• 検索結果がありません。

第 3 章

3.3 モノ リンガルに よる名 詞複合語の

3.3.1 生 産的な名詞複合語の獲得

生 産 的 な 語 形 成 を 許 容 す る 言 語 で は 、 生 産 的 な 語 形 成 を 許 容 し な い 言 語 に比 べ て 子 供 が 複 合 語 を 産 出 ・ 理 解 す る の が 相 対 的 に 早 い の が 言 語 獲 得 上 の 一 つの 特 徴と さ れている。本 節では、前 者 (主 に 英語と 日本語) を学習 中 の子供 を被 験 者 とし て いる先行 研 究をそ の 実験デ ザ インに 注 意を払 いながら概 観する 。

3.3.1.1 絵選択課題と誘引発話課題

まず、この種の研究の先駆けである Clark, Gelman, and Lane (1985) を参 照す る。

Clark et al. (1985) は 絵選 択課 題 (picture selection task) と 誘引発 話課題 (elicited

production task) を 用いて 60名の英 語 学習者 (2~6歳) を 被験者とし て心理 実験

を 行っ て いる。23 絵選 択 課題は 4 枚 の絵を 被 験者に同時 に提示 し適切な絵 を指 差 し で 選 択 さ せ る も の で あ り 、 現 在 に 至 る ま で こ の 種 の 実 験 課 題 の 一 つ と して 定 着し て いる。(21a-d) は 、mouse-hat を刺激 と した場 合に被験者 に同時 に提示す る 4 枚 の絵 の指示 物 をそれ ぞ れ示し て いる。

(21) ‘mouse hat’: a. a hat b. a mouse c. a hat on a mouse d. a hat on a fish.

一 つの 課 題で使用 す る 4 枚の絵は、それぞれ (i) 刺激の 第二要 素 (e.g. a hat)、(ii) 刺 激の 第一要素 (e.g. a mouse)、(iii) 刺激の 第 一要素 が第二要素 を何ら かの意味 で 修飾 し ているも の (e.g. a hat on a mouse)、(iv) 刺激の第 一要素 とは異なる 名詞

(e.g. a fish) が 第二 要素 を何 らか の意味 で 修飾して いるも ので統一さ れた。 例え

ば 、(21) の場合 では 被験者が (21c) を選 ぶことが できれ ば正 答と判断 され、そ

れ 以外 が 選ばれた 場 合は誤 答 と判断 さ れた。

実 験 の結 果を被 験 者の年 齢 に基づ い て分析 し たとこ ろ、2 歳児の正 答率 (49%) に 比 べ て 3 歳 児 の 正 答 率 (84%) の 方 が 有 意 に 高 か っ た こ と か ら 、Clark et al.

(1985) は 英語 学習 者が2歳半 前 後 (正 確 には 2歳6ヶ 月) に複合語の 内心性 及び

意 味 を 獲 得 す る と 結 論 づ け て い る 。24 低 年 齢 の 被 験 者 へ の 大 き な 負 荷 を か け る こ と な く 複 合 語 の 知 識 の 獲 得 を 考 察 で き る こ と が 、 絵 選 択 課 題 の 利 点 の 一 つと 思 われ る 。

70

一 方 で 、 こ の 課 題 に は 問 題 点 も 存 在 す る 。 第 一 に 、 複 合 語 の 絵 を 視 覚 提 示 す る こ と で 意 味 関 係 が 固 定 さ れ て し ま う 。 英 語 の よ う に 生 産 的 な 語 形 成 が 許 容さ れ る 言 語 で は 、 特 に 親 密 度 が 低 い 新 語 は 文 脈 に 依 存 し て 複 数 の 解 釈 が 可 能 で あ る 。例 え ば、mouse hat は 「ネズ ミ が被っ て いる帽子 」だけ でなく「ネ ズミ の模 様が入った帽子」や「ネズミを捕獲するための帽子」という解釈も可能である。

従 っ て 、 こ の デ ザ イ ン の 下 で は 意 味 関 係 の 決 定 に 関 わ る 語 用 論 的 知 識 を 子 供が 獲 得済 み なのか否 か が不明 確 なまま 残 ってし ま う。第二に 、(21a-d) に示される よ うに選 択肢の絵が ミニマル・ペアになっていない 。例えば、(21d) は本来であ れ ば正 解 となる (21c) の修 飾 語と主 要 部を入 れ 替えた a mouse on a hatとすべき で あろ う 。 そ うす る こ とで 、 被 験 者 が 誤 っ て (21d) を選 択 し た とし て も 、 被 験 者 が複 合 語と単語 (名 詞) を区 別 で きてい る か否か を検証でき る であ ろう 。この よ うな 問 題を抱え る にせよ 、Clark et al. (1985) は初めて 相当数 の被験者を 対象 に 複 合 語 の 内 心 性 や 意 味 の 獲 得 に 関 す る 実 証 的 な 研 究 を 行 っ た 点 で 意 義 が ある と 思わ れ る。

