p–V
線図において
†543,等温過程を表す曲線を等温線, 断熱過程を表す曲線を 断熱線とそれぞれよぶ
.等温線の傾きよりも断熱線の傾きの方が急となる
.§ 5.3.1
等温線の傾き
等温過程の理想気体の状態方程式は
, Boyleの法則に他ならない
: p(V) = CV =CV−1 (5.39)
これが等温線という
“曲線
”を記述する
†544.ここに
, Cは任意定数であって
†545,任 意の状態の状態量を用いて
,などと書くことが可能である
†546†547:C =pV =p1V1 |{z}=
過程1→2
p2V2 =· · · (5.40)
†543[注意]例年,V–p線図を描いてしまう者が一定数いる. もちろん,グラフの軸に何をとるかは個 人の勝手であって,たとえば縦軸にpではなくV を選んだグラフは,決して非難されるもので はない. しかしながら, V–p線図を描いてしまうと, 仕事の幾何学的計算という p–V 線図の 最大の効用において,何ら威力を発揮しないこと,うまくゆかないことに気づくはずである. 何 らかの意図や利点に即してV–p線図を描いているのならば理解できるが,もしもそうでないな
らば(単なるうろ覚えや深い考えがないのならば),「縦軸にpを,横軸にV をとる」と覚えて
しまう方がダメージは少ない. むろん,なぜ縦軸にpをとるのか,なぜ横軸に V をとるのかの 意義と利点を理解した上で覚えるべきである. その意味で,深い考えもなく,受動的に縦軸にp を,横軸にV をとっているだけの者がいるならば,それはV–p線図を描いている者と同レベル であって,p–V 線図の意義を見直すべきである.
†544[重要(誤記あり)] “直線”ではなく“曲線”である. なぜならば,関数形が反比例だからである. 実
際に描いてみよ.
†545C の任意性ゆえに,p–V 線図を無数の等温線で埋め尽くすことができる(微分方程式の解と曲 線群の議論と対応づけられる).
†546Boyle–Charlesの法則より,pV /T が一定であるが,T も一定である. ゆえに,T も任意定数C
の中に吸収される. これは, Boyleの法則がBoyle–Charlesの法則の一部であることと等価であ る.
†547[考え方]もちろん, これ以外の形を用いてもよい. 理想気体の状態方程式の表式は無数にある
から(状態量が無数にあるから)である. 自身が一番便利と考える形を用いれば, あるいは, 変
形すればよいだけのことである. いまの場合, pの V 導関数(変化率)に興味があるのだから (p–V 線図を考えるのだから),気体定数や温度を含まない形を望むのが自然であろう.
傾きは
,以下のように計算される
: dpdV = d
dV CV−1−| {z }CV−2 =
C=pV を代入
−p
V (5.41)
このように
,任意定数を消去し
,傾きを状態量だけで表現することが重要である
†548.§ 5.3.2
断熱線の傾き
計算の処方箋は何ら変わらない. 断熱過程の状態方程式は,
p(V) = DVκ =DV−κ (5.42)
であるが
,断熱過程の任意定数
Dは等温過程の任意定数
Cとは異なり
†549, D=pVκ =p1V1κ =p2V2κ =· · · (5.43)とかけるがゆえに, 断熱線の傾きは次のように導かれる:
dp
dV =−DκV−κ−1 =−pVκκV−κ−1 =−κp
V (5.44)
等温線と同じく
,断熱線も直線ではなくて曲線である
(理由を考えよ
).注意すべきは
,圧力
pも容積
Vももちろん正値であるが
,傾き
dp/dVは負 値をとることにある
.§ 5.3.3
断熱線の傾きの方が急
——断熱過程とエネルギーの有効利用
(5.41)(5.44)
の差異は比熱比
κの有無だけである
.その簡潔さゆえに
,これ だけを根拠に
,安直に傾きを比較したくなるのは自然な感情といえるが
,もちろん ナンセンスである
.なぜならば
,右辺の
pも
Vも変数であって
,縦横無尽にその 値を変えるからである
.†548等温線と断熱線の比較において,任意定数を含めてはならない. 理由はすぐ先に分かる.
