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第2節 描画特徴の「包囲」「区分」と共感性(事例的検討②)
1 問題と目的
第5章第2節における数理統計的な研究(調査研究⑥)において,描画様式の「包囲」
「区分」と共感性の関係を検討した。本節では,調査研究⑥において得られた知見につ いて,臨床事例を通して検討し,臨床的知見を加味することで,共感性と描画との関係 をより明らかにする。
2 事例
事例1 摂食障害の事例と描画
(1)事例の概要
H子は,短大入学後ヂクラスの誰の書うことも信じられない」「誰も自分を理解してく れないj「みんなが自分の悪口を書う」と対人関係に悩み,後期の授業が始まると聞もな く過食と拒食を繰り返すようになった。次第に外出も困難になり,それでも断続的に出 席していたが,初めての教育実習に適応できず,実習先で混乱し意識が薄れ倒れた。病 院受診後意識はまもなく回復し,器質的な問題は見あたらず,極度の緊張と不安からの 心身の疲弊状態と診断された。そのまま実習は瞬断したまま1月以上欠席が続き,相談
を開始した。
(2)描画の変容過程
インテーク面接とその後のカウンセリングの経過で,H子の母子関係を中心とした家 庭要因が浮き彫りになった。母親は,H子に対して支配的で強圧的である一方, H子の 将来に過剰に期待し,自分の果たせなかった夢である短大進学と資格の取得をH子に押
しつけていた。H子もそれに懸命に応えようとし,対人関係の苦手な自分に無理を重ね
てきた。相談開始後間もなく描いたH子のKFD(Fig7・2・1)では,自分1人を母親
ら他の家族全員と「区分」している。さらに,食べ物に囲まれ食事をする自己像と自分 の部屋を「区分」し,食べ物への執着と食べることへの罪悪感とのアンビバレントな状 況が投影されている。また,自分への期待過剰で過保護,過干渉の母親と,その母親と 母子共生的な祖母を一緒にして七分」している。紙面の下方に嘔分」されている乗
り物や風景は,家から出たいが母親に許されないK子の心情が伺われる。一方,同時に 描いたKSD(:Fig7・2・2)は授業風景であるが,最後部座席の自分は机と椅子で「包 囲」され,描画全体には「区分」がみられる。隣席の友人と一緒に囲まれているが,顔
の方向は反対で,心の交流は希薄である。その後母子併行面接を行い,H子は徐々に自 分の気持ちを母親に伝え,母親もそれを理解しようとし始めた。母子関係は徐々に改善
し,H子の摂食障害や学校不適応は回復がみられた。家庭での存在感の希薄な父親は,
母親に頭が上がらない。H子は2年生に進級し,対人不信も徐々に軽減し,むしろ欠席 中にクラスメートがレポートやノートなど手助けしてくれたことに感謝し,「周りの人た ちの温かい気持ちが伝わり嬉しい」と語るようになった。1年生でやり残した実習単位 も遅れて別の実習先で取得した。相談開始後3ヶ月目頃には,H子はこれまで進路決定 まですべてに母親の言いなりになってきた自分をふり返り,f自分らしく生きたい」と自 分探しを始めた。この頃描いたK:FD(Fig 7・2・3)では,母親は車に乗り「包囲」が 用いられているが,車にわずかに接触したH子からは,一方では母親の気持ちを受け止 めようとする葛藤が伺われる。また,十時に描いたKSD(Fi霧7・2・4)では,バレー ボール場面からは対人交流への積極性が感じられるが,筆圧弱く描かれたネットを用い ての若干の「区分」がみられる。カウンセリング終了直前に描いたKFD(F逡7・2・5)
では,母親の上半身は椅子に囲まれているが,一つの食卓を囲み食事をするという家族 団らんの場面である。同時に描いたKSDは,友だちとおしやべりしているところとい
う休憩時間の場面で,相手との心の交流の感じられる絵である。
なお,相談中期にH子に実施した共感性質問紙による各下位尺度得点を,Table 7・2・1 に示す。この表から,否定感情・肯定感情といった感情の側面にかかわらず,共有不全 感が強く,共有感が弱いというH子の特徴を読み取ることができる。
Table7・2−1女子墨柄の共感性各rド位尺痩得点の藥均・標導偏差とH子・K手の各下位尺度霧点くn=2?3)
根出尺度名 F1 肯定感構雪膚不全 F2 歯定感情共有 F3 否定感情共有
F4 否定感情共孝蓼フF全
孚均騰 標準偏差 K子
K子
3.06 3.99 3.32 2.95
O.79 0.56 g.65 0.77
4.71 2.17 2.38
