第 3 章
3.2 母語 知識の発達 的要因
3.2.2 成熟
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ジ ャ ワ語 不 可 不可
セ ルビ ア-クロ ア チア語 不 可 不可
Snyder の分析 によ れば、子 供は言語 入 力に基づ いて複合 形 成パラメ ータの値を
設 定 し 、 そ の 値 に 基 づ い て 結 果 構 文 を 使 用 で き る か 否 か が 自 動 的 に 導 き 出 され るので、後天的に結果構文を学習する必要はない。ここで考えられる予測は、[+
TCP] の 言 語 を 母 語 と す る 子 供 は ほ ぼ 同 時 期 に 生 産 的 な 名 詞 複 合 語 と 結 果 構 文 を 獲得 す るという も のであ る 。Snyder (2001) はこの予測 の妥当 性を検証す るた め に、 英 語を母語 と する 10 名の 子 供 (録音 開 始時の 月齢: 17 ヶ月) の自 然発 話 コ ー パ ス を 分 析 し 、 結 果 と し て 名 詞 複 合 語 と 結 果 構 文 の 産 出 の 開 始 時 期 に は強 い相関が見られ、英語ではこれらが 2 歳 前 後に獲 得されると 指摘し ている。8 そ う する と 、Snyder の分 析 が正 し い 限りに お いて複合 形成パ ラメータは (5) の基 本 的パ ラ メータに 含 めるこ と ができ る であろ う 。
基 本 的 パ ラ メ ー タ と そ れ 以 外 の パ ラ メ ー タ と い う 時 間 軸 に 基 づ く 二 分 法 に 何 が 関与 し ているか を 明らか に するこ と は興味 深 い問題 であるが、例 えば Yang and Roeper (2011) は (5) に 挙 げ ら れ て い る 基 本 的 パ ラ メ ー タ に 関 わ る 現 象 は 他 の 現 象 に 比 べ て 概 し て 言 語 入 力 の 頻 度 が 高 く 、 こ れ が 獲 得 時 期 に 影 響 し て い る可 能 性を 示 唆してい る 。
一 方 Baker (2001) は、 パラ メ ー タには 階 層が存在 し、あ るパラメー タ値 の設
定 が 早 期 に 設 定 さ れ る 他 の パ ラ メ ー タ 値 に 依 存 す る と い う 関 係 が 成 り 立 つ と主 張 し て い る 。 普 遍 文 法 が 限 り な く 簡 素 化 さ れ 最 適 に 設 計 さ れ て い る と い う 前提 に 立 つ と 、 パ ラ メ ー タ の 数 が 多 い こ と は 理 論 的 に 望 ま し い こ と で は な く 、 その 存 在 を 検 証 に は 二 つ 以 上 の 現 象 や 言 語 を 比 較 ・ 考 察 す る こ と が 不 可 欠 と 思 われ る 。 い ず れ に せ よ 、 パ ラ メ ー タ の 二 分 法 に 対 す る 子 供 の 発 話 デ ー タ に 基 づ く研 究 が 開 始 さ れ た の は 比 較 的 最 近 の こ と で あ り 、 こ の 問 題 を 解 明 す る こ と は 言語 獲 得研 究 における 今 後の大 き な課題 の 一つと な る。
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位 置 づ け て い る が 、 こ の 仮 説 は 普 遍 文 法 の 特 性 に は 日 常 生 活 に お け る 言 語 入力 の 頻 度 の 度 合 い な ど を 問 わ ず 生 物 学 的 特 質 と し て 発 達 過 程 の あ る 段 階 に 到 達す る ま で 発 現 し な い も の が あ る と 考 え る も の で あ り 、 成 熟 仮 説 (Maturation Hypothesis) と 呼ば れる (Felix 1984、Borer and Wexler 1987)。 先行研究において 成 熟が 関わりう る 普遍 文法 の特 性 と して論 じ られてい るもの と して、(i) 機能範
疇、(ii) 動 詞的受動文 が 挙げら れ る 。
(i) に 関 し て は 英 語 を 母 語 と す る 子 供 が 多 語 発 話 初 期 に か け て 不 完 全 な 文 を 産 出す る ことをす で に述べ た が 、例 え ば Radford (1999) は (12a-c) に示 され る よ うな英語 を母語と する 子供 の 発話資料 を基に、機 能範疇 (捕文標識、 時制辞、
決 定詞 など) の 獲得 は総 じて 語彙 範疇よ り も遅い ことを指摘 し 、機能範疇が句構 造 で発 現 されるの は 生後 24 ヶ 月 前 後であ る と 論じて い る。
(12) a. 一 語発話期: no / gone / up / dirty / milk
b. 二 語 発話 期: all dry. / I sit. / boot off. / see pretty. / slipper doggie. / throw Daddy.
c. 多 語発話期: Mommy eat cookie. / Drink apple juice again. / Why kitty sleep?
