刺激文は精研式等を参考にしE子の状況を加味してThが作成した。主に家庭への態 度と自己観の2っの領域を提示する。
a.家庭,家族への態度
①私の家族はごちゃごちゃしている
②よその家庭は仲良くてうらやましい
③よその家にくらべると私の家は壁雌
④お父さんは温かくて心が広い人がいい
⑤お母さんは優しくて えさせてくれる人がいい
⑥私の父は生きているか死んでいるかわからない・・
⑦私の母はいつも気持ちを共有したがっていた b.自己観
⑧いつも私はcr一:二=してるけど 苦しんでいる
⑨私のからだは疲れているのに私は無視している
⑩ひとりでいるとどんどん落ち込んで閉じこもってしまう
⑪私のくせ爪をかんでいたりφの毛をぬいてしまう
⑫たくさんの人がいるとキョロキョUしてしまう
⑬このごろ私は少し自Zに優しくなったがまだキツイ
⑭子どもの続出は物静かだった
⑮死は, とても苦しくてこわいもの
⑯私は他人の気持ちが,わかりすぎて怖い
以上,①②③からは,E子の家族像の悲観や混乱が,④⑤からは,自分を保護し見守 る良い両親像の内面化が,⑥⑦からは,干渉的な母親像や家族力動のうけとめが,⑧〜
⑫からは,自己の主体性の欠如や自我の脆弱さ,自分を受け入れられず自分を大切にで きない苦悩や葛藤が,⑬からは,「良い子」から少しずつ「自分の感情を受け入れる子ユ への変化や,父親へのアンビバレントな感情などが表現されている。食症状改善期に実 施し,反応は以後の面接の手掛かりとなり,本人が自分の中の矛盾した感情に気づき,
将来への展望にもつながつた。⑯からは,共感性の高さや自他の分離機能との関連は不
明である。
3) K F D [Fig 8 2 1 , Fig 8 2 3, Fig 8 2 5, Fig 8 2 7 , Fig 8 2 ie]
4)KSD[Fig8・2・4, F壇8・2・6,碧ig8・2・8コ
KFDとKSDの実施後の質問等については,調査研究⑤⑥と同様の項目であった。
Fig 8・2・1は治療初期のKFDで, E子の顔は横向きで,父母,弟ともに背面で描かれ,
家庭や家族成員に対するE子の否定感が伺われる。互いに背を向けたE子と母親の母子
関係の葛藤が伺われる。また,一人家族に背を向けて立つ母親は,出入り:で区分され ており,緊張や不安の高さが示唆される。さらに,描画特徴の「区分」の使用と,本K
FDの実施時期とは多少異なるが, E子の治療中期の本共感性尺度における肯定感情共 有不全が高いことは,調査⑥の結果と一致するものである。F塘8・2・3については, E子 は「お母さんにかわいがられている」と説明した。E子に手を差し延べる母親からは,
過保護で支配的な養育態度が推察される。小さなE子と大人の容姿のアンバランスから は,大人になることへの:葛藤が伺われる。一人離れて小さな父親は,家族からの孤立や 無力感の投影ともうけとれる。最も親しくない者の父親像が「正面」であることと,本 宮感性尺度のE子の否定感情共有が高いことは,調査⑤の結果と一致するものである。
さらに,出入り口の「区分」は,E子の肯定感情共有不全が高いことから,調査⑥の結 果と一致するものである。同時に描いたKSD(Fig8・2・4)は,今回の相談開始後初め て描いた学校の絵である。長机によっていっしょに包囲されたE子と友達は,横向きの E子に対して,親しい友人は2人とも背面であり,心の交流の希薄さが伺える。短大を 休学した頃に描いたKFD(Fig 8・2・5)では,家族団らんの食事場面であり, E子の心 の安定と家族成員の交流が伺える。しかし,区分されて描かれた食べ物や,開け放した ままで食べ物の見えている冷蔵庫などからは,E子の食へのこだわりが示唆されている。
さらに,この「区分」と,E子の肯定感情共有不全が高いことは,調査研究⑥の結果と 一致するものである。自分は背面で,母親と弟は横向きに描かれている。左上に区分さ れている光景は,自分の部屋と語った。父親は描かれず,祖母が描かれている。この最 も親しくない者である祖母が「正面」に描かれていることと,E子の否定感情共有が高 いことは,調査研究⑤の結果と一致するものである。同時に描いたKSD(Fig 8・2・6)
は,多数の友達を全て描いたあと最後に自分を描いた。一人最後列に離れて座り,さら に自分だけ出入り口のドアで包囲されている。Bums&Kaufmn(1972)は,「くずを持つこ
とは汚いものを捨てること」と述べている。E子のぞぱに置かれたくずとゴミ箱は, E 子が過去を捨て,再生しようとする無意識の投影のようでもある。父親は描かれず祖母
が描かれている。Fig 8・2・1,:Fig 8・2・3, Fig 8・2・5ともに,母親は最後に描かれた。 Fig
8・2・7は大学に再入学海のKFDである。描画全体に包囲や区分といった様式はみられ ない。また,親しい相手の母親と祖母を横向きに,自分をほぼ正薗に描いている。岡時 に描いたKSD(Fig 8・2・8)は,親しい友達が「正面」向きに描かれ,この最も親しい 相手が「正面」に描かれていることと,この時期に実施した共感性質間紙においてのE 子の肯定感情共有が高いことは,調査研究⑤の結果と一一一 twするものである。 F喀8・2・10
