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動特性解析手法を用いた発振器設計

ドキュメント内 学位論文要旨(修士(工学)) (ページ 108-128)

4.2.1 大信号非線形回路解析

本節では,2.5節で導出したI-V特性の理論予測式を用いてRTDの非線形性を直接考慮し,且つ 3.4節の電磁界解析により設計したアンテナやバイアス回路を含む発振器全体の等価回路を用いた時 間領域の非線形大信号解析によって動特性を解析,評価する.

2.5節では,種々の非線形性を持つRTDの設計手法を記したが,本節ではそれらRTDの非線形 性を直接考慮することで,発振周波数やパワースペクトル等に寄与する影響を定量的に評価するこ とが可能となり,加えて発振器の構成要素をすべて考慮することで,放射波形まで含めて動特性を 評価できるだけでなく,所望の特性を得るための全体設計までを可能としている.

また,時間領域解析手法を用いることにより,無線送信デバイスの最適化に向けて極めて重要な パラメータである変調ビットレート上限を評価するために必要なデバイスの過渡応答を解析するこ とができる.

まず始めに,動特性を決定する主要因を把握するために図4.1の回路について解析を行う.この 回路モデルは図3.141で示した最小要素で示した等価回路モデルであり,外部構造の抵抗,インダ クタンスを並列合成してそれぞれRLLE で示している.この回路から導出した微分方程式を(4.1) - (4.5)式に示す.RTD部の電流iRT D はVoigt関数で表現したRTDの非線形I-V特性を反映して いる.

4.1 特性傾向把握のための狭帯域等価回路

dvCrad

dt = 1

Crad(iE−ia) (4.1)

dvrtd

dt = 1 CRT D

(ia−iRT D) (4.2)

dib dt = 1

Lc{Vbias−Rbib−RL(ib−iE)} (4.3) diE

dt = 1

LE {RL(ib−iE)−Rrad(iE−ia)−vCrad} (4.4) dia

dt = 1

Lant {Rrad(iE−ia) +vCrad−Rantia+Lant−vRT D} (4.5) これらの連立微分方程式を4次のルンゲクッタ法により時間領域解析する.

なお,求められた連立微分方程式は(4.6)式の状態方程式の形で表わされる.

d ppp

dt =MMM ppp+qqq+rrr (4.6)

pppはインダクタンス部を流れる電流,キャパシタンス部に加わる電圧の状態ベクトルであり,MMM はその係数行列,qqqは時間無依存項,rrrはRTDのコンダクタンス部を流れる非線形電流項である.

(4.1) - (4.5)式の微分方程式のセットを(4.6)式の形に整理すると(4.7) - (4.10)式となる

p pp=







vCrad(t) vRT D(t) ib(t) iE(t) ia(t)







(4.7)

M MM=







0 0 0 C1

rad Crad1

0 0 0 0 C1

RT D

0 0 RbL+RcL RLLc 0

L1E 0 LRL

E RL+RLErad RLradE

1

Lant Lant1 0 RLrad

ant RradL+Rantant







(4.8)

qqq=







 0 0

Vbias Lc

0 0







(4.9)

rrr=







 0

iRT DC(vRT DRT D(t)) 0 0 0







(4.10)

4.2 解析対象デバイス

4.1 4.1の等価回路パラメータ

パラメータ

外部構造 ボウタイアンテナ Rb 50 [] Rant 34.29 [] Lc 20 [pH] Lant 28.87 [pH]

RL 20 [] Rrad 36.0 [] LE 98 [pH] Crad 1.54 [fF]

RTD

GRT D variable [S] CRT D 3.0 [fF]

回路の形状が変わった場合,(4.7) - (4.10)式の行列成分の増減として反映されるので結局,(4.6) 式を解けば良いことになる.

アンテナサイズD=100[µm]における回路パラメータをPSO法によりフィッティングした結果 を表4.1に示す.

このとき回路パラメータで図2.23のRTDのI-V特性を採用した場合の各部電流,電圧波形を図 4.3に示す.

図(a)からはアンテナ,RTDの集積構造に比べて外部構造の薄膜抵抗が十分小さいため,バイア ス電源からの電流がほぼ薄膜抵抗に流れていくことが分かる.図(b)ではアンテナ,外部構造に流れ る電流を示している.RTDによって生じた振動がアンテナによって一部放射されている.図(c)で はRTDの充放電を示す電流の時間推移が示されている.この等価回路モデルでは,アンテナを流れ る電流とRTDのコンダクタンスに流れる電流の差分がキャパシタンスへの電流成分となっている図 的に見ると図(h)のiaI-V特性の差分に相当し,NDRが急峻なほど充放電が急速に行われること になる.図(d)から図(f)はRTDと放射ブランチに加わる電圧成分を示しており,図(f)の放射電圧 成分を

Prad(t) =v2rad(t)

Rrad (4.11)

で計算した放射パワーをフーリエ変換すると図(g)のような櫛状のスペクトルが得られる.この櫛 状のスペクトルを周波数コムスペクトルという.図(h)では発振時の電流軌道が一つの閉じた軌跡 になっている様子が分かる.この軌跡をリミットサイクルという.

