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Maeda の Processamento Cognitivo 1, 2, 3

ドキュメント内 ポルトガル語の接続法とその習得 (ページ 74-78)

第 1 章 接続法

1.4. 接続法が現れる意味機能

1.4.2. 一元的アプローチ: 叙法選択の決定に関する各仮説理論

1.4.2.5. Maeda の Processamento Cognitivo 1, 2, 3

ここまで見てきたように、多くの理論では叙法選択の要因を二項対立的や二極間の連続 体的に扱っている。これに対しポルトガル語のMaeda (2001, 2004, 2005) の一連の仮説理 論は他とは一線を画するものとなっていて、3つのProcedimento Cognitivo (「認知の営み」: PCs) と呼ばれる独自の階層的基準から叙法選択を検証している。

(142) PC1: 言語使用者が命題内容の真実性または実現可能性に対して確信がないと判断

した場合

PC2: 言語使用者が自分自身の内的概念と外界の現状との間に何らかの対立を認識し

た場合

PC3: 言語使用者が心的判断の基準のうち最もプリミティブとされる”positive 対

negative”という判断基準に則って命題に関する評価を行った場合

(Maeda 2001, p.52. 和訳はp.51の要旨より)

一つ目の基準 (PC1) は話者の命題内容への確かさの態度を基準とする。これはTerrell &

Hooper (1974) のassertion / non-assertionと類似しているが、Maedaは言語内的な基準

ではなく発話者の態度や知識といった「認知の営み」を基準とする点で異なっていること を強調している29 (Maeda 2000, p.57)。PC1は明確な直説法表現と接続法表現の違いはも ちろん、直説法と接続法が混在する表現を説明できる。

(143) Creio que este é o caminho que devemos seguir.

think-PRES-1SG that this be-IND-PRES-3SG ART.DEF way that must-PRES-1PL follow-INF

‘I believe that it is the path we must follow.’

29 ただし、話者の判断と、結果的に選択される接続法を導く言語形式 (主節動詞や副詞など) の

(144) Creio que seja possível a sobrevivência.

think-PRES-1SG that be-SBJV-PRES-3SG possible ART.DEF survival

‘I believe that survival is possible.’

(Maeda 2000)

動詞 pensar (think)、achar (think)、crer (think, believe)、acreditar (credit)、supor

(suppose) などの補語節に直説法も接続法も用いられ得るのは話者の命題の確かさへの態

度の度合い、すなわちPC1によるとされる。

二つ目の基準 (PC2) は可能世界と現実世界の間におけるギャップへの認識とし、PC1で は説明ができなかった感情表現や譲歩表現 (Maeda 2001) への説明としている。

(145) ... estou surpreendido que um caramelo como este tenha uma página de tão elevada qualidade.

be-PRES-1SG surprised that ART.IDEF caramelo like this have-SBJV-PRES-3SG ART.IDEF page of such elevated quality

‘I am surprised that a caramel(?)30 like this have a high quality page.’

(146) Mesmo que chova muito, eles brincam fora.

Although rain-SBJV-PRES-3SG very.much they play outside

‘Even though it rains so much, they are playing outside.’

(Maeda 2001)

感情表現では、例えば「caramelo には上質な記事がない」という心的前提を覆す

「carameloに上質な記事がある」事実が起こっていることの認識の標識として、譲歩表現

30 固有名詞であるのか、俗語であるのか、ネイティブチェックやコーパス分析を経ても判明し

では「雨が降っていたら外で遊ばない」という心的前提を覆す「雨が降っているのに外で遊 んでいる」という事実が起こっていることの認識の標識として、PC2 に基づき接続法が用 いられる。

また、Maeda (2004) ではPC2を反実仮想表現と条件表現に対する説明にも用いている。

(147) Se Jung estivesse vivo no Brasil, decerto ficaria de queixo caído com a reação dos eleitores.

if Jung be-SBJV-IPFV-3SG alive in;ART.DEF Brazil maybe become-COND-3SG of chin dropped with ART.DEF reaction of;ART.DEF voters

‘If Jung were alive in Brazil, he may have been disappointed by the voters’

reactions.’

(148) Se Jung estiver no Brasil ...

if Jung be-SBJV-FUT-3SG in;ART.DEF Brazil

‘If Jung is alive in Brazil ...’

(149) Pisámos no chão (da casa do Jorge Amado) como se pisássemos em ovos.

step-PFV-1PL in;ART.DEF floor of;ART.DEF house of;ART.DEF Jorge Amado as if step-SBJV-IPFV-1PL in eggs

‘We stepped on the floor (of Jorge Amado’s house) as if we stepped on eggs.’

(Maeda 2004)

(147)の反実仮想表現では「Jungがいる」という心内世界の内容が「Jungがいない」と

いう現実世界の内容と対立していることを認識して表出しているとされる。また、(149)の

como seで表現される反実仮想比喩表現も同様で、現実には「床は卵でない」ものの、心内

世界では「床は卵である」とする対立を認識していることの標識として接続法未完了過去 が用いられるとする。一方で、(148)の接続法未来の条件表現ではこの対立については無関 心である。

三つ目の基準 (PC3) は話者の命題に対する肯定的あるいは否定的認識とし、これも譲歩 表現や感情表現、あるいは願望表現 (Maeda 2004, 2005) に対する説明としている。

(150) Estou contente que eles estejam aqui de volta.

be-PRES-1SG content that they be-SBJV-PRES-3PL here of return

‘I am content with them returning here.”’

(Maeda 2001, 2004) (151) Que chova 3 dias sem parar.

that rain-SBJV-PRES-3SG 3 days without stop-INF

‘I wish that it had rained nonstop for theree days.’

(Maeda 2005)

事実に対する喜びや悲しみを表現する感情表現は、命題内容への肯定的あるいは否定的 認識を表現している。(150)では「彼らが帰ってきていること」を客観的に陳述するのでは なく、このことへの肯定的態度を表明している。また、命令表現や希求表現もPC1の不確 かさへの態度に加え、肯定的な態度を表現する。(151)では「3日間止まずに雨が降ること」

は現実世界とは異なる情報である (PC2) と同時に、これが起こることへの肯定的態度を表 明している。このように命題内容への肯定的あるいは否定的認識を表明する際に命題に接 続法が用いられる。

各PCは排他的ではなく、それぞれが組み合わさることによって様々な表現における接続 法選択を説明できるとする。Maeda (2004) では各接続法時制形態素がカバーできるPCの

意味範囲は限定性を図示している。

これによると、接続法未来ではPC1のみ (すなわち命令や希求は表現できない)、接続法現 在、接続法未完了過去ではすべてのPCが判断基準として使用される。これは接続法形態素 習得研究において時制形態素に視点を置いたアプローチのひとつの基準となりえるという 点からも興味深い。

ドキュメント内 ポルトガル語の接続法とその習得 (ページ 74-78)