• 検索結果がありません。

高校世界史における「帝国主義」の授業開発

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "高校世界史における「帝国主義」の授業開発"

Copied!
101
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

高校世界史における「帝国主義」の授業開発   一「長い20世紀」論を手がかりに一

教科・領域教育学専攻 社 会 系 コ 一 ス

学籍番号MO9157B

藤  澤  亮  二

(2)

目 次

序 章 本研究の目的と方法    1.研究の動機と目的    2 研究の対象と方法

p.1

第1章高校世界史における「帝国主義」の位置づけ   第1節現行学習指導要領の近代史構成と「帝国主義」

   1,現行学習指導要領の近代史構成

   2.現行学習指導要領における「帝国主義」の扱い   第2節新学習指導要領の近代史構成と「帝国主義」

   1。新学習指導要領の近代史構成

   2,新学習指導要領における「帝国主義」の扱い   第3節  「帝国主義」に関する先行授業実践の分析    1.先行授業実践の概要

   2.先行授業実践の分析

   3.国立教育政策研究所「高等学校教育課程実施状況調査」の分析

55 nrnF

p.18

p.30

第2章 歴史学における「帝国主義」研究の動向   第1節歴史学における「帝国論」

   1.「帝国論」隆盛の背景

   2,高校世界史における帝国の定義

   3.歴史学における帝国主義の定義と歴史モデルの整理    4.歴史学における帝国の理論化

   5.高校世界史に援用可能な帝国論

  第2節 歴史学における「帝国主義」概念の変遷    1.帝国主義論それぞれの特徴

   2.帝国主義論の比較考察

   3.高校世界史に援用可能な帝国主義の理論

  第3節  「長い20世紀」論と「短い20世紀」論における帝国主義

p.59

p.59

p.76

p.85

(3)

   1.「短い20世紀」論における帝国主義論    2.「長い20世紀」論における帝国主義論

   3.「短い20世紀」論及び「長い20世紀」論の帝国主義の構造図 第3章  「長い20世紀」論に基づく「帝国主義」の授業開発

  第1節単元構成の原理

   1.高校世界史カリキュラムにおける「帝国主義」の位置づけ    2.単元構成の視点と方法

  第2節 教材解釈

   1.帝国主義の時代の移民

   2.タイタニック号を教材化する視点   第3節授業モデルの開発

   1.単元「帝国主義時代のタイタニック号」の授業モデルの開発    2.教授資料

終 章 結論と今後の課題    1.研究の成果    2.今後の課題 附 記

p.99

p.99

p.105

p.113

p.150

p.155

(4)

教科・領域教育学専攻 社会 系 コ 一 ス

学籍番号MO9157B

藤  澤  亮  二

高校世界史における「帝国主義」の授業開発

  一長い20世紀論を手がかりに一

序章 本研究の目的と方法

ここでは,研究の動機と目的,研究の方法を示し,研究の概要を明らかにする。

1.研究の動機と目的

 本研究に至った根本的な動機は,筆者自身が高校世界史において,帝国主義に関する授 業の困難さを常々実感していたことにある。「帝国主義」という概念の理解が高校生にと って非常に困難であり,具体的で豊かなイメージを形成し難い面があるのではないかと考

えていた。

 筆者はこれまで高等学校の教壇に立ちながら,なんとか生徒が興味関心を強く持って,

わかりやすく理解し,イメージ豊かに自分なりの帝国主義像を描き出せることはできない かと試行錯誤してきた。そして平成19年には勤務校において研究授業を実施し,ICTを 活用して難解な概念をわかりやすく理解できるような工夫を試みた,しかし,ICTの活用 だけでは教科書や参考書の知識をただ図形化してわかりやすくしたり効果的な提示ができ

るだけであって,難解な概念を真に具体化したり豊かな歴史イメージを抱かせることには っながらず,根本的な解決には至らなかった。筆者は高校教員として,帝国主義について さらに研究の視野を広げ,高校生が帝国主義をどのような視点から捉えることができるの か,検討を重ねていかなければならないと痛感していた。

(5)

 平成20年,高等学校学習指導要領が改訂された。この改訂で世界史Bでは,それまで

「近代の終わり」に位置づけられていた帝国主義が「現代の始まり」としての位置づけに 変更された。これは現代の始まりを従前の通り20世紀の初めと捉えるのではなく,第二 次産業革命によって劇的な変化がもたらされた19世紀の終わりと捉えようとする意図が 示されている。

 現行学習指導要領の時代区分はイギリスの歴史学者E.ホブズボームが唱えた「長い19 世紀」と対をなす「短い20世紀」論に拠っていだ[。元イギリス共産党員であった彼は,

フランス革命が始まった1789年から第一次世界大戦が始まった1914年までを「長い19 世紀」,1914年からソ連崩壊の且991年までを「短い20世紀」と区分した。ロシア革命の 年にエジプトで生まれ,オーストリア,ドイツ,イギリス,アメリカで生活したユダヤ系 知識人であるホブズボームにとってはマルクス主義こそ抜群の歴史学の方法論2であり,

「ロシア革命と共産主義を現代史にどう位置づけるか 3」が最大の関心事であった。

 この「短い20世紀」論にたてば,我々は新しい「21世紀」をもう20年近く生きている ことになる。しかし,本当に「短い20世紀」は終わったのだろうか。社会主義の実現と 退潮を時代の区切りとする歴史の見方を変えれば,未だに「長い20世紀」が続いている

とみることもできるのではないだろうか。この「長い20世紀」論にたてば,その始まり である帝国主義時代についても新たな視点が必要である。

 帝国主義については,かつてホブソンやレーニンらの理論が支配的であったが,冷戦構 造の崩壊により世界情勢が大きく変化した現代では新たな解釈の見直しが迫られている。

帝国主義時代の諸現象は,何か一つの要因のみで説明できるものではなく,複数の要因が 複雑に絡み合って形成されたものであり,具体的には国民国家の形成,大規模な工業化や 企業の巨大化,人やモノの国際的移動,人々の意識の変化といった現象として捉えること ができるN。また帝国主義の時代を近代の終わりと位置づけ,19世紀の延長と見なす考え 方は,日本の歴史学でもかなり早い段階で批判されていだ5。

 さらに帝国主義概念の見直しとともに登場したのが,帝国論ないし帝国化の概念である。

ネグリとハートの『〈帝国〉グローバル化の世界秩序とマルチチュードの可能性』 (1によっ て注目された帝国論は,人間の歴史に通時的に適用し得る帝国の概念や特質を多様に理論 化しようとする。

 しかし,我が国では長くマルクス主義の影響力が強かったこともあり,帝国主義を専ら 資本輸出や独占資本主義といった経済的な側面で特徴付ける見方が未だ優勢であり,世界

(6)

史の教科書や授業内容も大きく変わってはいないのが実態である。新学習指導要領におけ る帝国主義の位置づけの変更は,世界史の授業をどう変えるのだろうか。否,どのように 内容編成と教材選択を工夫すれば,「長い20世紀」論の趣旨を,現代世界の実態を生き生 きと高校生に理解させることができるのだろうか。