は,母親は料理のテキストを持ちながら掃除機に向かう。Bums(1982)によると,掃除 機は攻撃性の表れという見方もできるが,使用されずその先端も隠されており,むしろ 家族への母性的関わりであり,料理や掃除という家事で家族に愛情を注ぐ母親の姿との 見方もできる。家族成員が個別の行為をすることで,家族成員間の葛藤を抱えながらも,
かろうじて家族内のバランスをとろうとしているようにも伺える。それは,別居する父 親を左上の部屋に孤立させながらも家族画に加えることなどにも表れているようでもあ る。E子の父親へのアンビバレンツな感情が伺える。全体として, E子が家族の機能不 全を抱えながらも,バランスをとりながら,生き直しをしょうとする心の内面の表現さ れた絵のようでもある。なお,描画特徴の「区分」の使用と,E子の本誌感性尺度にお
ける肯定感情共有不全が高いことは,調査研究⑥の結果と一致する。また,最も親しい 人を母親と述べ,この母親の顔の方向が「横向き」であることと,肯定感情共有の高さ
とは,調査研究⑤の結果と一致する。
(Fig 8・2・1〜Fig 8・2・9の図申の番号①②③…は描いた順序で,人物名と共に, E子 から聴取してThが後で書き入れた。)
5)K一一・HTP法[Fig 8・2・2, Fig 8・2・9]
テスト・バッテリーの一つとして用いた。Fig 8・2・2は治療初期で「人は私で家に入れ ない,切り株に座ろうか悩んでいる」と語った。入り口のない家からは,家庭として機 能しない,子どもにとって依存できる場所ではない家族や家庭が伺われる。エネルギー の低下した人物や痩せ細った木はE子自身ともいえ,木の成長志向性や,人物像と木の 根の安定感からは,E子の健康な一面が期待されるFig 8・2−9は大学に再入学した頃の K−KTPである。「私は家の修理をしている。誰かがプレゼントを運んで来たけれどそ れが誰かはわからない」と説明する。家の中の透明性は病理性のサインとの見方もある が,むしろ電灯からは温かさが,ガスZンロからは現実観が感じられる。家の修理は,
E子が家庭や家族を再生しようとする姿そのものとも推察され,プレゼントは外部から の援助のようでもある。屋根の上の自己像はいかにも不安定であるが,家と人と木の統 合度やそのエネルギーからは,E子の回復が推察される。
(3)本共感性尺度との検討
#45(第1回)と終結後(第2回)の本共感性質問紙による各下位尺度得点を,Table 8−1−1に示す。第2回については,短大再入学後,Thを訪ねたE子に依頼して実施し た。表から,第1回目には,女子大生の平均値に比べて,否定感情の共有の高く,否定 感情の共有不全が低い。さらに,第2回罵では,否定感情共有不全がなお平均より低い
が若干上昇し,肯定感情共有の上昇,肯定感情共有不全の若干の上昇,否定感情共有の 低下を読み取ることができる。なお,描画法と本読感性質問紙の実施時期は,同時では なく著干のずれがあるため,参考程度までの描画との検討では,F塘8・2・1, Fig 8・2・3,
Fig 8・2・5, Fig 8・2・8,Fig 8・2・1◎においての,「人物像の顔の方向」やf包囲」「区分」
などの描画特徴と本影感性質問紙の各因子の下位尺度得点との関係は,調査研究⑤調査 研究⑥の結果と一致するものであった。
(4)共感性評定と共感性尺度
面接を通してThはE子の共感性の側面を次のように捉えていた。 E子は, Thのそ の目の心身の状態を素早く察知して,ち ilつとした疲労感にも思いやりを発揮した。そ の一方では,Thが投げかける明るい気持ちやそのような振る舞いには無頓着だった。
言い換えると,相手の気分の落ち込みには敏感だが,気分の高揚には鈍感であると感じ た。また,E子自身の応答から次のようなことが伺われた。他人の不幸や悲しみに同情
し,自分は他人に共感できると考えていた。しかし,次第に自分は他人の否定的な気持 ちには共感するが,肯定的な気持ちには共感できないということに気づき始めた。E子 は相手の肯定的な感情にも共有できるようになったと自ら語る様になり,肯定感情の共 有を高めていった。そのことが,E子の自己変容にもつながつたのかもしれない。この
ように,ThはE子の共感性を,その肯定感情共有が高まっていったという変化と,否 定感情の共有不全の低さから評価しており,これらの共感性の特徴は,E子の自己評定 による,本共感性尺度得点ともほぼ一致するものであった。さらに,肯定感情共有の側 面と否定感情共有不全の側面とでE子の共感性を評価していたことは,調査研究⑥の結 果と一致するものであった。
6 共感現象の検討と考察
本事例的考察では,共感的理解に関する重要と思われるエピソードに焦点を当てなが ら,その治療部分を断片的に取り上げて検討した。
E子の間題や症状の背景には,その心理規制や家族病理などが考えられた。そこには,
母子間の境界の弱さや,お互いの幸福に強い関心を向け合う母子像が推察された。また,
父母の争いに巻き込まれた£子の父親像の理想化と,女性像の適切なモデルが得られず,
成熟した女性になることを無意識のうちに拒否する心理や,本当の自分を確立しようと する青年期の精神的不安定さなどが推察された。E子は,幼い頃から親からの共感的応 答を,求:めても求めても得られなかったことなどで,決して満たされて安定することの