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はじめに
高校生の地理的知識が不足しているといわれる ようになって久しい。最近の新聞報道では「イラ クの位置を正しく示せた高校生は53%」というこ とであるから、イスラーム世界の歴史的特性をど う伝えるかを考える以前にかなり高いハードルが 横たわっていることになる。筆者の実感では、こ の傾向は年々ひどくなるようである。中学校の学 習内容から、世界史に関する事項のみならず、世 界地理に関する基本的な内容も大きく減少してい るように感じられる。世界史担当教員は、世界の 歴史に目を向けさせる前に、世界の空間的な広が りに目を向けさせなければならないのである。こ のような実感や苦心は、全国のほとんどの世界史 教員が共有していると思われる。ここでは、「最 新世界史図説タペストリー 六訂版」の世界全図 (以下、全図)および「タペストリー世界全図ワー ク」(以下、ワーク)を利用して、このような問 題に対応する一試案を提示してみたい。
基礎知識の徹底
世界史を学習するうえでの基礎となる地理的知 識とはどのようなものだろうか。様々に考えられ るが、まずは現在の国名とその位置、大地形とい うことになると思う。授業では、最初に白紙を与 えて何も見ないで世界地図を書かせることから始 めている。大陸の位置がおかしいもの、ヨーロッ パ、とくにイタリアがやけに大きいもの、アフリ カが小さいものなど、知識の不足とともにその生 徒が持っているいびつな(無意識の)世界観がよ くわかる。そこで教科書等で見比べさせ、「世界 史の学習が終わったら、正しい世界地図が書ける ようになろう。地図はその人の世界観の現れなの
だから。」と目標を示す。次に、ワークのp.32〜39 を利用しての作業学習を行う。この部分は、大陸 別でなく、地域世界別になっているので、歴史学 習の導入としては好適である。たとえば、最初の 「オリエント世界/地中海世界」は西アジア・地 中海域・北アフリカが同図に入っているので、こ れらの諸地域の関連性をイメージさせやすい。最 初は「高校生にこんな作業は…」という感じを 持っていたが、現在では必要不可欠と思っている。
入試問題における地理的認識と対応
世界史における地理的認識の重要性がいわれる ようになり、現在の入試では、いわゆる「地図問 題」(地図中の都市名や国名を答えさせる問題) だけでなく、頭の中に広がりを持った地図が描け ないと解きにくい問題も多くなっている。一例を 示すと2008年センター試験の第1問である。この 問題では、「ヨーロッパとアジアを一続きのユー ラシア世界と捉える」ことが前提となっており、 全図p.14〜29が示すような地理的広がりを把握し なければ解けない。こうした問題に対応する力を つけさせるためには、地図を見させるだけでは十 分ではなく、やはり作業的な学習で定着を図るこ
タペストリー授業実践例
世界全図と入試問題
岡山県立岡山朝日高等学校 高 原 昭 彦
タペストリーp.48,地図帳を参照して,下の❶∼ に該当する自然地域名を記入しよう。
オリエント世界/地中海世界
タペストリー裏見返しと地図帳を参照して,下の ∼ に該当する国名を,ア∼オに該当する都市名を 記入しよう。
行政 風土
[国名]
[都市名]
ア イ ウ エ
オ
[風土]
❶ 砂漠❷ 半島❸ 海❹ 海
❺ 海❻ 高原❼ 川❽ 海
❾ 半島 川 高原 川
●
❶
●
❷
●
❸
●
❹
●
❺
●
❻
●
❼
●
❽
●
❾
● ● ●
■
■ ■
■
■ ■
■ ■
ア
イ ウ
エ
オ 32
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とが必要であり、単元の区切りごとに復習として 行うのが適当である。
「世界全図ワーク」を活用した学習の例(その1)
「ユーラシアの変動と東アジア世界」と「イス ラーム世界の形成と拡大」の学習を終えたところ で、または、「ユーラシア大帝国の出現」と「ア ジア諸地域の栄華と成熟」の学習を終えたところ でというように、ある程度のまとまりを持った内 容を学習したところで、まとめとしてワークの p.10〜25を使っていく。見開き図の作業のすべて を一度に完成させる必要はなく、逆に何回も開か せて、だんだんと完成させていくほうがよい。ま た、全図を忠実になぞらせるというよりは、全図 のインデックスを活用して、関連事項を確認しな がら作業させることが必要である。必要に応じて 左右の余白に書き込みをさせてもよい。全図には 各図に「日本と東アジア海域」の図があるが、ワー クにはないので作業をさせる際には、必ず注意を 喚起したい。どの図も「海域世界」を理解させる には必須である。
