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日本語名詞複合語の獲得に関する研究 ―意味判断課題にもとづいて―

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(1)

日本語名詞複合語の獲得に関する研究 ―意味判断

課題にもとづいて―

著者

江村 健介

学位授与機関

Tohoku University

学位授与番号

11301甲第16487号

URL

http://hdl.handle.net/10097/59660

(2)

i

士 論 文

日本語名詞複合語の獲得に関する研究

―意味判断課題にもとづいて―

村 健 介

2014 年

(3)

ii

目次

第 1 章

序論

1.1 研究の目的 1

1.2 論文 の構成 4 [註釈] 6

第 2 章

名詞複合語の (非)生産性と

2.1 動 詞由来名詞 複合 語 7

親密性

2.2 主要 部構造 12 2.2.1 外心複合語と内心複合語 12 2.2.2 レベルの順序付け 15 2.2.3 複合語の親密度 26 2.3 文法における語形成の位置づけ 33 [註釈] 44

第 3 章

言語獲得における変異性と

3.1 生 成文法 理論に基づ く言語 獲得へ の

その要因

ア プロー チ 54

3.2 母語 知識の発達 的要因 57 3.2.1 パラメータ値の設定 57 3.2.2 成熟 61 3.2.3 語用論的知識 65 3.3 モノ リンガルに よる名 詞複合語の 獲得 68 3.3.1 生産的な名詞複合語の獲得 69 3.3.1.1 絵選択課題と誘引発話課題 69

(4)

iii

(2009) 73

3.3.2 非生 産的な 名詞複合語 の獲得 75 3.3.2.1 Clark and Berman (1987) 76

3.3.2.2 Nicoladis (1999) 78

3.4 バ イリンガ ルによ る名詞複合 語の 獲得 81

3.4.1 言語間転移 81

3.4.2 Nicoladis (2002) 85

3.4.3 Foroodi-Nejad and Paradis (2009) 86 3.5 残された課題 88 [註釈] 90

第 4 章

日本語モノリンガルによる

4.1 実 験 の概要 98

名詞複合語の獲得

4.2 被 験者 99

4.3 刺激 99

4.4 実験の 装置と 手続き 101 4.5 結果 103 4.6 考察 112 4.6.1 獲 得時期の再 考 113 4.6.2 内 心性と意味 関係の 対比 114 4.6.3 親 密度と DM 仮説 117 4.6.4 意 味関係の獲 得 124 4.7 結語 128

[註釈 ] 129

(5)

iv

第 5 章

日仏バイリンガルによる

5.1 実 験の概 要 134

名詞複合語の獲得

5.2 フ ランス 語の名詞複 合語と 類似表 現

134 5.3 被験者 138

5.4 刺激と 実験手 続き 138 5.5 結果 141 5.6 考察 145 5.6 .1 言 語 間 転 移 と 親密 度 146 5.6 .2 言 語間転移と その要 因 148 5.6 .3 文 法 の 言 語 間 作用 154 5.7 結語 156

[註釈 ] 159

第 6 章

結論

6.1 議 論の総 括 161

6.2 今後の 展望 164

参考文献

166

付録

181

謝辞

197

(6)

第 1 章

序論

1.1 研究の 目的

自 然 言 語 に は 二 つ 、 あ る い は 三 つ 以 上 の 名 詞 を 組 み 合 わ せ る こ と で よ り 大き な 語 を 作 り 出 す こ と を 許 容 す る 言 語 と 許 容 し な い 言 語 が あ り 、 日 本 語 は 前 者に 属 す る こ と が 広 く 知 ら れ て い る (Snyder 1995、 Hiramatsu, Snyder, and Roeper, Storrs, and Saccoman 2000、 Beck and Snyder 2001)。 二 つ以上の名 詞を組 み合わ せ る こ と に よ っ て 形 成 さ れ る 語 は 名 詞 + 名 詞 複 合 語 (noun-noun compounds) と 呼 ばれ る 。 (1) a. リ ンゴ + ジ ュ ース  リ ンゴ ジュ ース b. リ ンゴジュ ース + レ シ ピ  リ ンゴジュ ース レシピ (2) a. 景 気 + 回復  景 気 回 復 b. 景気 回復 + 報告  景 気 回 復 報告 (1a-b) は 外 来 語 の 複 合 語 、 (2a-b) は 漢 語 の 複 合 語 で あ る が 、 こ れ ら の 例 が 示 す よ う に 日 本 語 で は 名 詞 と 名 詞 を 組 み 合 わ せ る こ と で 生 産 的 (且 つ 回 帰 的 ) に 新 語 を作 る ことがで き る。興味 深い こ と に、日 本 語の大 人の母語話 者 で あれば、(1a) の 「 リ ン ゴ ジ ュ ー ス 」 が 「 リ ン ゴ を 原 料 と し た ジ ュ ー ス 」 の こ と を 表 し て いる こ とを 無 意 識 的に 理 解 する こ と が でき る 。 また 、 (1b) の 「 リ ン ゴジ ュ ー ス レ シ ピ」、(2b) の「景気回復報告」のように複合語内の要素の数が増えると記憶力や 注 意 力 な ど の 影 響 で 解 釈 す る の に よ り 時 間 を 要 す る と 思 わ れ る が 、 大 人 で あれ ば「リンゴジュースレシピ」は何らかの「レシピ」のこと、「景気回復報告」は

(7)

2

何 らか の 「報告」 の ことを 表 してい る ことを 理 解する ことができ る。

このように、日本語の大半の名詞複合語には、範疇 (及び多くの場合、意味も) の 中核 要 素 であ る 「 主 要部 」 が存 在 し 、 (下 線部 で 示 され る) 主要 部 は 最も 右 方 (後 方 ) に 位 置 す る 。 こ の よ う に 主 要 部 が も っ と も 右 方 に 来 る 規 則 を 右 側 主 要 部 の 規則 (Right-hand Head Rule) と呼ぶ (Williams 1981)。他方、左側の要素は修飾 語 で あ り 、 主 要 部 を 意 味 的 に 限 定 す る 働 き を す る 。 (1a-b) を 樹 形 図 で 示 す と (3a-b) の ようにな る 。 (3) a. リ ン ゴジ ュ ー ス b. リンゴジュ ース レシピ ei ei リ ンゴ ジ ュース ジュース レシピ ei リンゴ ジュース 主 要 部 を 含 む 構 造 は 「 内 心 的 」 と 呼 ば れ 、 内 心 構 造 は そ の 形 態 的 ・ 統 語 的 な性 質 を 決 定 す る 主 要 部 を 含 ん で い る 。 構 造 の 内 心 性 は 、 生 成 文 法 理 論 に お い て 自 然 言語 が もつ構造 の 特徴の 一 つとさ れ てきた (Chomsky 1970、1981)。 生 成 文 法 理 論 で は 「 言 語 知 識 の 解 明 」、「 言 語 使 用 の 解 明 」 と 並 ん で 「 母 語 獲 得 の 解 明 」 を 一 貫 し て 主 要 な 研 究 課 題 の 一 つ と し て 設 定 し て い る が (Chomsky 1973; 1986)、1 日本 語と 同様 に 生 産 的 な内心 複 合語を 許容する英 語を母 語とする 子供 が、2 歳前後という言語獲得の早期段階において名詞複合語を産出・理解す る こ と が 報 告 さ れ て 以 降 、 名 詞 複 合 語 の 知 識 の 獲 得 に 関 す る 多 く の 心 理 言 語学 的 研究 が な され て き た 。 こ の 背景 に は 、 (大 半の ) 名 詞 複合 語 が内 心 性 を有 す る と い う 句 構 造 と の 共 通 点 だ け で な く 、 機 能 範 疇 を 含 ま な い と い う 句 構 造 と の相 違 点を 抱 えている と いう二 面 性を 持 つ こ とが 後述 のよう に関わっ ている。 日本 語 の 言語 サ ン プ ルを 与 え られ る 子 供 は、「 マ ンマ (お 母 さん )」「 ブー ブ ー (ミ ニ カー)」などの意味のある語を 1 歳前後の一語発話期に産出するようになり、 1 歳 半 前後 に な る と 意 味 の あ る 二 つの 語 を組み 合わせる二 語発話 期 へ と 移 行 し、 こ の時 期 に語彙の 獲 得が急 速 に進行 す る (Gentner 1982)。二語発話の中心は語彙 範 疇 (主に名詞) であり、助詞などの機能範疇が頻繁に脱落されるなど文として

(8)

