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ポルトガル語の直説法未来、直説法過去未来

ドキュメント内 ポルトガル語の接続法とその習得 (ページ 137-144)

第 4 章 直説法未来と過去未来

4.2. ポルトガル語の直説法未来、直説法過去未来

ポルトガル語では、いわゆる「未来時制」として「直説法未来」と呼ばれる動詞形態素 が存在する。多くの場合、直説法未来は第一義的に発話時 (現在) を起点としてそれ以降に 起こる事象を表現するための形態素であるとされる (Bechara 2007, Cunha & Cintra 2007, Raposo et al. 2013)。また、直説法未来は基準時が発話時であるが、基準時を過去と し、過去から見た未来の (未実現の) 事象を表す形態素として「直説法過去未来」が存在す る。

上述のとおり、これらを未来時制とするのか、叙法とするのか、またはアスペクトの観 点 か ら 起 動 相 と す る の か な ど に つ い て 、 一 般 言 語 理 論 に お い て も(Comrie 1985, Fleischman 1982)、個別言語文法においても (Yvon 1952, as cited in Fleischman 1982;

Alarcos Llorach 1980; Resnick 1984; 上田 1988; Castronovo 1989)、長い議論の歴史があ る。後者に関しては後続のセクションで詳しく議論する。

なお、ポルトガル語において「直説法過去未来」(Futuro do Pretérito) とはブラジルの 文法呼称法によるもので、ポルトガルの文法呼称法では「条件法」とされ、単純形式は「単 純条件法」 (Condicional Simples: Mateus et al. 2003) や「条件法現在」 (Condicional Presente: Coimbra & Coimbra 2011) と呼称される。ブラジル文法呼称法の直説法過去未 来完了に対応する、terの条件法+過去分詞による複合 (完了アスペクト) 形は「複合条件法」

(Condicional Composto: Mateus et al. 2003) や「条件法過去」 (Condicional Pretérito:

Coimbra & Coimbra 2012) と呼称される。日本ではブラジル式を採用することが多く、本

論でもこれに合わせ、「直説法過去未来」、「過去未来完了」の呼称を採用する。

4.2.1. 直説法未来、過去未来の語尾変化

ポルトガル語の直説法未来と直説法過去未来は規則的な形態変化を示す。両形式とも不 定詞と同じ形式を語幹とし、それぞれの語尾と組み合わせる。不規則動詞、すなわち語尾 に不規則があるものはないが、dizer (say)、fazer (do, make)、trazer (bring) の三語 (及び その派生動詞語彙) のみ語幹がdir-、far-、trar-となる。以下にそれぞれの活用形をまとめ る。

表 26 falar (「話す」) の直説法未来

falar 単数 複数

1人称 falarei falaremos

2人称 falarás falareis

3人称 falará falarão

表 27 dizer (「言う」) の直説法未来

dizer 単数 複数

1人称 direi diremos

2人称 dirás direis

3人称 dirá dirão

表 28 falar (「話す」) の直説法過去未来

falar 単数 複数

1人称 falaria Falaríamos

2人称 falarias Falaríais

3人称 falaria Falariam

表 29 dizer (「言う」) の直説法過去未来

dizer 単数 複数

1人称 diria diríamos

2人称 dirias diríais

3人称 diria diriam

4.2.2. 直説法未来の用法

本節ではポルトガル語の直説法未来が用いられる表現を Bechara (2007) と Cunha &

Cintra (2007) に従い、以下のようにまとめる。

① 発話後に起こり得る事実

(209) As aulas começarão depois de amanhã.

ART.DEF classes start-IND-FUT-3PL after of tomorrow

‘The class will start the day after tomorrow.’

(Anjos 1957, 2 Romances: o Amanuense Belmiro, p.222, as cited in Cunha & Cintra 2007)

② 発話時の事実に対する推定

(210) Ele terá seus vinte anos.

he have-IND-FUT-3SG his-PL twenty years

‘He may be around twenty years old.’

(Bechara 2007) (211) Quem está aqui? Será um ladrão?

who be-PRES-3SG here be-IND-FUT-3SG ART.IDEF thief

‘Who is here? Is it be a thief?’

(Ramos 1947, Insônia, p.9, as cited in Cunha & Cintra 2007)

③ 丁寧な表現

(212) Dirá o senhor: mas como foi que aconteceram? E eu

lhe direi: sei lá.

say-IND-FUT-3SG ART.DEF sir but how be-PFV-3SG that happen-PFV-3PL and I you-ACC say-IND-FUT-1SG know-PRES-1SG there

‘Sir will ask: But how did this happen? I will respond: I don’t know.’

(Drummond de Andrade 1958, Contos de Aprendiz, p.141, as cited in Cunha &

Cintra 2007)

④ 命令の表現

(213) Defenderás os teus direitos.

defend-IND-FUT-2SG ART.DEF-PL your-PL rights

‘You shall defend your rights.’

(214) Não fumarás!

not smoke-IND-FUT-2SG

‘Do not smoke!’