次 に 、上 記の二 つ の課題 を 用いて 35 名 の 英語学 習者 (3~4 歳) を被験 者と し て 心理 実 験を行っ て いる Nicoladis (2003a) を参照する。25 誘引 発話課 題とは 、 ま ず 複 合 語 を 構 成 す る 二 つ の 名 詞 の 絵 を 順 不 同 に 提 示 し 、 そ の 後 、 こ れ ら を組 み 合 わ せ て で き る 複 合 語 の 絵 を 提 示 し て そ の 名 付 け を さ せ る も の で あ る 。(22) は 、fish-shoes を 正解 とし た場 合 の 実験者 と 被験者 のやりとり を示し ている。26

(22) Experimenter: (Showing a picture of some shoes) Here are some shoes.

(Showing a picture of some fish) Here are some fish.

(Showing a picture of some shoes that HAS pictures of some fish on them) What could we call these?

Child: Fish-shoes!

結果として、(i) 正答率 が 全体で 75%だ っ たこと、(ii) 3歳児群と 4 歳児群 の正 答 率 に有 意 差がなか っ たこと か ら、Nicoladis (2003a) は Clark et al. (1985) の主 張 を 裏 付 け る よ う に 英 語 学 習 者 が 言 語 獲 得 の 早 期 段 階 で 複 合 語 を 産 出 可 能 に なる と 論じ て いる。27

71

し か し 、 こ の 実 験 デ ザ イ ン の 下 に お い て も 複 合 語 の 絵 を 視 覚 提 示 す る こ と で 意 味 関 係 が 固 定 さ れ て し ま う 点 に 注 意 が 必 要 で あ る 。 ま た 、 主 要 部 な ど の 単語 を 含む 4 枚の絵を 同 時に提 示 する絵 判 断課題 とは異なり 、この 課題では修 飾語 と 主 要 部 間 の 何 ら か の 意 味 関 係 を 表 す 複 合 語 の 絵 の み が 提 示 さ れ る の で 、 視覚 情 報が 結 果に与え る (大半の場合、被験者の複合語の産出を助長させる) 可能性 が 一 層 大 き い と 推 測 さ れ る 。 従 っ て 、 他 の 実 験 デ ザ イ ン を 用 い る こ と で 視 覚情 報 が結 果 に与える 影 響を抑 制 できる の であれ ば 、その方 が好ま しいと言え よう。

次 に 、 日 本 語 学 習 者 を 被 験 者 と し て い る 先 行 研 究 と し て Sugisaki and Isobe (2000) が 挙 げ られ る 。 彼 ら は 、 日 本 語の 名 詞複 合 語 と 結 果構 文 を用 い た 心 理 実 験 を 通 し て Snyder (1995) の 複 合 形 成 パ ラ メ ー タ の 妥 当 性 を 検 証 し て い る 。

Sugisaki and Isobe (2000) が複合 語 に用い た 課題は誘 引発話 であり、結 果構 文に

用 いた 課 題は真偽 値 判断 (truth-value task) で あった。28 被験者は日 本語を 母語 と する 20 名 の子 供 (3~4 歳) で あ っ た。結 果 として 、二つの課 題の正 答率には 相 関が あ ったこと か ら、Sugisaki and Isobe (2000) は (i) 日本語学習 者のデ ータ か ら複 合形 成パラ メ ータ の妥 当性 が 支 持され るこ と、(ii) 日本語では 複合形成パ ラ メー タの値が 3 歳半 前後 に設 定 さ れる ことを主 張して いる 。

し か し、誘引発話課 題 の実験 手 順は Nicoladis (2003a) のそれ と本質 的に同 じ で あるの で、Nicoladis (2003a) が抱え る 問題が ついてまわ ること になる。ま た、

彼 らの実験では、複合語の構成素の絵 の 提 示順序が 常に第 一要素 (修飾 語) が第 二 要 素 (主 要 部) に 先 行 し て い た 点 も 問 題 と な る (e.g. く ま ど け い: く ま 

と けい)。つまり、提示順序にカウンターバランスを配置した Nicoladis (2003a) の

実 験 と 異 な り 、 提 示 順 序 に 基 づ く 類 推 が 結 果 に 影 響 し て い る 可 能 性 が あ る 、と い う 問 題 を 抱 え る 。 従 っ て 、 仮 に 彼 ら の 結 果 構 文 の 実 験 結 果 が 妥 当 で あ っ たと し て も 、 そ れ の み で は 複 合 形 成 パ ラ メ ー タ の 存 在 を 直 接 的 に 支 持 す る も の とは な らな い 。