3 は 不完 全 な面が観 察 される (瓜生 1997、永江 2006)。その後、3 歳を過ぎる頃に は 発 話 能 力 が 著 し く 発 達 し 、 三 つ 以 上 の 語 を 組 み 合 わ せ る 多 語 発 話 が で き るよ う にな り 、5~6 歳頃までには埋め込み文などを含む複雑な表現を用いて意思疎 通 がで き るように な る (藤井 2010)。このような言語 発達過程を踏まえると、機 能 範 疇 の 習 得 過 程 に あ る 子 供 を 被 験 者 と し て 内 心 構 造 の 獲 得 を 実 証 的 に 調 査・ 考 察 す る に は 、 機 能 範 疇 を 含 ま な い 特 性 を も ち 、 二 語 も し く は 、 三 語 以 上 とい う 少 数 の 語 に よ っ て 構 成 さ れ る 名 詞 複 合 語 は 最 適 な 言 語 現 象 の 一 つ と 考 え られ る 。2 また、内心性 や 主要 部 とい う 概念 は両 親 などか ら直接教わ るわけ ではない に も か か わ ら ず 、 子 供 が 早 期 段 階 で 名 詞 複 合 語 を 産 出 ・ 理 解 す る よ う に な るの で あ れ ば 、 名 詞 複 合 語 の 獲 得 を 実 証 的 に 研 究 す る こ と は 、 生 成 文 法 理 論 で 言う と ころ の「プラトンの 問 題 」、すなわち「言語獲得の生得 説」の妥当性を検証す る 上で理 論的に 意 義が ある (竝木 2009)。3 名 詞 複合 語の獲 得 に関す る 心理言 語 学的研 究 は 20 年以上に渡って行われてお り 、 複 合 語 の 獲 得 時 期 と 生 産 性 及 び 頻 度 に は 通 言 語 的 に 相 関 が あ り 、 複 合 語が 生 産的 な 言語を母 語 とする 子 供は 2 歳半前後~4 歳、複合語が非生産的な言語を 母語とする子供は 4~5 歳にかけて複合語を獲得すると 一般的に考えられている (Clark 1981、Clark, Gelman, and Lane 1985 、Clark and Berman 1987、Mellenius 1997、 Sugisaki and Isobe 2000 など )。4 し か しなが ら 、従来 の主たる論 考の対 象は英語 を 中 心 と し た ゲ ル マ ン 語 派 の 言 語 で あ り 、 ゲ ル マ ン 語 派 以 外 の 複 合 語 形 成 が生 産 的 な 言 語 を 対 象 と し た 先 行 研 究 は 数 が 乏 し い 。 こ れ を 踏 ま え て 日 本 語 を 見る と 、日 本 語は (1) や (2) に示されるよう に生産的な複合語形 成が可能である一 方で、比較言語学の観点からは他の言語 と共通 の語族に属 さない 孤立言語 (ある い は日 本 語族) である (町田 2008)。従って、日本語を母語とする子供が生産的 な 複 合 語 形 成 を 許 容 す る 他 の 言 語 を 母 語 と す る 子 供 と 同 時 期 に 複 合 語 の 知 識を 獲 得 す る の か 、 あ る い は 両 者 に 違 い が 存 在 す る の か 、 そ し て 存 在 す る な ら ば、 そ れ は ど の よ う な も の か を 考 察 す る こ と は 、 こ れ ま で 仮 定 さ れ て き た 普 遍 文法 の 特 性 と 言 語 獲 得 の メ カ ニ ズ ム を 通 言 語 的 な 視 点 か ら 経 験 的 に 検 証 す る 上 で重 要 と な る 。 ま た 、 日 本 語 の 複 合 語 形 成 に は 英 語 の 複 数 形 標 示 や オ ラ ン ダ 語 の接 辞 付 加 の よ う な 形 態 的 変 化 が 関 与 し な い た め 、 形 態 的 変 化 に 関 わ る 負 荷 を 子供 に 与 え る こ と な く 、 複 合 語 の 内 心 性 や 意 味 の 獲 得 を 調 査 ・ 考 察 す る こ と が 可能

(9)

4 で ある 。5 こ の よ う な 背 景 を 踏 ま え 本 論 文 で は 、 生 成 文 法 理 論 の 枠 組 み に 基 づ き 日 本語 モ ノ リ ン ガ ル 及 び 日 本 語 と フ ラ ン ス 語 の バ イ リ ン ガ ル に よ る 名 詞 複 合 語 の 内心 性 と 意 味 の 獲 得 過 程 の メ カ ニ ズ ム を 解 明 す る こ と を 目 的 と す る 。 こ れ に よ り、 言 語 獲 得 に お け る 発 達 的 側 面 と そ の 要 因 を 明 ら か に し 、 ヒ ト に 固 有 の 「 言 語機 能 」の 解 明に寄与 す ること を 目指す 。

1.2 論文の 構成

本 論 文の 構成は 以 下の通 り である 。 第 2 章では、先行研究に基づき従来指摘 さ れ て き た 日 本 語 に お け る 名 詞 複 合 語 の 諸 特 性 を 動 詞 由 来 名 詞 複 合 語 と 比 較し つ つ 、 形 態 的 ・ 意 味 的 な 観 点 か ら 考 察 す る 。 そ し て 、 典 型 的 に 語 形 成 が 生 産的 な の は 、 右 側 に 主 要 部 を 持 つ 語 幹 レ ベ ル で 形 成 さ れ る 複 合 語 で あ る こ と を 確認 す る 。 さ ら に 、 こ れ ま で 複 合 語 の 解 釈 の 難 易 度 を 説 明 す る 道 具 立 て と し て 先行 研 究 で 提 案 さ れ て き た 主 要 な 仮 説 を 概 観 し 、 筆 者 が 行 う 心 理 実 験 で は 親 密 度に 基 づ く 実 験 デ ザ イ ン を 採 用 す る こ と を 述 べ る 。 ま た 、 語 形 成 の 文 法 理 論 に おけ る 位 置 づ け に 関 す る 主 要 な 立 場 を 概 観 し 、 本 論 文 で は 語 形 成 を 辞 書 と 統 語 論に 認 める 両 立主義の立場 を採 用す る こ とを述 べ る。 第 3 章では、生成文法理論に基づく言語獲得研究の基本的な考え方を概観し た 上 で 、 言 語 獲 得 に は 生 得 的 な 側 面 だ け で な く 発 達 的 な 側 面 が 関 わ っ て い ると 考 え ら れ る こ と を 見 る 。 さ ら に モ ノ リ ン ガ ル の 名 詞 複 合 語 の 獲 得 に 関 す る 先行 研 究を 概 観し、英 語 学習者 な どが 4 歳頃までに複合語の知識を獲得するという 従 来 の 主 張 は 複 合 語 の 視 覚 提 示 に 基 づ く 実 験 デ ザ イ ン に 大 き く 依 存 し て い るこ と を 指 摘 す る 。 そ の 上 で 、 子 供 の 生 産 的 な 複 合 語 の 知 識 の 獲 得 を 考 察 す る には 複 合 語 の 視 覚 情 報 に 依 存 し な い 実 験 デ ザ イ ン の 下 で 検 証 さ れ な け れ ば な ら ない と論じる。同様にバイリンガルによる複合語の獲得に関する先行研究を概観し、 形 態 レ ベ ル の 言 語 間 転 移 が ど の よ う な も の か を 確 認 す る 。 そ し て 、 こ の 転 移を 説 明 す る た め に 指 摘 さ れ て き た 主 な 要 因 や 先 行 研 究 の 理 論 的 ・ 実 験 手 続 き 的問 題 点を 踏 まえて、 本 論文で 取 り組む べ き具体 的 な課題 について述 べる。 第 4 章では、先行する議論を踏まえて日本語モノリンガルを被験者として行 っ た 心 理 実 験 の 概 要 を 説 明 し 、 実 験 の 結 果 を 考 察 す る 。 帰 結 と し て 、 生 産 的な

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5 名 詞複 合 語の知識 が 獲得さ れ るのは 6 歳以降と考えられることから、本実験の 結 果 は 言 語 獲 得 が 発 達 的 段 階 を 経 て 達 成 さ れ る こ と を 示 す 経 験 的 な 証 拠 と なる と主張する。この主張は、言語機能がモジュール性を持つという仮説 (Chomsky 1995 な ど) と 合 致 す る 。 ま た 、 複 合 語 を 解 釈 す る 際 の 難 易 度 に は 主 観 的 評 定 値 で あ る 親 密 度 が 関 与 し う る と 考 え ら れ 、 こ の こ と は 活 用 形 の 産 出 ・ 処 理 に 複数 の 心的 メ カニズム が 関与し う るとい う 仮説 (Pinker 1991; 1999 など) を援用する こ とで 一 定の説明 を 与える こ とがで き ると論 じ る。 第 5 章では、日本語とフランス語のバイリンガルを対象に行った心理実験の 概 要 を 説 明 し 、 そ の 結 果 を 考 察 す る 。 帰 結 と し て 、 形 態 レ ベ ル に お け る 言 語間 転 移 が 生 じ た と 考 え ら れ る こ と 指 摘 し 、 こ の 結 果 が 特 定 の バ イ リ ン ガ ル 環 境が 言 語転 移 を引き起 こ すとい う 仮説 (Nicoladis 1999) と合致することを述べる。ま た 、 フ ラ ン ス 語 の 複 合 語 と 類 似 し た 特 徴 を 示 す 前 置 詞 句 に よ る 修 飾 を 含 む 名詞 句 な ど の 入 力 が 日 本 語 の 複 合 語 の 理 解 に 影 響 し て い る と 考 え ら れ る た め 、 類似 表 現 の 入 力 が 言 語 間 転 移 を 引 き 起 こ す と い う 分 析 (Müller 1998) が 経 験 的 に 支 持 され る と論じる 。 第 6 章では、各章で議論した内容を総括し、最後に残され た問題と今後の研 究 課題 に ついて触 れ て結論 と する。

(11)

6

1 例えば、Chomsky (1973: 273) は以下のように述べている。

“From the point of the view that I adopt here, the fundamental empirical problem of linguistics is to explain how a person acquires knowledge of language. ”

2 文 レ ベ ル (句構造) の刺激もまた内心性を有していると考えられるが、文の産 出 ・理 解 を考察す る には被 験 者が時 制 辞など の 機能範 疇を獲得し ている かどう か、という問題がついて回る。筆者自身が行った実験の被験者は平均 5.8 歳であ っ たの で 、文レベ ル の刺激 を 使用す る ことが 不 可能で はないにし ても、 彼らの 記 憶力 や 注意力に 関 わる負 荷 を軽減 で きる点 で 、語レ ベルの刺激 の方が 優れて い る。 筆 者が行っ た 実験の 詳 細につ い ては、 第 4 章で論じることにする。 3 言語獲得の「プラトンの問題」は「刺激の貧困」とも呼ばれ、概略、子供が生 後 に接 す る言語入 力 は個 人 差が大 き く、質 的 に も 量的にも貧 困であ ると考えら れ るに も かかわら ず 、なぜ 子 供 は 言語 入 力 (第一次言語資料) からのみでは引き 出 され な いような 豊 かな言 語 知識を 一 定期間 内 に均一 に備え て 、それを出 力で きる よ うに なるの か 、 と いう 問い の こ とをい う (Chomsky 1975、1986)。本章は 研 究の 目 的を述べ る ことに 主 眼を置 い ている の で、生 成 文法 理論が 仮定する言 語 獲得 モ デルの詳 細 につい て は第 3 章で述べることにする。 4「 頻 度 」 とは、 日常 生活 にお け る言 語 入力の 度 合い の ことを 意味する 。 5 英 語 で は 、複 合 語 内 の 修 飾 語 (第 一 要素の 名 詞 ) が規則 変化の 複数形標示 を 受

