第3章 共感性の実証的研究
第3節 共感性尺度の信頼性と妥当性の検討(調査研究③)
1 問題と圏的
本研究(調査研究③)では,次の (1)(2)(3)により,調査研究②で作成した共 感性尺度の,信頼性と妥当性を検討する。
(1)共感性尺度の基準関連妥当性を検討するために,Davisの対人反応指標
(kterperso難al Reactivity lndex)(以下, I R lと記す)(Davis,1994照本語訳,菊 池,1999)との相関を求める。本調査には,菊池(1999)の日本語訳を使用した。(2)
共感性尺度の構成概念妥当性を検討するために,菊池の社会的スキ・ル尺度(以下,Ki ss18とする)との相関を求める。(3)共感性尺度の構成概念妥当性を検討するため に,下島式性格検査(以下,SPIとする)(塩見・畠中・吉岡,1989)との相関を求め
る。
(1)のIRIはDavis(1983)が開発した,共感を多次元的に測定できる尺度であ
る。共感性の認知的側面である「視点取得」(他者の立場に立って物事が考えられる程度)と,情動的側面である「共感的関心」(他者に対して同情や配慮をする程度),「空想」(架 空の人物への同一化傾向の程度),「個人的苦痛」(緊急事態での不安や動揺の程度)で測 定される。この尺度は共感を認知的側面と情動的側面から多次元的にとらえようとした 点を特徴としている。そこで,本調査研究③では,調査研究②で作成した共感性尺度の 妥当性を検討する。本研究における共感性尺度は,認知と感情の両側面を測り,特に感 情についてはその種類の違いを測定するものであり,IRIの各下位尺度との関連は,
次のように予測する。①否定感情共有下位尺度と「個人的苦痛」とに正の相関がみられ る。②肯定感情共有下位尺度および否定感情共有下位尺度と「共感的関心」とに正の相 関がみられる。③肯定感情共有不全下位尺度および否定感情共有不全下位尺度と「共感 的関心」とに負の相関がみられる。④否定感情共有下位尺度および肯定感情共有下位尺 度と「空想」とに正の相関がみられる。
(2)Kiss18(菊池,1988)は,社会的スキル「対人関係を円滑にはこぶため
に役立つスキル(技能)」を身につけている程度を測定する尺度である。この尺度のα係 数は,0。8以上と高く,再検査信頼性も◎.7以上と高い信頼性を有している。さらに 妥当性についても,構成概念妥当性および基準関連妥当性が高いことが示されている。菊池(1999)は,YG性格検査との相関から,大坊(1991)は自尊心尺度との相関から,
いずれもKiss18が対人的適応の指標と正の関連,不適応の指標と負の関連をもつ
ており,概念的妥当性の高い尺度といえることを示している。本研究(調査研究③)に
おける共感性尺度は,対人的指標として捉えることができ,社会的スキルKiss18
とは,肯定感情・否定感情ともに共有下位尺度とは正の相関が,肯定感情・否定感情と もに共有不全下位尺度とは負の相関がみられると予測する。
(3)SPIは,標準化された性格検査であり,本研究(調査研究③)における共感 性尺度の人格特性の側面をも測るものと捉えることができる。SPIの下位尺度の特性
との関連は,次のように予測する。①自閉性格と肯定感情共有不全下位尺度とには正の 関連が,肯定感情共有下位尺度とは負の関連がみられる。②同調性格と肯定感情共有下 位尺度とは正の関連が,肯定感情共有不全下位尺度とは負の関連がみられることが予測
される。
2 方法
調査対象者調査研究②のA県及びB県内の大学生,短大生,専門学校生(男子251名,女子271 名)の計522名であった。
調萱時期:20◎◎年6月であった。
調査用紙:
(1)IRI:共感性の認知的側面である「視点取得」(他者の立場に立って物事が考え られる程度)と,情動的側面である「共感的関心」(他者に対して同情や配慮をする程度),
「空想」(架空の人物への岡一化傾向の程度),「個人的苦痛」(緊急事態での不安や動揺 の程度)の4下位尺度から構成され,5件法によって評定される。なお,用いたIRI
調査用紙を,本論文末尾の,Appeudix 2に示す。(2)Kiss18:「初歩的なスキ
ル」「高度のスキル」「感情処理のスキル」「攻撃に代わるスキル」「ストレスを処理する スキル」「計画のスキル」の6つの分類に基づいて菊池(1988)が作成した18項目から なり,5件法によって評定される。(3)SPI:7◎項闘からなり,S:自閉性格,N:神経過敏性格,U:自己不全性格,1:執着性格, C:同調性格, H:自己顕示性格,また 園答の信頼性をみるためのし:虚偽尺度の下位分類から構成され,70項目からなる。(3)
調査研究②で作成された26項目の共感性質問紙:「いつもそうだ(5点)」「たいていそ うだ(4点)」「どちらともいえない(3点)」「たいていそうでない(2点)」「いつもそ うでない(1点)」の5件法の回答形式とした。
手続き
調査は,臼頃の意識を調べるための調査という説明を行い,授業時間中に集団法によ り実施した。質問紙の所要時間は,(1)(2)(3)で,約35分であった。
3 結果
(1)構成概念妥種麹の検討(1RI)
作成された共感性尺度の構成概念妥当性を検討するために,本共感性尺度とIRIと
の相関係数を求めた(Table 3・3−1)
Tab藍e 3−34 Davisの対人反響指標と共感性に関する4つの下位尺度との相関 Davisの対人反応掲標(IRU)n=522
空想
肯定感情共有不全 一.18***
肯定感情共有 .28***
否定感情共有 .30***
