第 3 章
3.2 母語 知識の発達 的要因
3.2.3 語用論的知 識
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定 の 差 が 観 察 さ れ る た め 、 先 行 研 究 の 主 張 の 妥 当 性 を 検 証 す る に は 実 証 的 なデ ー タ に 基 づ い た 更 な る 研 究 が 必 要 で あ る 。 適 切 に 産 出 ・ 処 理 で き る よ う に なる ま で に 一 定 期 間 を 要 す る こ と が 複 数 の 言 語 に 観 察 さ れ て い る 動 詞 的 受 動 文 に は 、 言 語 獲 得 の 瞬 時 モ デ ル の み で は 予 測 で き な い 特 性 を 含 ん で い る こ と が 予 測 され る 。 こ の よ う な 現 象 の 獲 得 の メ カ ニ ズ ム に 一 定 の 説 明 を 与 え る こ と が 、 言 語獲 得 研究 の 今後の課 題 の一つ に なると 思 われる 。
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に (36%) 与 え て し ま う こと を 報 告 し て い る 。他 方 、(17b) の よ うに 先 行 詞 が 量 化表現の場合、子供が同様の誤りをする確率は概して低い (15%) ようであ る (=
ど の熊 i も彼 女自 身 iを洗った)。これはなぜであろうか。Chien and Wexler (1990) は、この差異に語用論的知識の獲 得の 有 無があ ると主張す る。次例 (18) を考察 し よう 。
(18) You know what Mary, Sue, and John have in common? Mary admires John, Sue admires John, and Johni admires himi too. (Heim 1998: 216)
先 行文 に おいて、 話 し手は 聞 き手に Mary、Sue、John の共通項 を知っ ている か ど う か を 確 認 し て お り 、 後 続 文 で は 上 記 の 三 人 の 共 通 項 に つ い て 言 及 さ れ るこ とが期待される。従って、Johnを 主 語とす る 文は、主 語 (John) が 代名詞 (him) を 束縛 す る解釈を 与 えるこ と でこの 語 用論的 な 要求を 満たすこと ができ る。(18) は 、先 行 文に依存 す ること で 束縛原 理 B 違反が緩和され、結果として同一文内 の 主 語 が 目 的 語 位 置 の 代 名 詞 を 束 縛 す る 解 釈 が 大 人 の 文 法 で は 可 能 で あ る こと を 示し て いる。*Johni admires himiの よ うな文 は束縛原理 B に 抵触し ており、元 々 は 非文 法 的と判断 さ れる。
Chien and Wexler (1990) は、6歳前 後 の英語 学 習者は ま だこの 種の語 用論的 知
識 の獲 得 過程にあ る ため、 先 行文を 含 まず束 縛 原理 B の 違反が緩和 される 余地 の な い (17a) の よ う な 場 合 に お い て も 主 語 が 代 名 詞 を 束 縛 す る 解 釈 を 許 容 して し ま う と 論 じ て い る 。17 こ の 分 析 は 、 談 話 上 先 行 文 と 結 び 付 き に く い 性 質 を 持 つ 普遍 量 化 詞 が主 語 で ある (17b) の よ う な 場合 に 、 同 じ月 齢 の 英語 学 習 者 が 適 切 に解 釈 できるこ と から支 持 される。every を含む限定詞句は、「全ての熊が例外 な く 」 の よ う に 集 合 を 構 成 す る 全 て の 成 員 に 聞 き 手 の 注 意 が 向 け ら れ る よ うに 話 し手 が 意図する 点 で特定 的 (specific) と考えられる。他方、このような句は代 名 詞 な ど と 異 な り 、 聞 き 手 が 談 話 を 考 慮 し て 指 示 対 象 を 唯 一 的 に 同 定 す る 場合 に 用い ら れること は できな い 。Chien and Wexler (1990) による提案は、言語獲得 に お け る 発 達 的 側 面 が 統 語 論 の よ う な 単 一 の モ ジ ュ ー ル に お い て の み で な く、
統 語 論 と 語 用 論 の イ ン タ ー フ ェ イ ス に 関 わ る 領 域 に も 観 察 さ れ る こ と を 指 摘し た 点で 、 その後の 言 語獲得 研 究に大 き な影響 を 与えて いる。
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ここで、統語論と語用論の イ ン タ ーフェ イ スに関 わる現象と して空 主語を再 度 考察 し よう。英 語 を母語 と する子 供 は 生後 2 年程度、主語を産出しない場合 が あ る こ と を す で に 述 べ た が 、 こ こ で は Sorace (2005)、Belletti, Bennatti, and
Sorace (2007) によ るイ タリ ア語 に お ける空 主 語の獲 得を考察す る。よ く知ら れ
て いる よ う に、 イ タ リ ア語 で は 定形 節 に お いて 空 主 語が 許 容 さ れる 。 次 例 (19) を 考察 し よう。
(19) A: Perchè Maria non ha parlato con nessuno?