この条件下では175GHzの基本周波数で,放射パワーの時間平均<Prad>は7.67µW]であった.

<Prad>= 1 T

T

0 prad(t)dt= 1 T

T 0

prad(t) (4.12)

ここで,詳細な解析を行う前に,等価回路モデルの違いによる動特性への影響について言及してお く.まず,アンテナ両端に接続した外部構造の抵抗,インダクタンス成分を合成したことによる計 算結果への影響を考える.3章で述べたとおり,デバイスの対象性を考慮してそれぞれの外部構造の 形状はバイアス部を除いて合同な形状とするため,前提としてそれぞれの抵抗,インダクタンスは 同値のRL1=RL2=20[Ω],LE1=LE2=50[pH]とし,並列合成した抵抗RL=10[Ω],LE =25[pH]

と計算結果を比較した.放射電圧の時間波形,スペクトルを図4.4に示す.位相は異なるものの,基 本周波数はともに317[GHz]であり,且つ出力<Prad>に関しても合成前は5.81[µW],両側外部 構造の場合5.84[µW]とほぼ同じ結果が得られている.このことから,回路解析においては外部構 造の回路パラメータの簡略化が可能であり,また要求されたパラメータは2本の外部構造の並列合 成であるので外部構造のアンテナ両端付与は電磁界特性の向上だけでなく片側付与の場合よりもイ ンダクタンス低下による高周波化が望めるというメリットがある.

次に,回路モデルの変更で特性傾向が異ならず,同様の指針で設計が可能であることを示すため,

最小要素の回路モデル図4.1と厳密な回路モデル図4.5において動特性の比較を行う.図4.5におけ るアンテナサイズD=100[µm]時の等価回路パラメータは表4.2に示す通りである.それぞれの回 路モデルにおいて,外部構造の抵抗RL,インダクタンス(図4.1:LE,図4.5:LE+Lr)を可変パラ メータとし,発振周波数,放射パワーを計算した結果を図4.6に示す.(a)はそれぞれのモデルにお ける周波数-パワー特性マップ,(b),(c)は回路モデル間の周波数,放射パワーの差を相対誤差

Error=|fosc(or<Prad>)(図4.5)−fosc(or<Prad>)(図4.1)|

fosc(or<Prad>)(図4.5) (4.13)

で計算したエラーマップを示している.

4.2 4.5の等価回路パラメータ

Rb[Ω] RL[Ω] Lc[pH] LE[pH] Rr[Ω] Lr[pH] Cr[fF] Rsc[Ω] Csc[fF]

50 20 20 95.2 35.7 20.5 1.00 60π 0.519

R1[Ω] L1[pH] C1[fF] R2[Ω] L2[pH] C2[fF] Rs[Ω] Ls[pH] CRT D[fF]

34.58 28.2 1.50 155 34.3 0.09 24.1 0.48 3.00

4.3 各部電流,電圧波形

4.4 外部構造モデル違いの計算結果

4.5 広帯域回路モデル

4.6 周波数フィッティング範囲違いによる特性誤差

周波数は計算範囲において20%以内の誤差に収まっている.さらに,実際のデバイス形状を考慮 すると誤差の大きい領域(LE10[pH])は設計が困難な領域であることを考慮すると,ほぼ誤差が生 じないと判断して構わない.

一方,放射パワーはアンテナの放射効率特性のフィッティング精度がモデルによって図4.7に示 すように大きく異なっているため,誤差が大きく生じてしまう.また,どちらのモデルにおいても

500GHz以下の部分の放射効率が電磁界シミュレーションの結果よりも大きくなり,基本波成分の

パワーが大きく見積もられることになるため,実際の放射パワーは計算結果よりも低下する可能性 があることには注意が必要である.

4.7 回路モデル毎の放射効率特性

設計したデバイスの詳細な特性は厳密なモデルで行わないとパワーの見積もりが荒くなってしま うが,両回路モデルともに上に凸な山型の周波数-パワー特性が得られており,モデルの違いで特 性傾向が大きく異ならないことが確認できる.

本研究のように特性決定要因の特定からデバイス設計までを扱う場合,状況に応じて適用する回 路モデルを選択することが有効である.

4.2.2 特性傾向把握のための各種特性解析

ここでは所望の動特性を得る設計指針を確立するために,図4.1の回路モデルを用いて様々な条 件を設定して特性解析を行う.

〜外部構造が動特性に与える影響解析〜

アンテナ集積RTD(D=100[µm])はそのままに,外部構造の回路パラメータを変化させた際の特 性解析を行う.バイアス回路の内部抵抗は50[Ω]で固定し,検討を行うのはチョークインダクタン スLc,安定化抵抗RL,周波数設計インダクタンスLE とする.