け ると 不 適格とな る が (e.g. *claws mark, rats eater)、不規則の場合は適格となる こ とが 知 られてい る (e.g. teeth marks, mice eater)。しかし、規則変化の複数形標 示 を受 け る場合に お いても そ れが複 数 形独自 の 意味を 表す場合、 例外的 に容認 可 能と な る (e.g. arms merchant, cloth brush)。前者は「武器商人」、後者は「洋服 ブラシ」の意味である。詳しくは Gordon (1985) を参照されたい。他方、オラン ダ 語で は 、派生接 辞 (-ing) が意味変化を伴うことなく自由に複合語に付加でき る こと が 観察され て いる (Don 2009: 371)。

(i) a. weer-voorspell / weer-voorspelling ‘weather forecast’ b. stad-vernieuw / stad-vernieuwing ‘city renewal’

(12)

7

第 2 章

名詞複合語の (非)生産性と親密性

子 供 を 被 験 者 と し た 名 詞 複 合 語 の 内 心 性 や 意 味 の 獲 得 を 調 査 し た 先 行 研 究で は 、 複 合 語 の 構 成 素 と な る 名 詞 と 名 詞 の 組 み 合 わ せ 方 や そ の 組 み 合 わ せ に 基づ く 下 位 タ イ プ な ど の 区 別 は 一 般 的 に 論 考 の 対 象 と さ れ て お ら ず 、 刺 激 と な る複 合 語 の 正 答 率 は 一 様 に 分 析 さ れ る の が 通 例 で あ っ た 。 一 方 、 大 人 を 対 象 と した 心 理言 語 学的実験 で は 1990 年代以降、名詞複合語を下位タイプに分類し分析し た 場 合 に 、 大 人 の 被 験 者 の 理 解 の 程 度 や 反 応 時 間 に 隔 た り が 観 察 さ れ る こ とが 指 摘 さ れ て い る 。 本 章 で は 、 ま ず 日 本 語 の 名 詞 複 合 語 を 動 詞 由 来 名 詞 複 合 語と 比 較 す る こ と で 、 両 者 の 容 認 性 が 馴 染 み 深 さ の 度 合 い に 依 存 す る 点 で 共 通 する 一 方 、 前 者 に は 項 構 造 に 関 わ る 制 約 が 課 さ れ な い こ と を 見 る 。 そ し て そ れ を踏 ま え た 上 で 、 前 者 が 「 主 要 部 」 や 「 レ ベ ル の 順 序 付 け 」 等 に 基 づ い て 下 位 タイ プ に 分 類 さ れ る こ と を 確 認 し 、 考 察 の 結 果 、 語 形 成 が 生 産 的 で あ る の は 語 幹レ ベ ル 以 上 の 複 合 語 で あ り 、 こ れ ら を 実 験 の 刺 激 と し て 使 用 す る こ と が 子 供 の 生 産 的 な 複 合 語 の 知 識 を 考 察 す る 上 で 重 要 で あ る と 述 べ る 。 本 章 の 後 半 部 で は、 文 法 モ デ ル に お け る 語 形 成 の 位 置 づ け に 関 す る 主 要 な 立 場 を 概 観 し 、 多 様 な語 形 成 の 特 性 を 文 法 モ デ ル の 単 一 の 部 門 に 還 元 す る こ と は で き ず 、 形 態 論 と 統語 論 の相 互 関係を認める 文法 モデ ル が より妥 当 であると 論じる 。

2.1 動詞由 来名詞 複合語

名 詞 複 合 語 は 「 リ ン ゴ ジ ュ ー ス 」 や 「 景 気 回 復 」 の よ う に 、 概 し て 「 二 つ以 上の 名 詞 を組 み 合わ せて 形 成 され た 語」 と定 義 さ れる (Marchand 1960)。で は 、 日 本 語 の よ う に 名 詞 複 合 語 が 生 産 的 な 言 語 で は ど の よ う な 名 詞 と 名 詞 が 組 み合 わ さ れ る の で あ ろ う か 。 ま た 、 言 語 習 得 過 程 に あ る 子 供 た ち は 右 側 主 要 部 の内

(13)

8

心 複 合 語 で あ れ ば 一 様 に 理 解 す る の で あ ろ う か 。 日 本 語 の 動 詞 由 来 名 詞 複 合 語 (deverbal noun compounds) と 比較 し つ つ、具 体 的に考察す る。

名 詞 複 合 語 の 構 成 素 に 基 づ く 分 類 や そ の 容 認 性 に 関 す る 考 察 の 詳 細 に つ いて は 次 節 以 降 で 述 べ る と し て 、 本 節 で は 動 詞 由 来 名 詞 複 合 語 に つ い て 考 察 す る。 よく 知ら れる よう に 、大 半の 動詞 由来 名 詞複 合語 (名 詞 + 動詞 型の 複合 語 ) は 動 詞由 来 の名詞と「 内 項」また は「 付加詞 」か ら形成さ れる。ま ず、次例 (1) を 考 察す る 。 (1) a. 行 為: 子育 て、 棒倒 し、 金 魚 すくい b. 特 徴 : 金持 ち、 うそ つき 、 物 知り c. 動 作主 : 相撲 と り、酒 飲 み、小 説 書き d. 道 具 : ねじ 回し 、 栓 抜 き、爪 き り e. 現 象: 地鳴 り 、崖崩 れ 、ガス 漏 れ f. 場 所 : 水た まり 、船 止め g. 時 間 : 夕 暮 れ 、夜 明 け 、夜 更 け (伊 藤・杉 岡 2002: 110-111) (1a-g) に 示される よ うに、日 本語 の動詞 由 来名詞複 合語は 句構造と同 様に (少な く とも 表 層的には) 主要部後置型である。(1a-g) は各々異なる意味関係を持って い る が 、 動 詞 由 来 の 名 詞 と 内 項 か ら 形 成 さ れ て い る 点 で 共 通 し て い る 。 内 項と は (1a-d) の よ う な 他 動 詞 の 目 的 語 、 ま た は (1e-g) の よ う な 非 対 格 動 詞 の 主 語 を 指す 。1 ここで、内項を他の名詞に置き換えた次例を考察しよう。 (2) *犬 育 て (cf. 犬を 育て る )、 *本持 ち (cf. 本を持 つ ) *木 倒し (cf. 木 を倒 す )、 ??魚す くい (cf. 魚をす くう ) (2) は い ずれ も (1) と 同じ 動詞 由 来の 名 詞を含む 複合語 であるが 、容認 性は 極 め て 低 い 。 こ の こ と は 、 動 詞 由 来 名 詞 複 合 語 の 容 認 性 は 言 語 コ ミ ュ ニ テ ィ に おい て日常生活 で使用さ れる頻度と 関連して いることを 示唆して いる。『広 辞苑 (第 六 版)』を用いて (1a-g) の記載の有無を調べてみると、記載がないのは「ガス漏 れ 」 と 「 小 説 書 き 」 の み で あ り 、 こ の こ と か ら も 動 詞 由 来 名 詞 複 合 語 は 頻 度に

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9 依 存し て 語彙化さ れ やすい こ とが分 か る。2 (1) は動詞由来の名詞と内項が複合されたものであるが、次例 (3) は副詞的要 素 であ る 付加詞も 複 合され る ことが で きるこ と を示し ている。3 (3) a. 道 具: ワ ー プロ書 き 、のり 付 け、手 作り、水洗 い b. 様 態 : 一人 歩き 、若 死 に 、早食 い 、立ち 読み c. 原 因: 船 酔 い、仕 事 疲れ、 霜 枯れ、 飢え死に d. 結 果状態 : 黒塗 り、 び しょ 濡 れ 、薄切 り 、四つ 割 e. 材 料: 石 造 り 、板 張 り 、木 彫 り 、毛 織 り (伊 藤・杉 岡 2002: 115) 付 加詞 + 動詞 型複 合語は (1) の内 項 + 動詞型複合 語と同 様に名 詞的に 用いら れ るこ と もあるが 、伊 藤・杉 岡 (2002) が指摘しているように、主に述語として 用 いら れ る。 (4) a. 動 作: ラベ ルを の り付け す る 、ケー キ を 手作り す る、 食器 を 水洗 い する 、 そばを早食いする b. 状態: 壁が黒塗りになる、 服がびしょ濡れになる 石造 り の家 、 板張りの部屋、 木彫りの熊 影 山 (1997) が観察しているように、他動詞由来の名詞が付加詞と複合される場 合 、 (4a) に 示 さ れ る よ う に 項 関 係 は 語 レ ベ ル で は 満 た さ れ ず 、 内 項 が 語 の 外部 に 表 出 す る こ と で 文 レ ベ ル に お い て 満 た さ れ る 。 つ ま り 、 内 項 は 動 詞 に よ って 選 択 さ れ る 義 務 的 要 素 で あ る た め 、 付 加 詞 が 動 詞 由 来 名 詞 と 複 合 さ れ る 場 合に 限 り、 義 務的に文 レ ベルに 放 出され る 。4 (3a-e) の付 加詞 + 動 詞型複 合 語につ い て『広 辞苑』で 調べてみる と、記載 さ れていないのは「ワープロ書き」と「仕 事疲れ」のみであり、内項 + 動詞型複 合 語 と 同 様 に 語 彙 化 さ れ や す い 傾 向 が 見 受 け ら れ る 。 こ の こ と は 、 付 加 詞 を他 の 要素 に 置き換え る と概し て 容認性 が 低くな る ことか らも支持さ れる。5 (5) ?ボ ン ド付 け (cf. ボ ンド で付 ける )、?三 人 歩き (cf. 三人 で 歩 く )

