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第 3 章

3.3 モノ リンガルに よる名 詞複合語の

3.3.2 非生 産的な 名詞複合語 の獲得 75

3.3.2.2 Nicoladis (1999)

本 節 では 、フラ ン ス語に お ける複 合 語の獲 得 を考察 している Nicoladis (1999) を 取 り 上 げ る 。 上 述 の 通 り 、 フ ラ ン ス 語 で は 新 語 の 形 成 が 全 く 許 容 さ れ ず 、歴 史 的な 名 残として 語 彙化し た 複合語 の みが存 在 する (Roeper et al. 2002 など)。こ の 意 味 に お い て 、 フ ラ ン ス 語 は ヘ ブ ラ イ 語 と 異 な り 真 の 非 生 産 的 な 複 合 語 タイ プ の 言 語 と 言 え る 。 予 測 さ れ る よ う に 、 英 語 な ど に お い て 新 た な 複 合 語 が 用い ら れ る 名 付 け の 場 面 に お い て 、 フ ラ ン ス 語 で は 概 し て 前 置 詞 句 に よ る 修 飾 を含

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む 名詞 句 が用いら れ る (Clark 1998)。具体 例 を以下に 示す。39

(31) a. tasse à café lit. ‘cup with coffee’ = ‘coffee cup’

b. voiture de police lit. ‘car of police’ = ‘police car ’ (Nicoladis 2002: 861)

従 っ て 、 当 該 の 言 語 で 許 容 さ れ な い 現 象 を 人 工 的 に 作 成 し 、 そ れ ら を 用 い てフ ラ ン ス 語 学 習 者 を 被 験 者 と し て 心 理 実 験 を 行 う こ と は 本 質 的 に 不 毛 と 考 え られ る 。し か し、仮に Snyder が仮定する複合形成パラメータが妥当であり、その値 が 生後 一 定期間を 経 て か ら設 定さ れ る (あるいは、前置詞句による修飾を含む名 詞 句の 使 用を確立 す るまで 複 合語を 使 用する) のであれば、フランス語学習者が 自 然発 話 の中で複 合 語を産 出 する可 能 性があ る 点に注 意する必要 がある 。

こ の よう な背景 の 下、Nicoladis (1999) は CHILDES (MacWhinney 1995) を用 い て フラ ン ス語学習 者 Philippe (2 歳 9ヶ 月 ~3歳 3ヶ 月) の 自然発話を 分析し てい る 。Nicoladis (1999) に よれ ば、3 歳 2 ヶ 月 の Philippe の発 話にお いて 10 語の 複 合 語が 観 察されている 。具 体例 を 以 下に示 す 。40

(32) a. phares yeux lit. ‘headlights eyes’ = ‘headlights resembling eyes’

b. camion livre lit. ‘truck book’ = ‘a kind of truck’

(Nicoladis 1999: 247)

こ れ ら は (少 な く と も 表 層 上 は) フ ラ ン ス 語 学 習 者 が 母 語 の 獲 得 過 程 に お い て 複 合語 を 産出して い る資料 と考えられる。そうすると、Philippe がこれらの複合 語 を 言 語 入 力 に 基 づ い て 産 出 し た と 考 え る こ と は で き な い た め 、 彼 が ど の よう な メカ ニ ズムで産 出 したか に ついて 何 らかの 説 明が必 要となる。

一 つ の可 能性は 、Nicoladis (1999) が指摘 し ている ように、複 合語と 同様に主 要 部 と 修 飾 語 か ら 成 る 形 容 詞 に よ る 修 飾 を 含 む 名 詞 句 に よ る 影 響 で あ る 。 次例 を 考察 し よう。

(33) a. grand ‘big’, gross ‘fat’, bon ‘good’, jeune ‘young’, beau ‘beautiful’

e.g. grand homme ‘big man’ (Truswell 2004: 59-60)

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b. aigu ‘sharp’, lisse ‘smooth’, bleu ‘blue’, jaune ‘yellow’

e.g. voiture bleue lit. ‘car blue’ = ‘blue car’

(Nicoladis 1999: 248)

Waugh (1977) 、Truswell (2004) によれば、フランス語では様態を表す形容 詞が

名 詞を 修 飾する場 合 、(33a) に示 さ れるよ う な「 形容詞–名詞」語順が好まれる。

他 方、 色 、 形 など を 表 す形 容 詞 が 名詞 を 修 飾す る 場 合 は (33b) に 示さ れ る よ う な 「名 詞–形 容詞 」語 順が 好ま れ る。41 そ うすると 、Philippe が複 合語よ りも 生 産 性 が 高 く 入 力 頻 度 が 高 い と 想 定 さ れ る 形 容 詞 に よ る 修 飾 を 含 む 名 詞 句 の 語順 を 参考 に して、複 合 語を産 出 した可 能 性は十 分 考えら れる。

も う 一 つ の 可 能 性 は 、 前 置 詞 の 省 略 で あ る 。 上 述 の 通 り 、 フ ラ ン ス 語 で は 名 付 け の 場 面 に お い て 概 し て 前 置 詞 句 に よ る 修 飾 を 含 む 名 詞 句 が 用 い ら れ る 。ま た、フランス語学習者 (5~6 歳) の 自然発 話 資料を 分析すると 、前置詞 を含む 多 数 の新 語 が観察さ れ ること が 報告さ れ ている (Clark 1998)。そうすると、(32a-b) が 前置 詞 の省略に よ って生 じ ている 可 能性も 考 えられ る。Nicoladis (1999) の分 析 対 象 は 一 名 で あ り 、 そ の 発 話 資 料 の み に 基 づ い て フ ラ ン ス 語 学 習 者 が 言 語獲 得 の 過 程 に お い て 概 し て 複 合 語 を 産 出 す る と 結 論 付 け る の は 早 計 で あ ろ う 。彼 女 の 主 張 の 妥 当 性 を 検 証 す る に は 、 よ り 多 く の フ ラ ン ス 語 学 習 者 の 発 話 資 料を 分 析・ 考 察するこ と が不可 欠 である 。

本 節 で は 、 モ ノ リ ン ガ ル に よ る 名 詞 複 合 語 の 獲 得 に 関 す る 先 行 研 究 を 概 観し た 。 そ の 結 果 、 従 来 か ら 主 張 さ れ て き た 複 合 語 の 内 心 性 や 意 味 の 獲 得 年 齢 は複 合 語 の 絵 の 提 示 に 基 づ く 実 験 デ ザ イ ン と 密 接 に 関 係 し て お り 、 そ の よ う な デザ イ ン を 採 用 す る か 否 か に よ っ て 被 験 者 の 正 答 率 に 明 白 な 隔 た り が 生 じ る こ とが 明 ら か に な っ た 。 複 合 語 の 絵 を 提 示 し な い 実 験 デ ザ イ ン を 用 い て 被 験 者 の 正答 率 を 複 数 の 側 面 か ら 分 析 す る よ う に な っ た の は 比 較 的 最 近 の こ と で あ り 、 その よ うな デ ザインの 下 で考察 の 対象と さ れてき た のは英 語に限られ る。

こ の よう な背景 を 踏まえ て 、第 4 章 では 英 語と同 様に生産的 な語形 成を許容 す る 日 本 語 を 学 習 中 の 子 供 を 被 験 者 と し て 筆 者 が 行 っ た 実 験 の 詳 細 に つ い て説 明 し、 そ の結果に 基 づいて 考 察を行 う 。

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