 以上のような問題意識の上に立ち,本研究では近年の帝国主義研究の動向を踏まえ,帝 国主義の時代を探究する新たな授業プランの開発を目的とする。

2.研究の対象と方法

 前述の研究目的を達成するためには,まず現在の高校世界史ではどのように近代史が構 成され,そのなかで帝国主義はどのように位置づけられているのかを把握するために新旧 学習指導要領を分析し,さらに帝国主義に関する先行授業実践を分析して,現在の教育現 場でおこなわれている帝国主義の授業の実態を明らかにする。これを第1章で述べる。

 次に第2章では,歴史学において帝国論及び帝国主義論がどのように展開されているの かを整理したうえで,高校世界史に援用可能な理論を追究して「長い20世紀」論におけ る帝国主義の基本的な視点を明らかにする。ソ連崩壊時とイラク戦争時に帝国論がブーム となった背景には国民国家の虚構性・幻想性が明白になるとともに,ゆるやかな国家連合 としてのかつての帝国について再考する機運があっだ7。そして帝国論は現在の国際関係

・世界情勢の動向にあわせて活発に議論されているし*S,今後の世界の在り方を占ううえ でも有益であろう。またマルクス主義を基盤とする帝国主義論も,レーニン以降様々な角 度から理論が積み重ねられており,高校世界史においても,その成果の一部を反映させる

ことができるのではないかと考える。

 それをもとに,第3章では「長い20世紀」論に基づいた帝国主義の授業プランを開発 する。授業開発にあたっては,難解な理論や概念をそのまま提示するのではなく,高校生 の目線に立ってわかりやすく理解できるように常に配慮したい。そのうえで高校生が興味 関心を強くかき立てられる教材を精選あるいは構築し,生徒自身がその教材を使って主体 的に歴史を考えることができるような授業開発を目指す。

(7)

*1原田智仁編著『高等学校新学習指導要領の展開』明治図書,2010年,p.75

*2エリック=ホブズボーム『ホブズボーム歴史論』,ミネルヴァ書房,2001年,p.93

*3原田智仁「新しい世界史の方向性:学習指導要領改訂の特質」(『世界史のしおり』世 界史B特集号)帝国書院,2009年,p.4

*4木谷勤『帝国主義と世界の一体化』世界史リブレット,山川出版社,1997年

*5尾鍋輝彦『二十世紀』中央公論社,1977年,pp.8−10

*6アントニオ=ネグリ・マイケル=ハート『〈帝国〉グローバル化の世界秩序とマルチチ ュー hの可能性』p5 以文社,2003年

*7杉山正明「帝国史の脈絡一歴史の中のモデル化にむけて」(山本有造編『帝国の研 究』名古屋大学出版会),2003年,pp.31−33

*8山下範久編『帝国論』講i談社選書メチエ,2008年

(8)

第1章 高校世界史における「帝国主義」の位置づけ

 現在の高校世界史ではどのように近代史が構成され,そのなかで帝国主義はどのように 位置づけられているのかを捉えるために学習指導要領を分析する。さらに帝国主義に関す る先行授業実践と国立教育政策研究所の調査を分析して,教育現場でおこなわれている帝 国主義の授業の実態を明らかにすることにより,高校世界史教育における現状と課題を把

握する。

第1節 現行学習指導要領の近代史構成と「帝国主義」

 本節では,平成元年版学習指導要領・現行学習指導要領・新学習指導要領を比較しっっ,

特に平成元年版と現行版の分析をおこなうことで,現行学習指導要領における世界史の近 代史構成と帝国主義の位置づけを整理して,現状と課題を明らかにする。

1,現行学習指導要領の近代史構成

 現行の高等学校学習指導要領は平成11年(1999年)に告示され,平成15年(2003年)

度の第1学年から学年進行で実施された。平成元年版学習指導要領より「社会科」から「地 理歴史科」と「公民科」に再編成され,制度面で大きな改革がおこなわれていたが,この 改訂では世界史A・B両科目ともに内容の精選,我が国との関連や地理的条件の重視,主 題学習の充実がはかられるなど内容面での大規模な見直しがおこなわれた。内容の精選と しては,世界史Aにおいては近現代中心の科目であることの徹底と前近代史の内容の精 選,世界史Bにおいては従前の文化圏学習を改め,地域世界別の同時代史的構成を採用し たことがあげられる。

 ここではまず,世界史A及びBの内容構成を平成元年版と現行版及び新学習指導要領 それぞれを比較して考察する。

(9)

(1)世界史Aの内容構成比較

平戒元年版学習指導要領 現行学習指導要領 新学習指導要領

(1)諸文明の歴史的特質 (1)諸地域世界と交流圏 (1)世界史へのいざない

ア 文明と風土 ア東アジア世界 ア 自然環境と歴史

イ 東アジアと中国文化 イ 南アジア世界 イ 日本列島の中の世界の歴史 ウ南アジアとインド文化 ウイスラーム世界 (2)世界の一体化と日本 関西アジアとイスラム文化 エ ヨーロッパ世界 アユーラシアの諸文明 オ ヨーロッパとキリスト教文 オユーラシアの交流圏 イ 結び付く世界と近世の日本

(ア)海域世界の成長とユーラシア ウ ヨーロッパ・アメリカの工

(2)諸文明の接触と交流 (イ)遊牧三会の膨張とユーラシア 業化と国民形成

ア 2世紀の世界 (ウ)地中三三域とユーラシア エアジア諸国の変貌と近代の イ 8世紀の世界 (エ)東アジア海域とユーラシア 日本

ウ B世紀の世界 (2)一体化する世界 (3)地球社:会と日本 エ 16世紀の世界 ア大航海1川代の世界 ア急変する人類社会 オ17・18世紀の世界 イ アジアの諸帝国とヨーロッ イ 世界戦争と平和

(3)19世紀の世界の形成と展開 パの主権国家体制 ウ 三つの世界と日本の動向 ア 19世紀のヨーロッパ・アメ ウ ヨーロッパ・アメリカの諸 工繍i桧への歩みと課題

リカ 革命 オ持続可能な社会への展望

イ 産業革命と世界市場の形成 エアジア諸国の変貌と日本 ウアジア諸国の変貌と日本 (3)現代の世界と日本

(4)現代世界と日本 ア急変する人類社会 アニつの世界大戦と平和 イ ニつの世界戦争と平和 イ アメリカ合衆国とソビエト ウ 米ソ冷戦とアジア・アフリ

連邦 力諸国

ウ 民族主義とアジア・アフリ 工地球三会への歩みと日本

力諸国 オ地域紛争と国際社会

工地域紛争と国際社会 力科学技術と現代文明 オ科学技術と現代文明

カ これからの世界と日本

 上記の比較から,平成元年版から現行版,そして新版への改訂で段階的に内容が精選さ れていることがわかる。特に世界史Aは「近現代史中心の科目」であることを徹底し,

そのために前近代史の内容を減らすとともに「事件史より構造史を重視」した構成となっ ている寧t。次に平成元年版と現行版の内容構成の構造図を示す。

(10)

