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RTD テラヘルツ無線送信器の動特性解析

ドキュメント内 学位論文要旨(修士(工学)) (ページ 161-176)

ここでは変調特性を時間領域解析により議論する.変調をかけるために必要な諸条件の明示化,

伝送速度を制限する要因である立ち上がり,立ち下がり遅れ時間の律速要因を明らかにすることで RTD弛張振動無線送信器の限界性能の向上指針を提唱する.

5.4.1 伝送線路の等価回路モデリング

5.16 伝送線路の等価回路モデル(a)T型インピーダンスブロック(b)詳細回路モデル

ここでは,5.3節で考案したテーパー状変調構造の等価回路モデリングを行う.直線状の伝送線路 の等価回路は,一般にT型等価回路で表され,本研究室でも平成28年度学士卒の鄭氏によって確 認されている[70].そのため,本研究においても図5.16に示すT型等価回路でのモデリングを試 みる.

50Ω系のSパラメータからY パラメータへの変換は ZZ

ZT L= 1 50∆

[

(1−S11)(1+S22) +S12S21 −2S12

2S21 (1+S11)(1−S22) +S12S21 ]

(5.10) である.ここで∆= (1+S11)(1+S22)−S12S21である.図5.16(a)のT型等価回路モデルのY パラ メータは

YY YT L=

[

Y11 Y12

Y21 Y22 ]

=== 1

|Z| [

Z2+Z3 −Z2

−Z2 Z1+Z2 ]

(5.11) で表現される.ここで|Z|=Z1Z2+Z2Z3+Z3Z1である.

図5.16(b)に示す等価回路構成において,PSOを用いてパラメータ同定を行った結果が図5.17で

ある.このフィッティングで得られたパラメータセットを表5.1に示す.

5.17 伝送線路のY パラメータPSOフィッティング

5.1 伝送線路のフィッティングパラメータLT L=50µm

RT LRT D[Ω] LT LRT D[pH] CT L[fF] RT LPD[Ω] LT LPD[pH]

1.66 29.6 0.62 1.84 13.6

Y12,Y21,Y22 に関しては3THzまで十分な精度でフィッティングができているが,Y11は23THz における共振特性に追従できていないことが分かる.この共振部に追従するためにはPD側のイン ピーダンスZ3の回路構成を共振を有するモデルに置き換えれば良いが,本研究においては3章の指 向性に関する解析と4章の弛張振動解析の結果から2THz以上の周波数成分は利用が困難であると 考え,伝送線路のY11 成分の共振部が表現できていないことは無視し,単純な回路構成を等価回路 として採用する.

図5.18(a)には,実験報告されたUTC-PDの等価回路を示している[71].電流源IPD と接合容量

Cj,コンタクト抵抗Rc,ドーピングの効果を示す抵抗RddおよびキャパシタンスCdd,測定に用い る金属パッドのインダクタンスLpad およびキャパシタンスCpad で構成されたモデルであり,この 等価回路モデルで作製されたUTC-PDの特性を表現可能であることが報告されている.本研究にお いては報告されたRddCdd の値がRcCj に比べて十分小さく,また異なるドーピング濃度や膜 厚の異なるUTC-PDを作製すること,およびデバイス集積にパッドを要さないことからRddCddLpadCpad を取り除いた図5.18(b)の一般的な等価回路モデルを採用する.

5.18 UTC-PD等価回路モデル

5.4.2 RTD テラヘルツ無線送信器の伝送容量特性解析

5.19 UTC-PD等価回路モデル

本節では大信号解析手法によりRTD無線送信器の変調特性を解析する.まず始めに,変調時の特 性傾向を大まかに把握するために,図5.19の等価回路モデルを用いて解析を行う.発振器において

300GHzの基本波が得られる回路構成においてLT L=50µmの変調構造を付与したモデルにおいて,

図5.20に変調信号の周波数を変化させた場合の時間応答波形を示す.UTC-PDの回路パラメータは 報告値[71]の値を参照し,Cj=60[fF],Rc=6.5[Ω],IPD=3.0[mA]とした.

5.20 変調速度違いのOOK時間波形

変調速度が高速化するほどに立ち上がり遅れ時間,立ち下がり遅れ時間の比率が大きくなりエ ラー率が増加してしまう.100GbpsにおいてはON時の発振数よりのOFF次時の過渡発振数が多 くなってしまい通信の品質としては不十分である.

ところで,変調構造の付与によって周波数が変動してしまっている.300GHzとなる設計にも関 わらず変調構造の付与によって400GHzの周波数に増加している.

この原因を探るため,変調構造付与時の定常発振特性を解析する.モード決定に寄与していたア ンテナサイズDと,付与する伝送線路の長さLT Lを可変パラメータとした物理的な構造に起因する 発振特性マップを図5.21に示す.

5.21 変調構造集積時発振特性マップ

図5.21(a)の周波数マップからは伝送線路長が短くなるほどに高周波化されていることが分かる.

ここから,変調構造前はRTDと外部構造のインダクタンスLE が周波数決定要因であったことに対 し,変調構造の付与によってRTDと変調構造が要因となっていることが考えられる.

さらに,変調構造集積前は出力が数µ Wであったが,集積後には数十∼100µ Wの出力となる計 算結果が得られている.この要因として,高周波化に伴いアンテナの放射特性ピークと発振周波数 が一致するようになった効果と光電流の一部が放射成分となる効果が作用していることが考えられ

る.図5.21 (b)中の白矢印に沿う方向が放射ピークと周波数が一致する組み合わせである.

しかし高調波を伴う弛張振動を利用していること,およびIPD=3.0[mA]であることとを考慮す ると実際には変調構造の集積でここまでの高出力化が実現されるとは考えにくい.