†549[注意(誤答多数)]等温と断熱は異なる過程である. ゆえに, 同じ任意定数を用いては元も子も
ない. しかしながら,例年,pV =Cと pVκ=C のように同じ記号を使う者が一定数見受けら れる. C と D を区別せねばならない. 当たり前のこととはいえ,初学者が陥りやすい罠である であるので, 軽視すべきではない. もし,ここで注意喚起されなければ,この誤答を自身が回避 できていたか,などを検討することをすすめる. これは,「任意定数」の意味をはき違えた者の 誤答であるが,この誤答に限らず,諸君は,「任意定数とは何か」を正確に理解できているだろ うか.
99 ⃝c 2017 Tetsuya Kanagawa
そこで
, p–V線図内の
1点
,すなわち定数として
,ある熱平衡状態
0の状態量
p0と
V0を考えてみる
.これらを
(5.41)(5.44)に代入し
,その絶対値をとると
†550,p0 V0
|{z}
等温
< κp0 V0
|{z}
断熱
(5.45)
なる大小関係がわかる. なぜか. (4.25) すなわち比熱比
κ > 1を用いたのであ る
†551.したがって
,等温線よりも断熱線の傾きの方が急と結論づけられる
†552.問題
40.熱平衡状態
1 (圧力 p1,容積
V1)にある理想気体を, 熱平衡状態
2 (容積 V2)まで, 準静的に膨張させる方策として, 等温膨張と断熱膨張の
2通りを考える.
つぎの諸量を
,断熱と等温の
2通りに対してそれぞれ計算し
,断熱と等温での大小 を比較せよ
: (i)状態
2の圧力
p2, (ii)気体がする仕事
W1→2, (iii)内部エネルギー の変化
U2−U1, (iv)気体への入熱
Q1→2.[
ヒントと出題意図
]p–V線図に等温線と断熱線を描き
,両過程での仕事と熱の大き さを正負も含めて比較する
.第一法則に基づいて
,理想気体の状態方程式
(理想気 体の断熱過程の状態方程式も含む
)の助けを借りながら
, 1つ
1つを丁寧に調べる
. [略解] (i)等温の方が高圧
†553. (ii)等温の方が大きい
†554. (iii)等温はゼロ. 断熱は 減少
(U1 > U2)する
†555. (iv)断熱はゼロ. 等温は, する仕事と同じだけの熱を外界 から受け取る
†556.†550絶対値をとったのは,単に負号を考慮するのが面倒だからであって,もちろん負号付きのまま比 較してもよい. 関数形を見れば,等温線も断熱線も傾きが負であることは容易にわかるだろう.
†551[復習]κ >1に対する意識がまだ浅いかもしれないが,根拠をすぐさま説明できるようにすべき である. 事細かに覚えておかずとも,定義κ=cP/cV とcP =cV +R だけから,速やかに再現
される(比熱も気体定数も正だからである).
†552この事実は,次節以降, Carnotサイクル(§7)や理論最大熱効率を学ぶ上で,すぐさま活用する.
†553p–V 線図に, 等温線と断熱線を描き, 傾きに着目する. 比熱比の性質κ >1を思い返す.
†554仕事を与える領域の大きさを眺める. 膨張ゆえに,仕事を“する”. [重要]同じ容積を膨張させた いときに,等温よりも断熱的に膨張させる方が仕事が少なくて済むことは,エネルギーの損失を 減らす(エネルギーを有効に使う)という意味において, 応用上極めて重要な性質である. 実際
に, Carnotサイクル(§7)において,早速この性質が多用される. [例]音は空気中を断熱的に伝
わる. 大昔, Newtonは等温を仮定して理論式を導き,音速は 300 m/s程度と予測したが,実測
値との明らかな不一致が彼を悩ませた. Laplaceは断熱を仮定し,温度変化をも考慮することで, これを改善し,音速の実測値340 m/sと理論値の一致に成功した. 実に100年程度を要した.
†555[等温]幾度となく現れた, 理想気体の等温過程の第一法則dU =CVdT を思い返す(なぜこの 式を第一法則とよべるのかも復習せよ). [断熱]第一法則を立てる.
†556[重要]大抵何かが消えることに気づいただろう. 理想気体の断熱過程ならば入熱がゼロで,等温 過程ならば内部エネルギー変化がゼロである. すると,仕事と内部エネルギー変化が(断熱),仕
事と熱が(等温),それぞれ一対一となる.