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帝国書院 | 高校の先生のページ 高等学校 世界史のしおり 2009年 4月号

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Academic year: 2018

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はじめに

 生徒は「地中海」という言葉に対し、どのよう な興味・関心・反応を示すだろうか。地中海がど こに位置し、どのような国があるか、そして地中 海が歴史的にどのような役割を果たしてきたかを 連想できるだろうか。中学校社会科の地理的分野 で学習する「地中海性気候」以外の情報を連想で きる生徒は少ないのではないだろうか。また、「海」 が「交流」に重要な役割を果たしていることを想 像できる生徒も少ないであろう。本校は大阪湾・ 神戸港を見渡す六甲山麓に位置し、校歌に「海かい彼ひ の夢」という歌詞が登場する高校であるが、生徒 たちの歴史認識・空間の広がりは不十分である。  本稿では、地中海を舞台に、古代から近世まで、 どのような民族が行き交い、対立があったのか、 文化の交流も含めて、生徒たちの想像・認識を豊 かにする授業案について考える。

 多くの生徒は「海」を「遮断・途絶」するもの と考え、海域を利用し多くの交流が行われている 事実を見過ごしている。『最新世界史図説タペス トリー』(以下、『タペストリー』)p.138掲載の地 図「⑥占星術の伝播」を用い、時代・地域を越え た文化の交流について考えさせることを起点に授 業を進めたい。

古代の地中海

 『タペストリー』p.138掲載の年表「地中海の歴 史」を参考に、古代の枠組みをゲルマン人・イス ラーム勢力が台頭するまでの時期と考える。『タ ペストリー』ではp.6〜 13に世界全図が掲載され ている。世界全図により地中海の大きさ(正確な 比較ではないが)を身近な海域(たとえば瀬戸内 海)と比較し、その広大さを認識させる。  多くの学校では、古代オリエント世界から始ま り、地中海を舞台としたギリシア・ローマ世界へと 世界史学習が進んでいく。しかし、生徒の「地中海」 への興味・関心はあまり高くない。歴史を政治史 (戦争)中心にとらえ、ヒトやモノの動きへの注目 が低いためであろう。『タペストリー』p.51のコラ ム、p.55掲載の地図「 2 ギリシア人の植民活動」 を用い、地中海を舞台にフェニキア人・ギリシア

人がどのように活躍したかを理解させる。『タペス トリー』p.138掲載の「①最初のガレー船、 フェニ キア人の船」示し、当時の船がどのようなものであ るかを考えさせ、当時の航海

の困難さ、そしてそれを可能 にしていく科学(天文学な ど)・技術(造船術など)の発 展についても理解させる。

①最初のガレー船,フェニキア人の船 タペストリー授業実践例

地中海の文化・交流

兵庫県立神戸高等学校 齋 木 俊 城

古代 唐代の中国

ヘレニズムの 影響を受けた インド ヘレニズムの 影響を受けた インド アレクサンドロス

時代のギリシア アレクサンドロス 時代のギリシア

11∼12世紀の スペイン 11∼12世紀の スペイン

中世∼ルネサンス期の ヨーロッパ

イスラーム世界 古代

メソポタミア アメリカへ

アメリカへ

中世∼ルネサンス期の ヨーロッパ

『タペストリー』p.138 ⑥占星術の伝播

エトルリア人の植民活動範囲 エトルリア人の都市 金(赤文字)各地の特産物

ギリシア人の植民活動範囲 ギリシア人の都市 ギリシア人の植民方向

フェニキア人の植民活動範囲 フェニキア人の都市 フェニキア人の植民方向

スキタイ

トラキア イタリア

イベリア

ヌミディア

エジプト マ

ケ ド ニ ア

フ ェ ニ キ ア

カディス ビュザンティオン

ミレトス メッシナ

キレネ タレントゥム ネアポリス (ナポリ) マッサリア

(マルセイユ) コルス (コルシカ)島

キプロス島 クレタ島 シチリア島

黒 海

シドン

ティルス アテネ

スパルタ シラクサ カルタゴ

小麦・奴隷

小麦・ワイン 木材 すず・こはく

羊毛

木材 銅 銅

鉛 銀

銀 銅

銅 紫染料

小麦 小麦

木材・亜麻 小麦 金・ぞうげ 金

0 1000km

『タペストリー』p.55  2 ギリシア人の植民活動

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 『タペストリー』p.6、8、10掲載の地図「交流 の歴史」を用い、ローマ帝国が他の文化圏と「海 の道」を利用して交流している事実、ローマ帝国 のもとで地中海交易で活躍したギリシア人が文化 面で貢献していること、コンスタンティノープル がギリシア人の建設した植民市が起源であること を理解させる。