〈大項目〉 平成元年版学習指導要領「世界史A」の内容構成 〈世紀〉

(4)

(3)

工 地域紛争と国際社会オ 科学技術と現代文明 カこれからの世界と日本 イ アメリカ合衆国とソビエト連邦

    ア   ニ  っ  の  世

ウ 民族主義とアジア・アフリカ諸国

界 大 戦  と 平 和 ア 19世紀のヨーロッ

 パ・アメリカ

イ 産業革命と世界市場  の形成

ウ アジア諸国の変貌と  日本

オエウィア

オヨ1ロツパ イ東アジア

工西アジアア ウ南アジア風

1

文 明 と   土

20

(2)ア

(1)

 19

17 ・ 18

 16  13

 8 2

〈大項目〉

(3)

(2)

現行学習指導要領「世界史A」の内容構成

オ 地域紛争と国際社会 力 科学技術と現代文明 工  地 球 社 会 へ の あ ゆ み と 日 本 ア 急変する人類社会 ウ 米ソ冷戦とアジア・アフリカ諸国

イ  ニつの世界大戦と平和

ウ ヨーロッパ・アメリカの諸革命 エ アジア諸国の変貌と日本 イ アジアの諸帝国とヨーロッパの主権国家体制

ア  大 航 海 時 代 の 世 界

一工一

@ヨ

@ 1

@口  く

@宍

一ウー

@イ @ス

rラ

 (イ)

齬V牧

一イー

@南 @ア

@ジ

一アー

@ 東〉 ア

オ︵エ

←(ウ)・

C域

社会

ゥ→

「界

ジア 〉東 地中海 iム ︿ (ア)

C域

<世紀>

  21

O  Q/ 87  105

り∠ − 

l1  11

      東アジア        海域

(1) 1 iK 1 VM±tfipt 1   1 7Mfitpt 1 1−tll,9i!・ 1 1 8

〔佐伯眞人・澁澤文隆・原田智仁編著『高等学校学習指導要領の展開』明治図書,2000

年,P.20〕

(11)

 世界史Aの時代区分に関しては,16世紀以降を近代として世界の一体化の起点におく とともに,前近代史の内容が大幅に精選されている。平成元年版では「19世紀以降のい わゆる市民革命や産業革命からを近現代史ととらえていたが,それではあまりにヨーロソ バ中心ではないかとの批判」nがあったことや,近代世界システム論などの影響が改訂の 背景にあった。

 平成元年版では近代を19世紀とした( 短期の近代 狭義の近代 )が,現行版では近 代の始まりを16世紀の大航海時代として,近代の成立と展開の時期を16世紀から19世 紀まで広げた( 長期の近代 広義の近代 )。この目的は近代に占める欧米中心の歴史 観を相対化することと,前近代と近代との連続性や非欧米世界の主体性・多様性を強調す

ることにあった 「 。

 現代史の扱いに関しては,平成元年版では「まず国際関係を中心に20世紀史を概観し,

次に自由主義諸国,社会主義国,アジア・アフリカ諸国という三つの国家群ごとに主題史 的に理解させ,最後に現代の課題について考察させる構成」であったものから現行版では

「20世紀の特質を社会や文化の視点から考察して現代史への関心を持たせ,次いで政治 史を中心に概観し,最後に人類の課題について適切な主題を設定し,生徒に主体的に追究 させる」*4構成にあらためている。

(12)

〈2)世界史Bの内容構成比較

平成元年版世界史B 現行版世界史B 新学習指導要領

(1)文明の起こり (1)世界史への扉 (1)世界史への扉

ア オリエント文明 ア 世界史における時間と空間 ア 自然環境と人類のかかわり

イ 地中海文明 イ 日常生活に見る世界史 イ 日本の歴史と世界の歴史のつな

ウ インド文明 ウ 世界史と日本史とのつながり がり

エ 中国文明 (2)諸地域世界の形成 ウ 日常生活にみろ世界の歴史

(2)東アジア文化圏の形成と発展 ア 西アジア・地中海世界 (2)諸地域世界の形成 ア遊牧民族の活動と東アジア世界 イ 南アジア世界の形成 ア 西アジア世界・地中海世界

の形成 ウ 東アジア・内陸アジア世界の形 イ 南アジア世界・東南アジア世界

イ 中国社会の変遷と隣接諸民族の

ウ 東アジア世界・内陸アジア世界

活動 (3)諸地域世界の交流と再編 工時間軸からみる諸地域世界

ウ 中華帝国の繁栄と朝鮮,日本 ア イスラーム世界の形成と拡大 (3)諸地域世界の交流と再編

(3)西アジア・南アジアの文化圏と イ ヨーロッパ世界の形成と変動 ア イスラーム世界の形成と拡大 東西交流 ウ 内陸アジアの動向と諸地域世界 イ ヨーロッパ世界の形成と展開

ア イスラム世界の形成 (4)諸地域世界の結合と変容 ウ 内陸アジアの動向と諸地域世界 イ イスラム世界の発展 ア アジア諸地域世界の繁栄と成熟 工 空間軸からみる諸地域世界 ウ 南アジア・東南アジア世界の展 イ ヨーロッパの拡大と大西洋世界 (4)諸地域世界の結合と変容

ウ ヨーロッパ・アメリカの変革と ア アジア諸地域の繁栄と日本

エユーラシアの東西交流 国民形成 イ ヨーロッパの拡大と大西洋世界

(4)ヨーロッパ文化圏の形成と発展 工世界市場の形成とアジア諸国 ウ 産業仕会と国民国家の形成 ア 東西ヨーロソバ世界の形成 オ帝国主義と世界の変容 工世界市場の形成と日本

イ ヨーロソバの変革:と大航海日割一覧 (5)地球世界の形成 オ資料からよみとく歴史の世界

ウ 17・18世紀のヨーロッパと世界 ア ニっの大戦と世界 (5)地球世界の到来

(5)近代と世界の変容 イ 米ソ冷戦と第三勢力 ア帝国主義と社会の変容

ア市民革命と産業革命 ウ 冷戦の終結と地球社:会の到来 イ ニつの世界大戦と大衆社会の出現 イ アメリカ合衆国とアメリカ文明 工国際対立と国際協調 ウ 米ソ冷戦と第三世界

ウ アジア諸国とヨーロッパの進出 オ科学技術の発達と現代文明 エ グローバル化した世界と日本 工 帝国主義とアジア・アフリカ カ これからの世界と日本 オ資料を活用して探究する地球世界

(6)20世紀の世界 の課題

ア ニっの大戦と世界

イ ソビ土ト連邦と社会主義諸国 ウ アメリカ含衆国と自由主義諸国 エ アジア・アフリカ諸国の民族運動

と独立

(7)現代の課題 ア国際対立と国際協調 イ 科学技術の発展と現代文明 ウ これからの世界と日本

(13)

