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cMIP および pMIP フィルタの開発

第 4 章 分子鋳型法を用いた分子認識吸着 剤の開発剤の開発

4.5 MIFA の作成

4.6.7 cMIP および pMIP フィルタの開発

一方,PAA層からなる分子フィルタはその柔軟性により,高濃度のガスが暴露される

とtemplateの認識サイトは徐々に劣化していくことになる.それから,PAA間との電気

的な相互作用だけではすべての分子に対する認識サイトを形成できるわけではない.そ のため,cross-linkerを用いたタフなMIPフィルタとぺプチドMIPの作成を行った.

cMIFcMIFAの作成と評価

 MAAの単分子層で覆われたgold/glass基板を異なる濃度のポリマー溶液に浸漬

させ,形成されたcMIFA (cross-linked MIFA)の特性を測定した.MeCNの量を調節 し,MAAの濃度を基準にすると,20 mM,170 mM,340 mMの3種類の濃度のポ リマー溶液を準備している.同時に,何も修飾していないgold/glass基板を170 mM のポリマー溶液に浸したサンプルと,16 h以上加熱した340 mMのポリマー溶液中 にディプコートすることでMAA基板に1µm以上の厚いcMIFを堆積したサンプ ルを用意している.加えて,cMIFの特性を評価するため,同じ材料で構成された MIPパウダーとNIPパウダーを一般的な合成手順118)で作成している.cMIFの修 飾と厚さはFT-IR/ATRとエリプソメトリーで評価する.図4.23に,MIPパウダー,

ディップコートしたMIPフィルムと比較している基板上のcMIFのFT-IRスペクト ルを示す.表示されたディップコートのMIPフィルムとcMIFのスペクトルは,何も 修飾していないgold/glassに対する差分スペクトルである.濃度の異なるポリマー 溶液への堆積時間に対するcMIFの膜厚変化を図4.24に示す.

4.23 FT-IR/ATR装置を用いて得られた(a) MIPパウダーのFT-IRスペクトル,(b)ディッ プコートしたMIPフィルムの差分スペクトル,(c) cMIFの差分スペクトル

4.24 異なる濃度のポリマー溶液への堆積時間に対するcMIFの膜厚変化

 FT-IRスペクトルにおいて,ディップコートしたMIPフィルムとcMIFはMIPパ ウダーと基本的に同じピークが現れており,3つのスペクトルには違いはほとんど 見られない.そのため,cross-linkerを含んだMIPフィルムを基板の上に堆積でき たと言える.さらに,cMIFの各吸収ピークはディップコートしたMIPフィルムの ものと比べて弱くなっている.このことから,より薄いMIP層が基板上に形成さ れていることがわかる.加えて,膜厚測定により,堆積時間が増えるにつれ,cMIF の吸着が増加し,170mMのポリマー溶液に20 hに浸漬していた場合,cMIFの膜厚

は13 nmに達している.また,機能性モノマーとcross-linkerの量が増えるにつれ,

cMIFは厚くなっていることも観察された.一方で,表面修飾していないgold/glass 基板ではcMIFの堆積が見られなかったことから,MAAの単分子層とポリマー溶 液間で共重合が進み,MIP膜が成長していったと考えることができる.以上より,

タフなMIFを基板に固定でき,堆積時間によって厚さを制御できる.

 次に,cMIFと認識サイトの無いcNIFをPDMS上に同様の方法で堆積したcMIFA とcNIFAを作成し,MIPパウダーと比較することでtemplate (benzaldehyde)に対

する選択性と吸着能力を評価した.SPME/GC-MSによって測定したTIC値を基に,

cNIFAとNIPパウダーでそれぞれ規格化したcMIFAとMIPパウダーの選択性を図

4.25に示す.

4.25 cMIFAとMIPパウダーの吸着量と選択性の比較

 cMIFAへのtemplateの吸着はPDMSの濃縮効果のより,MIPパウダーよりも優 れている.また,いずれの吸着剤もtemplateに対する選択性を有している.しかし,

cMIFAの選択性はMIPパウダーよりも劣っているという結果が出た.これは,認

識サイトの占める割合がcMIFの方が小さいためと考えられる.以上より,より高

感度なcMIFAの開発を行う必要があるが,分子認識能力を持つcMIFを作成する

ことに成功した.

pMIFpMIFAの作成と評価

 ペプチド層の特性とpMIFA(peptide MIFA)の吸着特性はcMIFの場合と同様に評 価された.図4.26にgold/glass基板の上に堆積したペプチド層のFT-IR/ATR差分 スペクトルを示す.ペプチド結合(-C(=O)-NH-)のN-H伸縮と変形振動に相当する

1600 cm1と3350 cm1付近のピークが観察された.それから,図4.27に異なるペ プチド溶液への堆積回数に対するペプチド層の膜厚変化を示す.Layer-by-Layer法 により堆積回数に応じてペプチド層の膜厚が増加していることがエリプソメトリー で観察された.これらの実験から,ペプチドのナノフィルムを基板の上に堆積する ことに成功した.

4.26 FT-IR/ATR装置を用いて得られたペプチド層の差分スペクトル

4.27 異なるポリマー溶液への堆積回数に対するcMIFの膜厚変化

 次に,異なる3種類のpMIFAを作成し,吸着特性を測定した.図4.28に7種の 匂い物質からなる混合臭に対する選択性を示す.縦軸は認識サイトの無いpNIFA で規格された選択係数を表す.結果として,すべてのpMIFAは選択的にtemplate を吸着し,他の揮発性化合物をフィルタリングしている.つまり,PAAを用いたフ レシキブルなフィルタと同様に,様々な認識サイトを持つpMIFを作成できた.

4.28 pMIFAbenzaldehyde,pMIFAheptanoic acid,pMIFAheptanalの吸着特性

4.7 まとめ

生物の受容体は,匂い物質の極性官能基や分子プロファイルという決定要因を識別す る柔軟な分子認識を行っている.しかし,市販の分離吸着剤では,吸着能力や選択性で 大きく劣る上に,その吸着特性を設計することが困難である.そこで,本研究では高い

分子認識能力と可塑性を持つ分子認識フィルタを堆積させた吸着剤の開発を行った.

 特定の分子に相補的な認識サイトを持つMIPフィルタをPDMS上に堆積したMIFAを 開発した.MIFAは濃縮効果に加え,高い分子認識能力も持っている.これらの結果は,

SPME/GC-MSによる吸着実験で評価されている.加えて,可塑性とmultiplex性をもつ

MIFAの開発も行い,結果として,作成したMIPフィルタは表面特性を簡単に変質・再 生可能であることを確認した.MIFAは吸着特性を自由に設計でき,様々な応用に対し てテーラーメイドできる.そのため,本研究で行った分子認識フィルタと吸着剤の開発 は非常に新規性が高い研究であると同時に,応用範囲の広さから工学的に有用性が高い と考えている.

 様々な機能性材料を用いることで,柔軟性,強固性など様々な特性も持つ分子フィル タを形成できることも確認されたため,今後,あらゆる分子に対する結合サイトを持っ たMIFAを搭載したセンサシステムを用いて,匂いの包括的な検知とモニタリングを行っ ていく.

5 章 匂いクラスタリングシステムの