りでは 生理 的範 囲を 超え るも ので はな く、 事実6年間に及ぶ治療にて臓器肥大、

網膜症などの副作用は認めていない。

  以上 、対象 とし た妖 精症 にお いて 、イ ンス リン 受容 体の 異常 による イン スリ ン作用 の 欠如 、さら にそ れに よるIGFー1欠 乏状 態お よび 部分 的なGH抵 抗性が 存在 し、 このニ っ が本 症の臨 床的 特徴 である糖代謝異常と成長発育障害に大きく関与していると考えら れ た。rhIGF−I治 療は 、インスリン受容体と細胞内シグナル伝達経路をある程度共有す るIGF―1受容 体を 介し 、インスリン様の糖代謝に対し効果をもたらすとともに、IGF―1 欠 乏状 態を是 正し 成長 促進効果をもたらすことから有用かつ合理的な治療法と考えた。

  公開 発表に 際し 、副 査の藤本教授から線維芽細胞培養に加えた牛胎児血清に含まれる IGF、IGFBPの 結果 への 影響 、女 性患 者に おけ る多 毛や 陰核 肥大 の機序 、骨 密度 の検討 の 有無 、rhIGF投 与量 の決 定法 、IGFBP―3の併 用療 法の効果、将来の生殖機能の問題点 な ど、 又副査 の小 池教 授からGH抵抗性やIGF−1低値は一般的な現象か否か、IGFー1刺激 で イン スリン 受容 体とIGF受容 体が 共に燐 酸化 され る機序について、長期的な点からの 副 作用 につい て、 また 高HbAlcがあ ること から 糖尿 性の併発症の有無について、主査の 小 林教 授から 高イ ンス リン 下で のmvivo試 験の 必要 性について、ハイブリド受容体の存 在 の検 出法に つい て、 などの質問があった。申請者は何れに対してもほぽ妥当な回答を おこなった。

(5)

審査員一同は、本研究がインスリン受容体異常症の治療としてのthIGF−1投与の妥当 性を細胞レベル及び生体レベルで検討し、今後の本症における治療法に重要な示唆を与 えた点を高く評価し、申請者が博士(医学)の学位を受けるのに充分な資格を有するも のと判定した。

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