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IDC モデルによる仮説的学習軌道の表現例

第 3 章 の引用・参考文献

3.4 IDC モデルによる仮説的学習軌道の表現例

追加する.それは,切り口の縦の長さが折り曲げ量と等しいことや,切り口の横の長さは 銅板の幅から折り曲げ量2つ分を引いたものと等しいこと,である.

第六に,時刻t5 において,学習者は,名辞「折り曲げ量」を新しい考察対象として追 加する.そこでは,折り曲げ量を xと表すことや,折り曲げ量には制限があることが含ま れる.

図4.1は,あくまでも,こういう過程で推論をする学習者が存在し得ることを表したも のである.問題文中から,どういった名辞を拾い上げ,各名辞に対して学習者がどのよう な条件群を心的に表象していると想定するかは,ひとえに分析者である筆者の主観的で恣 意的な判断によるところが大きい.それは,これが仮説的学習軌道である以上,本質的に 避けられない問題である.仮説的学習軌道は,投げたボールの軌道を物理的に予測する場 合とは異なり,人間の思考過程に関する予測である.学習軌道とは,学習者が教室に 40 人いれば,40通りの学習軌道があり得るものであり,一人ひとりの学習軌道をすべて網羅 的に予測することはほとんど不可能であるとともに,仮にできたとしても,ほとんど無益 である.なぜなら,現実的に,授業中に40通りすべての予測を頭に入れて授業をするわ けにはいかないし,教師の認知的リソースは,事前の予測を頭に留めておくこと以上に,

その授業中の一瞬一瞬に起こる出来事に対処していくことに注力されるべきであると考え られるからである.そういう意味で,仮説的学習軌道とは,授業の展開を考える上での学 習者の思考過程のアウトラインであり,仮説的学習軌道の予測者の数学教育観や教材観が 反映されたものとなるものであるし,反映されてよいものである.

したがって,面積問題に対して図4.1の仮説的学習軌道を想定することに対しては異論 もあり得るであろうし,図4.1の仮説的学習軌道があり得る軌道の1つとして認められた としても,現実的により起こり得そうな仮説的学習軌道が,もっと他にあるとの見解もあ り得るであろう.図4.1に示した過程には,銅板が長方形であることなど,結果的に必要 のない情報に注目する過程も含まれており,効率的な過程というわけでも模範的な過程で あるというわけでもない.そういう意味で,図4.1は,模範的な過程であろうとなかろう と,数学的推論が,条件を増やす「具体化」と条件を減らす「記述」の組み合わせで表現 し得ることを示している.

本研究の主題として重要なことは,図 4.1の仮説的学習軌道が面積問題に対する仮説 的学習軌道として客観的に妥当性の高いものであるかどうかではない.そうではなくて,

IDCモデルという制約の下で仮説的学習軌道を考えることによって,授業設計を検討しや すくなるかどうか,ということである.仮に図4.1に示した仮説的学習軌道が,本研究が 参照しなかった他の研究成果の帰結や,今後新しく示される研究成果の帰結に照らして,

何らかの意味で妥当性を欠くということが明らかになったとしても,IDCモデルによって 仮説的学習軌道を表現することが有用で在り続ける限り,IDCモデルの価値は損なわれな い.ただし,現段階で,IDCモデルを使用する利点が十分に示されているとは言い難いか ら,次小節では,図4.1をIDCモデルの具体的な使用例として念頭に置きながら,IDCモ デルの利点を論じることとしよう.