この周波数,パワー両マップの結果から,変調構造とRTDの間に発振モードを決定するパスが発 生し,妥当な計算結果が得られておらず,またそのパスを生み出している要因は図5.17の回路図か らCT LCj であると考えられる.

5.22 CjCT Lの発振特性への影響

そこで,基本波成分283GHzの発振器構造に,LT L=50µmの変調構造を付与し,CT LCj を可変 にして発振解析を行い.図5.10に示すような結果を得た.UTC-PDの接合容量Cj が110[fF]の 範囲で周波数が大きく増加し,周波数変動は大きくなる傾向がある一方,CT Lの値に対しては大き な周波数変動は見られなかった.

上記の特性傾向および,Cj <1[fF]では元の発振器の周波数と近しい性能を示すことからCj が数 [fF]以上の値を持つとCRT DLT LRT D+LT LPDCj のパスにループが発生し発振モードが決定され ることが考えられる.

仮に正弦波振動がCRT DLT LRT D+LT LPDCj の閉回路で生じているとするとそれぞれの直列合 成L=LT LRT D+LT LPD=43.2[pH],C=CCRT D×Cj

RT D+Cj =2.86[fF](Cj=60[fF])より fosc= 1

LC =453GHz (5.12)

となり,非線形性による低周波化を考慮すると妥当な結果が得られていると言える.

実際のデバイスにおいては,UTC-PDを形成する半導体材料のインピーダンスはRTDと接続さ れている周辺回路と比べ十分に大きいため,RTDの振動がPD側にほとんど流入しないはずである.

電磁界解析で得られたSパラメータの特性もそれを示しているが,現在用いているUTC-PDの等価 回路が簡易過ぎるためにそのようなインピーダンス不整合による反射特性等を再現できておらず周 波数変動を生じてしまう.

そこで本研究では,RTD-PD間の反射特性をより厳密なUTC-PDの等価回路モデリングによって 再現するのではなく,発振器の振動と独立して電流源からある振幅のベースバンド電流が入力され る図5.23のモデルで検討を行う.

5.23 変調特性解析等価回路モデル

5.2 変調解に用いる狭帯域回路パラメータ

外部構造 ボウタイアンテナ

Rb[] Lc[pH] RL[] LE[pH] Rrad[] Crad[fF] Rant[] Lant[pH]

50 20 10 30 36 1.54 34.3 28.9

RTD 変調構造

CRT D[fF] GRT D[mS] RT LRT D[] LT LRT D[pH] CT L[fF] IPD[mA]

3.00 variable 0.0129 26.6 0.55 variavle

変調信号からデバイスの振動の影響を切り離すために,Cj=Rc=LT LPD=RT LRT D=0としてい る.RTD発振器の回路パラメータは300GHz発振を得るように設計し,伝送線路LT L=40µmの変 調構造を採用した(表5.2).なお,伝送線路の等価回路は図5.16(a)のZ3=0の形となり,そのと きの電磁界解析結果のY パラメータへのフィッティング結果は図5.24に示すとおりである.2THz 以降の共振特性へのフィッティング精度が劣化しているが,元々1.8THzまでの高調波を利用範囲 としているため問題はないとした.以降では,図5.23の等価回路を用いて伝送特性の解析を行う.

5.24 伝送線路の等価回路フィッティング精度

〜オフ動作点変動時の入力電流マージン〜

オフ動作時のRTD電圧VOFFによって,変調をかけるために必要な電流強度が変動する.ここでは 異なるVOFFに関して変調特性を解析を行い,要請される光電流強度を探る.なお,報告されている

UTC-PD単体の出力は数mA級であるので本研究では出力可能な電流値を10mA以内と仮定してい

る.解析には図2.23のI-V特性を採用した.このRTDのピーク電圧Vp,バレー電圧Vv はそれぞれ Vp=0.95[V],Vv=1.25[V]である.

VOFF =0.85[V](<Vp)における20GbpsのOOK変調解析例を図5.25に示す.

5.25 VOFF =0.85[V]における入力信号強度の異なる変調時間解析

IPDの出力が小さいとRTDに加えられるバイアスをNDR領域に遷移させることができず発振し

ない(図5.25(a)).出力を増加していくとバイアス点がNDR領域へ移り発振を生じ,信号入力が終

わると元の動作点に戻りOOKが達成される(図5.25(b)).一方さらに出力を増加していくとバイ アス点はNDR領域を超えたPDRに移り,安定状態になるため発振が生じない(図5.25(c)).

5.26 異なるオフ電圧において要請される電流強度

異なるオフ電圧時の変調可能電流強度を図5.26に示す.およそ変調可能な電流の最低値,最大値 は電圧に対して線形な関係を持っているが,これは対象としているRTDのI-V特性は解析範囲にお いてほぼ線形であるためにこのような結果が得られたと考えられる.

電流最低値Iminはおよそ

Imin= Vp−VOFF

Rant+RRbRL

b+RL

(5.13) で見積もることが可能である.

〜立ち上がり,立ち下がり遅れ時間の律速要因〜

続いて,変調性能のキーパラメータとなる”ON”状態と”OFF”状態の切替時に生じるオーバーシュー トが収束するまでの立ち上がり時間と立ち下がり時間を考える.

本研究においては,立ち上がり時間τrise を信号”ON”時刻(t=ton)から以下の条件を満たすまで の時間とした.

|vpstable−vip|<(

1−e−1)

vpstable (5.14)

ここで,vipton以降のi番目の電圧極大値,vpstableは安定発振時の電圧極大値である(図5.27(a)). また,立ち下がり時間τf allは信号”OFF”時刻(t=to f f)から以下の条件を満たすまでの時間とした.

ドキュメント内 学位論文要旨(修士(工学)) (ページ 161-176)