(今西 1999: 54)
一 方 、 フ ラ ン ス 語 、 ド イ ツ 語 、 日 本 語 な ど を 母 語 と す る 子 供 の 発 話 資 料 に 基づ い てこ れ らの言語 学 習者は 2 歳 前 後 ですで に 機能範 疇を獲得し ている という主 張 もさ れて おり、 現 在も統 一 的な見 解 には至 っ ていな い。9 これらの 主張の 差 異 が個 別 言語の特 性 に起因 す るもの な のか、ある いは時制辞、軽動詞 などの各 々 の 機 能 範 疇 の 特 性 に 起 因 す る も の な の か ど う か は 興 味 深 い 問 題 で あ る が 、 心理 実 験の 実 施が困難 な 2 歳前後における子供を対象に言語獲得を考察するには彼 ら の 発 話 資 料 が 不 可 欠 な た め 、 先 行 研 究 の よ う に 分 析 対 象 の 子 供 が 極 め て 少 数 (1~3 名程 度) にな らざ るを 得な いとい う 問題を抱 える。 この月齢に おける 相当 数 の 子 供 の 発 話 資 料 を 入 手 し て 分 析 す る こ と は 容 易 な こ と で は な い が 、 そ うす る こと で 先行研究の主 張 の妥当 性 を検証 す ること ができるで あろう 。
(ii) に関 しては 、やはり 英 語を 母 語 とする 子 供が 動詞的 受動文 (及び繰上げ構
文 な ど) を 形 容 詞 的 受 動 文 よ り も 遅 れ て (4~5 歳 に) 獲 得 す る こ と が 知 ら れ て
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い る (Maratsos, Fox, Becher, and Chalkley 1985、Borer and Wexler 1987)。動詞的受 動 文と形 容詞的受動文 は それ ぞれ (13a-b) に例示さ れる。
(13) a. Mary was seen by John. (cf. John seem s to have left.)
b. These dolls were combed by Mary. (Driva and Terzi 2007: 188 -189).
Borer and Wexler (1987) はこれら 二つ の文の 獲得 時期 の違 いは成 熟に 還元 さ れ
ると主張する。すなわち、(13a) のよ う な 動 詞的受動 文 の派生に のみ目 的語の 主 語 位 置 (正 確 に は 時 制 辞 句 の 指 定 部) へ の 項 移 動 が 関 わ る と 一 般 に 分 析 さ れ る が 、項移 動には成熟が関与しその発現には一定期間を要するため、(13b) のよ う な 形 容 詞 的 受 動 文 に 比 べ て 獲 得 時 期 が 遅 い と 説 明 さ れ る 。10 こ の 分 析 が 正 し い な ら ば 、 生 物 学 的 特 質 で あ る 成 熟 は 人 種 を 問 わ な い は ず な の で 、 他 の ど の 言 語 に お い て も 動 詞 的 受 動 文 の 獲 得 時 期 が ほ ぼ 同 時 期 で あ る こ と が 予 測 さ れ る 。 例
え ば Pierce (1992)、Sugisaki (1999) はそれぞれスペイン語と日本語を母語とする
子 供 を 被 験 者 と し て 心 理 実 験 を 行 い 、 そ の 結 果 を 基 に こ の 予 測 を 支 持 す る 議 論 を展開している。11 他方、Demuth (1989) は、バントゥー諸語 (Bantu languages) に 属 す るセ ソト語 (Sesotho) を母語とする 6 名の子 供 (2~3 歳) の自然発話資 料 を 分 析し 、彼らは 3 歳 以前の 段 階です で に大人と 同程度 の割合で動 詞的 受動 文 を 産 出し ていること か ら、彼 ら は少な く とも 3 歳 (正確には 2 歳 8 ヶ月) ま で に 動 詞的 受動文の知 識 を獲得 す ると論 じ ている。12 SVO 語 順であるセ ソト 語 の 能 動文 とその動詞 的 受動文 は 、それ ぞ れ (14a-b) に例示 される 。13
(14) a. Thabo o-pheh-il-e lijo.
Thabo SM-cook-PRF-M food ‘Thabo cooked the food.’
b. Lijoi. li-pheh-il-o-e ei (ke Thabo).
food SM-cook-PRF-PASS-M (by Thabo)
‘The food was cooked (by Thabo).’