最 後 に、Nakao, Akima, and Nakajima (2001) は 絵選択 課題を用い て日本語の複 合 語の 内 心性と意 味 の獲得 を 検証し て い る。29 Nakao et al. (2001) の 被験者 は 18 名 の日 本 語学習者 (4~6 歳) であり、課題で用いられた 4 枚の写真は 全て一 方の 単 語が 他 方の単語 を 何らか の 意味で 修 飾して い るもの で統一され た点で Clark et al. (1985) の それ と 異 なっ て い た。「 バ ナ ナチ ョ コ 」を 正 解 と した 場 合 の被 験 者

72

に 提示 す る 4 枚の絵の 指 示物を 以 下に示 す 。30

(23) バ ナ ナチョコ: a. チョ コ がか か ったバ ナ ナ (cf. チョコバナナ)

b. チ ョコが か かった み かん (cf. チョコみかん)

c. バナナ 味 のチョ コ (cf. バナナ チョ コ) d. み かん味のチョコ (cf. みかん チ ョコ)

結 果と し て、4 歳 児 群も 5 歳児 群 も正答 率 が 70%だったこと から、Nakao et al.

(2001) は 日本 語で は 4 歳 までに 複 合語の 内 心性と意 味が獲 得されると 論じ てい

る 。

(23a-d) に 示さ れる よう に、Nakao et al. (2001) の課題では「バナナ」や「チョ

コ 」な ど の構成素 が 選択肢 に 含めら れ なかっ た点 が Clark et al. (1985) の課題と 異 な っ て い る の で あ る が 、 構 成 素 も 選 択 肢 に 含 め た デ ザ イ ン と そ う で な い デザ イ ン で は 生 産 的 な 複 合 語 の 知 識 の 獲 得 を 考 察 す る 観 点 か ら ど ち ら が 好 ま し いだ ろ う か 。 日 本 語 の 内 心 複 合 語 の 主 要 部 は 第 二 要 素 で あ る の で 、 例 え ば 「 バ ナナ チ ョ コ 」 を 「 バ ナ ナ 味 の チ ョ コ 」 と し て 解 釈 す る 前 提 と し て 、 子 供 は 「 バ ナナ チ ョ コ 」 が チ ョ コ の 類 を 指 示 す る こ と を 学 習 し な け れ ば な ら な い 。 つ ま り 、複 合 語 の 意 味 を 理 解 す る 前 提 と し て 、 主 要 部 を 同 定 す る 必 要 が あ る 。 従 っ て 、選 択 肢 に 構 成 素 の 単 語 を 含 め る デ ザ イ ン を 採 用 す る こ と は 、 複 合 語 の 最 終 的 な意 味 の理 解 に至るま で の中間 段 階の存 在 を検証 す る上で 有意義であ る。他方、(23b) や (23d) の よ う に 正 解 (バ ナ ナ チ ョ コ) に 含 ま れ な い 単 語 (み か ん) が 含 ま れ る 選 択 肢 は 、 複 合 語 の 解 釈 の 以 前 に 名 詞 の ミ ス マ ッ チ と し て 不 正 解 と 判 断 され る可能性があり、それらを選択肢に加える積極的な理由はないように思われる。

本 節 で は 、 従 来 の 研 究 の 実 験 課 題 の 定 番 と し て 絵 選 択 課 題 と 誘 引 発 話 課 題を 用 い た 先 行 研 究 に つ い て 概 観 し た 。 こ れ ら の 実 験 デ ザ イ ン を 用 い た 研 究 で は、

英 語や 日 本語など の 学習者 が 4 歳 頃 までに 複 合語の 知識を獲得 すると いう主張 を し て い る 点 で 共 通 し て い る 。 他 方 、 こ れ ら の 実 験 デ ザ イ ン で は 複 合 語 の 絵を 被 験 者 に 提 示 す る た め に 、 語 用 論 的 知 識 に 基 づ く 意 味 関 係 の 決 定 に 関 す る 考察 が でき な いなどの 視 覚情報 が 結果に 与 える影 響 が問題 となった。

