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高指向性・広帯域化に向けた外部構造設計

ドキュメント内 学位論文要旨(修士(工学)) (ページ 74-83)

3.2 発振器構造設計

3.2.2 高指向性・広帯域化に向けた外部構造設計

ここでは,アンテナ集積RTDを発振器として機能させるためにバイアス供給,振動モードの制御 を実現する外部構造の付与を試みる.3.2.1節で述べたように,提案している図3.1の構造では自己 補対性が弱く,インピーダンス,放射特性が周波数依存性を有してしまい,さらに広帯域特性と指 向性の間にはトレードオフが生じてしまうため,上記の機能を有することに加えて,自己補対性と 指向性双方の向上を両立するデバイス構造の実現を目指してモデリングを行う.

まず始めに外部構造に要請される機能とそれを実現する回路モデルを考える.第一にRTDの発 振モードは微分負性コンダクタンス(NDC)に大きく影響を受ける.直流バイアスが変動することに よる動作点変動に伴うNDCの値変動を避けるため,直流安定化の機能が必要となる.第二に外部 構造によって発振モードを制御できること.発振周波数を主に決定づけているのはインダクタンス LとキャパシタンスCである.構造変更でL,C成分を調整することでモード制御を試みる.しか しこれを実現するために構造が一変してしまってはその都度デバイス特性が大きく異なってしまう.

そこで,長さの変化といった軽微な変更でL,C成分の調整が可能な構造を考える.

上記二点を考慮して図3.52のような回路構成となる外部構造を検討する.直流バイアスVbias

3.52 要請される機能を備えた外部構造の回路モデル

バイアス回路の内部抵抗Rbに加え,高周波信号の混入を抑制し直流安定を実現するチョークインダ クタンスLC,同様に直流安定化および低周波の寄生発振抑制のための負荷抵抗RL,周波数制御のた めのインダクタンスLE の構成である[8].

上記の機能を実現する構造として,図3.53に示すAuの配線とNiCr薄膜による外部構造が2015 年度修士修了の加藤氏によって提案された[58].

3.53 要請される機能を備えた外部構造モデル

配線,薄膜抵抗の設計パラメータと解基礎析式を図3.54,図3.55および(3.6),(3.7),(3.8)式に 示す.

3.54 配線モデルと構造パラメータ

3.55 薄膜抵抗モデルと構造パラメータ

L[nH] =2×104×l [

ln ( l

w+t )

+1.193+0.2235 (w+t

l )]

(3.6)

M[nH] =±µ0l

ln

l GMD+

√ 1+

( l GMD

)2

√ 1+

(GMD l

)2

+GMD l

 (3.7)

R[Ω] =ρ l

dw˙ (3.8)

ここで,図3.54中のGMDは線路間の幾何学的平均距離である.表3.3に示すAu,NiCrの電気定 数と構造式を目安に所望の発振が得られるようにサイズ設計を行っていく.

3.3 外部構造の材料定数表

材料 導電率σ[S/m] 比誘電率εr 比透磁率µr

Au 4.5×107 1 1

NiCr 1.0×106 1 1

図3.56に,具体的な外部構造設計を,図中の各パラメータとその値を表3.4に示している.図中 の(a),(b),(c)部は構造不連続による特性劣化を防ぐために以下のようなテーパー状の設計にして いる[60].(a)の幅については暫定的に0.5µmとした.

表3.4中の設定における外部構造のアドミタンス特性を図3.57に示す.この時,直流バイアス印 加部については50Ωで短絡している.また図3.58には(3.1)式で算出した放射特性を示している.

効率はたかだか15%であり,空間へ放射されるパワーは主にアンテナからの放射とみなして構わな いと判断する.

バイアス印加部には直流安定化のため,高周波信号を通さない特性が求められる.図3.59を見る と,電流密度が薄膜抵抗側に集中し,バイアスを接続する配線部には電流が流入していない.この構 造において薄膜抵抗RLとチョークインダクタンスLCが正しく作用していることを意味している.

3.56 外部構造の詳細モデル

3.4 外部構造の構造パラメータ表

パラメータ 役割

w 5 [µm] 線幅

L0 100 [µm] 外部構造長さ

L1 10 [µm] 周波数調設計インダクタンスLEy方向長さ

L2 20 [µm] チョークインダクタンスLC

L3 30 [µm] バイアスフィードライン間隔

L4 10 [µm] 薄膜抵抗RL長さ

L5 55 [µm] 周波数設計インダクタンスLEx方向長さ

t1 0.6 [µm] Auフィードライン厚さ

t2 0.1 [µm] 薄膜抵抗厚さ

3.57 外部構造アドミタンス特性 3.58 外部構造放射効率特性

3.59 外部構造の電流密度分布

この外部構造をボウタイアンテナ集積 RTDに接続するためには,3.2.1節で議論していた構造 に,アンテナからの信号出力線を付与する必要がある. 出力線の付与によりボウタイアンテナの特 性が変化してしまう可能性が考えられるため,アンテナに出力端のみを付けた場合との比較を行う.

