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弛張振動発振器の基本構造

ドキュメント内 学位論文要旨(修士(工学)) (ページ 36-42)

2.5 RTD発振回路と動作点図

R

R2+ (ωL)2−G≤0 (2.6)

ωC− ωL

R2+ (ωL)2 =0 (2.7)

となる.上記2式を整理すると(2.8)式の発振条件式を得る.

RC

L ≤G (2.8)

また,RTDに与えられたバイアスと損失Rの関係によっても発振/非発振が決定される.Rが小さ く,RTDのNDR領域と1点で交差する時(図2.5(b)1),(2.8)式を満たす設計のときに発振が生 じる.しかし,Rが小さくともNDR領域外の1点と交差している場合(図2.5(b)2)にはその動作 点に安定するため発振は生じない.また,NDR領域で交点を持つ場合であってもRが大きくNDR 領域外の点とも交差する場合(図2.5(b)3),NDR領域外の動作点に安定する.

以上のことから,発振するためには動作点がNDR領域の1点のみに存在する必要があるため,適 切なバイアスが加えられ(2.9)式を満たせばよい.

G< 1

R (2.9)

(2.8)式,(2.9)式を整理すると,最終的に(2.10)式で表される発振条件が導出される.

RC

L ≤G< 1

R (2.10)

なお,図2.5(b)23のケースは1安定/2安定マルチバイブレータとしての機能になる.

(2.10)式を満たす発振器について,発振動作を考える.RTDの動作点電圧VRT D を生じるように,

Vbias=RIRT D(VRT D)+VRT D を印加する.図2.5(a)の回路の微分方程式の組み合わせは,(2.11)式で

ある.



di

dt =L1(Vbias−vRT D−R i)

dvRT D

dt =C1(i−iRT D) (2.11)

(2.11)式は図2.6⃝ ∼1 4の各区間において表2.2に示すような符号を取る.区間⃝ →1 2におい ては,キャパシタンスには充放電がほとんど行われず,Vbiasによるエネルギー供給が行われている.

区間⃝ →2 3中においては,電圧vRT Dの増加に対して電流iRT Dが減少するNDR領域にあるため,

電圧が高速で時間変化する.一方,インダクタンスLによりvRT D の増加に対して電流量は保持さ れている.この区間では,キャパシタンスCへの充電が行われている.熱電子放出成分によりRTD 電流が増加することで,iRT D=iとなり充電が止まり,電流量は減少する.区間⃝ →3 4では,イン ダクタンスとキャパシタンスに蓄えられたエネルギーによって回路が駆動している.区間⃝ →4 1 では,NDR領域を電圧減少させていくので区間⃝ →2 3と逆の現象が生じ,キャパシタンスから放 電が行われている.上記の⃝ ∼1 4の動作を繰り返し,RTDは自励振動を引き起こす.

2.6 RTDの振動モード

2.2 区間1 4の電流,電圧の微分係数の符号組み合わせ

区間 didt dvdtRT D

⃝ →1 2 + + (≒0)

⃝ →2 3 - (≒0) +

⃝ →3 4 - - (≒0)

⃝ →4 1 + (≒0)

-RTDには2種類の振動モードが存在する.一方は NDR領域内外の広い電圧範囲を軌道に持つ

弛張振動モード(Relaxation Oscillation)であり,もう一方は動作点近傍の小信号で高速振動する正 弦波モード(Sinusoidal Oscillation)である.各振動モードの振動波形,およびそのスペクトルを図 2.6(a),(b)に示す.

⃝ ∼1 2⃝ ∼3 4の軌道はキャパシタンスが充放電せず,直流的な回路動作になっているため,

充放電を引き起こし交流的な回路動作をする⃝ ∼2 3⃝ ∼4 1 の軌道に比べて速度が小さい.その ため,弛張振動モードは正弦波モードに比べて発振周波数は小さくなる.ただし,大信号動作する ため,正弦波モードに比べて大出力を実現できるという点では優れている.

正弦波モードを実現するためにはCL を小さくする必要がある.純粋な正弦波は RCL =Gを満たす 場合に発生するが,発振条件の境界であるため不安定なモードであるとともに,厳密な設計が要求 される.

2.2.1節で紹介したRTD発振素子の開発例の多くは,周波数選択性の高い狭帯域アンテナを用い

た正弦波モードを利用することで高速化を実現してきた.しかしその一方で出力は極めて小さく,

アレイ化を中心とする高出力化に向けた課題が残されている.