 世界史Bの変更点としてまずあげられるのは,世界史学習の入門編として「世界史への 扉」が新設されたことである。中学校社会科で世界史的内容のほとんどが削除され,高校

に入学してはじめて世界史に触れることになる生徒にとって,世界史を学ぶ意義や興味関 心を高めるもので,導入や動機付けをはかり,学習の態度を養うことを目的とするものと なっている。この「世界史への扉」は,生徒の身近な事象を扱う可能性が高いため,近現 代史との関連性が強く,世界史B全体の内容構成にも大きな影響を及ぼす内容であり,教 員の工夫を大いに必要とするところでもある。

 また世界史Aと同様に内容面の精選がはかられている。世界史Bは世界の歴史の大き な枠組みと流れを理解させる科目であることをふまえて,平成元年版の文化圏別通史学習 から地域別の同時代史的構成が採用され,世界史の流れを動態的に把握し,同時代の世界 の全体像をとらえることが目指されている 5。

 次の表は平成元年版と現行学習指導要領の世界史Bの内容構成を表している。

(14)

〈大項目〉

(7)

(6)

平成元年版学習指導要領「世界史B」の内容構成 〈世紀〉

ア国際対立と国際協調 イ科学技術の発展と現代文明 ウ これからの世界と日本 イ ソビエト連邦と社会主

@義諸国

@     ア   ニ

ウ アメリカ合衆国

@と自由主義諸国 ツ  の  大  戦

エ アジア・アフリカ諸国の

@民族運動と独立 ニ 世  界 工  帝 国 主 義 と ア ジ ア ・ ア フ リ カ ア 市民革命と産業革命 イ アメリカ合衆国

@とアメリカ文明

ウ アジア諸国とヨーロッパ

@の進出

20

5

4 ヨーロッパ ウーイーア

(3)

西  イ

ソア  ア

ウ南τソア 工東西交流

(2)

東アジア ウーイーア

Q/8

3−5

(1) イ 地中海文明 アオリエント文明 ウ インド文明 工 中国文明

〈大項目〉 現行学習指導要領「世界史B」の内容構成

(5)

工 国際対立と国際協調 オ 科学技術の発達と現  代文明

力本

〈世紀>

  21 これからの世界と日

ウ 冷戦の終結と地球社会の到来 イ 米ソ冷戦と第三勢力

ア ニっの大戦と世界

オ  帝 国 主 義 界 の 変 容

ヨーロッパ・アメリカの変革と国民形成 世界市場の形成とアジア諸国

ヨーロッパの拡大と大西洋世界 アジア諸地域世界の繁栄と成熟

20

(4)

(3)

(2)

(1)

イ ヨーロッパ世界の形成 ア イスラーム世界の形成 ア西アジア・地中海世界 イ 南アジア世界の形成

ウ 内陸アジア世界の動向と諸地域世界

ウ成 内陸アジア・東アジア世界の形

ア 世界史における時間と空間 イ 日常生活にみる世界史 ウ 世界史と日本史のつながり

 19

16一一18

 15  13

5 一9

〔佐伯眞人・澁澤文隆・原田智仁編著,前掲書,p.45〕

(15)

 平成元年版の文化圏学習が見直されて新たに導入された「地域世界」の概念は,世界史 の空間的な枠組みとしては「文化圏」と共通する点が多いが,同時代史的な世界の全体像 が掴みにくいうえに前近代の諸文化圏の学習に時間を取られてしまい,近現代史を学習す る時間が確保できない,といった問題点があった。そこで「地域世界」の概念を導入して,

その形成,交流と再編,結合と変容,地球世界の変容という四つの時代区分にしたがって 全体を構成 することになった。

 また世界史A同様に世界史Bにおいても,それまで19世紀としていた近代の起点を大

航海時代まで引き下げ,近代の展開を16世紀から19世紀までに広げて,その間の世界の 歴史を一体的に捉えるようにしている。

(3)各学習指導要領近現代史構成の変遷

 学習指導要領ごとの世界史A・Bの内容構成からは,近現代の時代区分について次のよ うな変遷があったことがわかった。まず平成元年版では19世紀のいわゆる市民革命と産 業革命からを近代としてとらえようとした。しかしこれはヨーロッパ中心の歴史の見方で あるとの批判があり,その反省から現行版では16世紀以降を近代の始まりとして,世界 の一体化の過程を理解させることを重視した。新学習指導要領でも,近代の開始時期およ び画期的事項は基本的に現行の時代区分を踏襲している。また,現代の開始時期について は,平成元年版と現行版ともに第一次世界大戦を時代の画期としている。現代の開始時期 及び画期事項については次節で詳述する。学習指導要領ごとの近現代の時代区分をまとめ

ると,次の表のようになる。

平成元年版 現行学習指導要領 新学習指導要領

近代の開始時期一   一   一   一   一   一   一   一   一   一   一   一   一   一   一   ロ   一

謚咩I事項

 19世紀一   曹   一   一   一   一   一   一   一   薗   一   一   ■   ■   一   一   一   哺   一   ■   一   一

@市民革命と産業革命

 16世紀}   ,   一   冒   一   一   肩   一   噛   一   一   一   一   暉   肩   一   一   一   一   一   一

蜊q海時代

 16世紀曹  ■  一  一  一  ■  冒  一  鴨  ■  一  一  昂  o  _  一  一  一  一  駒  _  _

@大航海時代

現代の開始時期一   一   一   一   一   〇   一   一   一   一   騨   一   一   幽   一   ■   ■

謚咩I事項

 20世紀初頭一  一  一  喩  一  藺  ■  一  一  一  騨  一  一  一  一  回  一  一  一  ■  ■  一

@第一次世界大戦

20世紀初頭冒  一  一  肩  一  一  一  一  r  9  一  一  一  一  一  一  零  一  冒  一  冒  胃

謌齊汾「界大戦

 19世紀後半一  冒  一  一  一  ■  一  一  鴨  ■  一  一  卿  曽  _  一  一  零  o  _  _  一

@帝国主義時代

(各学習指導要領を元に筆者作成)

(16)

2.現行学習指導要領における「帝国主義」の扱い

 次に,これまで近代史構成について比較考察した結果をふまえ,現行学習指導要領にお いて帝国主義がどのような位置づけにあるのかを考察するために各学習指導要領における 帝国主義の記述内容を比較する。ただし,平成元年版・現行版世界史Aでは大項目・中 項目ともに帝国主義の語は登場しない。内容説明の文章にも登場しないが,内容的に扱っ ていると思われる項目を仮定して考察を進める。

(1)世界史Aにおける「帝国主義」の位置づけ

①大項目比較(世界史A)