(Demuth 1989: 59)
(14b) は英 語 の動 詞 的受 動 文と 同様 に 、 受動 形 態素 (-o) が 外項 の 意味 役割 及 び
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内 項 に 与え る格を吸収 し 、結 果と し て 格を与 えられてい ない (あるいは解釈不可 能 な 格 素 性 が 照 合 さ れ て い な い) 目 的 語 (lijo) が 主 語 位 置 へ 義 務 的 に 移 動 す る と 分 析 され る (Chomsky 1981; 1986)。
そ う す る と 、 心 理 実 験 を 行 う か 、 あ る い は 自 然 発 話 資 料 の 分 析 か と い う 手 法 の 違 い は あ る も の の 、 項 移 動 に 関 す る 成 熟 仮 説 の み で は セ ソ ト 語 学 習 者 と 英 語 な ど の 学 習 者 の 間 に 観 察 さ れ る 獲 得 時 期 の 相 違 を 説 明 で き な い と い う 問 題 が 生 じ る 。 で は 、 な ぜ セ ソ ト 語 学 習 者 は 動 詞 的 受 動 文 の 獲 得 時 期 が 概 し て 早 い の で あ ろ う か。Demuth (1989) は、セソト語の談話の性質がその獲得時期に重要な役 割 を 果 たす と主張する 。 まず、 次 例 (15a-b) を考察する 。
(15) a. *Mang o-pheh-ile lijo?
who SM-cook-PRF food ‘Who cooked the food?’
b. Lijo li-pheh-il-o-e ke mang?
food SM-cook-PRF-PASS-M by who ‘The food was cooked by who? ’ (ibid.: 67-68)
セ ソ ト 語 に は 主 語 が 旧 情 報 で な け れ ば な ら な い と い う 話 題 化 主 語 制 約 (topical subject constraint) が存 在す るが (Louwrens 1981)、(15a-b) に見 られる 対比は 話 し 手と 聞 き手が共 有 する 旧 情報を 担 えない wh 句が主語として用いられる場合、
受 動文 で なければ な らない こ とを示 し ている 。Demuth (1989) は (i) セソト語学 習 者 が 初 期 段 階 で 主 語 位 置 に 新 情 報 を 担 う 要 素 を 使 用 す る こ と は 稀 で あ る こ と
(つまり、話題化主語制約が初期段階で獲得されると考えられること)、(ii) セソ
ト 語 で は 大 人 同 士 の 会 話 や 大 人 が 子 供 に 話 し か け る 発 話 に お い て 、 受 動 文 が用 い ら れ る 頻 度 が 英 語 な ど に 比 べ て 高 い こ と か ら 、 セ ソ ト 語 学 習 者 と 英 語 な どの 学 習 者 の 間 に 観 察 さ れ る 獲 得 時 期 の 相 違 は 頻 度 と 談 話 の 性 質 に 起 因 す る も ので あ ると 論じ ている 。Demuth (1989) の 主 張は成 熟仮説と矛 盾 するも のではなく 、 動 詞 的 受 動 文 の よ う に 生 後 一 定 期 間 を 経 な い と 獲 得 で き な い 現 象 に 対 し て 成熟 の 関 与 を 認 め る 一 方 、 当 該 の 現 象 の 獲 得 に は そ れ だ け で な く 頻 度 や 個 別 文 法の 関 与も 認 めるとい う 考え方 で ある。14
本 節 で 概 観 し た 現 象 の 獲 得 時 期 に は 実 験 の 手 法 や 対 象 と な る 言 語 に よ っ て一
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定 の 差 が 観 察 さ れ る た め 、 先 行 研 究 の 主 張 の 妥 当 性 を 検 証 す る に は 実 証 的 なデ ー タ に 基 づ い た 更 な る 研 究 が 必 要 で あ る 。 適 切 に 産 出 ・ 処 理 で き る よ う に なる ま で に 一 定 期 間 を 要 す る こ と が 複 数 の 言 語 に 観 察 さ れ て い る 動 詞 的 受 動 文 に は 、 言 語 獲 得 の 瞬 時 モ デ ル の み で は 予 測 で き な い 特 性 を 含 ん で い る こ と が 予 測 され る 。 こ の よ う な 現 象 の 獲 得 の メ カ ニ ズ ム に 一 定 の 説 明 を 与 え る こ と が 、 言 語獲 得 研究 の 今後の課 題 の一つ に なると 思 われる 。