2.5 RTD の非線形 I-V 特性の理論予測
2.5.4 種々の I-V 特性を得るための RTD の構造設計
図2.21 L=2[nm]におけるポテンシャル分割幅∆z変化時の透過確率計算
図2.22 透過確率計算例(a) [5]のRTD構造(b)準位依存の透過確率
十分な素子であると判断し,フィッティング対象に選択した.図2.23に結果が示すように,極めて 広い範囲に渡って高い精度のフィッティングを実現している.このときのパラメータは表2.3に示 したとおりである.
図2.23 [5]のRTDに対するI-Vフィッティング
表2.3 実測データ[5]のフィッティングパラメータ (図2.23)
EF [meV] Er(0) [meV] η ΓL[meV] σ [meV]
100 285 0.285 55.0 5.00
ΓG[meV] A[m2] B[A] n
11.7 2.40×10−33 1.59×10−5 12.0
ここで表2.3中のηは,電圧印加時の共鳴準位の変化率を表すパラメータであり,電圧降下係数 と呼ぶ.バイアス印加により図2.24(b)のようにバンド曲がりが生じる.
図2.24 バンド構造(a)ゼロバイアス時(b)順バイアス時
線形な電圧降下を想定し,かつ共鳴準位は量子井戸中心の降下係数により等しく降下するものと すると,電圧印加による共鳴準位は(2.87)式で与えられる.
Er(V) =Er(0)−ηV (2.87)
η=b1+w2
L+d (2.88)
(2.87)式中のdは空乏層領域を示し,簡単のため5.2[nm]で不変のものとした.
ここからは,共鳴準位の広がりを示すパラメータΓL,σ(ΓG),規格化定数A,熱電子放出成分B, n,フェルミレベルEF,については同一であると仮定し,井戸幅や障壁層膜厚等のRTD構造の変化 に伴うI-V特性の変化について考察していく.ここでは簡単のためDBRTDを対象に解析を行う.
図2.25 構造変化に伴うI-V特性(a)量子井戸幅変化時(b)障壁層厚さ変化時
図2.25にRTDの構造変化に伴うI-V特性を示す.なお,本解析においては基底状態の共鳴準位 のみについて考慮する.
障壁層の厚みを固定し,量子井戸の幅を変化させた場合の計算結果が図2.25(a)である.井戸幅に 対する共鳴準位の変動が大きいためピーク電圧の設計に向けて井戸幅が重要なパラメータとなる.
井戸幅を広げることによって共鳴準位を下げることで低電圧駆動が可能である.障壁層の厚みを変 化させた場合の計算結果が図2.25(b)である.この解析ではあまりI-V特性の傾向は変わらなかった が,これはトンネル確率を100%に仮定しているためであると考えられる.Transfer Matrix法では 障壁層が厚くなるとトンネル確率が低下する傾向となり,結果として電流量が減少することが予測 される.
2.6 まとめ
テラヘルツ波源の有力な候補の一つであるRTDの開発動向および動作原理をまとめ,本研究が目 指す弛張振動発振器の設計に向けた課題を述べ,デバイスの特性解析手法と解析システムにRTDの 非線形I-Vと特性を導入するための物理ベースの理論式を記した.Voigt関数によりRTDのNDR 領域内外に渡る広範囲でI-V特性のフィッティングを達成し,Transfer Matrix法と併用することで RTDの積層構造からI-V特性を予測することを可能とした.
第 3 章
電磁界解析によるテラヘルツ発振器 設計
3.1 はじめに
本章では,アンテナ集積RTD発振器に関するCOMSOLを用いた特性解析について記す.まず始 めに弛張振動モードを積極的に利用していくためのRTDと自己補対形状ボウタイアンテナの集積構 造を提案し,さらにバイアス供給や発振モード制御を目的とした外部構造,基板を含めた構造検討 を行い,最後に高出力化に向けたアレイ設計について言及する.また,動特性評価を行うための粒 子群最適化手法を用いた等価回路設計について述べる.