大項目 説明文

(3)19世紀の世界の形 ヨーロソバによる世界支配,世界の一体化の過程とそ

元年

成と展開 れに対するアジアの対応などに着目させ,現代世界の形

成過程を理解させる。

(2)一体化する世界 16世紀以降の世界商業の進展と産業革命後の資本主

行版 義の確立を中心に,世界の一体化の過程を理解させる。

その際,ヨーロッパの動向と日本などアジア諸国の対応 に着目させる。

(3)地球世界の到来 地球規模で一体化した構造をもつ現代世界の特質と展

開過程を理解させ,人類の課題について歴史的観点から

考察させる。その際,世界の動向と日本とのかかわりに

着目させる。

 三つの学習指導要領に共通しているのが「世界の一体化」の概念である。現行版では16 世紀以降を近代としているために,より具体的に年代が記述されて,世界商業と資本主義

という観点が明示された。

 平成元年版の通史的な構成は,現行版で構造史的な構成へと改訂された。これは,「特 定の国や一定の年代に限定されることなく,長期持続のシステムとしてその時代の意味や 構造について取り扱うもの 7」で世界の一体化を学ぶうえでは適切なものである。

(17)

②中項目比較(世界史A)

平成元年版現行版

中項目

ア19世紀のヨーロッパ・

アメリカ

イ産業革命と世界市場の

形成

ウアジア諸国の変貌と日

(2)

エアジア諸国の変貌と日

(3)

ア急変する人類社会

ア急変する人類杜会

イ世界戦争と平和

説明文

 市民革命とその影響,諸国間の戦争と国際関係,近 代国家の成立,19世紀における諸民族国家の成立な

どに着目させ,近代国家の形成過程を理解させる。

 産業革命と技術革新,機械制工業,資本家と労働者 の形成,ヨーロッパ諸国による植民地の拡大,貿易活 動,資本主義化の中の農業,都市と市民生活・市民文 化などに着目させ,現代社:会の形成過程を理解させる。

 ヨー一mッパの進出期における日本を始めとするアジ ア諸国家の状況,植忌地化の過程での抵抗や挫折,近 代化の過程でのアジアの伝統文化とヨーロッパ近代文 化の接触,19世紀のアジアの変貌などに着目させ,

現代世界の形成過程を理解させる。

 ヨーロッパの進出期におけるアジア諸国の状況,植 民地化や従属化の過程での抵抗と挫折,伝統文化の変 容,その中での日本の対応を扱い,19世紀の世界の 一体化とその特質を理解させる。

 輸送革命,マスメディアの発達,企業や国家の巨大 化,社会の大衆化と政治や文化の変容,公教育の普及 と国民統合などを扱い,20世紀という時代の特質を『

人類史的視野から把握させる。

 科学技術の発達,企業や国家の巨大化,公教育の普 及と国民統合,国際的な移民の増加,マスメディアの 発達,社:会の大衆化と政治や文化の変容などを理解さ せ,19世紀後期から20世紀前半までの社会の変化に ついて,人類史的視野から考察させる。

 帝国主義諸国の抗争とアジア・アフリカの対応,二 つの世界大戦の原因と総力戦としての性格,それらが 世界と日本に及ぼした影響を理解させ,19世紀後期 から20世紀前半までの世界の動向と平和の意義につ いて考察させる。

(18)

 前述したように平成元年版では19世紀以降を近代として,欧米史を中心とした詳細な 通史学習がおこなわれていた。そのため帝国主義は近代国家・現代社会・現代世界それぞ れの形成過程を範囲として,三つの中項目にまたがっている。

 一方,現行学習指導要領では近代世界を「長期持続のシステムとしてとらえること(構 造的把握)で歴史事象を大きくまとめるように工夫」がなされ,世界の一体化について国 や地域ごとに個別に扱うのではなく,世界のシステムとして捉える視点がつくられている。

そのなかで,大項目(3)「現代の世界と日本」「ア 急変する人類社会」で扱われている 内容は社会史的なものであり,時代としては帝国主義時代の現象であるが,近代としてで はなく現代のなかで扱われている。新学習指導要領では現象面だけではなく,帝国主義時 代そのものを現代の始まりとして構成し,20世紀の特質として人類史的視野から把握さ せようとしている。これについては第2節で述べる。

 また現行版への変更点の一つが平成元年版にあった「市民革命」の語が消えたことであ

る。

 「我が国のこれまでの世界史教育では,産業革命と市民革命が近代世界成立の画期とし て重視されてきました。特に,市民革命は市民(ブルジョワ)勢力によって達成された市民 社会樹立のための革命として規定され,専制的な絶対主義を打倒し,近代社会への移行を 実現したものとして理想化されました。そして,その例として,イギリス革命やアメリカ 独立革命,フランス革命が挙げられてきました。しかし,研究者によれば,市民革命なる 概念は日本独特のものであり,欧米諸国では用いられていないとのことです。これまで市 民革命の典型と見なされてきたフランス革命についても, 今日では,アンシャン・レジー ム下の権力闘争こそ革命の本質であるとする評価や,ジャコバン派の革命独裁を民主主義 と相いれないものとして否定的にとらえるなど,多様な見解が提起されています。もはや イギリス革命やアメリカ独立革命,フランス革命を一括して市民革命としてとらえること には,疑問が呈されております。むしろ,それぞれの革命をその実態に即してとらえるこ とがもとめられています。」*X

 近代世界を規定してきた「市民革命」の概念が訂正されたことは,教育現場で既成の概 念を無批判に用いることに対する警鐘でもある。唯物史観における発展段階論は多くの学 問の基礎となるものではあるが,教員は社会の変化や諸学問の成果など情報収集に努め,

(19)

変化に柔軟に対応して,近代そのものの認識においても研究を深めていかなければならな いと考える。

(2)世界史Bにおける「帝国主義」

①大項目比較(世界史B)

平成元年版現行版

新版

大項目

(5)近代と世界の変容

(4)諸地域世界の結合 と変容

(5)地球世界の到来

説明文

 市民革命,産業革命,資本主義の発達など西欧近代の もつ世界史的意義,ヨーロッパ諸国の進出に伴う世界の 変容などを理解させる。その際,現代世界に大きな影響 をもつことになるアメリカ大陸の歴史にも着目させる。

また,アジアの諸国の伝統,ヨーロッパ諸国によるアジ アの植民地化,アジア諸国の動揺と近代化への動きなど 近代史の大きな流れを理解させる。

 アジアの繁栄とヨー一Uッパの拡大を背景に,諸地域世 界の結合が一層進んだことを把握させるとともに,主権 国家体制を整え工業化を達成したヨーロッパの進出によ り,世界の構造化と社会の変容が促されたことを理解さ

せる。

 科学技術の発達や生産力の著しい発展を背景に,世界 は地球規模で一体化し,二度の世界大戦や冷戦を経て相 互依存を一層強めたことを理解させる。また,今日の人 類が直面する課題を歴史的観点から考察させ,21世紀 の世界について展望させる。