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10 ?遅食 い (cf. 遅く食 べ る )、 ?赤塗 り (cf. 赤 く塗る )、 動 詞 由 来 名 詞 複 合 語 は 動 作 や 状 態 の 名 付 け 機 能 を 有 す る た め 、 新 語 の 形 成 は概 し て 生 産 的 で あ り 日 常 的 に 観 察 す る こ と が で き る が 、 こ れ ら の 容 認 性 は 動 詞由 来 名 詞 の 複 合 が 無 制 限 に 許 容 さ れ る わ け で は な い こ と を 示 し て い る 。 こ れ はな ぜであろうか。(5) の例は、(判断は微妙であるが) いずれも不適格とは判断され な い点 に 注意され た い。ここで 、新 た な動詞 由来名詞複 合語の 容認性には (内項 や 付 加 詞 と い う よ う な ) 内 部 要 素 の 文 法 的 性 質 だ け で な く 日 常 生 活 に お け る 頻 度 も深 く 関わって い ると考 え てみよ う。つまり、(5) に示される例はいずれも不 適格と いう より (3a-e) に例 示され る語 彙化し てい る複 合語 よりも (日 常生 活 に お け る 使 用 ま た は 入 力 の 頻 度 が 低 く ) 馴 染 み が う す い と 述 べ る 方 が 正 確 と 思 わ れ る 。 動 詞 由 来 名 詞 と の 意 味 的 結 び つ き が 内 項 に 比 べ て 低 い 付 加 詞 を 含 む 複合 語 が 、 頻 度 に 依 存 し て 馴 染 み 深 く な り 容 認 性 が 一 層 向 上 す る こ と は 十 分 に あり う る。 一 方 、動 詞より も 構造上 高 い位置 (正確には時制辞句/TP の指定部) にあり、 線 形 的 に 動 詞 の 左 方 に 来 る 外 項 の 複 合 は 通 言 語 的 に 許 容 さ れ な い こ と が 知 られ て おり 、 これを「 内 項制約 」 と呼ぶ (Selkirk 1982、Mithun 1984、影山 1993)。6 (6) *学 生 倒し (cf. 棒 倒し )、 *力 士とり (cf. 相撲 と り ) *作 家書 き (cf. 小説 書 き )、 *弟 つき (cf. うそつき ) (6) に お い て 、例 え ば「 学 生 倒 し 」と い う 複 合 語 自 体 は 成 り 立 つ が 、そ の 意 味 は 「(運動 会 な どに お い て ) 学 生 が 棒を 倒 す」 と い うこ こ で 意 図さ れ た 意味 に は 対 応 しな い (影山 2009)。また、一般に外項しか持たないと分析される非能格動詞 は (7) に示されるように外項とともに複合されることはできない。 (7) *夫 婦 踊り、*若 者笑 い、 *犯 人 逃げ こ の よ う に 、 大 半 の 動 詞 由 来 名 詞 複 合 語 で は 項 の 複 合 が 内 項 制 約 と い う 項 構造 レ ベル の 制限を受 け る。7

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11 以 上 、 本 節 で は 日 本 語 の 動 詞 由 来 名 詞 複 合 語 を 考 察 し 、 動 詞 由 来 名 詞 複 合 語 の 派 生 が 内 項 制 約 に 従 う こ と 、 及 び 動 詞 由 来 名 詞 複 合 語 の 容 認 性 に は 馴 染 み深 さ が関 わ っている こ と を述べ た 。特に 前 者 に関して は (2.2.2 節で考察する名詞 複合語には 観察され ないため )、動 詞由 来名詞複合 語と名詞 複合語の各 々の生産 性 を特 徴 付ける上 で 重要な 役 割を担 っ ている 。 本 論 文 の 考 察 の 対 象 は 名 詞 複 合 語 で あ る が 、 こ こ で 日 本 語 を 母 語 と す る 子 供 が ど の よ う に 動 詞 由 来 名 詞 複 合 語 の 知 識 の 獲 得 に 至 る の か 、 先 行 研 究 が 多 数存 在 す る 他 動 詞 に 的 を 絞 っ て 考 察 し て み た い 。 項 構 造 の 獲 得 時 期 に 関 す る 先 行研 究 では、(主語、目的語などの) 項省略の可否 8、一致や助詞の有無、実験課題の 性 質 な ど の 変 数 の た め に 統 一 的 な 見 解 は 出 て い な い よ う で あ る が 、 最 近 の 二者 択 一方 式 を用いた 研 究では 、他動詞 文 は 2 歳半前後に理解し始めるのに対し、(非 能格動詞を 用いた ) 自動詞文は 3 歳以 降に理解し 始める と いう考え方 が主流で あ る (Arunachalam and Waxman 2010、姜・針生 2010 など)。こ こでは Arunachalam and Waxman (2010)、姜・針 生 (2010) に 従 っ て 、日 本 語 を 母 語 と す る 子 供 が 他動 詞 の項構 造に関する知 識 の獲得 に 至るの は 2 歳半前後であり、また内項制約は 普 遍 文 法 の 原 理 と し て 生 得 的 に 与 え ら れ て い る と 仮 定 す る 。 こ の 仮 定 に 基 づく と 、 日 本 語 学 習 者 は 以 下 の 道 筋 を 辿 っ て 動 詞 由 来 名 詞 複 合 語 の 知 識 を 獲 得 す る と 考え ら れる。 (8) a. 2 歳 半前 後ま でに 他動 詞が 二つの 項 を取るこ とを理 解する b. 各 々 の他動 詞と共 に 頻繁に 用 いられ る 付加詞の 存在に 気づく c. 日 本語 には 動詞 由来 名詞 複 合 語が存 在 し、動詞由来 名詞と 併合される 要 素 は 頻 度の高 い内項 ま たは付 加 詞 (のみ) であることに気づく 9 d. 動詞由来名詞複合語の産出を始める こ こ で 大 切 な こ と は 、 動 詞 由 来 名 詞 と と も に 複 合 さ れ る 要 素 が 適 切 か ど う か が (内 項 制 約 に 加 え て ) 馴 染 み の 度 合 い に 依 存 し て 決 定 さ れ る 以 上 、 (8b-c) の 過 程 を 経 る に は 一 定 期 間 を 要 す る と 考 え ら れ る こ と で あ る 。 生 産 的 な 名 詞 複 合 語を 許 容す る 言語では 、 早けれ ば 2 歳半前後に名詞複合語を獲得すると指摘されて い る点 に 注意され た い (Snyder 1995 など)。これを踏まえると、名詞複合語の獲

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12 得 時 期 に 関 す る 先 行 研 究 の 主 張 が 正 し い 限 り に お い て 、 子 供 が 動 詞 由 来 名 詞複 合 語 を 産 出 し 始 め る の は 名 詞 複 合 語 よ り も か な り 遅 い 段 階 で あ る こ と が 予 測さ れ る 。 具 体 的 に ど の 月 齢 で 子 供 が 動 詞 由 来 名 詞 複 合 語 の 知 識 を 獲 得 す る の かは 実 証 的 な 研 究 を 待 た な け れ ば な ら な い が 、 文 レ ベ ル と 語 レ ベ ル の 言 語 経 験 に依 拠 する た め獲得ま で に (2 歳半以降) 一定期間を要する、というのが動詞由来名 詞 複 合 語 の 習 得 面 に お け る 特 徴 と 考 え ら れ る 。10 ま た 、 子 供 の 動 詞 由 来 名 詞 複 合 語 の 産 出 資 料 を 調 査 す る こ と で 、 内 項 制 約 が 言 語 獲 得 の 初 期 段 階 か ら 機 能し てい る か 否か を 調 査 する こ と がで き る で あろ う 。 次節 で は 、 名詞 複 合 語の (非) 生 産性 に ついて考 察 する。

2.2 主要部 構造

動詞 由 来 名 詞 複 合 語 が 適 格 で ある か 否 か は 内 項 制 約及 び 頻 度 に 依 存 して 決 定 さ れ る が 、 修 飾 語 及 び 主 要 部 か ら 成 る 名 詞 複 合 語 が 適 格 で あ る 、 そ し て 生 産的 で あ る と 言 う と き 、 そ れ は ど の よ う な 場 合 で あ ろ う か 。 本 節 で は 、 名 詞 複 合語 の (非)生産性について主要部の観点から考察する。

2.2.1 外心複合語 と並列複合語

よ く 知 ら れ て い る よ う に 、 名 詞 複 合 語 は 主 要 部 の 観 点 か ら 内 心 複 合 語 以 外 に も 以下 の 二つのタ イ プが存 在 する。11 (9) 日 本語: ねこ ま た ぎ (影 山 2009: 6)、ウミ ネコ

(10) 中 国語: 大小 (dàxiăo) = ‘measure’ (Ceccagno and Basciano 2009: 482) (11) 英 語: redcoat = ‘British soldier ’

pickpocket = ‘a person who steals from people’s pockets’ (Plag 2003: 145) (12) デ ン マーク語: gulbug ‘yellow-belly’= ‘warbler ’ (Bauer 2009: 411) (13) ス ペ イン語: acroiris ‘bow iris’ = ‘rainbow’ (Kornfeld 2009 : 441)

(18)