そこで本研究では,デバイス単体から高出力化,設計容易化を実現すべく,弛張振動モードを用 いた発振器の設計を試みる.暫定的な仕様として,基本波周波数はTHz帯の中でも大気減衰の小さ

い300GHzをターゲットとする.

2.3.2 広帯域アンテナとのモノリシック集積構造

デバイスの動作周波数が大きくなるほど,材料や配線・結合部での損失は大きくなる.テラヘル ツ帯での動作となると,構成要素間の配線を可能な限り削減し,配線損失を抑制することが要求さ れる.損失の低減,小型端末への搭載を想定したデバイスの小型化を実現するためにはRTDとアン テナのモノリシック集積構造が適していると考え,その設計を行っていく.

2.7 自己補対アンテナの例

本研究では集積するアンテナとして自己補対アンテナに着目している.自己補対アンテナは理想

形状では金属部と非金属部が同一形状となるためアンテナ自身の形状が補対関係となり,発生す る電磁界フィールドパターンが同じになるため,入力インピーダンスが周波数に無依存で一定な 60π[Ω]となる.広帯域な特性を示すため,自己補対アンテナは弛張振動の高調波成分を含む広帯域 発振を活かし高出力を得るために適していると考え,自己補対アンテナの中でも簡易な構造で設計 が容易なボウタイアンテナを集積に採用する.

2.8 ボウタイアンテナ集積RTDのデバイス構造

RTDとボウタイアンテナの集積構造を図2.8に示す.この構造は本研究グループの冨岡氏により 研究,考案されたアンテナ中心部に縦型RTDを埋め込んだ構造[6]から,貫通孔(Via hole)を用い て左右アンテナの高低差をなくした形状となっている.

2.3.3 弛張振動発振器の設計に向けた課題

RTDを用いた弛張振動発振器の設計にあたり,注意を払うべき課題について記す.

第一に,アンテナの高放射効率と指向特性の保持を広帯域に渡って両立しなければならないとい う点である.2.3.2節では理想形状の自己補対アンテナが周波数無依存の広帯域になることを述べた が,実際のアンテナは有限サイズであり,理想形状からは逸脱するために周波数に依存する特性を 示すことになる.広帯域化を実現する最も簡単な手法はアンテナサイズを大きくすることであるが,

サイズが大きくなると,放射パターンが乱れる周波数が低くなるため,放射効率と指向性の間にト レードオフ関係が生じることになる.

また弛張振動モードを利用する場合,高次の高調波成分まで放射できることに加えて,各成分が 全て通信方向に向かって放射される必要がある.この要請は正弦波モードを使う場合と大きく異な る点である.正弦波モードの場合ターゲット周波数が放射ピークとなり,その放射が通信方向に高 い指向性を持つアンテナを設計しさえすれば良いため,上記のような問題を考慮する必要は無い.

第二に,高出力とテラヘルツ動作を両立しなければならないという点である.RTD発振器は外部 の励振源が無くRTDの自励振動によって周波数が決定されるため,アンテナの放射ピークとデバ イスの動作周波数を必ずしも一致させられるとは限らない.発振器の動作周波数を上げるためには,

インダクタンスおよびキャパシタンスの低下,および非線形性に起因する動作周波数低下を抑制さ

2.9 放射効率と指向性保持が広帯域で実現できなかった場合の弛張振動放射

せるために損失抵抗も小さくする必要がある.

本研究で採用するボウタイアンテナは既報告の発振器に頻繁に採用されているスロットアンテナ やパッチアンテナ,あるいはダイポールアンテナのような周波数選択性の高いアンテナに比べてイ ンピーダンスが大きいため,デバイスの動作周波数と有限サイズのボウタイアンテナの周波数ピー クを一致させる事自体が難しく,サイズスケーリングに基づく従来の設計指針では最適化が困難で ある。 

一方インピーダンス低減のためアンテナサイズを縮小すると,周波数増加の代わりに広帯域特性 の劣化を招くため,弛張振動モードを利用するメリットが失われることになる.この点で,出力と 周波数の間にトレードオフ関係が生じる.

ここで紹介した課題は,自己補対アンテナと弛張振動モードを採用して無線通信を行うことによ り特異に生じる問題であるため,既報告のRTD発振器の設計指針では最適化を図ることは困難であ り,独自の設計指針,設計フローの確立が必要である.

ドキュメント内 学位論文要旨(修士(工学)) (ページ 36-42)