Why Maria not has talked to anyone
‘Why hasn’t Mary talked to anyone?’
B: Perchè #lei/ Ø è roppo timida.
Because she/ Ø is too shy ‘Because she is too shy.’
(Sorace 2005: 59)
(19) の 先 行文 (A) において、主語である Mariaは話し手 と聞き 手が共有す るト
ピ ッ ク と し て 解 釈 す る の が 最 も 自 然 と 判 断 さ れ る 。 こ こ で 注 目 す べ き は 後 続 文 (B) の容 認性であ る。空主語 の 認可は 統 語論で行 われる 一方、イタリ ア語で は談 話 上 、 主 語 が 話 し 手 と 聞 き 手 が 共 有 す る 旧 情 報 の 場 合 は 通 例 、 空 主 語 が 用 いら れ る。 先 行文 (A) に おい て Maria に つ いてす で に言及 されている ので、 後続 文 (B) では (Ø で 表記 され る) 空 主語が 好 まれる。Sorace (2005)、Belletti et al. (2007) に よ る と 、 英 語 の よ う な 非 空 主 語 言 語 を 母 語 と す る 大 人 の イ タ リ ア 語 学 習 者を 対 象 に 心 理 実 験 を す る と 、 イ タ リ ア 語 の 熟 達 度 が 母 語 話 者 並 み に な っ て も イタ リ ア 語 の 母 語 話 者 よ り も 顕 在 的 に 主 語 を 使 用 し 続 け る 傾 向 が あ る 。18 一 方 、 イ タ リア 語 の 母 語話 者 が 非空 主 語 言 語の 英 語 圏に 長 期 間 滞在 す る と、(19) のよ う な 文 脈 で 顕 在 的 な 主 語 を 用 い て し ま う こ と が 報 告 さ れ て い る (Tsimpli, Sorace, Heycock, and Filiaci 2004)。19
Sorace に よる一 連 の実験 結 果は、非空 主 語言語 (e.g. 英語) を母 語とす る第 二
言 語学 習 者にとっ て 空主語 の 獲得が 困 難であ る だけで なく、空主語 言語 (e.g. イ タ リ ア 語) の 母 語 話 者 が 非 空 主 語 言 語 の 第 二 言 語 の 影 響 を 受 け る こ と を 示 し て い る。 こ こで、束 縛 原理 B の獲得と空主語の獲得は語用論が関わっている点で
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共 通す る 一方、相 違 点もあ る ことに 気 づく。 つ まり、 束縛原理 B は 6 歳以降の あ る 時 期 に 獲 得 さ れ 、 そ れ と ほ ぼ 同 時 期 に 当 該 の 知 識 は 安 定 状 態 に 達 す る と考 え られ る のに対し 、空 主 語は 2 歳 前後に 獲 得されて も環境 要因 (つまり、第二言 語 の入 力) の影 響を 受け やす く、その状 態 は大人に なって も変わらず に続い てい く 。こ の 点で、後 者 の習得 は 前者の そ れに比 べ て困難 と推測され る。20
名 詞 複合 語の意 味 に目を 向 けると、主要部 の位置は語 構造で 決定される 一 方、
複 合 語 内 の 意 味 関 係 は 語 用 論 に 依 存 し て 決 定 さ れ る 。 つ ま り 、 意 味 関 係 の 決定 に 語 用 論 が 関 わ る 以 上 、 そ の 獲 得 に は 一 定 期 間 を 要 す る と 考 え ら れ る 。 学 習者 が 意味 関 係に関す る 知識を 獲 得した 後 、そ れが安 定状態に達 する (つまり、当該 の 知識 が 環境要因 の 影響を 受 ける) か 否かと いう観点か らする と、想定 されるシ ナ リオ は 以下の二 つ である 。
(20) a. 意 味 関係 の獲 得が 束縛 原 理 B の獲得 と 同質の ものならば 、子供 は複合語
内の 意味 関係 を生 後の あ る時 期 に獲得し 、その後当該 の知識は安定 状態 に達 する 21
b. 意 味関 係の 獲 得が 空主 語 の 獲得 と 同質 のも のな らば 、 意味 関係 の獲 得 ・
処理 は生 涯を 通し て困 難 であ り、子供 だけでなく 大人で あっても相 当程 度の 誤り を起 こす 22
筆 者 が 行 っ た 実 験 で は 、 日 本 語 を 母 語 と す る 子 供 に 加 え て 大 人 を 被 験 者 と して コ ン ト ロ ー ル 実 験 を 行 う こ と で 、 両 グ ル ー プ の 主 要 部 課 題 と 意 味 課 題 の 正 答率 を そ れ ぞ れ 比 較 ・ 検 討 し 、 そ れ に よ り 複 合 語 内 の 意 味 関 係 の 獲 得 が (20a-b) の ど ちら の シナリオ を 辿るの か を検証 し た。