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帝国書院 | 高校の先生のページ 高等学校 世界史のしおり 2009年 4月号

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Academic year: 2018

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(1)はじめに

 「世界史Aの前近現代(=「諸地域世界」)は、通史 的に教えるには時間がなく、時間内に終えようとする と断片的になって生徒が歴史の流れを理解できない」 等、世界史Aの前近現代をどのように構成し、何をど う教えてよいか、悩んでいる先生方が私を含め多い。 そこで拙稿では、世界史Aの「(1)諸地域世界と交 流圏」の「ヨーロッパ世界」について、一つの試案を 提供したい。その際、世界史Bとの違いはおりにふれ て示していく。

 最初に、入試との関係について。多くの生徒が受験 するセンター試験(過去4年間=2005 〜 2008年度)で、 「ヨーロッパ世界」から出題(誤りの選択肢も含む) された用語は、フランスのシャルトルの大聖堂、ユス ティニアヌス、国土回復運動(レコンキスタ)、ビザ ンツ帝国の4つだけで、年号は1つもない。つまり、 入試を意識していたとしても、この単元の授業を行う 際、細かい年号や事項を教える必要はなさそうである。  以下、「ヨーロッパ世界」の2時間分の単元目標と 指導経過を提示したい。また、その際、『明解世界史 図説 エスカリエ』(以下、資料集と記す)を使用する。 《単元》ヨーロッパ世界(2時間)

1時間目:【トランプのマークと中世4身分】まで 2時間目:【ベリー公の時祷書に描かれる荘園】以降 《単元目標》

① われわれの生活に大きな影響を与えているヨーロッ パ世界、とくに西ヨーロッパ世界の特質を理解させ、 かつその歴史的経緯について把握させる。

② ビザンツ帝国に代表されるギリシア・正教世界、東 ヨーロッパと、ローマ=カトリック世界で封建制度 に立脚した西ヨーロッパ世界を比較させ、その相違 点を把握させる。

③ 教皇権の衰退や都市の発達と王権の伸張の中で中世 ヨーロッパ世界が変動・衰退し、人間中心主義のル ネサンスや、教皇やローマ=カトリック教会に異を

唱えた宗教改革がおき、王権への集権化が進んだ絶 対王政が現出する近世につながっていったことを理 解させる。

(2)指導経過

【カールの帝国の領域】(資料集p.99 1 Aの地図 を見せ、)カール大帝の勢力圏と示してある範囲に は、現在どんな国があるか挙げてみよう。

 答えは、フランス・ドイツ・イタリア・ベネルクス 3国・チェコ・スイス・オーストリア・スロヴェニア である。

 現在の生徒は中学校で網羅的に地理=地誌を学習し ていないため、世界地誌についての知識がほとんどな い。従って高校の世界史の授業では、資料集に載って いる世界地図を常に見せるように配慮すべきである。 また、世界史Aで「○○世界」の学習の初めに、国や 地誌について白地図作業を行い、かつ風土について説 明を加えたい。「環境決定論」になってはいけないが、 風土が歴史を規定する面は確かにあるし、環境考古学 (歴史学)の研究成果も目を見張るものがある。そこで、

それらの点を踏まえ、かつ環境の視点も取り入れた説 明を行う必要がある。

 上記の「カールの帝国」の“復活”をめざし、ヨー 世界史

A

授業案

ヨーロッパ世界の形成

千葉市立千葉高等学校 小松 信

(2)

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ロッパでは戦後、地域統合の動きが見られる。

【「カールの帝国」とEC】そのうち、フランス・ド イツ・イタリア・ベネルクス3国を原加盟国とす る地域統合組織がありますが、それは何でしょう。

 答えはECである。第一次世界大戦後、覇権を失い、 第二次世界大戦後には国際的地位も低下した(西)ヨ ーロッパが求めた「過去の栄光」、国民国家の揺らぎ の中で地域統合をめざしたときのその統合の「歴史的 範囲」が「カールの帝国」であった。確かに、ECの 成立は当時の国際政治の文脈の中で行われたことであ り、すべてを上記のことで説明・理解できるものでは ないが、彼らの 「歴史的記憶」があったことは事実で あろう。

 その後、ローマ帝国・キリスト教の復習を行い、か つ知識を確認する。そして、ゲルマン人の移動とそれ 以前の社会、ローマ帝国の東西分裂(西ローマ帝国の 滅亡)、ゲルマン諸国家の成立、フランク王国の台頭 について説明する。世界史Bではそれだけで1時間以 上かかる内容であるが、世界史Aでの説明=板書事項 では以下の通りで、「大筋」をつかませる。

フン人の侵入を契機としたゲルマン人の移動・諸 国家の成立、西ローマ帝国の滅亡→ローマ=カトリ ック教会がパトロンを失う、フランク王国の台頭 (←ローマ=カトリック教会との関係・イスラーム勢

力との関係)、800年カールの戴冠

 世界史Aでは指導内容の精選が必要である。その際、 どのような視点で、何を重視して精選を行うかが大切 である。私がここで重視したのは、中世ヨーロッパ世 界を生み出す大きな契機となったイスラーム勢力との 関係と、中世ヨーロッパ世界で大きな勢力を持ち、か つその後のヨーロッパの歴史に多大な影響を与えたロ ーマ=カトリック教会(との関係)である。