①インドについてタペストリー p.72〜73を見なが ら古代王朝の変遷について確認させ、次いでp.85、 86を中心に、唐帝国の国際性を想起させ、その表 れの一つとして玄奘・義浄の行路をワークp.10〜 11でたどらせるとよい。センター試験の第1問・ 問2では、玄奘が取り上げられており、タペスト リー p.104〜105で東西交易路を利用して旅してい ることを理解させる。同時に、必ず義浄の行路上 の東南アジアの状況にも目を向けさせる。「作業 2」としておもな陸上交通路・海上交通路をなぞ らせるようになっているのも活用できる。
タペストリー p.14 〜 15 7世紀ころの世界 2008年センター試験 世界史B 第1問
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②イスラーム世界の拡大について、タペストリー p.106、112〜113で、年代と王朝の変化を確認させ、 ワークp.12〜19で王朝名を入れさせるが、同時に 都市の確認が重要である(できれば、イスラーム の都市文化の復習もさせたい)。
③モンゴル帝国以後、ユーラシア世界の一体化が 進むことを確認させるのに、地図作業は必須であ る。ワークp.20〜21でモンゴル帝国の広がりを確 認させる。モンゴル帝国の最大領域を作業させる と、ヨーロッパ世界の小ささが自然に認識される はずである。また、交流圏が西アジアからアフリ カにまでおよんでいることを見て取らせることが できる(問6)。タペストリー p.24「カタロニア 世界図」とセンター試験第1問Bの「混一疆理歴 代国都之図」を対比して示すのも面白いだろう。
④明代以後、海洋による世界の一体化が進むこと を全図p.26〜29で確認させ、ワークp.22〜25を作 業させる(問3)。鄭和の遠征ルートをなぞらせ る際には、東南アジアから東アフリカへという中 心ルートの他に南アジア・アラビア海・紅海の ルートも確実におさえさせたい。鄭和がムスリム であったこと、南インドのヴィジャヤナガル王国 にもふれておく必要がある。
作業1 この時代の新勢力について確認しよう
①中国を再統一した王朝の名まえを❶に,首都の名まえを〈❷〉に記入しよう。また, 直接支配領域を黄色でぬり,最大勢力範囲(高宗時代)を黄色でなぞろう。 ②北インドの王朝の名まえを❸に,首都の名まえを〈❹〉に記入し,最大支配領域を赤
色でぬろう。また,南インド・東南アジアのおもな国の名まえを❺∼❽に記入しよう。 ③中央アジアのおもな遊牧騎馬民族の名まえを❾∼ に記入し,それぞれの勢力範囲
を示す線を茶色でなぞろう。
④西アジアから北アフリカに広がる王朝の名まえを に,おもな都市の名まえを〈 〉 ∼〈 〉に記入しよう。また,征服領土を緑色でぬり,領土拡大の画期となった戦いの 名まえを[ ]に記入しよう。
⑤ヨーロッパの国々の名まえを ∼ に記入し,ゲルマン諸国の領域を示す線は茶色 でそれぞれなぞろう。また,東からのイスラームの大征服を止めた帝国の領土を青色で ぬり,首都の名まえを〈 〉に記入しよう。また南西からのイスラームの進出を阻止し た戦いの名まえを[ ]に記入しよう。
作業2 この時代の交流について確認しよう ①この時代の交流を代表する人物,玄奘の行路を赤色で,義浄の行路を紫色でなぞり,お
もな訪問地や通過した都市の名まえを〈 〉∼〈 〉に記入しよう。 ②玄奘と義浄が訪れた国々の名まえを○で囲もう。 ③モンゴル系遊牧民,アヴァール人の動きを示す矢線を茶色でなぞろう。 ④❶の国の外征を示す矢印を黄色でぬろう。また,❶の国と連合して倭と戦った国の
名まえを に,戦った場所の地名を[ ]に記入しよう。 ⑤おもな陸上交通路を水色,おもな海上交通路を赤色でなぞろう。 7世紀ころの世界
(「タペストリー」p.14-15)
[ ] [ ] ❾ ❶ ❸ ❺ ❻ ❼ ❽ [ ] 〈● 〉 〈● 〉 〈● 〉 〈● 〉
〈●❹ 〉 〈● 〉
〈● 〉
〈● 〉
〈● 〉
〈●❷ 〉
● ● ● ● ● ● ● ❹ ● ● ❷ ● 10 11
世界全図ワーク p.10 〜 11 7世紀ころの世界
メロエ トンブクトゥ
トレド リスボン
パリ ロンドン
キエフ
ヴェネツィア
イェルサレム カイロ
シーラーズ
ホルムズ タブリーズ
ブハラ
ウルムチ カラコルム
広州 泉州 杭州 北京 粛州
デリー ホータン サマルカンド
メッカ
カーブル
香料諸島
ス カ
ピ 海 黒 海
地 中 海
インド
元
女 人 国
香料諸島 空想的な アジア
マリ ヨーロッパ
キプチャク=ハン国
イル=ハン国
13世紀の世界像 ∼カタロニア世界図 モンゴル帝国によってユーラシア大陸の一体 化が進むと,東方の情報もヨーロッパに伝わ るようになった。1375年ころに描かれたこの
カタロニア世界図は,マルコ=ポーロの『世
界の記述』を参考にした最初の地図といわれ る。キリスト教的世界観(イェルサレムを世界 の中心とするなど)からの脱却も見られる。
タペストリー p.24 カタロニア世界図