13

(9-13) に 示 さ れ る よ う な 主 要 部 を 持 た な い 複 合 語 は 外 心 複 合 語 (exocentric compounds) と 呼ば れ、 外 心複合 語 は 名詞複 合 語が非 生産的とさ れるス ペイン 語 や フラ ン ス語など で も観察 さ れてい る (Kornfeld 2009、Scalise and Bisetto 2009 な ど)。12 (9) の「ウミネコ」を例にとると、「ウミネコ」は『広 辞苑』によれば 鳥 の 類 を 表 す が 、 当 該 の 語 の 内 部 に は 鳥 を 表 す 要 素 で あ る 主 要 部 が 存 在 し てい な い 。 外 心 複 合 語 は あ る 事 物 を そ れ と 深 い 関 係 に あ る 事 物 の 組 み 合 わ せ に よっ て 表す 換 喩 (metonymy) による名付け機能を持つことが知られるが、その特徴の た めに 生 産性は極 め て低く 語 彙化し た ものに 限 られる と考えられ る。実際、「ウ ミ ネ コ 」 や 「 ね こ ま た ぎ 」 は い ず れ も 『 広 辞 苑 』 に 記 載 さ れ て お り 、 一 部 要素 を 他の 名 詞に置き 換 えると 本 来的な 意 味を表 す ことは できない。 (14) う み いぬ = *カモ メ科 の海 鳥 、 くまま た ぎ = *味のよく な い魚 内 心 構造 を持た な いもう 一 つのタ イ プは、並列 複合語 (dvandva/double-headed compounds) で ある 。 (15) 日 本 語: 山川 、父 母、 男女 、 日米 、大 小 (16) 中 国 語: 蔬 果 (shūguŏ) = ‘vegetables and fruits’

(Ceccagno and Basciano 2009: 482) (17) 英 語 : actor-director, gentleman-farmer (Giegerich 2009: 187) (18) フ ラ ンス語 : cantautor ‘sing-author ’ = ‘singer-songwriter ’

(Rainer and Varela 1992: 119) (19) ス ペ イン語: pollerapantalόn = ‘skirt-trousers’ (Kornfeld 2009 : 441)

(15-19) に 示 され る よ う に 、並 列複 合 語 も また 生産的 な複合 語を許容す る言 語 だ け で な く 、 そ れ を 許 容 し な い 言 語 に お い て 観 察 さ れ て い る 。13 並 列 複 合 語 で は

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14 各 々 の 構 成 素 が 等 し く 主 要 部 の 働 き を す る た め 、 前 方 の 構 成 素 が 後 方 を 修 飾し た り 、 範 疇 の 主 要 な 意 味 を 後 方 の 構 成 素 の み で 決 定 す る こ と は で き な い (Kageyama 1982、 Namiki 2001)。 こ の ことは 、 大半の 並列 複合語 の 構 成 素 を 等位 接 続 詞 「 と 」 に よ っ て 併 合 し た 場 合 に 、 同 じ 解 釈 が 得 ら れ る こ と か ら 支 持 され る 。14 (20) 山 川 = 山 と 川 、父 母 = 父 と 母 、男 女 = 男 と 女 、 日 米 = 日本と米国、大小 = 大と小 では、日本語の 並 列複合 語 はど の程度 生 産的な のであろう か。Kageyama (2009) は並 列 複合 語が意味の 観 点から 以 下のよ う に下位 分類される と論じ ている。 (21) a. 全 体 論 タイ プ : 欧 米 (Kageyama 2009: 514) b. 関係 タイ プ : 日 米、生 死 、寝起 き 、出入り (影山 1997: 15) c. 分 離指示タ イ プ : 親 子、妻 子 、男女 、 父 母 、夫婦、 山川 (21a-c) の 複合語はいず れ も『広 辞 苑』に 記 載されて おり、 タイプを問 わず 語 彙 化 し て い る こ と が 分 か る 。 こ こ で 、 こ れ ら の 複 合 語 は な ん ら か の 点 で 対 極 に位 置 す る 要 素 同 士 が 併 合 さ れ る こ と で 地 域 、 親 族 、 性 別 、 二 カ 国 、 動 作 、 状 態な ど を 表 し て い る こ と に 気 づ く 。 こ の こ と は 、 一 方 の 構 成 素 を 他 の 要 素 に 変 える と 非文 法 的となり 一 層明瞭 に なる。 (22) *兄 子 、*親孫 、 *海川 、 *来 入 り、 *寝沈 み 他方、次例 (23) の容認性に示されるように、二カ国を表す複合語には一定の幅 が ある よ うである 。 (23) 日 韓 、日中、 日 露、日 仏 、日印 国 立国 語 研究所 (1987) によると、1906 年から 1976 年までの 70 年間で『中央公

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15 論 』に お ける外国 名 の表記 は 、1926 年を区切りに漢字表記優勢からカタカナ表 記 優勢 に 変わって お り、こ の 傾向は 同 時期の 外来語全体 の割合 の変化 (増加) と 比 例 し て い る 。 し か し 、 例 え ば 「 日 米 」 を 「 *日 ア 」、「 *日 ア メ 」 な ど と 表 現 す る こ と は で き な い こ と か ら 、 日 本 の 略 称 で あ る 「 日 」 を 第 一 要 素 と す る 二 カ国 を 表 す 際 は 第 二 要 素 に 外 国 名 の 漢 字 表 記 の 略 称 が 用 い ら れ る こ と が 重 要 で ある こ と が 分 か る 。 こ こ で 、 実 際 に 用 い ら れ る 表 記 の 割 合 と は 別 に 、 依 然 と し て外 国 名 の 漢 字 表 記 は 有 効 で あ る 点 に 注 意 さ れ た い 。 そ う す る と 日 本 を 除 く 外 国の 数 は 194 カ国あり、それぞれの国名に主に仮借による漢字表記が与えられてい て (一部地域を除く) 大半の国にはその略称も存在することから、二カ国を表す 複 合語 に 幅が存在 す るのは 当 然の結 果 と言え る 。15, 16 以 上 を ま と め る と 、 外 心 複 合 語 や 並 列 複 合 語 は 主 要 部 の 観 点 か ら す る と 有 標 で あり 、 それ故に ほ ぼ語彙 化 したも の に限ら れ るため 生産的とは 言えな い。

2.2.2 レベルの順 序付け

影 山 が 一 連 の 研 究 の 中 で 論 じ て い る よ う に 、 日 本 語 の 基 本 パ タ ー ン で あ り 最 も 生産 的 なタイプ は 内心複 合 語 (endocentric compounds) である。17 まず 、次 例 (24) を 考 察しよう 。 (24) a. 右 側 主 要部 : チー ズ ケ ーキ 、 ひ まわり 公園 、 市場 価格 b. 左側 主要 部 : 読 書、 洗 車 、 放 電、 育 児 、 投 資 例えば「チーズケーキ」は「チーズを材料としたケーキ」であり、「読書」は「書 物 を 読 む こ と 」 で あ る か ら 、 日 本 語 の 内 心 複 合 語 は (24a) の よ う な 右 側 主 要部 の 場 合 と (24b) の よ う な 左 側 主 要 部 の 場 合 に 大 別 で き る 。18 影 山 (1997) は 左 側 主要部 の内心複 合語 は 中国 語に お け る句構 造の SVO 語順を受け継いだもので あ り 、 二 字 熟 語 に 限 ら れ る と 論 じ て い る 。19 次 例 が 示 す よ う に 、 二 字 熟 語 の 規 則 を逸 脱 すると非 文 法的に な る。 (25) *読 書 物、*洗 外国車 、 *放電 流 、*投 資本

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16 ここで、(24b) の例は「読書する」や「洗車する」などが可能であることからい ず れ も 動 詞 性 名 詞 で あ り 、 動 詞 由 来 名 詞 複 合 語 と 同 様 に 内 項 制 約 に 従 っ て いる こ と に 気 づ く 。 前 節 で 概 観 し た よ う に 動 詞 由 来 名 詞 複 合 語 の 場 合 、 外 項 を 複合 す るこ と 自体はで き たが (cf. 学生倒し)、外項を含む二字熟語の 複合語は全く容 認 され な い。20 (26) *私 読 (cf. 私は 読書 した )、 *子 洗 (cf. 子供が洗 車した ) こ の よ う に 左 側 主 要 部 の 複 合 語 に は 文 字 数 に 関 す る 制 限 が 存 在 し 、 ま た 内 項制 約 に 従 う と い う 性 質 を 有 す る た め 、 そ の 語 形 成 過 程 の 生 産 性 は 高 い と は 言 えな い 。 本 論 文 は 生 産 的 な 名 詞 複 合 語 の 知 識 の 獲 得 を 考 察 す る こ と が 主 要 な 目 的で あ る か ら 、 二 字 熟 語 の 動 詞 性 名 詞 に つ い て は 例 外 と み な し 事 実 観 察 の 言 及 に留 め るこ と にする。 そうすると、(24a) のような右側主要部の複合語はどの程度生産的なのであろ う か 。 言 い 換 え る と 、 ど の 程 度 新 語 の 形 成 が 許 容 さ れ る で あ ろ う か 。 本 論 文で は Selkirk (1982)、Kiparsky (1982; 1983)、影山 (1993; 1997) などに従って、レベ ル の 順 序 付 け 仮 説 (Level-Ordering Hypothesis) が 内 心 複 合 語 の 生 産 性 と 深 く 関 わ っ て い る と 仮 定 す る 。 具 体 的 に は 、 語 幹 レ ベ ル 以 上 に お け る 要 素 同 士 の 併合 は 生 産 性 が 高 く 、 単 語 の 種 類 を 問 わ ず 自 由 に 併 合 で き る と 仮 定 す る 。21 レ ベ ル

