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Sanz (2003a)

ドキュメント内 ポルトガル語の接続法とその習得 (ページ 118-121)

第 3 章 第二言語接続法習得研究

3.1.2. 第二言語接続法習得研究

3.1.2.4. Sanz (2003a)

Sanz (2003a, 2003b) は普遍文法 (UG) に基づく第二言語習得研究 (UG-based SLA) の観点から、学習の非直線性 (non-linearity, spiral effect) を主張する。すなわち、学習初 期に成長を見せつつも、中級に差し掛かったところで学習を仲介する母語 (L1) からの干渉 によって後退し、その後、目標言語への直接的なアクセスによって再び成長していくとい う仮説である。同研究ではその具体的事例としてアスペクト表現と接続法を含むモダリテ ィ表現が取り上げられ、分析されている。

Sanz (2003a) では神戸市外国語大学のスペイン語学科の1年生、2年生、3年生の学生

を対象に対訳タスクを行ってモダリティ表現での接続法の使用を検証している。1年生に対 しては以下の英文のスペイン語訳を課している。

(208) I want you to clean this room now.

ここではwantにあたる動詞quererの後に補語節を続け、cleanに相当する動詞 (limpiar など) を接続法に活用させることが要求されるが、36名の被験者のうち29名が接続法 (ま たは接続法と思われる形式) を産出した。形態的には不完全ながらも、願望表現における接 続法の使用を理解していることが示唆されている。

一方で2年生と 3年生に対しては英語または日本語で与えられた課題文のスペイン語訳 が課される。以下に課題文と接続法産出を引用する。

表 17 Sanz (2003a) より、各表現での接続法選択 (p.70, table 6, 本論筆者による再現)

Sentence Second year

(third semester)

Third year (fifth semester) 1. I hope that you can come to Japan next year. 71%

(20/28)

86%

(13/15) 2. 来年あなたが日本に来れるといいですね 52%

(11/21)

58%

(7/12)

3. I am glad that you come. 17%

(5/28)

73%

(11/13) 4. あなたが来てくれて嬉しい 38%

(8/21)

33%

(4/12)

5. I want you to come here immediately. 57%

(12/21)

50%

(6/12) 6. 私はあなたにすぐにここに来てもらいたい 75%

(21/28)

93%

(14/15) 7. It is possible that they do not see it and throw it

away.

57%

(12/21)

33%

(4/12) 8. 彼らはそれがあるのに気が付かなくて捨ててしま

うでしょう

0%

(0/28)

0%

(0/15)

全体的に1年生の接続法使用率よりも低くなっている。表 17中の1と2の課題文は「願 望表現」、5と6は「要求表現」と呼称されているが、いずれも当為判断モダリティの表現 で比較的接続法使用率が高い。願望表現では英語で課題が与えられた場合に接続法使用率 が高く、日本語で課題が与えられた場合に低い。一方で、要求表現では逆に日本語で課題 文が与えられた場合に高いが、英語で課題文が与えられた場合には低くなり、2年生よりも 3年生のほうが低くなる結果が得られている。7と8は真偽判断モダリティの可能性表現で あるが、英語で課題文が与えられた場合で 3 年生の接続法使用率が大きく低下し、日本語 で課題文が与えられた場合にはまったく接続法が産出されないという結果が得られている。

3と4はfactiveな感情表現であるが、日本語で課題文が与えられている4での接続法使用

率が低調であり、Sanzは日本語への依存を問題視している。一方で3では2年生の極端に 低い産出率が3年生では大きく改善している。4、5、7の例より、Sanzは十分な指導の継 続やインプットの量によっては接続法知識が後退していくこと、すなわち直線的な習得を 示さないことを強調する。また、課題文の与え方によって接続法使用が変化していること より、L1知識への依存が接続法の獲得に干渉していることを示唆している。

なお、Sanz (2003a) の解説では第三言語習得的観点による既習言語 (英語) からの影響

(reviewed in 鳥越 & 大本 2010) があまり強調されていない。Sanz 自身が脚注で指摘し

ているように、5で接続法使用が少ないのは英語課題文の影響でcomeに相当する動詞venir を不定詞で使用しているためであり、ここに英語知識からの干渉が考察される。一方で、1、

5 (3年生)、7において、日本語で課題文が提示される2、6、8よりも接続法使用が多くな

っている事実から、学習者が動詞補語節構造とそれが要求する接続法に気付きやすくなっ ていることが推測される。言い換えるなら、母語の日本語知識を介さずに既習言語の英語 知識のパラメターを介することで、目標言語表現に到達できている例であると考えられる。

Sanz (2003a) はフォローアップとして誤りを含む文章の文法判断テストを行うことで、

受容知識の検証も行っている。表 18に接続法分の例文と模範例、各学年の被験者の評価点 を引用する。評価点は1点から5点のリッカート・スケールで、点数が高いほど文法的で あるという判断である。

表 18 Sanz (2003a) より学習者による文法性判断 (pp.78-80, table 8より一部引用)

Sentence Correct sentence 1st

year 2nd year

3rd year 13. Quiero que vienes aquí enseguida. Quiero que vengas aquí enseguida. 2.49 2.68 1.86 20. Quiero que podrás venir a Japón el

próximo año.

Quiero que vengas a Japón el

próximo año. 2.77 2.63 1.82

29. Me alegré de que vengas. Me alegré de que vinieras. 2.60 4.17 3.14 38. Quizá lo tiran cuando lo vean. Quizá lo tiren cuando lo vean. 2.56 2.93 3.36

当為判断表現 (願望表現) (表18中の13, 20) では非文を文法的であると評価する点数が 上級生で最も小さくなる。一方で真偽判断表現 (表18中の38) や感情表現 (表18中の29)46 では1年生で最も評価点が低いものの、2年生以降で文法的と判断する点数が高くなってお り、特に真偽判断表現では3年生において最も高くなっている。このことからも、Sanzは 中級学習者においてL1知識へ依存による後退が起こっていることが示唆されていると考察 している。

さらにSanz (2003b) では2年生と3年生を対象に自発的産出タスクを用いて追調査して いる。2年生には日本の昔話についての説明作文、3年生には個人的関心についてのエッセ イが課せられ、さらに絵や動画を見せて即時に状況を描写させるリアクションタスクも両 学年を対象に行われている。接続法産出はリアクションタスクにおいてわずかに報告され ている。

ドキュメント内 ポルトガル語の接続法とその習得 (ページ 118-121)