博士(医学)伊丹儀友 学位論文題名
小 児期 膜性増殖 性糸球 体腎炎 I 型に おける 糸球 体障害の成因に関する研究
学位論文内容の要旨
I.はじめに
膜性増 殖性 糸球 体腎 炎(mcmbranoprolifcrativc glomcruloncphritis;MPGN)は低補体 血 症を呈 する と共 に糸 球体 にメ サン ギウム増生による毛細血管係蹄壁の二重化や分葉化 な ど を 認 め る こ と が 特 徴 で 、3型 に 分 け ら れて いる。 現在 、腎 炎の 多く は病 因不 明で あ る が 何 ら かの 免疫 複合 体(IC)の 関与 によ り発 症する と考 えら れて いる 。実 験的IC型 腎 炎ではlCが 糸球 体ヘ 沈着 する 際、ICと毛細血管係蹄壁との静電気的相互関係が重要で あ り、沈 着し たICが補 体系 を活 性化 する と、 生物 活性 囚予 が生じ 、多形核白血球(PMN) を はじめ とす る炎 症細 胞の 浸潤 やmediatorの産生を促進し、糸球体障害が惹起されるこ と が明ら かさ れて いる 。ま た、 糸球 体障害の重要な指標である蛋白尿の発症には主に糸 球 体 基 底 膜(GBM)に 存在す る陰 性荷 電barrierの 破綻が 関与 して いる こと も示 唆さ れて い る。
従 来 、MPGNは 主 に 低 補 体 血 症 が注 目 さ れ 検 討 が な さ れ て き た が 、 本 研 究に おい ては 実 験腎炎 にお ける 糸球 体障 害の 発症 機序 に関 する いく っか の事実 を踏まえ、MPGN type 1に おけ る糸 球体 障害 の成 囚に ついて 検討 する 。
II.対象
昭 和48年4月 よ り 昭 和63年3月 ま で の15年 間 に 腎 生 検 に よ りMPGN typeIと 診 断さ れた 小児の 症例 は26例で あっ た。 それ らの うち 腎組 織の 利用 が可能 な症 例を対象 とし 以下 の検討 を行 った
III.方法
1. 臨床 検査; 腎生 検前 およ び経 過中 に検尿、血清学的検査、生化学的検査などを定 期的 に行 った 。
2. 光 顕 観 察 はHE,PASお よ びPAMの 各 標 本 に つ いて 行 っ た 。 さ ら に 、18症 例に つ
いてはHE標本にて1糸球体あたりのPMNを数えた。
3.螢光抗体法はcryostatにより薄切した4uの凍結切JfをIgG,IgA,IgM,C3,C4,Clq 諮よ びFibrinogenに対 する 各FITC標 識抗 体(Bochring社 ,あ るい はCappcl社)を用 い染 色し 螢光 顕微 鏡に て観 察し た。 さら に、IgGの 糸球 体へ の沈 着強度が1十以.L の5症 例 で は ヒ卜IgGの サブ クラ スに つい て螢 光抗 体間 接法に より 観察 した 。一 次 抗 体 に はWHOよ り 提 供 され た 各 サ ブ ク ラ ス の マ ウ ス モ ノ ク ロ ー ナ ル 抗 体(MoAB) で あ るIgGIMoAB(HP6069)、 抗IgG2MoAB(HP6014)、 抗IgG3MoAB(HP6051) 、 抗IgG4MoAB(HP6101) を 用 い 、 二 次 抗 体 に はFITC標 識 ヤ ギ 抗 マ ウ スyーglobulin 抗体(Cappel社)を用いた。
4.通 常電 顕観 察のた めに 腎組 織を2% グル タール アル デヒ ド液 と1%オスミウム液で 固定 後エ タノ ール 脱水 およ びア セト ン置 換をしEpon812に包 埋し た。超薄切切片を 作 製 し 、 酢 酸 ウ ラ ニ ウ ム と ク エ ン 酸 鉛 の 二 重 染 色 を し 電 顕 で 観 察 し た 。 5. GBMに おけ る陰性 荷電 部位(anionic sites:AS)観察のためにPLP固定組織を用い、
0.5%polyethylenimine(PEI,M.V.1200,Polyscience社 ) ー0.1Mcacodylate buffer(pH7.4、400mOsm)に てSchurerらの 方法 に準 じて4℃,30分 間染 色し 、そ の 後通 常電 顕と 同様 の方 法で ブロ ック を作製し、超薄切片をクエン酸鉛で染色後電顕 に て 観 察 し た 。GBMのAS数 は50000倍 拡 大 写 真 に お い て 、 各 症 例 最 低14視 野 以 上 の 外 透 明 層 に お け るAS数 に つ い て 測 定 し 、 最 終 的 にGBM1000nmあ た り の AS数として表現した。