の 順序 付 け仮説は 生 成音韻 論 (Chomsky and Halle 1968) の延長として、語彙音 韻 論で 提 案された も のであ る (Siegel 1974、Allen 1978、Kiparsky 1982; 1983 な ど)。レベルの順序付け仮説が提案された背景には、(27a-b) と (28a-b) の対比に 示 され る ように、英語の 形 態変化 に は (強勢の移動や基体との同化などの) 音韻 変 化 を 伴 う も の と 伴 わ な い も の が 観 察 さ れ る こ と な ど が あ っ た (下 線 は 強 勢 を 表 す)。

(27) a. electric + -ity  electricity, curious + -ity  curiosity b. in- + possible  impossible / *inpossible

(22)

17

(28) a. child + -hood  childhood, careful + -ly  carefully b. un- + peaceful  unpeaceful / *umpeaceful

un- + perceptive  unperceptive / *umperceptive

(27a-b) は 音 韻 変 化 を 伴 っ た 場 合 に 適 格 と 判 断 さ れ る の に 対 し 、 (28a-b) は 音 韻 変 化 を 伴 わ な い 場 合 に 適 格 と 判 断 さ れ る 。 こ の よ う な 差 異 を 説 明 す る た め に、 例 えば Kiparsky (1982; 1983) は以下のモデルを提案している。 (29) 非 派 生語 彙 項目  レベ ル I: 不規則変化の屈折と派生 / 音韻規則 (強勢・短縮)  レベ ル II: 規則変化の派生と複合 / 音韻規則 (複合強制)  レベル III: 規則変化の屈折 / 音韻規則 (弛緩) (29) の モ デ ル で は 各 々 の レ ベ ル に お け る 形 態 変 化 と 音 韻 規 則 が 結 び 付 け ら れ て い るの で 、(27a-b) と (28a-b) に見られる非対称性を適切に捉えることができる。 Selkirk (1982)、Kiparsky (1982; 1983)、 影 山 (1993; 1997) など が 語 形 成 に 仮 定す る レ ベ ル の 順 序 付 け モ デ ル は (29) の よ う な 語 彙 音 韻 論 で 提 案 さ れ た モ デ ル を 参 考 に し た も の で あ る が 、 以 下 で そ の 詳 細 に つ い て 触 れ る よ う に 、 彼 ら が 仮定 す る モ デ ル は 音 韻 変 化 を 捨 象 し 形 態 論 の み を 射 程 と す る も の で あ る 。 語 形 成に 関 す る レ ベ ル の 順 序 付 け モ デ ル の 詳 細 に 立 ち 入 る 前 に 、 以 下 で は ま ず 日 本 語に は 三 つ の 単 語 の 種 類 が 存 在 し 、 そ れ ら を 併 合 す る こ と で 多 様 な パ タ ー ン の 複合 語 が可 能 となるこ と を確認 す る。 よ く 知 ら れ て い る よ う に 、 日 本 語 に お け る 単 語 は 日 本 語 に 固 有 の 語 彙 で ある 和 語 (大 和言 葉)、 中 国語 か ら の借 用 語 で ある 漢 語 、そ れ 以 外 の言 語 か らの 借用 語で あ る 外来 語 (洋 語) に一 般 的に 分 類 され る が 、 Shibatani (1990) はこ れ ら の 単 語 が ど の 種 類 の 単 語 と も 複 合 可 能 で あ る こ と を 指 摘 し て い る 。22 実 際 、 日 本 語 で は 以 下 の よ う に 同 じ 種 類 に よ る 組 み 合 わ せ や 異 な る 種 類 の 組 み 合 わ せ によ

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18 る 名詞 + 名詞複合語が観察される。23 (30) a. 和 語 + 和語 : 夏 空、手 袋 、毛糸 、 宝くじ 、雪だるま b. 漢語 + 漢語 : 煙 突、音 楽 、風船 、 財布、 国歌、大学 c. 外 来語 + 外来 語 : コ ー ヒ ー カ ッ プ、グ ラ ス ワ イ ン、ペ ー パ ー ド ラ イ バ ー (31) 混 種 語: 筆ペ ン (和語 + 外 来 語 )、 場 所 (和 語 + 漢語 ) 家族 手当 (漢語 + 和語)、 抹茶アイス (漢語 + 外来語) ガラ ス窓 (外来 語 + 和 語)、 ピ アノ教室 (外来語 + 漢語 ) 異 なる 種 類の単語 の 併合に よ って形 成 された 語 は、混種 語 (hybrid) と呼ばれる。 で は、(30a-c) に示されるような同じ種類の組み合わせによる複合語形成は一様 に 生産 的 な の であ ろ う か。 ま た 、 (31) に 示 され る よ う な混 種 語 の場 合 、 併 合 さ れ やす い 、あるい は 併合さ れ にくい 組 み合わ せ のパタ ーンはある のだろ うか。 影 山 (1993; 1997) はレベルの順序付け仮説を援用して日本語の名詞複合語の (非 )生 産 性を 考察 して いる 。まず 、よく知 ら れてい る日本語の 単語や 語形成 に 関 す る 基 本 特 徴 を 見 る こ と に す る 。 日 本 語 の 単 語 は 一 つ だ け で 成 り 立 ち そ れ 以上 分解できない「単純語」と、一 つ の要 素 (正確には形態素) に他の要素が併合さ れ た 「 合 成 語 」 に 一 般 的 に 分 類 さ れ る 。 後 者 に は 「 複 合 語 」 の 他 に 接 辞 を 伴 う 「 派生 語 」が含ま れ る 。24 具体例 を 以下に 示 す。 (32) a. 単 純語 : 父 、メ ダカ 、ね こ 、 家、輪 、 ゴム b. 複合 語 : 健 康 、健康 サ ンダル 、 大 臣 、 財務 大 臣 、 輪ゴム c. 派 生語 : 甘 さ 、 辛 み 、 健康 的 、 不 人気、 無 気 力 、 超 大作 (32b-c) の う ち 、 例 え ば 「 健 康 」 と い う 単 語 は 「 健 」 と 「 康 」 に 分 解 で き る が 、 「健」や「康」のような一字漢字は (名前の場合を除き) 単独で用いることはで きない。しかし、「健」は「すこやか」という意味を持っており、「健全」や「保 健 」 な ど の 語 で 用 い ら れ る 。 同 様 に 「 康 」 も 「 や す ら か 」 と い う 意 味 を 持 って おり、「安康」や「小康」などの語で用いられる。 このように、単独で用いられ

(24)

19 るかどう かに関 わら ず何らか の意味 を持 つ最小の 単位を 形態 素 (morphemes) と 呼ぶ。「父」のような単純語は自由形態素 (free morphemes)、「健」のようにそれ 自体で生 起で きない 形態素は 拘束 形態素 (bound morphemes) と呼ばれる 。接辞 (affix) に は 「 不 人 気 」 に お け る 「 不 」 の よ う な 接 頭 辞 (prefix) と 「 甘 さ 」 に お ける「–さ」のような接尾辞 (suffix) に大別されるが、いずれも単独では生起で き な い 拘 束 形 態 素 で あ る 。 ま た 、「 父 」 の よ う な 自 由 形 態 素 や 「 甘–」の ような 拘 束形 態 素は語彙 的 な意味 を 持つ点 で 共通し て おり、こ れらの総称 を語根 (root) と 呼ぶ 。 次に、このような形態的単位が語形成の分析において重要であることを見る。 (33) a. 健 康、 成年 、 地震 、景 気 b. 健 康 観 、 未 成 年、 地 震 計 、 不 景 気 c. *健観 /*康観、 *未 年 /*未成、 *地 計 /*震 計、 *不景 /*不 気 (33a-c) に お い て 、例 え ば「 健 康 観 」を「 *健 観 」、「*康観」、「*健観康」などと表 現 す る こ と は で き な い の で 、 漢 語 の 語 形 成 過 程 に お い て ま ず 「 健 」 と 「 康 」が 併 合し な ければな ら ないこ と が分か る (実際には、大半の二字熟語は日本語学習 者 が 学 習 し た 後 、 一 つ の 単 語 と し て 辞 書 に 登 録 さ れ る と 考 え た 方 が 妥 当 で あろ う )。「 健 康 」 や 「 成 年 」 の よ う な 語 根 + 語 根 の 単 位 は 語 幹 (stem) と 呼 ば れ 、 語 幹 に な る と (一 部 例 外 を 除 き ) 独 立 し て 生 起 す る こ と が で き る よ う に な る 。 (34a-b) は「 健康 観」 と「 未成 年 」 の構造 を それぞ れ示してい る。 (34) a. Stem b. Stem ei ei

Stem Stem Stem Stem ei | | ei

Root Root 観 未 Root Root | | | |

(25)

20 ここ で 、「観 」 と 「 未」 は 共 に (語根レベルだけでなく) 語幹レベルでも併合可 能 な形 態 素として 辞 書に記 載 されて い る点に 注 意され たい。25「未来」や「観光」 な どの 二 字熟語が 存 在する た め、「 未」や「 観」が 語根レベル に導入 される 選択 肢 も存 在するが、「*健観」や「*未年」などは二字の条件は満たしているものの 熟 語を 構 成しておらず 意 味的に 不 適格と 判 断され る。26 また、影山 (1993; 1997) は (35a-b) と (36a-b) に観察される対比を説明するために、「および」と「ない し」を内部に取り込むことで拡張可能な単位を語 (word) と呼び、それを語幹と 区 別し て いる。 (35) a. [健 康観 お よび 結 婚観 ] ア ンケー ト b. [不景気ないし不利益] 回避 (36) a. *[健 康 および 結婚 ] 観 cf. 健康観 お よび 結婚観 b. *不 [景 気な いし 利益 ] cf. 不 景気ないし 不利益 「 健康 観 アンケー ト 」と「不景 気 回避 」の 構 造は、それぞれ以下 のよう になる 。 (37) a. Word b. Word ei ei