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4.gg 2.17 2.og 4.go
Flg7−2−1相談開始後間もなく描いたH子のKFD
Fig 7−2−2相談開始後間もなく描いたH子のKSD
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Fig・7−2−3相談開始後3ヶ月頃にH子の描いたKFD
Fig7・2−5 相談終了薩前にH子の描いたK:FD
事例2 対人恐怖を伴った不登校の事例と描画
(1)事例の概要
K子は,高校2年生の頃に,対入関係が困難になり不登校歴がある。大学入学後,友 人ができないことに悩み,クラスやクラブでも孤立し落ち込むが,几帳面で生真面翼な 性格のK子は登校もクラブも続けていた。しかし「友人たちが要領よく授業をさぼった
り,隠れてたばこを吸っているのが許せない」などとの訴えが強くなった。朝になると 微熱が出るが,気力で起きあがり登校しても腹痛や発熱が続き,人前に出るのも恐くな
り,授業にも出られなくなった。
(2)描画の変容過程
相談に訪れたK子の話によると,母親は社交的で家事はほとんど父親任せで美容師と して活発に仕事をしていた。母親からは,K子のほうから積極的に友人を作れば解決す るのにどうしてできないのだと,その消極性を責められるばかりであった。また母親に 全面的に依存し,優柔不断な父親には滅多に話すこともなく,小さな弟や妹もいて,K 子は噛分の気持ちは家族の誰にもわかってもらえない,自分も誰の気持ちもわからな
い」と訴えた。その頃K子の描いたKFD(Fi霧7・2・6)では,それぞれ泡囲」され
たK子と弟はさらに「区分」され,母と弟,妹も「区分」されている。また,KSD(Fig 7・2・7)では,自分は独り保健室で座っているところと話し,先生や友人と「区分」さ れている。かろうじてドアのある部屋が若干閉塞感を和らげているようでもある。K子 の話談では授業の欠時数等の現実聞題にも対応しながら,K子の内面を支えていった。次第に,K子は「自分とは違う考えの人たちを認めることは,自分を認めることだと思 う」などと話すようになり,多様な周囲の人たちを受け入れるようになり,K子の他者 理解の変容や自我の成長ぶみられるようになった。そうして自分の将来の夢を実現する ためにも大学は続けたいという気持ちが自分の行動を支えるようになり,不登校は回復
していった。身体症状や葛藤を抱えながらも,登校復帰し始めた頃のKFD(Fig
7・2・8)では,背面のK子には,テーーブルや人物下線を用いたf区分」ともとれるが,
家族が食卓を囲み心の交流も伺われる。KSD(Fig 7・2・9)においては, K子と友人 の問には机などによる二重の障壁がみられるが,多くの友人が出現し,最後部の席で,
隣の友人と向き合い話している姿は,相手を受け入れ始めたK子の内面が推察される。
なお登校を再会した頃の,K子の共感性に関する各下位尺度得点を攣able 7・2・1に示す。
否定感情・肯定感情といった感情の側面にかかわらず,共有不全感が強く,共有感が弱
いというK子の特徴を読みとることができる。
3 総合的考察
本論文では,第5章第2節において,描画様式の「包囲」「区分」と共感性の関係につ いて検討した。さらに,本章第2節では,描画にみられる多様な特徴を臨床的な知見を 加味して読みとることで,共感性と描画との関係をより明らかにすることを試みた。そ れは,第5章第2節における数理統計的調査の結果と同じ傾向を示すものであった。本 事例的検討では1時点の共感性データであるため,クライエントの不適応の改善に伴っ て共感性尺度の得点がどのように変化したのかについては分析できなかった。これらの 点や,包囲や区分の出現と,適応の度合いや共感性との関連などについて分析すること が,今後の課題として残る。さらに,本調査では,女子学生を対象にしたが,今後は,
男子大学生をはじめとした男性に対しても,同様の調査・分析を行い,女子学生と類似 した結果が得られるのかどうか検証したい。
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Fig 7−2−6 相談初期のK子のK:FD
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Fig 7−2−8登校復帰し始めた頃のKFD
Fig 7−2・9 登校復帰し始めた頃のKSD