2.5 RTD の非線形 I-V 特性の理論予測
2.5.2 RTD の非線形 I-V 特性の理論予測式
図2.15 ΓL依存Pseudo-Voigt(ΓG=11.8[meV]). 実線:Pseudo-Voigt関数,点線:ローレンツ関数
図2.16 ΓG依存Pseudo-Voigt(ΓL=55.0[meV]). 実線:Pseudo-Voigt関数,点線:ガウス関数
共鳴準位の幅は散乱による広がり,構造不均一による広がりのどちらか一方の効果が大きい場合,
その広がりが支配的になることを意味している.
RTDのI-V特性フィッティングにおけるpseudo-Voigt関数近似では,電子散乱と構造不均一の影 響が同等である場合,すなわちΓL≈ΓG(ξ=0.68 ,Γ=1.63)の場合,フィッティング精度が低下す る[54].
ΓGが大きくなるとNDR特性が消失してしまうが,現在のプロセス技術では界面を原子オーダー で制御が可能であるためΓGは小さく抑えることが可能である.またそれに伴い電子散乱による効 果が支配的となるため,ΓL=ΓGとなるケースは少なく,多くのRTDについて適用可能であること が考えられる.
電圧V 印加時におけるエミッタおよびコレクタの電子の量子統計分布をそれぞれ fE,fC,熱平衡 状態の伝導帯底EC を基準とするとフェルミ・ディラックの分布関数より(2.20),(2.21)式で与えら れる.
fE(Ez,T) = 1 1+exp
[(Ez−EC)−EF kBT
] (2.20)
fC(Ez,T,V) = 1 1+exp
[(Ez−EC)−EF+V kBT
] (2.21)
エミッタ→コレクタ,コレクタ→エミッタの電流密度をそれぞれJE→C,JC→Eとおくと,(2.20), (2.21)式を用いて(2.22),(2.23)式で与えられる.
JE→C= e LxLyLz
∑
−→k
vzfE(1−fC)TVoigt (2.22)
JC→E = e LxLyLz
∑
−→k
vzfC(1−fE)TVoigt (2.23)
従って,エミッタからコレクタへ向かう正味の電子電流密度は(2.24)式で与えられる.
J=JE→C−JC→E
= e
LxLyLz
∑
−→k
vz(fE−fC)TVoigt (2.24)
ここで,Lx,Ly,Lz,はそれぞれデバイスサイズ(幅,奥行き,高さ),vzは電子の群速度であり,(2.25) 式で与えられる.
vz=dωz
dkz
=1 h¯
dEz
dkz (2.25)
次に,式(2.24)の離散化された波数の総和を連続的なエネルギー積分の形に置き換える.k空間
において一つの状態が占有する体積は
(2π)3
LxLyLz =∆kx∆ky∆kz (2.26) (
∆ki : 2π Li
(i=x,y,z) )
これにより(2.24)式は(2.27)式のように変形できる.
J= e (2π)3
∑
−→k
vz(fE−fC)TVoigt
(2π Lx
)(2π Ly
)(2π Lz
)
= e (2π)3
∑
−→k
vz(fE−fC)TVoigt∆kx∆ky∆kz (2.27)
∆kx,∆ky,∆kzがそれぞれ十分に小さい場合,総和Σを積分に置き換えることが可能であるため,ス ピンにより電子の取れる状態が倍になることを考慮し,(2.27)式を積分形式に変形すると(2.28)式 となる.
J= 2e (2π)3
∫∫∫
vz(fE−fC)TVoigtdkxdkydkz (2.28) さらに,波数積分をエネルギー積分の形に変形していく.本研究では電子波進行方向zにおける エネルギーEzを想定しているため,波数ベクトルをヘテロ接合界面に対する垂直方向(z)と平行方
向(x,y)に分離して考える.
−
→k =−→ kz+−→
k// (2.29)
−
→k//=−→ kx+−→
ky (2.30)
−→
k=k// (2.31)
(2.32)式に示す2次狂座標への座標変換
∫∫
dkxdky=
∫∫
k//dk//dθ (2.32)
および,(2.33)式で与えられるエネルギーと波数の関係式
E=h¯2k2
2m (2.33)
dk//= 2m//
¯
h2k//dE// (2.34)
を用いて(2.28)式を変換すると(2.35)式を得る.
J= 2e (2π)3
∫∫∫
vz(fE−fC)TVoigtdE//dθdEz (2.35)
ここで,TVoigt がEzのみに依存すること,z方向にはEC以上の電子を,x,y方向は全ての電子を
考慮することに注意すると,積分範囲はそれぞれ0≤E//≤∞,0≤θ≤2π,EC≤Ez≤∞となる.
基準をEC=0で考えていることを留意し,整理すると(2.36)式を得る.
J=
∫ ∞ 0
[em//
2π2h¯3
∫ ∞ 0
(fE−fC)dE//
]
TVoigtdEz (2.36)
(2.19)式と(2.36)式を比較すると,電子供給関数S(Ez,V)は(2.37)式と定義すればよい.
S(Ez,V)≡ em//
2π2h¯3
∫ ∞ 0
(fE−fC)dE// (2.37)
積分計算を行うと電子供給関数は(2.38)式で表される.
S(Ez,V) =em//kBT 2π2h¯3 ln
1+exp (EF−Ez
kBT
) 1+exp
(EF−Ez−V kBT
)
(2.38)
ここで,(2.16)式のPseudo-Voigt関数を(2.36)式に代入して書き直すと,(2.39)式となる J=
∫ ∞ 0
[ξL(Ez,V) + (1−ξ)G(Ez,V)]×S(Er(V),V)dEz (2.39) ローレンツ関数の積分計算は(2.40)式,ガウス関数の積分計算はΓGが十分に小さいと仮定して
(2.41)式のように表され,最終的に共鳴トンネル電流IT は(2.42)式で与えられる.
∫ ∞ 0
L(Ez,V)dEz= 1 π
[π
2+tan−1
(2Er(V) ΓL
)]
(2.40)
∫ ∞ 0
G(Ez,V)dEz=1 (2.41)
IT(V) =A× [
1−ξ+ξ π
(π
2+tan−1
(2Er(V) ΓL
))]
×em//kBT 2π2h¯3 ln
1+exp
(EF−Er(V) kBT
) 1+exp
(EF−Er(V)−V kBT
)
(2.42)
ただし,ローレンツ関数,ガウス関数の近似は適用するモデルによって適宜変更する必要がある.
また,A[m2]はメサ面積を含むフィッティングパラメータである.
一方,熱電子放出成分Ithはリチャードソン・ダッシュマンの式より(2.43)式で与えられる.B,n はフィッティングパラメータである.
Ith(V) =B [
exp ( V
nkBT −1 )]
(2.43) 以上より,RTDの非線形I-V特性は共鳴トンネル電流IT と熱電子放出Ithの和として数式モデル 化する.
IRT D(V) =IT(V) +Ith(V) (2.44)