まず始めに,チョークインダクタンスLcについて解析を行う.バイアス回路を流れる電流ib(t) は,RTDの発振によってリプルが生じる.リプルにより電源が不安定になると,RTDの動作点が変 動し異なる発振モードへと変遷するため,発振が不安定になる.チョークインダクタンスLc は,バ

4.8 外部構造形状と回路パラメータ

イアス回路へ流入するリプル成分を抑制し,直流電源を安定させる役割を持つ.3章で紹介したよ うに,本研究では図4.8の外部構造の幅w,長さL2,厚み0.6[µm]のAu配線にチョークインダク タンスの機能を持たせており,Lc=Lc1+Lc2である.長さL2を大きく設計することで,Lc 増加に よるリプル抑制の効果が大きくなり,安定した発振を得ることができる.一方,回路パラメータと しては考慮していないが,長さが増加すると金属の抵抗成分も大きくなるため,RTDのNDRの消 滅や発振に必要なバイアス電圧の増加といった問題が生じる.そのため,リプル抑制を十分に達成 し,配線の抵抗を数[Ω]以内に抑えられる程度の設計範囲が適切であると考えられる.

そこで,Lc に関するリプル抑制特性とデバイス性能の解析を試みる.基本発振周波数 fosc,平均 放射パワー<Prad>,およびリプル率Lcの依存性を評価することで,リプル抑制に適切なLc の設 計範囲を求める.リプル率は(4.14)式で示す.(IDC,Ipeakは図4.9(c)参照)

Ripple=Ipeak−IDC

IDC ×100[%] (4.14)

IDC=Ia+RantIa+VRT D RL

(4.15) 表4.1の解析条件において,Lc を103106[pH]でスイープしたときの fosc<Prad>,リプル 率を図4.9に示す.

Lc 10−2 [pH],105≤Lc [pH]では発振条件式である(2.10)式を逸脱するため発振自体が生じ ない.

fosc<Prad>Lc の増加に伴い単調減少する傾向を示すが,減少量はLc の値の増加量に対し て無視できるほどに小さいと捉えられる.これは,発振器の振動モードがアンテナ,RTD,および LERLからなる外部構造部によって決定されるということを示すとともに,LcLERLの機能を 図4.8の構造で実現できていることを意味している.

Lc の増加に伴いリプル率が減少していくことは確認されたが,生じて1[%]程度であることを考 慮すると,リプル抑制のためのLcの厳密な設計は求められないであろうと判断できる.

4.9 発振性能のチョークインダクタンス依存性

また,金(Au)の抵抗率ρ =σ−1=0.222×10−7[S/m],幅w=5[µm],厚みd=t1=0.6[µm]を 考えると,(3.8)式,(3.6)式より配線長さL2に対する配線抵抗,インダクタンスは図4.10(a)のよう になる.この値は外部構造の2本分のバイアス線路の和の値である.

4.10 構造式に基づく抵抗,インダクタンスの長さ依存性

例えば抵抗値が 10[Ω] となる長さ L2 は675[µm],このときのチョークインダクタンスLc

1616[pH]であり,発振条件を十分満たし且つリプル率0.3[%]程度の安定した発振が得られること

から,チョークインダクタンス部分の外部構造の設計指針はLcによるリプル抑制よりも抵抗値の増 加による非発振構造にならないことが重要であるといえる.

以上より,本研究ではアンテナサイズD=100[µm]の外部構造におけるチョークインダクタンス 部分の長さL2の設計範囲を

L2675[µm] (4.16)

と定める.

また,図4.10(b)には2本のバイアス線路の間に発生する相互インダクタンスを線路間距離L3

関して(3.7)式を用いた計算結果と線路長L2に関する自己インダクタンスの計算結果を示している.

自己インダクタンスL

相互インダクタンス|M| 1000を満たす場合,相互インダクタンスの影響を無視してよいと判断すると 定義し,その条件下ではL2の最小値は20[µm]程度である.

L3 の長さ設計範囲は図4.8に示す薄膜抵抗を挟み込む距離L4が最小であり,アンテナサイズD が最長となる.また,外部回路長(=アンテナサイズD)が最長となることを考慮すると,相互イン ダクタンスの大きさ|M|は0.1[pH]を上回ることはない.以上よりAuバイアス線路の設計範囲は

20[µm]L2675[µm] (4.17)

L4(薄膜抵抗長さ)≤L3≤D(アンテナサイズ) (4.18) となる.

一方,図4.8に示している等価回路では,バイアス配線で挟まれた薄膜抵抗のブランチにはイン ダクタンス成分が存在しないものと仮定している.L3の増加によって薄膜抵抗ブランチのAu配線 が増える場合,図4.11(a)のように周波数設計インダクタンスLE は2つの成分に分配されることに なる.簡単のため,インダクタンスの大きさは線路長に比例すると仮定し,分配比率r

r= L3−L4

2L1+2w+L3+L5 (4.19)

とおく.図4.11(b)に示すように,rが大きくなるとバイアス配線のチョークインダクタンスLc が 発振特性に与える影響が大きくなってしまう.アレイ構造においてはバイアス配線の長さが個々の 発振器毎に異なり得るため,r=0となるL3=L4,すなわち薄膜抵抗両端にバイアス配線接続部を 設計することを推奨する.

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