中世の地中海

 地中海世界もゲルマン人の侵入、ローマ帝国の 衰退がおこり、古代から中世に向かう。『タペス トリー』p.14 〜 27に7〜 14世紀の世界全図が掲 載されている。これを利用し、地中海世界が、ゲ ルマン国家、ビザンツ帝国、イスラーム勢力に囲 まれていることを理解させる。

 『タペストリー』p.125掲載の地図「 1 ゲルマン 人の移動」を利用し、ローマ帝国が支配する地中 海世界がゲルマン国家成立とビザンツ帝国勢力の 拡大というように変貌していくことを理解させ る。ゲルマン人に続き、ノルマン人の侵入につい ても『タペストリー』p.128掲載の地図「 1 第2 次民族移動」を利用し理解させる。

 『タペストリー』p.138には、「ビザンツ世界」 →「ヨーロッパ世界」、「ヨーロッパ世界」→「イ スラーム世界」、「イスラーム世界」→「ヨーロッ パ世界」という文化の交流例が紹介されている。 生徒には図書館に着目させたい。『タペストリー』 p.110掲載のヒストリーシアター「ギリシア学問 の継承者」、p.138掲載の「②ビザンツ帝国の図書 館」の図版・コラムを通し、東西両世界で同様の 作業が行われていたことを理解させ、文化の交流・ 継承について考えさせる。

 これらの交流の舞台が地中海であることを地図

を用いて理解させる。イスラーム勢力の地中海進 出が交流を加速させていく。イスラーム勢力によ るギリシア語文献のアラビア語への翻訳、そして アラビア語に翻訳された文献がラテン語に翻訳さ れ、キリスト教世界に大きな影響を与える。その 代表は『タペストリー』p.110掲載のヒストリー シアター「ギリシア学問の継承者」に出てくるイ スラームの書物に描かれたアリストテレスであ る。イスラーム世界を

経由して西ヨーロッパ 世界に流入したアリス トテレス哲学が、中世 西欧の普遍論争を集結 させるトマス=アクィ ナスに大きな影響を与 えたことを確認させる。

 中世の地中海では、コンスタンティノープル、 イベリア半島、シチリア島がキリスト教勢力とイ スラーム勢力が対峙する地域となった。中世は平 和的な文化の交流だけではなく戦争という形で交 流が行われた。十字軍、レコンキスタを戦争とし てだけとらえるのではなく、文化の衝突・交流と いう視点から考えさせる。

近世の地中海

 近世の地中海ではイタリア諸都市が台頭し、さ らに大航海時代が始まり、地中海の役割に変化が おこる。また、キリスト教世界とイスラーム世界 の対立、キリスト教世界ではビザンツ帝国の衰退・ 滅亡とスペインの成立・勢力拡大、イスラーム世 界ではマムルーク朝とオスマン帝国の対立という 地中海をめぐる覇権争いが激しくなる。これらに ついて『タペストリー』p.28 〜 31に掲載されて いる15 〜 16世紀の世界全図で確認させる。

『タペストリー』p.110②

アリストテレス

『タペストリー』p.110① 『タペストリー』p.10 交流の歴史

『タペストリー』p.138②

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 『タペストリー』p.138掲 載の「クリュソロラス」の 絵を示し、14世紀末のイタ リア諸都市がビザンツ文化 (ギリシア語文献)の導入に 積極的姿勢を示していたこ とを理解させる。彼がビザ ンツ帝国救援を要請するた

め、そしてギリシア語を伝授するためフィレン ツェを訪れる時期には、イタリア=ルネサンスは すでに始まっていた。『タペストリー』p.144掲載 の「ルネサンスの流れ」を示し、イタリア=ルネ サンスがイタリア諸都

市の勃興だけで発生し たものではなく、ビザ ンツ帝国、イスラーム 世界の影響があったこ とを理解させる。  フィレンツェの大富 豪メディチ家のフラン チェスコ1世(16世紀) がイスラーム科学を取 り入れ、当時最先端と されていた錬金術に興 味を示している絵「錬 金 術 師 」(『 タ ペ ス ト リー』p.138)④を示し、 イタリア=ルネサンス とイスラーム文化の関 係を理解させる。