センター試験 第1問 混一疆理歴代国都之図
タペストリー p.28 〜 29 15世紀ころの世界
15世紀ころの世界
(「タペストリー」p.28-29)
作業1 この時代の各地域の動きについて確認しよう
作業2 この時代の東西の大航海について確認しよう。また遊 牧民の動きについて確認しよう
①ヨーロッパのおもな国の名まえを,❶∼❼に記入しよう。 ②ナスル朝の首都の名まえを〈❽〉に記入しよう。この地が1492年に陥落してイベリア半島
のイスラーム勢力はなくなった。このことに適する語句をカタカナで[❾]に記入しよう。 ③イスラームのおもな国の名まえを ∼ に記入しよう。また, の国の領域を緑 色でぬろう。1453年, の国は首都をかえた。その都市の名まえを〈 〉に記入しよ う。またこれによっておこった出来事はなにか。[ ]に記入しよう。 ④南アジア・東南アジア・東アジア・中央アジアのおもな国の名まえを ∼ に,お
もな都市の名まえを〈 〉∼〈 〉にそれぞれ記入しよう。 ⑤ の国の正統帝が の国の捕虜となった出来事を何というか。[ ]に記入しよう。
① 和の遠征の航路を赤色でなぞろう。また,彼の部下が到達したアフリカの都市の名ま えを〈 〉に記入しよう。
②ヴァスコ=ダ=ガマの航路を青色でなぞろう。また,彼が到着したインドの都市の名まえ を〈 〉に記入しよう。
③ の進出の動きを示す矢印は緑色で, の進出の動きを示す矢印は茶色でなぞろう。 ④サファビー教団の動きを示す矢印を黄緑色でなぞろう。 ⑤明の外征を示す矢印を黄色でなぞろう。
❶ ❸ ❹ ❷ ❺ ❻ ❼ [ ]
[❾ ]完了
[ ]
〈 ●❽ 〉
〈 ● 〉 〈 ● 〉 〈 ● 〉 〈 ● 〉 〈 ● 〉 〈 ● 〉 ● ❽ ● ● ● ● ● ● 24 25
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センター試験以外でも、頭の中に地図が描ける ことが解答にいたる前提である入試問題は多い。 例をあげると、2008年大阪大学の大問3がそうで ある。世界史上でどのようにグローバル化が進ん だかを論述させる問題であるが、「グローバル化 を先導した主要な勢力の進出先の変化」「アジア の諸国家や交易ネットワークなど非ヨーロッパ世 界の動き」「グローバル化を先導した主要な商品・ 産物、技術や人の動き」等に留意しながら述べる ことを求めている。15世紀末〜17世紀の方を選ん で解答する場合、地図を使った学習がどのように 役立つだろうか。大航海時代の到来とオランダの 台頭、イギリス・フランスの新大陸への進出、大 西洋貿易などを入れて論述しなければならない が、こうした要素をうまくつないで述べるために は、年代順に並べることと同時に地理的な整理が 必要である。「西ヨーロッパの覇権争いと世界的 な分業体制の拡大」まで進んだところで、全図p.30 〜35を見ながらワークp.26〜31を完成させる。
まず、p.30〜31から全図に示される範囲がアフ ロ・ユーラシアから、全地球規模になっているこ とに注意させる。「世界の一体化」が本格的になっ てきた時期であることを理解させることができ る。タペストリー p.159の「近世ヨーロッパの国 際関係・植民地戦争まとめ」の図で推移を確認さ せたうえで作業させるが、銀の世界的な流れを押
さえさせるために、「16世紀の世界貿易」の図(全
図p.30「大航海時代の世界経済」)は重要であるし、 ワークの作業指示にはないが、アカプルコの場所 や太平洋航路は確認させたい。また、ベニン王国 を書き込ませたら、タペストリー p.123をぜひ開か せて、アフリカへの目配りもさせたいものである。
他にも、2007年東京大学の大問1、2006年京都 大学の大問3などは、同様に地図を使ったまとめ 学習が有効であると思われる。
おわりに
生徒の地理的知識は全体として不足している。 しかし、裏返せば地理的知識を求めているともい えるし、地図に対して新鮮な感じも持っているよ うである。年代順や王朝別、事項別のまとめと併 行して、地図を使ったまとめ(とくに作業を伴う ような)は確実に、知識・概念の定着度をあげる はずである。また、構造化された知識を求める大 論述にも有効である。
本稿では、いくつかの単元ごとに行う例を示し たが、教科書を使った学習が一通り終わったあと で、通して復習を行う際にもワークは活用できる。 世界的な変化を、概括的に短時間で追うことがで きる。まず、何も見ないで空欄を埋めさせ、その 後全図で確認しながら定着を図るような方法も考 えられる。
最後に、できればワークに19世紀以降について も同様の作業図を入れてほしいものである。19世 紀以降こそ真のグローバル化の時代であるし、世 界全体を見渡して関連を確認してもらいたい時代 だからである。
「世界全図ワーク」を活用した学習の例(その2)
タペストリー p.32 〜 33 17世紀ころの世界