まず定義を述べる
†292.内部エネルギー
Uと容積と圧力の積
pVの和が
†293,エ ンタルピー
Hである
:H ≡U +pV (2.25)
右辺はすべて状態量である
(復習せよ).ゆえに, エンタルピーも状態量である.
基礎
7. pVの次元が
Uと等しいことを確認せよ
†294.†286[用語]圧力が一定の過程を, 定圧過程あるいは等圧過程(isobaric process)という. 「定圧」と
「等圧」に異なる定義を与える書物も稀にあるが,本資料では定圧と等圧は同義とする.
†287p–V 線図において長方形で表されて幾何学的に計算できる.
†288[指針]問題の解答は,淡々と述べるのではなく, 意義や考え方の道筋をも含めて述べるので, 適 宜,取捨選択して利用されたい.
†289[数学]一定値という意味合いのとき,慣例にならって,一定をにおわせる下添え字ゼロをつける.
†290[重要]例年, 定圧でないにもかかわらず,pを積分記号の外に出す者が多いので注意を要する.
その原因に「準静的過程では圧力が一定」という誤解の浸透が挙げられるだろう.
†291[注意]むろん,このような簡潔かつ簡単な状況は限られており,机上の空論ともいえるだろう.
†292ようやく, 高校物理では全く未習の概念に迫ることとなる. エンタルピーとエントロピーは紛 らわしいので注意を要する.
†293[重要注意] pdV ではなくてpV であることに注意せよ. そもそも,有限量U に微小量pdV を 足しても,ほんのわずかの誤差に過ぎないので,U+pdV なる状態量を定義する意味すらない.
pV とpdV を決して混同してはならない. 微小か有限かの区別が習慣付いていれば, 間違うこ とはありえない. すなわち,pdV =p×1/∞ ≈1/∞ ≈0のように計算すれば,自身の誤りを自 分自身で正すことができる.
†294[注意] 熱力学に限らず,次元が違うものを足し引きしてはならない. また, 等号で結ぶときに, 左辺と右辺の次元が等しいのかには常に気を配らねばならない(言えば簡単だが,いざ試験を行 うと相当数の誤答がある).
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§ 2.6.1
エンタルピーの意味
本項の記述は直観的なものを含むので
,現時点で理解できなくとも問題ない
†295.エンタルピー
(enthalpy)とは
,熱関数ともよばれ
,エネルギーの一種である
(練 習
7)†296.物質の流入や流出を伴う系において
†297,気体が流れているとする
.ある 状態
(点
)を指定すれば
,状態量として内部エネルギー
Uが対応する
.しかしなが ら, その点のエネルギーは実は
Uだけではなく, 流れてくる気体が持ち込むエネル ギーがあり, これが
pVで与えられる
†298. pVは動くエネルギーと捉えてよい
†299.一方で
,Uは動かないエネルギーといえる
.これらをひとまとめに考えたものがエ ンタルピー
Hである
†300:(
エンタルピー
)| {z }
H
= (
動かないエネルギー
)| {z }
U
+ (
動くエネルギー
)| {z }
pV
†295[方針]定義したばかりのエンタルピー(2.25)に物理的意味や定義の背景を見出したがるのが人 情だが,必ずしも,これに興味をよせない学習法があってもよい. なぜならば,この後の議論や 式展開は,たとえエンタルピーの意味を知らなくとも理解できるからである. むろん,物理的意 味を知る方が,理解を促進する上に,興味も湧くだろう. エンタルピーの記述は, 書物によって 大幅に書き方が違うことも,このような脚注を設けた理由であり,熱力学Iの時点でどのように 意味づけるかは,実は金川も例年悩ましいところである. しかしながら,熱力学IIまで進むと, エンタルピーに確固たる物理的意味のみならず数学的役割をも見出せる. 我慢のできる者は,エ ンタルピーの意味を求めることは後回しにして,数学的操作にまず習熟する姿勢をすすめたい.
†296[用語]ギリシャ語で“暖める”を意味する. 語感が似ているが,エントロピー(entropy)とは全く 異なる. エントロピーはエネルギーではない.
†297[補足と例]開いた系(open system)とよばれ,ジェットエンジン(jet engine),絞り弁(throttling valve),タービン(turbine),圧縮機(compressor), 管路(pipe)やダクト(duct), 熱交換機(heat
exchanger)などが例示される(熱工学などで学ぶ). 閉じた系の逆である.
†298[詳細] 準静的仕事pdV と pV は何が違うのだろうか. 容積の微小変化(非状態量) dV ではな く,容積そのもの(状態量) V の流入(圧力 pによる押し込み仕事)を考えるのである. 状態量 としてのエンタルピーを作るのだから, 状態量で考える——こう捉えてもよい. 流れているの だから,容積の変化は微小ではありえず, 大変形であるがゆえに,V であると捉えてもよい(本 脚注は厳密性よりもイメージを重視している). 外界と系の力のつりあいを保ちながら(すなわ ち準静的に), 圧力 pで有限容積 V を流入させるのである. ゆえに,
F x=pAx=pV (2.26)
と結論づけられる(F x の時点では仕事だが,pV の段階ではエネルギー(状態量)とイメージし てみよ).
†299[注意]とくに工業熱力学(機械工学の熱力学)では, これを, 流動仕事(flow work)や排除仕事
(eliminate work)とよぶこともあるが, 金川個人はこれらの用語を好まない. なぜならば, pV
は状態量であるのに,仕事とついているがゆえに,pV を非状態量と安直に勘違いする学生が現 れかねないからである.