 その後、資料集でカールの戴冠の図版を見せ、ロー マ・ゲルマン・キリスト教を柱とし、今までの政治・ 文化の中心であった地中海世界とは異なる独自の西ヨ ーロッパ世界が誕生したことを説明する。また、「生活」 の中でのヨーロッパ発のものを挙げさせ、いかにそれ が多いか、そしてそれらがいかにわれわれの中に入っ ているかを認識させる。そのことを通じて、21世紀の 日本人であるわれわれが、ヨーロッパ(史)を学ぶ意 味・意義を理解させたい。

【トランプのマークと中世4身分】さてトランプの登 場です。トランプには4つのマーク(=スート)があ ります。それぞれが何を表していると思いますか?

 生徒に歴史の面白さを感じてもらう一つの方法が、 「モノ」の持ち込みである。われわれは常日頃からア

ンテナを高くして、世界史に関係するモノ教材の開発 に努めなければならない。その際、そのときだけ盛り 上がるモノだけではなく、その授業の柱になるような モノ、その時代の雰囲気を生徒が感じられるようなモ ノの発見・教材化が必要である。この単元ではトラン プを使ってみる。

 上記の質問だけでは生徒から十分な答えが返ってこ ない。 そこで質問を以下のように変えてみよう。

スペードは剣、ハートは聖杯、ダイヤは貨幣、ク ラブは棍棒を意味し、それらはそれぞれ中世ヨー ロッパの身分を表しています。それぞれ何身分を 表していると思う?

 これでも答えが出ない場合、教科書に載っている「祈 る人・戦う人・働く人」をヒントとして与える。答え は、スペード=剣は国王・諸侯・騎士、ハート=聖杯 は聖職者、ダイヤ=貨幣=商人、クラブ=棍棒は農民 (農奴)であり、この4つが中世4身分と呼ばれる。

また絵柄については諸説あるが、キングのスペードは ダヴィデ、ハートはカール大帝、ダイヤはカエサル、 クラブはアレクサンドロス大王である。これだけでも 生徒は興味を持つ。雑談で話してもよいし、これを教 材化しても面白いだろう。次に、以下のように板書し て説明する。

内の主従関係

戦う人=国王・諸侯・騎士 = 封建制度 祈る人=聖職者  =領主

働く人=農民(農奴) = 荘園制 

    商人

中世封建社会 成立  8 〜 9C 盛期 10 〜 12C 衰退 13 〜 14C

(3)

− 8 −

− 9 −

ずしも必要ではない。中世ヨーロッパ世界の構造=特

質を教え、生徒がこの世界のイメージを持てるように なればよい。

 封建制については、資料集p.102 1 3 を見せなが ら説明・板書を行う。その際、既習の中国周代の封建 制や、ヨーロッパとほぼ同時代の日本の鎌倉時代の御 恩・奉公との相違点を生徒に考えさせたい。歴史的思

考力の一要素である、ものごとの共通点や異なる点を 比較し認識する力の育成や、わが国の歴史と関連づけ ながら理解させることは、世界史A・Bを問わず必要 なことである。荘園制については次の質問をして、資 料活用能力の育成を図りたい。

【ベリー公の時祷書に描かれる荘園】 (資料集p.102 の時代の扉を見せ、)この3枚の図版を見て気づく ことを何でもよいから挙げなさい。

 生徒からは以下のような答えが出てくる。

・ < 3 月>土地が幾つかに分かれて、別々の作業をし ている。

・< 3 月>車輪がついたものを牛にひかせている。 ・<  月>分けられた土地の一つで羊を飼っている。 ・<11月>豚に森林で何か食べさせている。

 生徒の答えは大切にしたい。間違っていると教員が 判断する答えも含め、すべて板書すべきである。その ことで生徒のやる気がわいて、能動的に授業に参加す る姿勢が生まれる。そして、その答えを利用しながら 三圃制、重量有輪犂、鉄製農具の説明をし、当時の農 民(農奴)の日々の生活をイメージさせる。その際大 切なことは、国王の役人の立ち入りと国王への納税を 免除される権利、不輸不入権が荘園領主に認められて いたことの説明である。そのことで、封建社会が分権 的な社会であったことを生徒は理解するようになる。  次に「祈る人」、ローマ=カトリック教会について。 {カールの帝国}の分裂後、神聖ローマ帝国が成立し、 その皇帝が理念的には俗界の頂点に君臨したことを説 明した後、生徒に質問する。

【教皇と皇帝】 「教皇は太陽、皇帝は月」という言 葉は、どういう意味だと思いますか?