 世界史Aと同様,現行版では近代の始まりを平成元年版の19世紀から16世紀に引き下 げて,近代の世界の特質を構造的に理解するように構成されている。世界史Bの独自の視 点としては次の点が上げられる。

 「先行の内容(2)『諸地域世界の形成』,(3)『諸地域世界の交流と再編』の関係から 明らかなように,世界史を構成する基本単位として諸地域世界に着目し,世界史の歴史的 展開を諸地域世界のく形成〉,〈交流と再編〉,〈結合と変容〉という三つの大きな流れ のなかでとらえようとしているJ 

(20)

 そのため,現行版では諸地域世界という視点に立って近代世界の構造を理解させるよう な配慮が必要とされている。

②中項目比較(世界史B)

平成元年版現行版

新版

中項目

工帝国主義とアジア・

アフリカ

オ帝国主義と世界の変

ア帝国主義と社会の変

説明文

 19世紀後期からのヨーロッパ諸国によるアジア・ア フリカの植民地化とアジア・アフリカの対応に着目さ せ,19世紀後期から20世紀初期の世界の歴史の特色を 理解させる。

 ヨーロッパ諸国によるアジア・アフリカの植民地化を めぐる競合とアジア・アフリカの対応を扱い,19世紀 後期から20世紀初期の世界の支配・従属関係を伴う一 体化と社会の変容を理解させる。

 科学技術の発達,企業・国家の巨大化,国民統合の進 展,帝国主義諸国の抗争とアジア・アフリカの対応,国 際的な移民の増加などを理解させ,19世紀後期から20 世紀初期までの世界の動向と社会の特質について考察さ

せる。

 現行版では,帝国主義は大項目(4)「諸地域世界の結合と変容」で扱われている。この なかで帝国主義の現象としては第2次産業革命の進展による独占資本の形成及び欧米列強 による植民地獲得競争が着目された。また,交通・運輸・通信の急速な発達や,大規模な 移民など「ヒトやモノの移動」を切り口に近代世界を捉えようとする工夫も盛り込まれて いるが,時代区分としては近代の終わりとしての位置づけであり,現代の始まりを告げる 現象としての意味合いではない。「帝国主義時代の世界の一体化は,欧米を中心とする資 本主義列強がその経済力と軍事力で世界を分割,支配することにより達成されたことを理 解させる」 ]llというように,政治面・経済面を中心とする展開となっている。現行版世界 史Aの(3)「現代の世界と日本 ア急変する人類社会」で扱われた「輸送革命,マスメ ディアの発達,企業や国家の巨大化,社会の大衆化と政治や文化の変容,公教育の普及と

(21)

国民統合など」といった20世紀世界を社会史的な観点から考察させる内容は,世界史B では比較的希薄である。

 また教材の選定や配列にあたっては,欧米中心の近代世界史像に対する反省から,「前 近代と近代との連続性やアジア諸地域の主体性・多様性に配慮し,この時期の世界がヨー ロッパ近代を中心とした通史にならぬよう留意∫llする必要があるとされた。

(3)各学習指導要領における帝国主義の取り扱い

 学習指導要領ごとの帝国主義の位置づけをまとめると,次のようになる。まず,三つの 学習指導要領に共通しているのは世界の一体化のなかで帝国主義を捉えようとする点であ るが,平成元年版では欧米中心かつ通史的な構成であり,システムとして捉える視点には 欠けていた。現行版では特定の国や一定の年代に限定することなく構造史的な構成へと改 訂されている。また歴史用語の見直しがおこなわれ,歴史研究の成果や社会情勢などへの 対応がみられる。

 帝国主義時代を社会史的な観点から考察させる内容は世界史Aではみられるが,時代 区分としては現代で扱われ,帝国主義時代そのものは近代の終わりに設定されている。世 界史Bでは社会史的視点がやや拡散し,扱いはやや少なく,政治・経済を中心とする展開

となっている。

(22)

第2節 新学習指導要領の近代史構成と「帝国主義」

 平成18年以来,教育基太法・学校教育法の改正などの教育改革が推進され,平成20年3 月に幼稚園・小中学校新学習指導要領が,次いで平成21年3月に高等学校新学習指導要 領が公示された。いわゆる「ゆとり教育」に対する批判や,PISA(OECD生徒の学習到達 度調査)ショックなどを背景として,習得した基礎的,基本的な知識・技能を活用して課 題を見出し,解決するための思考力・判断力・表現力である「生きる力」の育成が掲げら れた。これは平成17年に中教審答申で示された「知識基盤社会」という構造的な社会の 変化に不可欠な力である。ここでは前節の考察及び今回の改訂の背景をふまえて新学習指 導要領における近代史構成と帝国主義位置づけを整理して,現状と課題を明らかにする。

1.新学習指導要領の近代史構成

 平成20年1月,中教審は学習指導要領の改善について答申し,高等学校世界史に関し ては以下のとおり具体的事項をあげている。

(世界史A)

 地図,年表,.資料などを活用し,地理的条件や日本の歴史との関連に一層留意しながら,

諸文明の特質と現代世界の形成過程を理解させるとともに,人類の諸課題を追究する学習 などを通して,現代世界に関する認識を深め,歴史的思考力を培うようにする。

(世界史B)

 地図,年表,資料などを活用し,諸地域の地理的条件や日本の歴史との関連に留意しな がら,世界の歴史の大きな枠組みと流れを理解させ,文化の多様性・複合性に関する認識 を深めさせるとともに,適切な主題を設定して追究する学習を一一層重視して,世界史の学 び方や歴史的思考力を培うようにする。*12

 地図・年表・資料の活用及び日本史との関連を重視する点はABともに共通して,今回 の改訂で特に重視された点である。また世界史Aは現代史を中心に,世界史Bは世界の 歴史の大きな枠組みを理解させる点はこれまでの学習指導要領の流れを汲んだものといえ

(23)

る。さらに世界史Aでは「人類の諸課題を追究する学習」,世界史Bでは「適切な主題を 設定して追究する学習1として教師が一方的に講義するのではなく,生徒が主体的に授巣 に参加して課題を追究するような工夫が求められている。

(1)世界史Aの近代史構成

次に新学習指導要領世界史Aの内容を示す。

2内容

(1)世界史へのいざない

  自然環境と歴史,日本の歴史と世界の歴史のつながりにかかわる適切な主題を  設定し考察する活動を通して,世界史学習の基本的技能に触れさせるとともに,

 地理と歴史への関心を高め,世界史学習の意義に気付かせる。

 ア 自然環境と歴史

   歴史の舞台としての自然環境について,河川,海洋,草原,オアシス,森林   などから適切な事例を取り上げ,地図や写真などを読み取る活動を通して,自   然環境と人類の活動が相互に作用し合っていることに気付かせる。

 イ 日本列島の中の世界の歴史

   日本列島の中に見られる世界との関係や交流について,人,もの,技術,文   化,宗教,生活などから適切な事例を取り上げ,年表や地図などに表す活動を   通して,日本の歴史が世界の歴史とつながっていることに気付かせる。

