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Stokes (1988)

ドキュメント内 ポルトガル語の接続法とその習得 (ページ 113-116)

第 3 章 第二言語接続法習得研究

3.1.2. 第二言語接続法習得研究

3.1.2.2. Stokes (1988)

Terrell et al. (1987) と並ぶ接続法習得の先駆的な研究事例がStokes (1988) である。同

研究では、ユタ州のミッショナリー・カレッジのスペイン語文法・作文コースに所属する 上級学生27名を対象に、口語での接続法使用を検証している。27名のうち17名はスペイ ン語文化圏への16か月から24か月の宣教研修を終えている。

タスクはKrashen (1982) の「習得と学習の仮説」に基づいて学習者の習得知識を観察す るために即時的な口述タスクを採用している。その上で、データの長大化や回避ストラテ ジーによる発話の複雑化を避けるために、文の冒頭部分を聴解させ後続部分を発話させる プライミングタスクを採用している。また時制を変数とさせないため、扱われる文脈は現 在時のものに限定されている。

同研究ではまず、事前テスト及び事後テストにおける接続法使用の正確さ、並びに各テ

ストにおけるスコアとスペイン語環境滞在経験 (月数) や入学前の文法学習経験42、研修か ら帰国後の文法学習経験との関係性を相関係数によって説明している (表15)。

表 14 Stokes (1988, p.707, Table2) の各項目間のピアソンの積率相関係数 (和訳は本論筆 者による)

各項目間のピアソンの積率相関係数

事前テストとスペイン語圏滞在月数 r = .51 p < .01 事後テストとスペイン語圏滞在月数 r = .73 p < .001 事前テストと文法学習経験月数 r = -.12 有意性なし 事後テストと文法学習経験月数 r = -.36 有意性なし 事後筆記試験と文法学習経験月数 r = .16 有意性なし スペイン語圏滞在月数と文法学習経験月数 r = -.51 p < .01 事前テストと事後テスト r = .54 p < .01

結果として、スペイン語圏環境での滞在月数と各テストのスコアに相関関係が確認され た。一方で各テストのスコアと事前文法学習経験、及び帰国後の文法学習経験との間に相 関関係は確認されなかった。また、スペイン語圏滞在月数が長ければ長いほど、現地での 文法学習時間が短くなる傾向がみられた。加えて、事後テストのさらに後に行われた叙法 選択に関する筆記テストの得点においても文法学習月数との相関性が確認されなかった。

さらに、事前テストと事後テストのスコアをt検定した結果でも、両スコアの平均の間に有 意な差が見られなかった (t = -1.81, p値は明示されず)。すなわち、事後テストでの得点は スペイン語圏への滞在とのみ関係があり、帰国後の上級コースの文法授業はスペイン語習 得や化石化の防止に影響していないことが示された。

口述タスクの設問ごとの正答率を分析すると、学習者は関係詞節における接続法を最も 困難としており、事後テストで上位 3 位を関係詞節表現が占めていた。これらについて

42 中等学校における1年間の学習を8点、大学の授業時間の4分の1を1点、スペイン語圏現 地研修での8週間を10点として計算している。なお、5年以上経過している事前学習は上記の

Stokes は英語構造からの転移43や手掛かりのなる構造の目立たなさ、教材での扱う量の少 なさに起因するインプットの少なさに原因があると考察している。また、願望の動詞の補 語節や、時間や結果の副詞節表現での接続法使用に事後テストでの改善が見られたのに対 し、感情の表現と疑いの表現では事前テストと事後テストの間での改善が見られなかった。

表 15 Stokes (1988, p.708, Table3) の口述タスクによる接続法産出の結果 (和訳は本論筆 者による)

節のタイプ 叙法トリガー モダリティ タイプ

正答数 難易度ランク 項目番号

(両テスト共通) 事前テスト 事後テスト 事前テスト 事後テスト

名詞節 接続法 影響 1 10 1 7 9

関係詞節 接続法 2 3 2 1 16

副詞節 接続法 未来事象 3 11 3 8 2

関係詞節 接続法 4 5 4 2 4

関係詞節 接続法 不在 5 5 5 2 6

名詞節 接続法 感情 6 7 6 4 12

副詞節 接続法 条件 6 7 6 4 15

名詞節 接続法 疑念 7 8 8 6 11

名詞節 接続法 影響 9 15 9 10 19

副詞節 接続法 結果 10 14 10 9 3

名詞節 直説法 疑いなし 23 23 12 13 18 副詞節 直説法 特定の場所 25 22 13 12 14 副詞節 直説法 習慣的事象 26 27 14 19 1 関係詞節 直説法 既知の存在 26 23 14 13 5 関係詞節 直説法 既知の存在 26 23 14 13 7

名詞節 直説法 確信 26 26 14 16 8

名詞節 直説法 信念 27 26 18 16 10

名詞節 直説法 知識 27 26 18 16 13

関係詞節 直説法 既知の存在 27 27 18 19 17

43 StokesはL1である英語からの影響、例えば動詞補語節構造において英語では”I insist that

he go immediately.”という表現が存在し (see also Palmer 2001)、一般的に多くの英語母語話者 はgoが接続法であるかが特定できないながらもこの構造をスペイン語接続法のアナロジーとし て直観的に分析しているのではないかということと、一方で英語の関係詞節表現においては同様

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