ま た 、 こ れ ら の 実 験 デ ザ イ ン を 採 用 し て い る 先 行 研 究 は 概 し て 親 密 度 に 基 づ

73

く 正 答 率 の 分 析 を 調 査 の 対 象 と し て い な い よ う で あ る 。 そ う す る と 、 こ れ らの 実 験 結 果 に 基 づ い て 論 じ ら れ て い る 複 合 語 の 獲 得 年 齢 な ど が 妥 当 で あ る と 容易 に 言 う こ と は で き ず 、 こ れ ら の 問 題 点 を 踏 ま え た 別 の 実 験 デ ザ イ ン の 下 で 検証 さ れ な け れ ば な ら な い 。 以 上 の 議 論 を 踏 ま え 、 次 節 で は 複 合 語 の 絵 を 提 示 しな い デザ イ ンの下で 心 理実験 を 行って い る Krott, Gagné, and Nicoladis (2009) を概 観 する 。

3.3.1.2 Krott, Gagné, and Nicoladis (2009)

Krott et al. (2009) は、絵選択課題と誘引発話課題の問題点を踏まえて、新たな

デ ザ イ ン の 下 で 心 理 実 験 を 行 っ て い る 。 彼 女 ら が 絵 選 択 課 題 と 誘 引 発 話 課 題を 採 用 し な か っ た 背 景 に は 、 前 節 で 概 観 し た 複 合 語 の 視 覚 情 報 が 結 果 に 与 え る影 響 を避 け る目的が あ った。本 節で は Krott et al. (2009) の実験内 容の詳 細を見 る。

そ し て 、 彼 女 ら の 実 験 デ ザ イ ン の 骨 子 を 援 用 す る こ と で 視 覚 情 報 が 結 果 に 与え る 影 響 を 最 小 限 に と ど め ら れ る だ け で な く 、 複 合 語 内 の 意 味 関 係 の 獲 得 に 関す る 考察 や 親密度 に 基づ く分 析が 可 能 になる こ とを述べ る。

Krott et al. (2009) の 被験者 は 27 名 の 英語学 習 者 (5~6 歳) であ り、36 名の 大 人 を 対 象 に コ ン ト ロ ー ル 実 験 が 行 わ れ た 。 課 題 は 親 密 度 の 観 点 か ら 三 つ に 下位 分類 され た複 合語 の 意味 判断 (semantic decision) に関 する も ので あっ た。31 以 下 に実 験 者と被験 者 の対話 例 を示す 。

(24) Experimenter: What does a farm animal mean?

Child: An animal which is LOCATED at a farm!

(24) に 示 されるよ う に、Krott et al. (2009) の実験課 題は被 験者にテス ト項 目 の 複 合 語 や そ の 回 答 の 選 択 肢 を 視 覚 提 示 せ ず に 、 そ の 意 味 を 口 頭 で 説 明 さ せ る形 式 で 行 わ れ た 。32 こ の よ う な 課 題 を 用 い る こ と で 視 覚 情 報 が 結 果 に 影 響 す る 可 能 性 を 回 避 で き る と 思 わ れ る が 、 こ の 課 題 は 少 な く と も 以 下 の 二 つ の 点 で 絵選 択 課題 と 誘引発話 課 題より も 好まし い と思わ れ る。

(25) a. 新語に対して大人が付与する意味関係の傾向と子供のそれを比較できる

74

b. 意 味関 係に よる 影響 を受 け るこ とな く課 題の 正答 率 を親 密 度 の観 点か ら

分析 でき る

(25a) は 絵 選 択 課 題 と 誘 引 発 話 課 題 で は 視 覚 情 報 に よ り 意 味 関 係 が 固 定 さ れ る ため、考察の対象外となる。(25b) は 親密 度 が 被験者の複 合語の 理解に与え る影 響 を 考 察 す る に あ た り 、 意 味 関 係 に よ る 影 響 を 最 小 限 に と ど め る こ と が 重 要で あ る こ と を 述 べ た も の で あ る 。 絵 選 択 課 題 や 誘 引 発 話 課 題 に お い て も 親 密 度が 結 果 に 与 え る 影 響 を 考 察 す る こ と 自 体 は 可 能 と 思 わ れ る が 、 複 合 語 を 視 覚 提示 す ると い う 課題 の 性 質 上、(子 供 でも 分 かる よ う な) 絵で 表 現す る と いう 問 題 が 常 に つ い て ま わ る 。 ま た 、 仮 に 複 合 語 を 親 密 度 に 基 づ い て 分 類 し て も 、 あ る複 合 語 に 対 し て 特 定 の 絵 を 提 示 す る こ と で 固 定 さ れ た 意 味 関 係 が 結 果 に 影 響 する 可 能 性 を 排 除 で き な い と 思 わ れ る 。33 い ず れ に せ よ 、 前 節 で 述 べ た よ う に 親 密 度 に 基 づ く 正 答 率 の 分 析 は 上 述 の 二 つ の 課 題 を 用 い た 研 究 で は 考 察 の 対 象 とさ れ てこ な かった。