 生徒から、教皇の方が皇帝よりエライ、力を持って いた、という答えが返ってくる。教皇権が最盛期であ った、12世紀末から13世紀初頭の教皇インノケンティ ウス3世の言葉であることを話し、中世ヨーロッパ世 界において、教皇は聖界の頂点であると同時に俗界の 大領主でもあったことを説明する。その際、中世(西) ヨーロッパ世界は聖と俗に分かれた二元構造の社会で あったことを生徒に認識させる。板書でローマ=カト リック教会と十字軍についておさえておこう。

11 〜 12C 教皇権の伸長

     →十字軍:対イスラーム勢力の西ヨー         ↓ ロッパ世界の膨張運動   13C後半失敗→教皇権の失墜

 世界史Bだと、教皇の名前と業績、細かい年号、第 1回〜第7回十字軍の解説を行うが、世界史Aではそ れは必ずしも必要ではない。とくに年号はいらず、基 本的に何世紀のいつ頃のことか、を理解させればよい。 そして、中世ヨーロッパ世界ではローマ=カトリック 教会とその頂点に立つ教皇の勢力が強大であったこ と、イスラーム勢力に対して十字軍が行われ、その成 功とともに教皇権が伸長し、失敗によりそれが失墜し たことだけを理解させればよい。そして、上記の三圃 制などによる生産の拡大と、この十字軍を通じてのイ スラーム圏との交流・通商の拡大などにより、「働く人」 =商人の動きが活発となって、各地に古代の政治都

「エスカリエ」p.102

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− 8 −

− 9 −

市・消費都市とは異なる中世都市が生まれたことを理 解させる。その際、資料集p.105のチッタデッラとヴ ェネツィアの写真を見せ、今もヨーロッパ各地に残る 中世都市の構造的な特徴(=壁・教会・市庁舎)と海 を通しての交易を説明する。

 次に、東ローマ帝国=ビザンツ帝国について。西方 では(西)ローマ帝国が5世紀に滅んだが、東方では ローマ帝国(=ギリシア・正教的なビザンツ帝国)が 生きのび、西方とは異なる歴史的世界を生み出したこ と、6世紀のユスティニアヌス帝の時に最盛期を迎え たことを説明したあと、以下の質問を行う。

【ビザンツ帝国の皇帝】 (資料集p.100の時代の扉 を見せ、)この壁画で真ん中に描かれているのはユ スティニアヌス帝です。彼の向かって右側の人々 と左側の人々は、それぞれどういう身分の人たち だと思いますか? また、この壁画はどういうこ とを表していると思いますか?

 すぐには答えが出ないかもしれないが、生徒に中学 で習ったフランシスコ=ザビエルの頭部を思い浮かば せたり、左側の人物の持っているものに注意させれば、 右側が聖職者で左側が軍人である、との答えが返って くる。また、この壁画の意味は難しいが、ヒントを与 えれば生徒たちは答えにたどり着くことができるだろ う。それらの生徒の答えを生かしてビザンツ帝国の皇 帝教皇主義の説明を行い、西ヨーロッパ世界との違い に気づかせる。そして、既習の事項を想起させつつ、 西ヨーロッパとビザンツ帝国の相違点を理解させる。 世界史Bではギリシア正教とカトリックの相違点など についても説明するが、世界史Aではイコンやミサの 写真を見せる程度で、あまり深入りしない(というか 時間的にできない)。

 最後に、中世封建社会の崩壊と近世の萌芽について。 ここでは資料集p.10の時代の扉の「死の舞踏」の図 版を使いたいところであるが、図中に身分が書いてあ る(=種明かしをしている)ので、授業では何も書い てない別の図版を用いたい。

【「死の舞踏」と中世封建世界の衰退】 この図版は 14世紀に中世ヨーロッパでよく描かれたものです。 この絵を見て気づいたこと、わかることを何でも いいから挙げてみましょう。

 ガイコツがいろいろな人と手をつないで一方向に向 かって歩きながら踊っている、という答えは出てくる。 そこで、服装に注目させ、それぞれどんな身分(階層) の人が描かれているか、再度質問する。教皇・皇帝・ 騎士・貴族・老女など具体的には出てこないが、貴賤 様々な身分の人たちが老若男女を問わずいることは分 かるだろう。そこで、14世紀にユーラシア規模で気候 の寒冷化が起き、中国発のペストがヨーロッパで猛威 をふるい、人口の3分の1〜2分の1が死亡したこと を話す。そしてこのことが大きな要因の一つとなって 中世封建社会が崩壊していくことを以下の板書で説明 する。

十字軍  貨幣経済の発達 ペストの流行  ↓        ↓    ↓ 教皇権の失墜    荘園制の解体 諸侯・騎士の没落 ←

王権の伸長

商業の活発化 → 商人と結びついた国王による          中央集権化=「くに」の誕生        → 近世(絶対王政・主権国家)へ

(3)おわりに

 世界史Aに限らず、われわれ教員は、この授業で生 徒にこれだけは伝えたい、生徒にこんな力を身につけ てもらいたい、ということを考え抜く。とくに世界史 Aでは授業内容の精選が大切なので、年度当初さらに 年間を通じて上記のことを考え続け、教授内容を精選 し、授業を構成する。この拙稿は、そんな作業の中か ら生まれた授業実践(例)である。不十分な点が多々 あると思うが、ご意見ご批判等いただければ幸いであ る。

参照

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