§ 8.2.1
復習
——Carnotサイクルの熱効率から導かれる
Clausiusの関係式
Carnotサイクルならば
,高温熱源からの入熱
QH(>0),高温熱源の温度
TH,低温熱源への放熱
QL(>0),低温熱源の温度
TLのあいだに
, Clausiusの関係式
QH
TH = QL
TL (7.22)
が成立した
†695.ここに
,両辺は正値であるが
,便宜上
,熱が正であるときを入熱
,負であるときを放熱と定義しなおす
.そこで
,放熱を
, QfL ≡ −QLとおきなおす
(QL >0かつ
QfL<0).すると
, (7.22)は
,QH
TL =−QfL
TL (8.5)
と書き換えられる
.簡単のため
,以下では
, QfLを
,改めて
,単に
QLとかく
†696.§ 8.2.2
大きなサイクルの小さな
Carnotサイクルへの分割
任意のサイクル
,例えば円形のサイクルを考える
.左端の熱平衡状態
Aから出 発し
,状態
Iを経由し
,右端の状態
Bへと至り
,状態
IIを経て
,状態
Aへと戻る
†697.これを,
N個の小さな
Carnotサイクルを用いて近似することを考える. すなわ ち, 短い等温線
2本と断熱線
2本からなるサイクル
N個の総和を考える
†698.N
個おのおのの
Carnotサイクルについて
, Clausiusの関係式が成立する
: QHiTHi
|{z}
入熱
=−QLi TLi
| {z }
放熱
(i= 1,2,· · · , N) (8.6)
ここに, 左端から右端へと向かって,
i= 1から
i=Nまで番号を付けて, 各
Carnot†695Carnotの定理の(i)より,理想気体の制約は既に取り払われている(§7.4).
†696つまり,巡り巡って,同じ記号を使うわけだが,混同に注意を要する. 同一視が気になる者は,異 なる記号を用いればよいだろう.
†697これらの各記号は,一旦忘れてよい. 登場には今しばらく待っていただくこととなる.
†698図は板書する. 「小さな」とは,断熱線ではなく,等温線が小さな(短かな)サイクルを指すもの とする.
サイクルを区別した
.具体的に書き下すと
, QH1TH1 =−QL1
TL1 (8.7)
QH2
TH2 =−QL2
TL2 (8.8)
· · · (8.9)
QHN
THN =−QLN
TLN (8.10)
である
.たとえば
, (8.7)は
,左端の小さな
Carnotサイクルに対して成立する
Clau-siusの関係式である
.順次
,視線を右へと動かせ
,右端の
Carnotサイクルまで辿り 着くと思えばよい
†699.両辺の総和をとると, 次式をうる:
∑N i=1
QHi THi =−
∑N i=1
QLi
TLi (8.11)
§ 8.2.3
断熱線の共有と相殺
たとえば
,i= 1のサイクルの断熱膨張の断熱線は
, i= 2のサイクルの断熱圧 縮の断熱線と
, “両端を除いて
”一致する
.したがって
,各
Carnotサイクルは
1本 の断熱線を
(両端を除いて
)共有している
.N → ∞
の極限をとるとき
,各断熱線が順次相殺され
,左端と右端の断熱線だ けが残る
.§ 8.2.4
微小等温線への極限——Clausius 積分の発現
2
本の等温線は有限の長さをもつが
,これらを
,ともに
,微小な長さへと近づけ
る. すると, 各
Carnotサイクルは,
2本の微小な等温線および有限の長さの断熱線
から構成される. すなわち,
N → ∞の極限をとるとき,
(i)
等温線の長さが微小になるがゆえに
,入熱と放熱の値も微小量すなわち
d′Qとなる
†700.†699この箇所の理解は,文章だけでは困難であるがゆえに,図をよく眺めよ.
†700しかしながら,温度は何の影響も受けないことに注意せよ. そもそも,熱源とは, どれだけ熱を 供給しても温度が不変な理想的な外界であったではないか.
133 ⃝c 2017 Tetsuya Kanagawa
(ii)
不連続であった各等温線の接点が連続につながる
.その結果
,等温線は
,元の サイクルを描く曲線へと収束する
†701†702.(iii)
隣同士の
Carnotサイクルで共有していた断熱線の両端が一致し
,その断熱線
は相殺される
†703.その結果
,左辺は
,以下のような線積分となる
:Nlim→∞
∑N i=1
QHi THi =
∫
A→I→B
d′Q
T (8.12)
簡単のため
,高温を意味する添え字
Hを略し
,同時に
, d′Qが入熱も放熱も表現で きるようにした
.つまり
,正負どちらもとりうる
†704.積分範囲は
,左端の状態
A (始 点
)から
“状態
Iを経由して
”右端の状態
Bまで至る過程
A→I→Bであった
†705†706.いっぽう
,右辺は
,右端の状態
Bから
“状態
IIを通り
”左端の状態
Aまで至る 過程
B→II→Aに沿う線積分となる
†707:− lim
N→∞
∑N i=1
QLi TLi =−
∫
B→II→A
d′Q
T (8.13)
両辺をまとめる:
∫
A→I→B
d′Q
T +
∫
B→II→A
d′Q
T =
∫
A→I→B
+
∫
B→II→A
| {z }
A→I→B→II→A (一周)
d′Q
T =
I d′Q
| {z }T
Clausius積分
= 0
(8.14)
†701隣同士の等温線の温度変化は滑らかとみなせるほどに小さい.
†702全ての等温線が滑らかにつながる——これは,微小な長さの曲線が無限個集まって有限の長さ の曲線を形成する—— 1/∞ × ∞= 1とみなせる. たとえば,デルタ関数の議論に似ている(応 用数学).
†703[注意]等温線と異なり,断熱線の長さは有限であり続ける. ただし,この極限操作にともなって, 長さは変化する.
†704dU や d′Qなる記号は,微分であるから,必ず正負両方の値をとる. したがって,われわれが何 も考えずとも, 自動的に正負すなわち入熱か放熱かを判定してくれる. そして, 本節はじめで, 有限量としてのQが正負どちらもとりうるように定義し直したことも思い返そう.
†705ここで, 決して, A→Bと書いてはならない. 理由はすぐにわかる.
†706[数学]これはベクトル解析でいうところの線積分である.
†707左辺と右辺でそれぞれ経由点が状態Iと状態IIと異なることに注意せよ.
可逆サイクルの
Clausius積分
可逆過程から構成されるサイクルでは
Clausius積分
I d′Q
T
がゼロとなる
: I d′QT = 0 (8.15)
ここまでの要点と注意事項をまとめておこう
†708:1)
小さな
Carnotサイクルの各等温線の長さをゼロに近づける極限において
,全て
の
Carnotサイクルの総和は
,元のサイクルへと収束する
.2)
等温線の長さは微小であるが, 断熱線の長さは有限である. それゆえ, 全ての入 熱と放熱は微小量である
†709.3)
断熱線の全てが相殺される
†710.4)
不可逆サイクルに対しては
,次式が成立する
(後述
):I d′Q
T <0 (8.16)