Stem Stem Stem Stem ei | ei ei

Stem Stem アンケ ー ト Stem Stem Root Root ei | | ei | |

Root Root 観 不 Root Root 回 避 | | | |

健 康 景 気

語 は 語 幹 よ り も 大 き い 単 位 で あ る の で 、 語 が 語 幹 と 同 様 に 自 立 可 能 な 要 素 であ る こと は 自明であ る 。

(26)

21 ル の順 序 付けのモ デ ルは、 以 下のよ う になる 。 (38) レ ベ ル I (語根 ): (自 由 ・拘束 ) 形態素 同 士の併 合  e.g. 健康、板チョコ、ゴルフクラブ レ ベ ル II (語 幹 ): 語 幹 とその 他 の要素 (語幹または 形態素 ) の併 合  e.g. 健康商品、義理チョコ、宝くじ売場 レベル III (語): 「および」などを内部に取り込むことで拡張可能な単位 e.g. [健 康 観およ び 結婚観 ] ア ンケート [歌手 な い し 役 者 ] 志望 影 山 (1993; 1997) は 語 形 成 過 程 で は 基 本 的 に 同 じ 単 位 に 属 す る 要 素 同 士 (e.g. 語 根 + 語根) が併合し、(語彙音韻論において仮定されるレベルの順序付けモデ ル と 同 様 に ) 小 さ い 単 位 か ら 大 き い 単 位 へ と 語 形 成 が 進 行 し て い く と 論 じ て い る 。 こ こ で併 合によ っ て形成 さ れた複 合 語に目 を 向ける と、「健康」のように大半 の 語幹 は 自立可能 と なる一 方、「国際」や「積極」などは二字熟語であっても「国 際 情 勢 」 の よ う に 他 の 要 素 と 併 合 さ れ な け れ ば 使 用 で き な い 拘 束 形 態 で あ る。 こ のよ う な事実を 基 に、影 山 (1993; 1997) ではそれ自体で自立する語幹、ある いは「国際 情 勢 」のように語幹 + 語幹から成る単位を語として分析する提案が さ れて い る。 (39) a. Word b. | Stem Stem ei ei

Root Root Root Root

| | | | 健 康 国 際

(27)

22 ている。他方、「国際」はそれだけで自立することはできないので (39b) は語幹 レ ベル に 例外的に と どまっ て いるこ と を示し て いる。 レ ベ ル の 順 序 付 け 仮 説 の 妥 当 性 は 、 和 語 の 複 合 語 に も 援 用 可 能 な こ と か ら 支 持さ れ る。 次例 (40) を考察しよう。 (40) a. 辛 さ/辛 み、 甘 さ/甘 み、 深さ /深 み b. 硬さ /*硬み 、 冷たさ /*冷た み 、 新 し さ /*新 しみ c. 甘 酸っぱ さ /*甘酸 っ ぱ み 、塩 辛 さ /*塩辛 み 、奥深さ /*奥深 み (伊 藤・杉 岡 2002: 164) 接 尾 辞 「–さ」、「 –み 」は共に 形容詞 語根 に併合す ること で名 詞化させ る働きが あ る が 、 (40a-b) の 対 比 が 示 す よ う に 「 –さ 」 は 大 半 の 形 容 詞 語 根 に 併 合 で き る の に 対 し て 、「–み」 が併合で きるの は「 甘 –」のような 味覚 や「深 –」のよ うな 場 所な ど の 30 前後の形容詞語根に限られることが知られている (Sugioka 1986)。 従 って 、(40c) に見られる対比は形容詞語根の意味に起因すると考えることはで き な い 。 こ こ で 、「 甘 酸 っ ぱ–」に は「 甘 –」と「酸っ ぱ –」という二 つの語 根が 含 ま れ る こ と か ら そ の 単 位 が 「 健 康 」 と 同 様 に 語 幹 で あ る と 考 え て み よ う 。そ うすると、(40c) の対比を捉えるには「–さ」と「–み」が属する最大レベルを辞 書 内 で 指 定 し て お け ば よ い 。 語 形 成 過 程 に お い て 、 大 き い 単 位 の 中 に 小 さ い単 位 が入 る ことは可 能 である と 仮定し て いる点 に 注意さ れたい。 (41) a. Word b. Word | ei

Stem Stem Stem ei ei |

Root Root Root Root さ | | | |

甘 さ/み 甘 酸っぱ

(28)

23 対し、「–さ」は語幹レベルに属するので語根だけでなく「甘酸っぱ –」のような 語 幹 と も 併 合 で き る 、 と い う こ と に な る 。 こ の よ う に 、 語 形 成 の 過 程 を 複 数に 分 け る レ ベ ル の 順 序 付 け 仮 説 を 採 用 す る こ と で 、 複 合 語 や 派 生 語 の 適 格 性 を即 座 に捉 え ることが で きる。 単 純 語 (自由形態素) を含む複合語の場合、例えば「板チョコ」と「義理チョ コ 」と い う複合語 の 構造は (38) のモデルを援用すると以下のようになる。 (42) a. [Root 板][Root チ ョ コ]

b. [Stem [Stem [Root 義][Root 理]][Stemチョ コ]]

(42a) で は 修 飾 語 (つ ま り 「 板 」 ) が 語 根 で あ る の で 併 合 相 手 の 「 チ ョ コ 」 が 語 根 とし て 分析され 、 (42b) では修飾語 (つまり「義理」) が 語幹であるので併合 相 手の 「 チョコ」 が 語幹と し て分析 さ れるこ と になる 。 話 を 複 合 語 の 生 産 性 の 議 論 に 戻 そ う 。 で は 、 語 形 成 に 三 つ の レ ベ ル を 仮 定し た 場 合 、 各 々 の レ ベ ル に お け る 新 語 は ど の 程 度 実 在 す る の で あ ろ う か 。 野 村 (1984) は 『現 代用 語の 基礎 知識 』 の 1960 年版 と 1980 年版を比 較し、 その間 に 追 加さ れ た 17,767 語について調査した結果、その中で語根レベルの漢語の名詞 + 名 詞 複 合 語は 以下 の 7 語だ っ たと 報 告して い る。27 (43) 液 晶 、性 差 、声 紋 、党 友 、劇 画 、熱 波 、油 砂 (野村 1984: 44) 他方、野村 (1984) による同様の調査によれば、和語同士の併合による新語の複 合 語は 以 下の 7 語である。 (44) 当 り 屋、カギ ッ 子、魚 こ ろがし 、 抱きつ き スリ、 共働き、チ ビッ子 広場、 真 夏 日 (ibid.) (44) に 挙 げ ら れ た 例 の 中 で 、 語 根 レ ベ ル に お け る (動 詞 由 来 名 詞 や 動 詞 性 名 詞 を 除く) 和語の名詞 + 名詞複合語は「カギッ子」のみと考えられる。28 この こ と を 踏 ま え る と 、 語 根 レ ベ ル に お け る 名 詞 複 合 語 の 数 は 20 年 余 り の 間 に 漢

(29)

24 語 ・ 和 語 を 問 わ ず 顕 著 に 増 え て い る と は 言 え な い 。 で は 、 な ぜ 日 本 語 は 生 産的 な 名 詞 複 合 語 を 持 つ 言 語 と み な さ れ て い る の で あ ろ う か 。 そ れ は 、 序 論 で 概観 し た よ う に 、 語 幹 レ ベ ル に な る と 要 素 と 要 素 を 併 合 す る こ と で 句 構 造 の 場 合と 同 様に (原理的 には 無限に )、 より大 き な複合 語を構 築でき るから である 。29 えば、「学校」という語幹を第一要素とする名詞複合語を『広辞苑』で調べたと こ ろ、 以 下の 12 例が観察された。 (45) 学 校 感 染 症 、学 校 劇、学 校 給 食 、学 校 教 育、学 校 組 合 、学 校 債、学 校 新 聞、 学 校 図書館、 学 校伝染 病 、学校 法 人、学 校放送、学 校保健 『広辞苑』に記載されているわけではないが、例えば「学校新聞」を (46) のよ う にさ ら に大きな 複 合語へ と 拡張す る ことも で きる。 (46) 学 校 新聞会議 、 学校新 聞 委員、 学 校新聞 広 告 (45) と (46) は い ず れ も 漢 語 の み か ら 成 る 複 合 語 の 例 で あ る が 、 Namiki (2001) は 漢語 の 特徴とし て 、新語 が 形成さ れ る際に (語根レベルだけでなく) 語幹レベ ル に お い て も 和 語 や 洋 語 よ り も 漢 語 と 併 合 さ れ る 傾 向 が あ る こ と 、 そ し て 和語 の み や 洋 語 の み か ら 成 る 複 合 語 に 比 べ て よ り 大 き な 複 合 語 で 用 い ら れ や す いこ と を指 摘 している 。30 こ こ で大切 な ことは 、Namiki (2001) が指摘していること は あ く ま で も 傾 向 で あ り 、 語 幹 レ ベ ル で は 単 語 の 種 類 に 課 せ ら れ る 制 限 が 語根 レ ベル に 比べて緩 ま り、「 学校 新 聞ク イ ズ」のよう に他の種類 の単語 と併合 され て も容 認 されるこ と である 。 次 に 、 和 語 に つ い て 考 察 す る 。 和 語 も 漢 語 の 場 合 と 同 様 に 、 他 の 和 語 を 併合 す るこ と で複合語 を 拡張す る ことが で きる。 (47) 地 雨 / 地雨 雫 (じあ めし ずく )、 手袋 / 布手 袋 (ぬ のてぶくろ ) 雪 肌 / 雪肌 娘 (ゆ き はだむ す め)、 赤 牛 / 赤 牛虻 (あ かうしあぶ ) (47) の 例 に お い て 『 広 辞 苑 』 に 記 載 さ れ て い る の は 「 赤 牛 虻 」 の み で あ る が 、

(30)