(2)世界の一体化と日本

  近現代世界を理解するための前提として,ユーラシアの諸文明の特質に触れる  とともに,16世紀以降の世界商業の進展及び資本主義の確立を中心に,世界が一  体化に向かう過程を理解させる。その際,世界の動向と日本とのかかわりに着目  させる。

 ア ユーラシアの諸文明

   自然環境,生活,宗教などに着目させながら,東アジア,南アジア,西アジ   ア,ヨーロッパに形成された諸文明の特質とユーラシアの海,陸における交流   を概観させる。

 イ 結び付く世界と近世の日本

   大航海時代のヨーロッパとアフリカ,アメリカ,アジアの接触と交流,アジ   アの諸帝国とヨーロッパの主権国家体制,大西洋世界の展開とアフリカ・アメ   リカ社会の変容を扱い,16世紀から18世紀までの世界の一体化の動きと近世   の一本の対応を把握させる。

 ウ ヨー一一・Mッパ・アメリカの工業化と国民形成

   産業革:命と資本主義の確立,フランス革命とアメリカ諸国の独立,自由主義   と国民主義の進展を扱い,ヨーロッパ・アメリカにおける工業化と国民形成を   理解させる。

 エ アジア諸国の変貌と近代の日本

   ヨーロソバの進出期におけるアジア諸国の状況,植民地化や従属化の過程で

(24)

  の抵抗と挫折,伝統文化の変容,その中での日本の動向を扱い,19世紀の世界   の一体化と日本の近代化を理解させる。

(3)地球社会と日本

  地球規模で一体化した構造をもつ現代世界の特質と展開過程を理解させ,人類  の課題について歴史的観点から考察させる。その際,世界の動向と日本とのかか  わりに着目させる。

 ア 急変する人類社会

   科学技術の発達,企業や国家の巨大化,公教育の普及と国民統合,国際的な   移民の増加,マスメディアの発達,社会の大衆化と政治や文化の変容などを理   解させ,19世紀後期から20世紀前半までの社会の変化について,人類史的視   野から考察させる。

 イ 世界戦争と平和

   帝国主義諸国の抗争とアジア・アフリカの対応,二つの世界大戦の原因と総   力戦としての性格,それらが世界と日本に及ぼした影響を理解させ,19世紀後   期から20世紀前半までの世界の動向と平和の意義について考察させる。

 ウ 三つの世界と日本の動向

   第二次世界大戦後の米ソ両陣営の対立と日本の動向,アジア・アフリカの民   族運動と植民地支配からの独立を理解させ,核兵器問題やアジア・アフリカ諸   国が抱える問題などについて考察させる。

 工 地球社会への歩みと課題

   1970年代以降の市場経済のグローバル化,冷戦の終結,地域統合の進展,知   識基盤社会への移行,地域紛争の頻発,環境や資源・エネルギーをめぐる問題   などを理解させ,地球社会への歩みと地球規模で深刻化する課題について考察   させる。

 オ 持続可能な社会への展望

   現代世界の特質や課題に関する適切な主題を設定させ,歴史的観点から資料   を活用して探究し,その成果を論述したり討論したりするなどの活動を通して,

  世界の人々が協調し共存できる持続可能な社会の実現について展望させる。

 前節で示したとおり,新学習指導要領世界史Aの内容構成では,大項目「(1) 世界 史へのいざない」が新設され,中項目「ア 自然環境と歴史」「イ 日本列島の中の世界 の歴史」の二項目が設けられた。新学習指導要領『解説』によれば,この目的は「導入時 期の学習として,地理と歴史への関心を高め,世界史学習の意義に気付かせるためジ13と

して主題学習を想定したものとなっている。

 一方,現行の「(1)諸地域世界と交流圏」は全て削除され,大項目「(2) 世界の一体 化と日本」に前近代の内容を中項目「ア ユーラシアの諸文明」として組み込んで,前近 代と近代の歴史を一つの大項目のなかに構成することになり,現代史をより重視したもの になっている。この理由について文部科学省では「学校現場では通史的な扱いになりやす

(25)

かったので,近現代を重視する観点から思い切って削った(教育課程課)] 14としている。

 また16世紀の大航海時代ヨーロッパは,現行版までは独立した項目であったが,16世 紀から18世紀までを近世として捉えることにしている。そのため,現行版の大項目「(2)

一体化する世界」のなかの「ア 大航海時代の世界」と「イ アジアの諸帝国とヨーnッ パの主権国家体制」は今回の改訂で「イ 結び付く世界と近世の日本」としてまとめて扱

うことになった。

 現代史を扱う 「(3)地球社会と日本」では,現代世界の基本的特徴が19世紀後期に出 現し始めることに着目して,「19世紀後期から現在まで,いわゆる 長い20世紀 を扱 い『地球規模で一体化した構造を持つ現代』の特質と展開過程を理解させようとしている。

19世紀後期から20世紀前半を,発達した科学技術や巨大化する企業・国家,大衆化する 社会などそれまでとは明らかに異なる人類社会が出現する時期とし,まずそうした社会の 変容をとらえた上で帝国主義の時代から現代までの政治・経済を中心とした歴史の展開を 理解する∫15構成となっている。

 新学習指導要領世界史Aの内容構成を構造図で示すと次のようになる。

〈大項目〉

(3)

(2)

新学習指導要領「世界史A」の内容構成 オ 持続可能な社会への展望 工 地球社会への歩みと課題

ウ 三つの世界と日本の動向 ア 急変する人類社:会

イ 世界戦争と平和

ウ  ヨーロッパ・アメリカの工業化と国民形成 エ アジア諸国の変貌と近代の日本 イ 結び付く世界と近世の日本

ア ユーラシアの諸文明

<世紀・年代>

      21       1970−

      1 945一一      1 9t−20

      19      16n 18      前近代

(1) ア 自然環境と歴史  イ 日本列島の中の世界の歴史

〔佐伯眞人・澁澤文隆・原田智仁編著,前掲書,p,20をもとに筆者作成〕

 世界史Aの内容構成の特徴としては「文明史的な構成及び世界の一体化の過程を重視した構成」

をあげて,「前近代においても諸地域世界が決して孤立していたのではなく,相互の接触と交流を通 じて海域や内陸のネットワークを形成したことに触れるとともに,16世紀以降になると諸地域世界

(26)

は交易や植民により結合の度合いを強め,19世紀以降は世界市場の形成により地球規模での構造的 一体化をもたらしていることを把握させる」*1 ために,世界史を動態的かつ構造的に把握できるよ

うに内容構成を工夫している点があげられている。

(2)世界史Bの近代史構成

次に新学習指導要領世界史Bの内容のうち,近現代史にあたる部分を示す。

(4)諸地域世界の結合と変容

  アジアの繁栄とヨーロッパの拡大を背景に,諸地域世界の結合が一層進展したこととともに,

 主権国家体制を整え工業化を達成したヨーmッパの進出により,世界の構造化が進み,社会の  変容が促されたことを理解させる。

 ア アジア諸地域の繁栄と日本

   西アジア・南アジアのイスラーム諸帝国や東南アジア海域の動向,明・清帝国と日本や朝   鮮などとの関係を扱い,16世紀から18世紀までのアジア諸地域の特質とその中での日本の   位置付けを理解させる。

