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Bento (2013)

ドキュメント内 ポルトガル語の接続法とその習得 (ページ 128-131)

第 3 章 第二言語接続法習得研究

3.1.2. 第二言語接続法習得研究

3.1.2.8. Bento (2013)

Bento (2013) はL2ポルトガル語学習者による接続法使用を扱った数少ない事例のひと

つである。この研究ではポルトガル語と異なる叙法システムを持つ言語 (オランダ語) を母 語とする学習者群を実験群とし、統制群としてポルトガル語と類似する叙法システムを持 つ言語 (スペイン語) を母語とする学習者群、及びポルトガル語母語話者との接続法使用の 違いを分析することを目的としている。データはコインブラ大学一般・応用言語学研究所 が収集した学習者書き言葉コーパスのCorpus de PEAPL2 (6.1.2) と、リスボン新大学が収 集したCAL248より、当該の母語話者集団サブコーパスが用いられている。オランダ語母語 中級学習者のデータは8名のインフォーマントによる9テキスト (2237語)、オランダ語母 語上級学習者のデータは2名による4テキスト (774語)、スペイン語母語中級学習者のデ ータは28名による32テキスト (8023語)、スペイン語母語上級学習者のデータは21名に よる33 テキスト (7900 語)、ポルトガル語母語話者のデータは 19 名による 19 テキスト

(6794語) からなっている。オランダ語母語学習者のデータの少なさは、両コーパスにおけ る同学習者群の人数の少なさに起因している。

次にBentoは接続法が要求される文脈表現を27種類に分類した。これに基づいて、学習

者集団ごとにどの種類の表現で接続法使用が多いのか、どの種類の表現で接続法が使われ ていないのか、誤って使われているのかを検証している。下表 24にBentoの27の文脈と、

それぞれにおける各学習者集団の正しい接続法使用 (TLU: target-like use) と誤りの数を まとめた (Bento ibid, 3.4, 表1-表4より)。

表 24 Bento (2013) による接続法要求文脈の分類と、それらにおける接続法産出 (和訳は 本論筆者による)

文脈

オランダ語中級 オランダ語上級 スペイン語中級 スペイン語上級

TLU 誤り TLU 誤り TLU 誤り TLU 誤り

1 願望の動詞補語節 1 5 17 1

2 名詞補語節 1 2 1

3 形容詞補語節 1 1 2

4 自動詞補語節

5 使役動詞補語節 1 2 4

6 Factive感情動詞の補語節 2

7 否定の動詞の補語節 1

8 時間の副詞節 4 1 8 1 4

9 条件の副詞節 3 2 17 14 1

10 目的の副詞節 3 1 2 2

11 譲歩の副詞節 4 9 4 9 4

12 比較条件の副詞節 (como se) 3 1 13 順応の副詞節 (conforme) 1 2

14 原因理由の副詞節 2

15 制限関係詞節 3 2 5

16 非制限関係詞節 1

17 主節 1

18 希求 1

19 対照 1

20 法助動詞への補語 1 21 単文での使用 (talvez / oxalá) 3 2 5 1

22 願望quem me dera 1

23 陳述の動詞の補語節 2

24 真偽判断の動詞の補語節 3

25 許可の動詞の補語節 1

26 感情の動詞の補語節

27 定型表現 1 1

合計 19 8 8 2 50 9 71 11

データ分析の結果、オランダ語中級学習者はTLU19例、誤り8例の計27例を産出して いる。7文脈でTLU産出をしている一方、直説法が要求される制限関係詞節では接続法を 過剰使用している。オランダ語上級学習者は、その被験者集団の少なさもあり TLU8例、

誤り2例が確認できるのみである。8例のTLUは7文脈に渡っており、幅広く接続法が理 解されていると考えられる。スペイン語中級学習者はTLU50例、誤り9例の計59の接続 法表現を産出している。オランダ語中級学習者と比べると圧倒的に産出が多く、TLUも10 文脈に渡っているが、一方で譲歩の表現の誤りの多さも特徴的である。なお、Bentoは譲歩、

推測 (talvez) や希求 (oxalá) の表現で接続法ではなく直説法過去未来を用いていること を指摘しており、興味深い。スペイン語上級学習者はTLU71例、誤り11例の計82の接続 法表現を産出している。TLU は 15 文脈に見られるが、中級学習者と同じく譲歩表現での 誤りが多い。

Bentoはスペイン語学習者によるTLU産出文脈の多さ、及び譲歩表現での直説法使用の

多さを母語のスペイン語からの文法の影響であると断定する。すなわち、TLUの幅広さは ポルトガル語とほぼ同じ接続法システムを有していることに、また、譲歩表現での直説法 使用の多さはスペイン語における同表現では直説法と接続法が選択的であることに、それ ぞれ起因しているとする。一方で、オランダ語母語話者学習者のパフォーマンスについて は断定的ではなく、母語と既習言語からの影響を推測している。

ドキュメント内 ポルトガル語の接続法とその習得 (ページ 128-131)