25 和 語 が 新 語 を 形 成 す る 場 合 、 漢 語 と は 対 照 的 に 他 の 和 語 よ り も 漢 語 や 外 来 語と 併 合 さ れ る 傾 向 が あ り 、 (派 生 語 に お い て は 一 定 の 生 産 性 が 認 め ら れ る も の の ) 和語のみか ら成る 複 合語の数は 少ない こ とが指摘さ れてい る (斎賀 1957、野村 1984、 島村 1997 な ど )。 (44) の 例に お い て 、 和 語 の み か ら 成 る 複 合 語 が 他 の 和 語 と併 合 されて新 語 を形成 し ている の は「 チビッ子広 場」のみである 。31 他方、 和 語 に は 漢 語 と 異 な り 自 立 性 を 有 す る 一 字 漢 字 の 単 純 語 が 多 数 存 在 す る た め、 語 根 レ ベ ル に お い て 外 来 語 と 併 合 さ れ た 複 合 語 は 豊 富 に 見 ら れ る 。 (48a-b) は 、 「 ジャ ン ボ宝くじ 」 を除い て 『広辞 苑 』に記 載 されて いる例であ る。 (48) a. 語 根 レ ベル : 胃 カメ ラ (和 語 + 外 来語 )、ビ ール瓶 (外 来語 + 和 語 ) 身分 (和語 + 漢語)、 牛飯/牛丼 (漢語 + 和語) b. 語幹 レベ ル : お 子様 ラン チ (和語 + 外来 語 ) ジ ャン ボ宝 く じ (外来語 + 和語) 線香花 火 (漢語 + 和語)、 目玉商品 (和語 + 漢語) 漢 語 は 語 根 レ ベ ル に お い て 他 の 漢 語 と 併 合 さ れ る の が 基 本 パ タ ー ン で あ る か ら 、 「身分」のような 語 根レ ベル にお け る 和語 + 漢語は数例観察されるものの、語 彙 化し た ものに限 ら れ極め て 数は少 な い (野村 1984、島村 1997)。 以 上 概 観 し た 先 行 研 究 に よ れ ば 、 語 根 レ ベ ル で は 漢 語 の 複 合 語 の 方 が 和 語 に 比 べ 概 し て 既 存 数 は 多 い と 思 わ れ る が 、 語 根 同 士 が 併 合 さ れ な け れ ば な ら ない こ とや (漢語の場合、原則として ) 単語の種類の制約に従うことから、両者とも に 新 語 の 形 成 に 寄 与 す る と は 言 え な い 。32 他 方 、 語 幹 レ ベ ル で は こ の よ う な 制 限 が 緩 和 さ れ て 、 語 形 成 の 単 位 や 単 語 の 種 類 を 問 わ ず 生 産 的 に 語 を 拡 張 す るこ と が で き る 。 本 論 文 の 目 的 は 、 子 供 の 生 産 的 な 名 詞 複 合 語 の 知 識 の 獲 得 を 考察 す る こ と で あ る た め 、 以 上 の 論 点 を 踏 ま え て 筆 者 が 行 う 実 験 で は 以 下 の パ ター ン を例 外 として (原則) 実験の刺激からは外すように配置した。33 (49) a. 語 根 レ ベル に お け る 漢 語 + 漢 語 の複合語 (e.g. 学校、新聞 ) b. 和語 + 和語の 複 合語 (e.g. 手袋、宝く じ ) c. 漢 語 + 和 語 / 和 語 + 漢 語の複 合 語 (e.g. 身分、場所 )

(31)

26 以 上 、 本 節 で は レ ベ ル の 順 序 付 け 仮 説 に 基 づ い て 日 本 語 の 内 心 的 複 合 語 を考 察 し 、 語 幹 レ ベ ル に お け る 複 合 語 形 成 は 生 産 性 が 高 く 、 基 本 的 に 単 語 の 種 類を 問 わ ず 自 由 に 併 合 で き る こ と を 述 べ た 。 で は 、 語 幹 レ ベ ル 及 び 単 純 語 を 含 む語 根 レ ベ ル の 複 合 語 で あ れ ば 、 子 供 は 一 様 に 各 々 の 語 の 主 要 部 を 決 定 し た り 、語 全 体 の 意 味 を 解 釈 す る こ と が で き る の で あ ろ う か 。 次 節 で は 意 味 関 係 と 親 密度 の 観 点 か ら 名 詞 複 合 語 を 考 察 し 、 複 合 語 が そ れ ら に 基 づ い て 下 位 分 類 さ れ るこ と を示 す 。

2.2.3 複合語の親 密度

大 人 を 被 験 者 と し た 心 理 実 験 で は 語 幹 レ ベ ル の 複 合 語 で あ っ て も 、 名 詞 の組 み 合 わ せ 方 に 応 じ て 被 験 者 の 理 解 の 程 度 に 隔 た り が あ る こ と が 観 察 さ れ て い る 。 34 本 節 で は 、 名 詞 複 合 語 を 意 味 関 係 及 び 親 密 度 の 観 点 か ら 考 察 し 、 先 行 研 究 の 分 析の 妥 当性を検 証 する。 英 語 を 母 語 と す る 大 人 を 被 験 者 と し た 先 行 研 究 で は 、 名 詞 複 合 語 の 理 解 の程 度 や 反 応 時 間 に 隔 た り が あ る こ と を 説 明 す る た め に 大 別 し て 二 通 り の 分 析 が提 案 され て おり、一 つ は Gangé and Shoben (1997) の CARIN モデル (Competition Among Relations in Nominals) で あ る。CARIN モ デル の 詳 細 に つ い て 述 べ る 前 に 、 右 側 主 要 部 の 内 心 複 合 語 が (日 本 語 の よ う な 生 産 的 な 言 語 で は ) 形 態 論 (及 び 統 語論) と語用論のインターフェイスに関わる現象であることを確認する。 内 心 複 合 語 で は 第 二 要 素 の 名 詞 が 主 要 部 で あ る が 、 こ れ は 語 構 造 内 の 特 性で あ る。 第 1 章で考察した (3a-b) を以下に再掲する。 (50) a. リンゴジ ュ ース b. リンゴ ジュー ス レシ ピ ei ei リンゴ ジュー ス ジュース レシ ピ ei リンゴ ジュース (50a-b) にお いて それ ぞれ 構造 上 、 右方に 導 入され る「ジュー ス」と 「レシ ピ」

(32)

27 に 投射 (あるいはラベル付け) が適用されることで範疇が決定する。つまり、「リ ンゴジュース」は「ジュース」の類、「リンゴジュースレシピ」は「レシピ」の 類 を 表 す こ と が 語 構 造 に 依 存 し て 導 き 出 さ れ る 。35 一 方 、 内 心 複 合 語 に お け る 第 一 要 素 は 修 飾 語 で あ る が 、 複 合 語 全 体 の 解 釈 に 関 わ る 意 味 関 係 (semantic relationships) は どの よう に決 定 され る のであ ろ うか 。 次 例 (51) を 考 察 し よ う 。 (51) a. リ ン ゴ ジュ ー ス (材料 )、リ ン ゴタル ト (材料 ) b. リン ゴ農 園 (対 象 )、リン ゴ ピーラ ー (対象) c. リンゴ風船 (?)、 リンゴ男 (?) (51a-c) は いずれも修飾 語 として「 リ ンゴ 」を 含む複合語 であり 、『広辞 苑』に 記 載 され て いない点 で 共通し て いるが、(51a-b) と (51c) には明確な差異が存在す る。例えば、(51a) の「リンゴジュース」における「リンゴ」は「材料」として、 (51b) の「 リ ン ゴ 農 園 」に お け る そ れ は「 対 象 」と し て 解 釈 す る の が 最 も 自 然 と 考 え ら れ る が 、 こ れ ら の 例 は い ず れ も 『 広 辞 苑 』 に 記 載 さ れ る ま で に 至 っ ては い な い も の の イ ン タ ー ネ ッ ト で 検 索 す る と 多 数 の 例 が 観 察 さ れ る こ と か ら 、ほ ぼ 語彙 化 している (つまり、常に同じ意味関係として解釈される、あるいは同じ 意 味関 係 を意図し て 用いら れ る) と言って差し支えないであろう。36, 37 で は 、(51c) の「リンゴ風船」や「リンゴ男」はどのように解釈されるのであ ろ う か 。 少 な く と も 筆 者 に と っ て こ れ ら の 複 合 語 は (51a-b) の 例 に 比 べ て 耳 慣 れ ない 複 合語であ る が、「*犬育て」や「*本持ち」のような動詞由来名詞複合語 に 見 ら れ る 非 文 法 性 は 感 じ ら れ な い 。 こ こ で 大 切 な こ と は 、 名 詞 複 合 語 に おけ る 修 飾 語 は 副 詞 的 要 素 で あ る 付 加 詞 で あ り 主 要 部 と の 間 に 動 詞 と 内 項 の よ うな 特 定の 文 法関係を 持 たない た め、語 幹 レベル (及び単純語同士の語根レベル) で は 二つ の 名詞に単 語 の種類 な どを問 わ ず自由 に 併合が 適用できる ことで ある。 38 例 え ば 、 (51c) の 「 リ ン ゴ 男 」 は 単 純 語 同 士 が 語 根 レ ベ ル で 併 合 さ れ て で き る 複 合 語 で あ る が 、 第 一 要 素 の 「 リ ン ゴ 」 は 漢 語 、 第 二 要 素 の 「 男 」 は 和 語で あり、両者は単語の種類で異なっている。しかし、「リンゴ」は付加詞として分 析 可 能 な こ と か ら 、 主 要 部 で あ る 「 男 」 と 併 合 し て も 不 適 格 と 判 断 さ れ な いこ と が 導 か れ る 。 ま た 、 修 飾 語 と 主 要 部 の 意 味 関 係 は 項 構 造 の 反 映 で あ る 動 詞由

参照

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