 イ ヨーロッパの拡大と大西洋世界

   ルネサンス,宗教改革,主権国家体制の成立,世界各地への進出と大西洋世界の形成を扱   い,16世紀から18世紀までのヨーロッパ世界の特質とアメリカ・アフリカとの関係を理解   させる。

 ウ 産業社会と国民国家の形成

   産業革命,フランス革命,アメリカ諸国の独立など,18世紀後半から19世紀までのヨー   ロソバ・アメリカの経済的,政治的変革を扱い,産業社会と国民国家の形成を理解させる。

 工 世界市場の形成と日本

   世界市場の形成,ヨーロッパ諸国のアジア進出,オスマン,ムガル,清帝国及び日本など   アジア諸国の動揺と改革を扱い,19世紀のアジアの特質とその中での日本の位置付けを理解   させる。

 オ 資料からよみとく歴史の世界

   主題を設定し,その時代の資料を選択して,資料の内容をまとめたり,その意図やねらい   を推測したり,資料への疑問を提起したりするなどの活動を通して,資料を多面的・多角的   に考察し,よみとく技能を習得させる。

(5)地球世界の到来

  科学技術の発達や生産力の著しい発展を背景に,世界は地球規模で一体化し,二度の世界大

(27)

戦や冷戦を経て相互依存を一層強めたことを理解させる。また,今日の人類が直面する課題を 歴史的観点から考察させ,21世紀の世界について展望させる。

ア 帝国主義と社会の変容

  科学技術の発達,企業・国家の巨大化,国民統合の進展,帝国主義諸国の抗争とアジア・

 アフリカの対応,国際的な移民の増加などを理解させ,19世紀後期から20世紀初期までの  世界の動向と社会の特質について考察させる。

イ ニっの世界大戦と大衆社会の出現

  総力戦としての二つの世界大戦,ロシア革命とソヴィエト連邦の成立,大衆社会の出現と  ファシズム,世界恐慌と資本主義の変容,アジア・アフリカの民族運動などを理解させ,20  世紀前半の世界の動向と社会の特質について考察させる。

ウ 米ソ冷戦と第三世界

  米ソ両陣営による冷戦の展開戦後の復興と経済発展,アジア・アフリカ諸国の独立とそ  の後の課題,平和共存の模索などを理解させ,第二次世界大戦後から1960年代までの世界  の動向について考察させる。

エ グローバル化した世界と日本

  市場経済のグローバル化とアジア経済の成長,冷戦の終結とソヴィエト連邦の解体,地域  統合の進展,知識基盤社会への移行,地域紛争の頻発,環境や資源・エネルギーをめぐる問  題などを理解させ,1970年代以降の世界と日本の動向及び社会の特質について考察させる。

オ 資料を活用して探究する地球世界の課題

  地球世界の課題に関する適切な主題を設定させ,歴史的観点から資料を活用して探究し,

 その成果を論述したり討論したりするなどの活動を通して,資料を活用し表現する技能を習  得させるとともに,これからの世界と日本の在り方や世界の人々が協調し共存できる持続可  能な社:会の実現について展望させる。

 前節でも述べたが,世界史Bの近代史構成においては,近代の開始は現行版と同様に16世紀の大 航海時代からとなっている。16世紀以降の内容酒戒については「世界史A」と共通点が多く,世界 の一体化の動きを構造的に把握させる構成となっている。また,今回の改訂では主題学習が大項目ご

とに設定され,生徒が興味関心を強く持って,主体的に授業に参加することで歴史的思考力を培うよ うな指導の実践が明示され,かつ徹底されている。

 近現代構成のなかでもっとも大きな動きが,大項目「(5)地球世界の到来」のなかの中項目「ア 帝国主義と社会の変容」である。この項目は現行学習指導要領においては,大項目「(4)諸地域世 界の結合と変容1の終わり,つまり近代の終わりに位置づけられ,現代の始まりは第一次世界大戦で

(28)

あったが,今回の改訂で帝国主義が現代の始まりへと変更されている。序章でも述べたが,ロシア革 命からソ連崩壊までを,いわゆる 短い20世紀 と規定したのがE.ホブズボームであり,現行版は その時代区分で現代史を構成していた。しかし社:会主義の退潮が明らかとなった現在では政治イデオ ロギーに縛られない歴史の見方が必要であろうし,「資源エネルギー問題,地球環境問題,民族問題 などの今日的諸課題について,その起源に立ち返りながら歴史的に考察することが求められている。」

*17 サこで現代世界の特徴が出現し始めた帝国主義時代を現代の始まりとする 長い20世紀 の概念 によって20世紀の歴史を解釈し,それを通じて新しい21世紀の在り方を考察することも可能にな ると考える。帝国主義の扱いの詳細については後述する。

 新学習指導要領世界史Bの内容構成を構造図で示すと次のようになる。

〈大項目〉

(5)

新学習指導要領「世界史B」の内容構成

資料を活用して探究する地球世界の課題

ロ 一 バ ル 化 し た 世 界 と 口 本

米 ソ 冷 戦 と 第 三 勢 力

二 つ の 世 界 大 戦 と 大 衆 仕 会 の 出 現

帝 国 主 義 と 世 界 の 変 容

<世紀>

   21

 20 19後半

(4)

ウ 産業社会と国民形成の形成 工 世界市場の形成と日本

套 1tこり・  み 鯉、 の

イ ヨー一一 mッパの拡大と大西洋世界 ア アジア諸地域世界の繁栄と日本

(3)

(2)

ア成 イスラーム世界の形

  ]一一一一

イヨーロッパ世界の形成

エ  i生目  、 一=q

ア西アジア・地中海世界イ 南アジア世界の形成

工   、 日    、

ウ 内陸アジア世界の動向と     諸地域世界

ウ 内陸アジア・東アジア世   界の形成

 19

16一一18

 15  13

5一一9

(1) ア 自然環境と人類のかかわり イ日本の歴史と世界の歴史のつながり ウ 日常生活にみる世界史

〔佐伯眞人・澁澤文隆・原田智仁編著,前掲書,p.45をもとに筆者作成〕

参照

関連したドキュメント

 近世の地中海ではイタリア諸都市が台頭し、さ

 世界史Bだと、教皇の名前と業績、細かい年号、第

 センター試験以外でも、頭の中に地図が描ける

ムといえば西アジアや砂漠”ではなく、アジア・

 要するに、新課程になって世界史用語数が全体

 イスラームには都市的・商業的性格が濃厚であ

しかし、イスラーム世界各地の世俗的政権は多くの

 その代表的な学者に、アメリカのリーバーマンがいる。海域世界を中心に近世東南アジ