 これらルネサンスがイスラーム世界からヨー ロッパ世界への一方通行に終わるのではなく、 ヨーロッパ世界からイスラーム世界へ影響を与え ている。このことを『タペストリー』p.138掲載 のジェンティーレが描いた「③メフメト2世」の 肖像画、レオナルド=ダ=ヴィンチが描いた「⑦橋 の図面」を用いて考えさせる。

 地中海を通じて文化の交流と民族の対峙は絶え ず続いてきたが、大航海時代を迎えて様子が変わ る。『タペストリー』p.142掲載の「 2 ヨーロッパ

社会の変化」を示し、商業革命について考えさせ る。地中海がヨーロッパ世界の中心からはずれ、 大西洋が中心になっていくことを理解させる。こ れは地中海が文化の交流の役割を失ったのではな く、大西洋が新たな文化の交流に大きな役割を果 たす時代が大航海時代であることをおさえさせる。

おわりに

 生徒たちの想像・認識を豊かにする授業案を考 えるためには、まず教員が多くの情報を収集し、 自分なりの枠組みを考えなければならない。  「文明の衝突」を異文化間の対立ととらえるだ けでなく、「交流」の視点から見渡すことが大切 である。「交流」は地中海のみならず、世界の多 くの海域で展開されている。

 「各国史」を寄せ集めた世界史学習ではなく、「対 立」と「交流」から豊かな世界を構築していく世 界史学習をめざしたい。そのことを考える契機に 地中海を題材とする学習は適している。『タペス トリー』はその題材を提示してくれている。

古代ローマの遺産 十字軍遠征

地中海貿易の復興

イタリア諸都市の衰退・没落 イタリア=ルネサンス

都市間の 対立・抗争

オスマン帝国の 東地中海進出 イタリア=ルネサンスの衰退

学問・芸術を奨励

14,15世紀

16世紀前半

遠隔地貿易を行う大商人や都市貴族の保護

フィレンツェ:メディチ家

ヴェネツィア:共和政のもと十人評議会(都市貴族)

ミラノ:ヴィスコンティ家→スフォルツァ家

ローマ:教皇(ユリウス2世・レオ10世)

○都市国家での自由な市民の活動 ○産業発達(毛織物・造船・武具) ○東方仲介貿易による富の蓄積

北 西 ヨ ー ロ ッ パ ︵ 英 ・ 仏 ︶ 諸 国 の 台 頭

外 国 勢 力 の 侵 入    

イ タ リ ア 戦 争

大 西 洋 貿 易 の 発 展

イ ン ド 航 路

の 発 見

ヨーロッパ諸国のルネサンス

ネーデルラント 毛織物工業や商業の繁 栄にささえられ発展

スペイン 絶対王政の国王の保護 のもとで発展

フランス 国王フランソワ1世の 宮廷中心に発展

イギリス 宮廷の保護と中産階級 の支持により発展 ドイツ

商業・鉱山業のさかん な南ドイツ中心に発展

イタリア諸都市の勃興

p.147 ルネサンスの流れ

『タペストリー』p.144 『タペストリー』p.138①

メディチ家 フランチェスコ1世

『タペストリー』p.138④

↑『タペストリー』p.138⑦ ←『タペストリー』p.138③

ヨ ー ロ ッ パ の 人 口 増

大量の銀(ペ ルー・メキシ コ産)が流入

イスラーム世界

100年間で 物価数倍に

ヨ � ロ � パ

地 中 海

ア ジ ア

新 大 陸

ア ジ ア ヨーロッパ

アフリカ 香辛料・絹・陶磁器・染料・宝石

ヴェネツィア・ジェノヴァ コンスタンティノープル

銀 ヨーロッパの 主な貿易都市

ヨーロッパの 主な貿易都市 奴隷

アムステルダム・ロンドン アントウェルペン

装 身 具 ・ 武 器 象 牙

1450 1500

定額地代に依存する封建貴族の没落 資本家的新興地主層の台頭

1550 1600 1650 1700年 20

40

1000 2000 (t) (シリング)

南アメリカ銀の ヨーロッパへの 流入量 イギリスの穀物価格 (12.7kgあたり)

イギリスの穀物価格 銀の流入量

銀 香辛料

・綿 絹・陶磁器

銀・砂糖

物 価 騰 貴 = 価 格 革 命 とう き 価格革命 A

ヨーロッパ社会の変化

2 ヨーロッパと新大陸・ア

ジア間貿易の劇的発展

商業革命…

B

p.30

参照

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