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Voigt 関数を用いたトンネル確率表現

ドキュメント内 学位論文要旨(修士(工学)) (ページ 44-47)

2.5 RTD の非線形 I-V 特性の理論予測

2.5.1 Voigt 関数を用いたトンネル確率表現

RTDの電流はトンネル電流と熱電子放出電流の二つの成分からなり,ここでは共鳴トンネル電流 の理論予測を行う.ここで紹介する理論は当研究グループの2009年度修士修了の新屋氏により立 ち上げられ,詳細は修士論文や参考文献に既出である[53, 54].そのため,本論文では軽微な修正を 加えた電流予測式導出の大筋を説明する.

トンネル電流は量子閉じ込め効果により量子井戸内に形成された共鳴準位を介して生じる.

共鳴準位の幅の広がりによってトンネルする電子の量は変化するため,共鳴準位形状を表現する ことでトンネル電流を計算することを試みる.

準位の広がりは,二つの要因に大別される.

第一の要因は,電子の散乱に伴うエネルギー変化である.RTDを室温動作させる場合,非弾性散 乱の一種である光学フォノン散乱が発生するため,エネルギーの変化が生じる.散乱により波動関 数ψ(z,t)は図2.11のように時間経過とともに減衰する.この減衰波形は周波数領域ではローレン ツ関数となる.

第二の要因は,接合界面の構造不均一による量子井戸幅のゆらぎである.図2.12のように半導体 材料の接合界面においてラフネスが生じるとトンネル方向の長さが準位毎に異なってしまうため,

共鳴準位の中心の位置が場所により変化する.この界面ラフネスはデバイスの作製プロセスによ

2.11 散乱による波動関数の減衰の時間領域波形と周波数領域波形

り生じ,基板端部等の特異位置を除けば概ね正規分布に従う.従って井戸幅ゆらぎによる準位広が りの効果をガウス関数によって表現する.なお,より厳密な議論を行う場合には連続分布のガウス 関数ではなく,離散分布のポアソン分布関数を用いる必要があり,目的に応じて使い分けが求めら れる.

2.12 接合界面の構造不均一

準位Ez,印加電圧V における散乱の効果を表すローレンツ関数,構造不均一の効果を表すガウス 関数をそれぞれ(2.12)式,(2.13)式で表す.

L(Ez,V) = ΓL

1 (Ez−Er(V))2+

(ΓL

2

)2 (2.12)

G(Ez,V) = 1

2πσexp [

(Ez−Er(V))22

]

(2.13) ここで,ΓLはローレンツ関数の半値全幅,σ はガウス関数の標準偏差,Er(V)は共鳴準位である.

また,ガウス関数の半値全幅ΓGはσを用いて(2.14)式で与えられる.

ΓG=2σ√

2ln(2) (2.14)

熱平衡状態(V =0[V])での準位の広がりを模擬した異なる半値全幅におけるローレンツ関数,ガ ウス関数の計算例は図2.13,図2.14のようになる.

2.13 ローレンツ関数計算例 2.14 ガウス関数計算例

これら二つの準位を広げる効果が重ね合わされると考え,ローレンツ関数とガウス関数の畳み込 み積分であるVoigt関数でエネルギー準位の広がりを定義する.Voigt関数は分光分析におけるスペ クトルデータのフィッティングに用いられている.

DBRTDにおいては共鳴準位がフェルミレベル以下になったとき,TBRTDはさらに左右の量子井

戸に形成される共鳴準位が一致したときに100%電子がトンネルすると仮定する.この仮定の下で はエネルギー準位の広がりが透過確率と同義になるため,バイアスV印加時のエネルギー準位Ezに おける電子の透過確率TVoigt を,Voigt関数を用いて(2.15)式で定義できる.

TVoigt(Ez,V) =

−∞L(Ez−Ez,V)G(Ez,V)dEz (2.15)

Voigt関数は畳み込み積分で表現されているため,この形式のままでは数値計算に用いることは不

向きである.そこで,本研究ではVoigt関数を多項式近似した(2.16)式に示すPseudo-Voigt関数を 採用することで数値解析を容易にする.

TVoigt(Ez,V)ξL(Ez,V) + (1ξ)G(Ez,V) (2.16) pseudo-Voigt関数に含まれるパラメータξ (2.17)式で与えられることがThompson氏らにより 報告されている[55].

ξ=1.36603 (ΓL

Γ )

−0.47719L

Γ )2

+0.11116 (ΓL

Γ )3

(2.17) Γ= (Γ5G+2.69269Γ4GΓL+2.42843Γ3GΓ2L+4.47163Γ2GΓ3L+0.07842ΓGΓ4L5L)15 (2.18) 図2.15にはΓL依存,図2.16にはΓG(σ)依存のPseudo-Voigt関数の計算例を示す.これらの結 果から,半値全幅の差が大きいほど幅が大きい方の関数の形に漸近していることが分かる.これは,

2.15 ΓL依存Pseudo-Voigt(ΓG=11.8[meV]) 実線:Pseudo-Voigt関数,点線:ローレンツ関数

2.16 ΓG依存Pseudo-Voigt(ΓL=55.0[meV]) 実線:Pseudo-Voigt関数,点線:ガウス関数

共鳴準位の幅は散乱による広がり,構造不均一による広がりのどちらか一方の効果が大きい場合,

その広がりが支配的になることを意味している.

RTDのI-V特性フィッティングにおけるpseudo-Voigt関数近似では,電子散乱と構造不均一の影 響が同等である場合,すなわちΓLΓG(ξ=0.68 ,Γ=1.63)の場合,フィッティング精度が低下す る[54].

ΓGが大きくなるとNDR特性が消失してしまうが,現在のプロセス技術では界面を原子オーダー で制御が可能であるためΓGは小さく抑えることが可能である.またそれに伴い電子散乱による効 果が支配的となるため,ΓLGとなるケースは少なく,多くのRTDについて適用可能であること が考えられる.

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