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真偽判断のモダリティと当為判断のモダリティ

ドキュメント内 ポルトガル語の接続法とその習得 (ページ 88-92)

第 2 章 叙法とモダリティ研究から見る接続法

2.4. モダリティの意味的カテゴリー

2.4.1. 真偽判断のモダリティと当為判断のモダリティ

前述の通り、ヨーロッパのモダリティ研究では伝統的に真偽判断のモダリティと当為判 断のモダリティに二分され、多くのモダリティを扱う研究ではこの二分を前提として各々 の仮説理論を展開している。また、日本語のモダリティ研究でも当為判断のモダリティと 真偽判断のモダリティを中心に議論しているものもある (森山, 仁田 & 工藤 2000)。真偽 判断とは命題が真か偽か、実現性のあるものかないものかの判断に関わるもので、当為判 断とは命題に対する評価態度に関わるものである。以下、真偽判断のモダリティと当為判 断のモダリティの例である。

(157) Kate may be at home now.

(158) Kate must be at home now.

(159) Kate may come in now.

(160) Kate must come in now.

(Palmer 2001, p.7)

Palmerは上記の例をpossibleとnecessaryを用いた言い換えによって解説する。

(161) It is possible (possibly the case) that Kate is at home now.

(162) It is necessarily the case that Kate is at home now.

(163) It is possible for Kate to come in now.

(164) It is necessary for Kate to come in now.

(ibid)

(161)(162)は命題内容の実現の可能性について判断している、真偽判断の例である。一方、

(163)(164)は命題が為されるべきであるという判断を下している、当為判断の例である。

真偽判断のモダリティとは命題の真偽性を判断するものであるため、真、すなわちrealis

やfactiveなどといった領域を含む。前者のrealisについて、ポルトガル語では補語節内に

直説法現在を伴うような真の態度を表出するような表現も含まれる。

(165) É possível que a Maria esteja em casa.

be-PRES-3SG possible that ART.DEF Maria be-SBJV-PRES-3SG in house

‘It is possible that Maria is home.’

(166) É claro que ele foi à festa.

be-PRES-3SG clear that he go-IND-PFV-3SG to;ART.DEF party

‘It is clear that he went to the party.’

(Mateus et al. 2003)

(165)では「Maria が家にいること」について話者は「かもしれない」と真偽判断を保留す

る態度を取っているが、(166)では「彼がパーティへ行ったこと」は「もちろんである」と 肯定的に判断している。このような、叙法的には直説法が表現する意味領域である realis の判断も真偽判断のモダリティの領域となる。

加えてfactiveについて、命題内容が真でありながらも接続法が用いられるような感情表 現(167)も、真偽判断のモダリティの一例として分類されることがある (Palmer 2001)35

(167) A Ana lamenta que estejas doente.

ART.DEF Ana regret that be-SBJV-PRES-3SG ill

35 接続法の事例としては真偽判断 (命題めあて) モダリティの一部としているが (pp.121-124)、

‘Ana regrets that you are ill.’

(Mateus et al. 2003)

ただし、Givón (1994) はこれを真偽判断モダリティに含めていない。

また、真偽判断の対象となる命題内容は過去、現在、未来と時間軸上のあらゆる内容に 及ぶ(168)。

(168) Ele duvida / duvidou que os miúdos recebam /

recebessem / tenham recebido / tivessem recebido o prémio.

he doubt-PRES-3SG doubt-PRES-3SG that ART.DEF-PL kids receive-SBJV-PRES-3PL

receive-SBJV-IPFV-3PL receive-SBJV-PFV-3PL receive-SBJV-PSTPFV-3PL ART.DEF prize

‘He doubts / doubted that the kids receive / received / have received / had received the prize.’

(Mateus et al. 2003)

「子どもたちが賞を受けること」も「子どもたちが章を受け取ったこと」もいずれも論理 的に疑うことが可能である。

一方で当為判断のモダリティは、真か偽かの判断とは関係がなく、命令、強制、許可な

ど常にirrealisの未実現の内容が関係する。そのため、論理的に命題の内容が参照時点 (時

制の時点) 以前となることはない (Lyons 1977; 森山 et al. 2000)。

(169) Ele exige que os concorrentes leiam / *lessem / tenham lido / *tivessem lido as instruções.

he demand-PRES-3SG that ART.DEF candidates read-SBJV-PRES-3PL read-SBJV-IPFV-3PL

read-SBJV-PFV-3PL read-SBJV-PSTPFV-3PL ART.DEF-PL instructions

‘He demands that the candidates read / read / have read / had read the instruction.’

(Mateus et al. 2003)

(169)では「候補者が指示を読むこと」は「要求する」以前になることは論理的にあり得な い。完了過去 (現在完了) を用いた「読み終わっていること」は文法的に成り立つが、その 場合の内容は「彼が要求する」以前ではなく、それ以降の言語化されていない任意の時点 以前となる (Mateus et al. 2003, p.270)。

また、真偽判断のモダリティは当為判断のモダリティを包みこむことができるが (170)(171)、当為判断のモダリティが真偽判断のモダリティを包みこむことはない。すなわ ち、当為判断はより命題に近い要素となる。

(170) 河野代表ら幹部は組織の内部から動揺が出ていることを深刻に受け止めなければな

らないだろう

(171) きみたち、逃げた方がいいんじゃないかな

(森山 et al. 2000)

このような統語意味的制約に関係し、森山 et al. (2000) では当為判断のモダリティを「疑 似的モダリティ」とし、「成熟度の低い、副次的・二次的な存在でしかない」と評している。

そのため、真偽判断のモダリティとしばしば対立的に提示されるものの、機能的に対等な 関係にならないことを注意している。

また当為判断のモダリティでは言語外的な社会的規範が話者の判断に影響していること も特色である (Lyons 1977, Palmer 2001)。

ドキュメント内 ポルトガル語の接続法とその習得 (ページ 88-92)