Krott et al. (2009) は実 際 に (25a-b) の観 点 などか ら実験結果 を考察 している の で あ る が 、 一 方 で 、 複 合 語 の 意 味 を 口 頭 で 説 明 さ せ る と い う 課 題 の 難 易 度の 性 質 上 、 前 節 で 概 観 し た 先 行 研 究 よ り も 総 じ て 被 験 者 の 月 齢 が 高 い 点 に 注 意し な け れ ば な ら な い 。 子 供 の 生 得 的 な 知 識 を 検 証 す る 上 で 、 月 齢 が 低 け れ ば 低い ほ ど 環 境 要 因 の 影 響 が 小 さ く 被 験 者 と し て 望 ま し い こ と は 自 明 で あ る 。 以 下に Krott et al. (2009) の 実験 結果 の要 点を挙 げ る。

(26) a. 主 要部に関して 2 割 程 度 (正 確 には 18%) 誤 りを犯す

b. 子供 は 4 割の回答で大人と同じ (支 配的な) 意味関係を 用いる

c. CHILDES (MacWhinney 2000) で 観 察される 複合語 の意味関係 の頻度 と、

今回の実験で 子 供が用 い た意味 関 係の割 合は相関を 示さな い 34

(26a) は 5~6 歳の 英語 学習 者が 依然と し て複合語 の内心 性や意味の 獲得過 程に

あ る こ と を 示 し て お り 、 前 節 で 概 観 し た 先 行 研 究 の 主 張 を 踏 ま え る と 注 目 する に値する。(26b) は、子供がある複合語の主要部の位置は理解 できていたとして も 複 合 語 に 与 え る 意 味 関 係 が 大 人 の そ れ と 一 致 す る に は 至 っ て い な い と い うこ

75

とであり、言語獲得の中間段階を示唆するものと思われる。(26c) は日常 生活 で 見 聞 き す る 複 合 語 の 意 味 関 係 の 頻 度 が 、 子 供 が 少 な く と も こ の 月 齢 で 好 む 意味 関 係と 直 接的な関 係 性を持 た ないと い うこと を 示すも のであろう 。

(26a-c) で示される実 験 結果は 、 従来の 先 行研究で は明ら かにされて こな か っ

た こ と で あ る 。 従 っ て 、 こ の 実 験 が 妥 当 な 限 り に お い て 、 た と え 英 語 の よ うな 生 産 的 な 語 形 成 を 許 容 す る 言 語 に お い て も 名 詞 複 合 語 は 動 詞 的 受 動 文 や 空 主 語 の よ う に 生 後 一 定 期 間 を 経 て か ら 獲 得 さ れ る 現 象 と し て 再 解 釈 さ れ る べ き であ ろ う。

で は 、(26a) の結果は Snyder (1995; 2001; 2002) の 複合形成パ ラメー タと矛 盾 す るも の であろう か 。Krott et al. (2009) の実 験 は結果 構文の獲得 は考察 の対象と し て い な い の で 、 複 合 形 成 パ ラ メ ー タ の 妥 当 性 に 直 接 言 及 す る こ と は 不 毛 であ る。他方、(26a) の 結果 は複 合形 成 パ ラメー タ を否定 する (あるいは矛 盾する) も の では な いと思わ れ る。つ ま り、複 合 形成パ ラ メータ の値が 2 歳前後に設定さ れ るとい う仮説は依然 と して有 効 である と 考えら れる一方、2 割程度の誤答率は 課 題 の 難 易 度 、 語 用 論 的 知 識 の 獲 得 の 遅 れ 、 英 語 の 流 暢 さ 、 学 習 歴 な ど の 変数 が 影響 し ている可 能 性が考 え られる 。

以 上 、本 節では Krott et al. (2009) の実験 の 詳細に ついて見た 。彼女 らが採用 し て い る 被 験 者 に 複 合 語 の 絵 を 提 示 し な い 実 験 デ ザ イ ン を 用 い る こ と で 、 視覚 情 報 が 結 果 に 影 響 を 与 え る こ と を 避 け る だ け で な く 、 被 験 者 の 生 産 的 な 複 合語 に 関す る 知識を複 数 の側面 か ら考察 す ること が 可能と なる。第 4 章では、その よ う な デ ザ イ ン の 下 で 筆 者 が 日 本 語 学 習 者 を 被 験 者 と し て 行 っ た 心 理 実 験 の結 果 に基 づ いて、日 本 語の名 詞 複合語 の 獲得に 関 する考 察を行う。