†300[例] U を貯金(動かない),pV をボーナス(動く), H を全財産と捉えるとよい.
[ついでながら]微小なお金pdV は時給とでもいうべきだろう.
エンタルピーは
,熱力学に限らず
,水や空気における流れや熱の移動を扱う上で至 るところに現れる状態量であり
,その理解はとくに工学応用上重要である
†301.§ 2.6.2
状態量の積の微分演算
熱力学では
,以下で導入する微分演算を多用する
.熱力学
Iでは
,状態量の微 分
dfに厳密な数学的定義は与えないと述べた
†302.そこで
,状態量
fと
gの積
f gの微分に対して, 次式の成立を要請
(定義)する:
d(f g)≡fdg+gdf (2.27)
すなわち
,形式的に積の微分の公式を適用してよいと定める
†303†304.さっそく
, (2.27)を用いて
,エンタルピー
H (式
(2.25))を微分しておく
(導いてみよ
):dH = dU + d(pV) = dU +pdV +Vdp (2.29)
これは
,単に
Hの微小変化を考えているだけであって
,この段階では「第一法則と は何の関連もない」無機質な数式といえる
.†301[補足]純粋物理学としての熱力学においては, エンタルピーをさほど強調しないようにも見受 けられるが, 工学においては重要である. 航空機やロケットエンジンなど,とくに高速流れ(超
音速流れ: supersonic flow)の力学(圧縮性流体力学)において,エンタルピー抜きに議論は不可
能である(3年次の気体力学や燃焼工学などで多用).
†302[復習]力学のように“微分係数”(あるいは,微分商,導関数)ではなく,微小量としての“微分そ のもの”を扱うことが熱力学の特徴であると述べた(†247–†249).
†303[数学]正しいことは判明済である(†304). [注意]積(product)の導関数の公式,すなわち d(f g)
dt =f dg dt +gdf
dt (2.28)
ではない. しかしながら,熱力学Iの範囲では, (2.27)と(2.28)を同一のカテゴリーの公式とみ なしてよい. †304をみると,その理由を理解できる.
†304 [数学]関数pV とは,pとV に依存することは当たり前といってよい. したがって, pV(p, V) とみなせる(見づらいならば, pV ≡f = f(p, V)と書く). そこで, 解析学IIで学んだ全微分 (total differential)を使う:
d(pV) = (∂pV
∂p )
V=const.
dp+ (∂pV
∂V )
p=const.
dV =Vdp+pdV
なお,独立変数が2つであることは熱力学の前提である(証明不可能. 熱力学IIで詳述).
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§ 2.6.3
第一法則のエンタルピーによる表現 準静的過程に対する第一法則
dU = d′Q−pdV (2.30)
を出発点とする. 式変形の方針は
(2.30)から
dUを消去することにある
†305. (2.29)を少し変形すれば
,第一法則
(2.30)に含まれる微小変化
dUを
dU = dH−pdV −Vdp (2.31)
とかける
†306.これを第一法則
(2.30)左辺に代入すれば, 両辺から
−pdVが相殺さ れて,
dH = d′Q+Vdp
| {z }
注意
(2.32)
をうる
(導いてみよ).本資料では, (2.32) を「エンタルピー型の熱力学第一法則」
と名付ける
†307†308.これに対して
, (2.30)すなわち
dU = d′Q−pdV
| {z }
注意
(2.30)
を「内部エネルギー型の熱力学第一法則」とよぶ
†309.右辺第二項の差異に注意せ
†305[意図] 式変形の動機は, 内部エネルギー U がわかりにくい(求めづらいあるいは測りづらい) ときに備えて, U に頼ることを避けて,H という同種のエネルギーにすがれるように整備する ことにある. すなわち,Hを得てから,U を計算するのである:
|{z}U
未知
=H−pV
| {z }
既知
これは動機の1つにすぎず,物理的というよりも数理的な動機といえるだろう.
†306[重要]この式に物理的な意味はないといってよい. 単に,エンタルピーの定義を微小量で考えた だけだからである. それでもなお,式に何らかの意味づけを望むのならば,エンタルピーの定義 の意味に立ち戻れば,何かを見出せるだろう.
†307名称にはこだわりすぎなくともよい. いちいち「熱力学第一法則を内部エネルギーの代わりに エンタルピーで表現した数式」のような,くどくて冗長な言い回しを避けるためでしかない.
†308[重要] (2.31)と(2.32)の決定的な違いは,第一法則を取り込んでいるか否かである. 前者は無機
質な数式(数学)にすぎないが,後者はエネルギーの保存(物理)という物理的意味を有する. 保 存則を取り込んでいるか否かは極めて重要と述べた(§0).
†309[指針]名称を覚える必要はない. そうではなく,式を導き,理解し,“自然に”覚えよ.
よ
.両式をまとめておこう
:
dU = d′Q−pdV dH = d′Q+Vdp
(2.33)
問題
6.準静的過程における第一法則の「内部エネルギーによる表現」
(2.30)を
,「エンタルピーによる表現」
(2.32)に書き換えよ
.問題
7.準静的過程に限らない任意の過程に対して成立する次式を導け:
∆U =∆H −
∫ 2 1
pdV −
∫ 2 1
Vdp (2.34)
[