第 5 章 匂いクラスタリングシステムの 開発開発
5.1 匂いクラスタリングシステム: MIFA を搭載した匂い分 離測定装置
5.1.2 MIFA の導入:測定原理
様々なMIFAとPDMSはセンシングセルの各ヒータ表面に両面テープで固定されて いる.MIFAは特定の匂い物質を選択的に吸着するため,測定ガスを分離・濃縮するこ とができ,MIFAの吸着特性やtemplateの検出が行える.2章の研究結果からMIFAの 濃縮効果によりppbレベルの匂いの検知が可能と考えられる.また,匂い受容体のよう な分子認識能力を有する装置であるので,匂いクラスタリングマップの作成が可能にな る.図5.4に匂いクラスタリングシステムの吸着と脱着の仕組みを示す.MIFAにより分 類された匂いを,連結されたMOXガスセンサで検知している.
図5.4 匂いクラスタリングシステムでの 吸着と脱着の仕組み
はじめに,一定量のサンプルガスを注入す るとMIFAの特性に応じて選択的な吸着が起 こる(図5.4(a)).Templateと構造が近い匂い 物質はMIPフィルタを通過し,PDMSに濃 縮するはずである.吸着しなかった分子は,
MOXガスセンサで検知された後,センシン グセル外へと廃棄される.それから,吸着し なかったガスにより反応したガスセンサの応 答を無臭空気により定常状態まで回復させる.
次に,マイクロセラミックヒータに電流を流 し,加熱することでMIFAに吸着していた分 子を脱着させ,それを連結しているMOXガ スセンサで検知している(図5.4(b)).脱着し
た匂い物質のガスセンサ応答の大きさから,それぞれのMIFAへの吸着量を分析し,サ ンプルガスの組成を調べたり,クラスターへの分類を行っていく.
5.1.3 測定シークエンス
各マイクロセラミックヒータはクリーニングおよび脱着処理時に0.16Aの電流を流し,
MIFAを約90◦Cまで上昇させる.MIFAのフィルター材料であるPAAのガラス転移温度 は100◦C付近であり,MIPフィルタが壊れない温度に設定している.測定を開始すると,
フローガスである無臭空気が流路内に流入し始める.そして,クリーニング加熱が100 秒間行われ,150sまでMIFAの温度低下とセンサ応答の回復を待った後,電磁弁によっ て流路を切り替え,センシングセルにサンプルガスを60秒間注入する.それから,流路
を戻し,600sまでセンサ応答の回復を待った後,600sから200秒間,セラミックヒータ を加熱させ,吸着した匂い物質を脱着させる.最後に,900sから100秒間クリーニング 処理することで測定が終わる.
5.1.4 センサシステムによる匂いの検知
センサシステムで測定されるサンプルガスの生成方法は2章と同様である.そのた め,サンプルガスの濃度は表2.4と同じになる.また,装置に注入される3-octanoneの 濃度を光イオン検出器(Firstcheck+, Ion Science Ltd)を用いて測定した結果,約1ppmで あることが確認されている.本研究で作成される混合臭の濃度も同等であると考えてい る.図5.5にセンサシステムに3-octanoneを注入した時のMOXガスセンサの応答波形を 示す.この波形は何も処理していないPDMS (u-PDMS)とMIFA3−octanoneをヒータに取り 付けたセンシングセルから得られる応答波形である.MIFAの吸着特性に相当する抵抗 変化は脱着した匂いに対するセンサ応答であるため,u-PDMSとMIFAから脱着したガ スにより生じる抵抗変化によって,MIFAの特性を評価する.ここで,u-PDMSが取り付 けられたセンシングセルのMOXガスセンサの抵抗変化を参照応答としている.
図5.5 3-octanoneを測定した時のu-PDMSとMIFA3−octanoneに対応する応答波形
5.1.5 センサ応答を基にした人工匂いマップ
得られたセンサ応答を基に人工匂いマップの作成を目指す.3章と同じように,匂い マップは楕円と活性度を基に構成されていると仮定する.その際,活性度はセンサ応答 に依存することとする.そのため,各クラスターに相当する楕円形は変わらず,活性パ ターン fN(x,y)が以下のように表現される.
fN(x,y)= Imax×RN× 1
√2πσ2×exp [−Ψ] (N = A, B, …, I), (5.1)
RNはクラスターNの活性度定数,Imaxは匂いマップの最大活性度になる.匂いマップは 画像であるので,1ピクセルを8ビット表示してImax=255とする.RNはu-PDMSに対 するクラスターNに対応するMIFAへのガスセンサの抵抗変化を表す.それ以外のパラ
メータは3章と同様である.測定ガスがクラスターNに対応するMIFAに吸着した場合,
つまり,RNが大きくなる場合には,クラスターN領域の活性パターン fN(x,y)は強く活 性する.そうでないなら,弱く活性する.
5.2 実験結果
5.2.1 匂いクラスタリングシステムによる MIFA の吸着特性評価
MIFAは濃縮能力を有するので,低濃度の匂いを測定することができる.そのため,
CMSやGCCAMよりも大きいMOXガスセンサ応答値が得られる.また,MIFAと
u-PDMSの間のセンサ応答を比較するとMIPに含まれる認識サイトに吸着しやすい匂い物 質の検知が可能になる.
ここで,MIFAiから脱着したサンプルガス jによるMOXガスセンサの抵抗変化をセ ンサ応答定数R(MIFAi, j)とすると定義する.各セルに注入されるサンプルガス jの濃度 は一定であるため,センサ応答定数R(MIFAi, j)はu-PDMSに対応するセンサ応答定数 R(MIFA0, j)によって規格化することができる.これらのセンサ応答定数によって,MIFAi の吸着特性を評価する.
本研究では,u-PDMS,MIFApropanoic acid,MIFAheptanoic acid,MIFA2−hexanoneをヒータ表面 に固定している.MIFAの吸着特性は各MIFAのtemplateを測定することで評価できる.
図5.6に単独臭を測定して得られたMIFAの吸着特性を示す.図5.6の中で,templateと それ以外の分子に対するセンサ応答定数R(MIFAi, j)の区別を容易にするため,測定ガス
jがtemplate iと一致するときにはバーを立体表示で強調し,それ以外はフラットなバー
表示にしている.結果として,強調されたバーに対応するセンサ応答定数R(MIFAi,i)は 他のバーよりも大きくなっている.各MIFAはtemplateを選択的に吸着し,そうでない
匂い物質をブロックしていることがわかる.つまり,MIFAを搭載した匂いクラスタリ ングシステムは各templateに対する分子認識能力を持っていると言える.ここで,MIFA の吸着層であるPDMSは強い濃縮効果が期待でき,MIP層のフィルタリング効果によっ て分子はブロックされる.これらの結果は,4章で測定されたSPME/GC-MSの結果と一 致している.結論として,MIFAとMOXガスセンサを組み合わせることで,高感度かつ 特異的な選択性を有するセンサシステムを開発でき,低濃度の匂い物質の選択的な検知 と識別が可能になる.
図5.6 単独臭を測定して得られたセンサ応答定数を基にしたMIFAの吸着特性