(Bechara 2007)

明確に発話時以降の事柄を表しているのは①と④である。これに対し、②と③には明確な 後時性はなく、現在指示である。そのため、直説法現在とは時間指示ではなく、確かさや 丁寧さといったモダリティによって使い分けられる。加えて、各表現はいずれもモダリテ ィ表現としてとらえることができる。各表現に二段構えのモダリティ (本論 2.6) の要素を 当てはめるなら、(209)は発話伝達のモダリティが「述べ立て」、命題めあてのモダリティが

「真偽判断」である。同様に(210)も「述べ立て」で「真偽判断」、(211)は「疑問」で「真 偽判断」、(212)は「丁寧」、(213)と(213)(214)は「働きかけ」で「当為判断」である。②と

④は明確なirrealisである。

4.2.3. 直説法過去未来の用法

本節ではポルトガル語の直説法過去未来が用いられる表現をBechara (2007) とCunha

& Cintra (2007) に従い、以下のようにまとめる。

① 過去のある時点以降に起こり得る事柄

(215) Depois de instalada, a Academia se transformaria em sua outra casa.

after of installed ART.DEF academy REFL transform-COND-3SG in his another house

‘’After it was launched, the Academy was relocated to a different house.’

(Martins Moreira 1970, Visão em Vários Tempos, p.43, as cited in Cunha & Cintra 2007)

② 過去における推定

(216) Haveria na festa umas doze pessoas.

have-COND-3SG in;ART.DEF party ART.IDEF-PL twelve people

‘There might be about twelve people at the party.’

(Bechara 2007)

③ 願望・丁寧の婉曲

(217) Desejaríamos ouvi-lo sobre o crime.

desire-COND-1PL hear-INF;him about ART.DEF crime

‘We would like to hear about the crime.’

(Drummond de Andrade 1962, A Bolsa & a Vida, p.103, as cited in Cunha & Cintra

2007)

④ 疑問や感嘆

(218) O nosso amor morreu... Quem o diria?

ART.DEF our love die-PFV-3SG who it say-COND-3SG

‘Our love died... Who would say that?’

(Espanca 1962, Sonetos, p.168, as cited in Cunha & Cintra 2007)

⑤ 実現が考えられない事柄 (反実仮想表現帰結)

(219) Se tivessem ouvido o conselho, essa desgraça não se daria.

if hear-SBJV-PSTPFV ART.DEF advice that misery not REFL give-COND-3SG

If they had listened to the advice, the unpleasantness would not have happened.

(Ribas n/a, Ecos da Minha Terra, p.117, as cited in Cunha & Cintra 2007)

明確に時間指示として機能しているのは①で、過去の相対時制として機能している。モダ リティの観点から考えると、(215)の発話伝達のモダリティは「述べ立て」、命題めあてのモ ダリティは「真偽判断」である。同様に(216)も「述べ立て」の「真偽判断」である。(217) は「丁寧」の「当為判断」、(218)は「疑問」や「感嘆」、(219)は「述べ立て」で「真偽判断」

の一事例 (反実仮想) として考えられる。

4.2.4. 直説法未来と過去未来の関係

直説法過去未来は、形態的類似性からしばしば直説法未来の過去時制のように位置づけ られることがある。特にブラジルポルトガル語文法における形態論指向の時制体系では直 説法未来を「現在未来」 (Futuro do Presente) として、過去未来 (Futuro do Pretérito) と

対応させている事例が見られる (Bechara 2007, Cunha & Cintra 2007)。実際に直説法未 来と過去未来は同一概念の非過去時指示と過去時指示として機能する ((209)と(215)、

(210)(211)と(216))。一方で、両者はモダリティ的側面の強さで対立する場合もある。発話 後に起こり得る事実(209)、及び発話時における不確かさ(210)(211)と実現が見込まれない事 柄(219)は、ともに非過去指示であり、前者二例は実現可能性の真偽判断を保留するにとど ま っ て い る (non-factual: Lyons 1977) の に 対 し 、 後 者 は 現 実 で は 起 こ ら な い 事 柄 (counter-factual: ibid) を述べている。そのため、「現在未来」、「過去未来」の両呼称は両 形式の機能及び対立概念を十分にとらえきれていないと言える。

一方で、アスペクトを考慮した意味論指向の時制体系においては、直説法未来が直説法 現在、直説法完了過去などとともに絶対時制として扱われることが多いのに対し、直説法 過去未来は「過去のある時点から見た未来」のように相対時制として扱われ、体系的には 関連が薄いようにまとめられる傾向もある (e.g. Comrie 1985)。例えば彌永 (1991, 2007) は「三段構えの時称体系」(図 1 図 16) を提唱しているが、この仮説では直説法過去未来 を過去時における相対時制として扱っている一方、直説法未来を絶対時制としても現在時 の相対時制としても扱っている。

PR-F

A 複合未来

S 未来

P 未来 PR-PR

A 過去

S 現在

P 未来 PR-P

A 大過去

S 半過去

P 過去未来

図 16 彌永 (2007) の「三段構えの時称体系」 (本論筆者による再現)

この構図では未来と過去未来の間に対等な関係を見出しにくい。また、反実仮想表現の過 去未来の機能が考慮されていない。

また、過去未来をポルトガルの呼称法に従い「条件法」と分類する場合、単純形式を「条 件法現在」 (Condicional Presente)、terとの複合 (完了アスペクト) 形式を「条件法過去」

(Condicional Pretérito) と分類することがある (e.g. Coimbra & Coimbra 2011,2012)。こ の場合、非過去と過去の対立がこの二形式で完結してしまい、直説法未来との時制的関連 性が薄くなってしまう。

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