6.血 清IgGサブ クラ ス濃 度は19例 の腎 生検時血清について螢光抗体法に用いたのと同 じIgGサ プ ク ラ ス に 対す るMoABを 使 用 しELISA(石 坂ら による 方法 )で 測定 した 。
I V . 結 果
1. 血 清 ( ニ3の 値 は 腎 生 検 時 、25例中15例 が 低 下 を 示 し た 。 全 経 過 で は26例 中2 5例 (96%) が低 下示 した 。
2.1糸 球 体 に お け るPMN数 は 発 症 後1年 未 満 に 腎 生 検 が 実 施 さ れ た11症 例 で は3.6 十2.6ケ(mean十S.D. ) で あ り 、 発 症 後1年 以 後 腎 生検 が行 われ た7症 例の111十 113よ り 有 意 に 増 加 し て い た (pく0.05)。 ま た 、1糸 球 体 あ た りのPMN数 と 血 清C 3の 値 と の 間 に 有 意 の 負 の 相 関 を 認 め た (r= ‑0.62, pく 0.05)。 3. 螢 光 抗 体 法 の 実 施 で き た26例 全 例にC3の 糸 球 体 に おけ る沈 着が 認め られ 、その 強 度と 血清 く3値 との問には有意の負の相関を認めた(r=ー0.64、pく0.01)。また、
1糸 球 体 あ た り のPMN数 とC3の 沈 着 強 度 と の 間 に は 有 意 の 正 の 相 関 を 認 め た (r=0.48、pく0.05)。
4. IgGの 沈 着 強 度 が1士以 上で あっ た5症例 ではIgG3だ けがIgGと同 様の 沈着 所見を 示 し、 他の サブク ラス は陰 性な ぃし 痕跡 であ った 。
5.lrILtnlgGサ プ ク ラ ス の 値 で はlgG3が170士128rng/dlと 正 常対 照 群 の78士29 mg/dHこ 比 し 高 値 の 傾向 を示 し、19例rl|8例(42.1%) は正 常対 照の 十2SDより
も 高 値 で あ っ た 。 他 の サ ブ ク ラ ス で は 高 値 を 認 め な か っ た 。 6. GBMlOOOnm当た りのAS数は18.4士2.8ケで正 常対照群の21.6士1.6ケに比し有意に滅 少 し て い た (pく0.01) 。 ま た 、PMNが 両 接 に 接 し て い たGBMに お け るAS数 は 16.8+2.9ケであ ったのに 対し、接 していないGBMにおいて は18.9士2.6と有 意に減少 してい た (pく0.01) 。
V.考察
血 清C3値 と 糸 球 体 のC3の 沈 着 強 度 と の 間 に 有 意 の負 の 相 関を 認 めた こ と はC3の 沈 着 が 血 清C3の 低 下 に関 与 して い る 可能 性 が 考え ら れた 。 ま た、C3の 沈 着 強度 と1 糸 球 体 あ た り のPMN数 と 間 に 有 意 の 正 の 相 関 を 認 め た こ と は 補 体 活 性 に 伴 いP.MN が 走化性因子 と免疫粘 着作用に より炎症 局所に集積するという実験腎炎の成績に対応す る 結 果と 考 え られ た 。IgGの サ ブク ラ ス のう ちIgG3が圧倒 的優位に 糸球体に 沈着し、
血 清IgG3は増 加 傾 向を 示 した 。Ig G3はpIが8.2ー9.0とcationicであり、 補体結合 能 を 有 す る 。 一 方 、PMNや 単 球 の 表 面 に はIg G3のreceptorが 存 在 して い る。 こ れ ら の こと か ら 、本 症 で何 ら か の抗 原 刺 激に より産 生されたIg G3を抗体と するICは、
anlonlc moietyに 富 むGBMへ の 沈 着 に 有 利 で あ り 、 ま た 補 体 の 活 性 化 やPMNな ど の 炎症細胞の 浸潤によ り組織障 害を惹起 しうることが推測された。また、本症の患者で GBMに お け るAS数 が 有 意 に 減 少 し て い た こ と はMPGN type1の 蛋 白 尿 の 発 症 に GBMのAS数 の 減 少 が 関 与 し て い る こ と が 示 唆 さ れ 、PMNが 直 接 接 し て い るGBM に お け るAS数 が さ ら に 減 少 し て い た こ と はPMNが よ り 直 接 的 にGBMのcharge barrierを 障 害 し て いる の を 示唆 し てい る 所 見で あ ると 考 え られ た 。以 上 の よう に MPGN type1の糸 球 体 障害 の 発症 に お いて も 実験 腎 炎 で明 ら か にさ れ た障 害発症 機序 が 関与してい る可能性 が示唆さ れた。