図3.61にアドミタンス特性,図3.62に放射効率特性を示す.出力端を付けない状態,片側に出力 端を付けた状態,さらに対称性を考慮して両側に付けた状態について比較した.アンテナサイズは 100µmであり,出力端の幅は5µmとした.3THz近傍における放射ピーク周波数の僅かな違いはあ るものの,概ね出力端付与による影響は無いと言える.

放射パターンいついても遠方界,近傍界ともに特徴的な差は見受けられなかった.

3.60 出力付与簡易図

3.61 出力付与によるアドミ

タンス比較 3.62 出力端付与放射効率比較

外部構造の下にも絶縁層を敷いて接続した発振器構造の放射特性を解析した.先行研究において は,外部構造下部には絶縁層を敷かずに基板上に直に集積させる構造であった.本研究では絶縁層 の有無に伴うアドミタンス,放射効率,電磁界特性を比較したが無視できるほどの差異であったた め,作製プロセスと構造の簡易性から絶縁層を敷く構造とした.

図3.63に外部構造集積前後の放射効率特性の比較グラフを示す.外部構造を集積しない場合と比 べて特異な点は2THzにおいてピークを生じている点である.外部構造を付与する前のアンテナの ピークはアンテナ中心部を腹,アンテナ端部を節とする定在波が立つような,アンテナ対角長さが 半波長の奇数倍となる場合であった.一方外部構造を付与した場合,そのピークはアンテナ対角長 さと外部構造の長さの和が波長の整数倍となる場合であり,このときアンテナ中心部と外部構造の 中心部が腹となる電流密度分布が見られ,アンテナと外部構造のループ電流が放射特性へ支配的で あると考えられる(図3.64).

3.63 放射効率特性比較

3.64 900GHz電流密度分布

これにより,周波数特性のピーク間隔が 2cλ から λc に半減したことで放射特性の低下が防がれ広 帯域化が実現されている.広帯域特性の向上が確認されたため,続いて指向性について検討を行う.

3.65 電界面放射パターン 3.66 磁界面放射パターン

放射特性ピークを示した900GHz,2THz,そして3THzの電界面(y=0 , zx平面),磁界面(x=0 , yz 平面)の放射パターンを図3.65,図3.66に示す.バイアス印加部付与されている-x方向への放射,

および外部構造の無い+y方向への放射が強くなっている傾向が確認されるが,通信方向として想定 している+z方向への放射強度は3THzまで保持できている.外部構造付与以前の放射パターン(図 3.49,図3.50)と比較すると,外部構造付与によって高周波においても放射パターンを保持し,z方 向への高出力化が実現されていると判断できる.

更なる広帯域化を検討するため,高周波(3THz)における電磁界放射パターンを見る.図3.67に 示した遠方界放射パターンからは,z方向への放射に加えて+y方向への鋭い放射が確認される.バ イアス側の外部構造から発せられる電界により,+y方向へと放射が生じたものである.また,図 3.69の近傍磁界分布を見ると,外部構造を流れる電流により磁界が発生するため,非対称なパター ンとなっている.これにより,図3.68の電界分布と異なるパターンが形成されてしまう.

以上を考慮すると,バイアス側の反対側においても同様の外部構造を付与することで自己補対性 が向上し,広帯域化を実現できると考えられる.

3.67 遠方界放射パターン3THz 3.68 近傍電界分布3THz 3.69 近傍磁界分布3THz

そこで,図3.70のように,アンテナ両端に外部構造を付与したモデルを考える.両側に外部構 造を付与したことによって,アンテナの非金属部を金属部と同形状の有限サイズとみなすことがで きるため,自己補対性が向上することが予想される.このモデルに対して電磁界解析を行った.図 3.71に放射効率を示す.外部構造なし,バイアス側のみ付与の場合と比較すると,ピーク周波数の 高周波シフト,最大放射効率の低下が見受けられるが,1THz以上における放射特性の周波数依存性 が小さくなっており広帯域特性は向上していると判断できる.我々がターゲットとしている基本周

波数は300GHz帯であるため,ピーク周波数の低周波シフトが実現できれば,極めて有効な特性と

なる.

また,放射ピーク時である1.1THzにおける電流密度分布と電流方向を図3.72に示す.アンテナ と外部構造を流れる電流は同相であるため,放射波面の干渉により指向性が強まりz方向に鋭い放 射が得られると考えられる.電界面,磁界面の放射パターンを見ると外部構造なし,バイアス側の みの場合と比較して高周波まで鋭い放射が得られていることが確認される(図3.73,3.74).

3.70 両端外部構造付与モデル

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