学 位 論 文 審査 の 要旨
学 位 論 文 題 名
小 児 期 膜 性 増 殖 性 糸 球 体 腎 炎 I 型 に お け る 糸 球 体 障 害 の 成 因 に 関 す る研 究
膜 性 増 殖 性 糸 球 体 腎 炎I型 (MPGN typeI) は 低 補 体 血 症 を 呈 す る と 共 に 、 病 理 組 織 学 的 に は メ サ ン ギ ウ ム の 増 生 に よ る 糸 球 体 毛 細 血 管 係 蹄 の 分 葉 化 と mesangial interpositionを 特 徴 と す る 。 こ れ ま で 病 因 と の 関 連 で 主に 低補 体 血 症 に っ い て 検 討 が な さ れ 、 そ の 糸 球 体 障 害 機 序 に つ い て の 検 討 は 少 な か っ た 。 今 回 の 伊 丹 氏 の 研 究 は 実 験 的 増 殖 性 腎 炎 に お い て 明 ら か に さ れ て い る 免 疫 複 合 体 の 沈 着 に っ づ き 補 体 の 活 陸 化 と そ れ に 伴 う 多 形 核 自 血 球 の 浸 潤 な ど が ヒ トMPGN typeIの 糸 球 体 障 害 に 関 与 し て い る か 否 か を 明 ら か す る た め に 行 な わ れ た も の で あ る 。 ま た 、 糸 球 体 の 直 接 障 害 所 見 の ー っ と し て 蛋 白 尿 の 原 因 と し て 重 要 で あ る 糸 球 体 基 底 膜 のcharge barrierの 障 害 の 有 無 に つ い て も 検 討 が 行 わ れ た 。 腎 生 検 所 見 ( 光 顕 、 電 顕 、 螢 光 抗 体 法 ) と 臨 床 検 査 所 見 に よ りMPGN typeIと 診 断 し た26例 を 対 象 と し 、 、 そ の う ち18症 例 に つ い て は HE標 本 に よ り1糸 球 体 あ た り のPMNを 数 え た 。 糸 球 体 のIgGの 沈 着 が1十 以 上 の5症 例 に つ い て 一 次 抗 体 にIgGサ ブ ク ラ ス の マ ウ ス モ ノ ク ロ ー ナ ル 抗 体 (W HOよ り 提 供 ) を 、 又 二 次 抗 体 にFITC標 識 ヤ ギ 抗 マ ウ ス ァ ーglobulin抗 体 を 用 い 螢 光 抗 体 間 接 法 で 観 察 し た 。 糸 球 体 基 底 膜100〇nmあ た り の 陰 性 荷 電 部 位 数 はPLP固 定 腎 組 織 に つ い て0.5%polyethylenimineに て4℃30分 間 染 色 し 、 電 顕 写 真 上 で 測 定 し た 。 血 中IgGサ ブ ク ラ ス は 上 記 の マ ウ ス モ ノ ク ロ ー ナ ル 抗 体 を 用 いELISA法 で 測 定 し た 。
糸 球 体 のC3沈 着 強 度 が 強 い ほ ど 血 中C3は 低 下 の 傾 向 を 示 し 、1糸 球 体 あ た り の 多 形 核 自 血 球 数 は 増 加 の 傾 向 を 示 し た 。IgGサ ブ ク ラ ス の う ちIgG3の み が 糸 球 体 に 沈 着 し 、 血 清IgG3は 増 加 傾 向 を 示 し た 。 ま た 、 糸 球 体 基 底 膜 に お け る 陰 性 荷 電 部 位 数 は 有 意 の 減 少 を 示 し 、 多 形 核 自 血 球 が 直 接 接 し て い る 糸 球 体 基 底 膜 に お け る 陰 陸 荷 電 部 位 数 が さ ら に 減 少 を 示 し た 。 ま た 、 陰 性 荷 電
三 敬夫 脩 隆 本 木池 松吉 小 授授 授 教教 教
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部位数が減少を示した症例では陰性荷電部位の染色性の低下を示す傾向が認 められた。これらの結果からヒトMPGN type1において、IgG3を抗体とする 免疫複合体の沈着に基づく補体の活性化と多形核自血球の浸潤による糸球体 基底膜におけるcharge barrierの障害が存在することが示され、本病型にお ける糸球体障害機序の解明に一石を投じたものと考え、学位に値する研究と 判断された。副査の小池、吉木両教授並びに小林教授との間で各数問の質疑 が交わされ、更に副査の両教授とは個別的に内容の検討が行われたが、いず れに関しても合格と評価された。