否定感情共有不全 一一.17***
視点取得 共感的関心 欄人的苦痛
g ***
.31 ***
.33 ***
一一D23 ***
=23 ***
.43 ***
Al ***
一.30 ***
=06
.17 ***
.32 ***
=13 **
(**:Pぐ01 ,***:P〈.◎Ol)
否定感情共有下位尺度と「個人的苦痛」とに,0.3以上の正の相関がみられた。「個人 的苦瘤は,他者の苦痛に対して動揺などの自己志向の感情反応が起こることを示して いると推測され(登張,2000),否定感情共有下位尺度が,この「個人的苦痛」を測定し ていることは,この下位尺度の妥当性を示すものといえよう。また,否定感情其有下位 尺度及び肯定感情共有下位尺度と「共感的関心」とに◎.4以上の相関がみられた。「共感 的関心」は,共感的配慮とも訳され,不運な他者への同情や関心という他者志陶の気持 ちと定義される。Davis(1994)は共感的配慮に関連した項目に 寛容な や 暖かい など肯定的感情も選んでおり,否定感情共有下位尺度及び肯定感情共有下位尺度と「共 感的関心」との間に関連がみられたことは,これら下位尺度の妥当性を示すもと考えら れる。さらに,否定感情共有不全下位尺度と「共感的関心」とに,0,3程度の負の相関 がみられた。否定感情共有不全下位尺度が「共感的関心」と逆方向ではあるが関連がみ
られたということは,この下位尺度の妥当性を示すものであるといえよう。
また一方で,否定感情共有下位尺度と肯定感情共有下位尺度と「視点取得」とに0。3 以上の正の相関がみられたということは,認知的側面である「視点取得」とこの下位尺 度との関連を示すものであり,本共感性尺度が感情面だけでなく認知的側面をも含んだ 共感性を測定していることを示唆しているといえよう。当初の予測では,この「視点取 得」は認知的側面を申心とするため,本共感性尺度との相関は特に予測していなかった。
否定感情共有下位尺度と「空想」とに◎,3以上の強い正の相関がみられたことについ ては,小説や映画を見て登場人物の一人になったように同情しやすい日本人の心性の現 われとみることもる。その他の共感性下位尺度と「空想」では,肯定感情共有と「空想」
との問には弱い根関が,肯定感情共有不全下位尺度および否定感情共有不全下位尺度と
「空想」には,きわめて弱い相関がみられた。
これらの結果は,IRIの「個人的苦痛」「共感的関心」「空想」についてはともに,
予測をほぼ支持するものであった。「視点取得」については,視点取得の認知的側面と本 共感性下位尺度にも関連がみられ,本共感性尺度の測る認知と感情とに明確な違いがみ
られなかったことについては,今後,認知的側面と感情的側面とを分離した上での両者 の関係を明確化していくことなどが必要であると考える。
以上の結果から,否定感情共有,肯定感情共有,否定感情共有不全の各下位尺度の妥 当性が示され,肯定感情共有不全下位尺度についてもほぼその妥当性が示されたと考え
る。
(2)構成概念妥当性の検討(Ki$$18,SP1)
作成された共感性尺度の構成概念妥当性を検討するために,本共感性尺度と2種類の 尺度,Kiss18, SPIとの相関係数を求めた(Table 3・3・2)。
丁醐¢3−3−2Kis$18及びSP!と共感性に関する4つの下位尺度との相関
Kl$Slg
(纏講3§)
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.23 ***
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S9 ** .16 *** 一.25 pa D7 * 一.Ol .27 ***.16 )bk* .16 *** .08 *
=04 .08 ** 一一.06
spai (n=s7e)
u c 露礁感構外膚不全一.3◎*将
肯定感情二二 .34*纏 否定感楕共有 .14zz 否定感情共膚不金一.17***
韮
.va ** 一.e2
.14 *** 4
.噛7*** .㈱
.e4 一.es
(*:p〈.05, **:p〈Dl, ;iol*:p〈.oo1)
注)S:自閉性格、N:神経過敏性格、 U:自己不全性格、 C:同調性格、 H:自己顕示性格 互:執着性格
1)Kiss18との検討
肯定感情共有下位尺度とKiss18には,o.3以上の正の相関がみられた。否定感
情共有下位尺度とは,極めて弱い正の相関がみられた。肯定感情共有不全下位尺度とK iss18には,◎.3程度の負の相関が,否定感情共有不全下位尺度とはきわめて弱い 負の相関がみられた。菊池(1988)によると,この尺度で得点の高い人は,対人関係では積極的であり,人 当たりがよく,思いやりのある行動をとることも多い。肯定感情共有下位尺度に正の関 連がみられるが,否定感情共有下位尺度とは相関がみられないことは,この尺度の得点 の高い人の対人関係が積極的で人当たりがよいという点,さらには思いやり(共感性)
のある行動としての行動特徴は,欝定感情にも否定感情にも共有しやすく,肯定感情を 共有できない経験の低いことは,これらの下位尺度の妥当性を示すものであるといえよ
う。
さらに,菊池(1994)は,Kiss18について,情勤諸共感性尺度との問には,は
っきりした関係がみられないと述べている。しかし,本研究の結果において,肯定感情 と否定感情に分離して調べると,肯定感情共有下位尺度に正の関連がみられるが,否定 感情共有下位尺度とは相関がみられなかった。このことから,肯定感情と否定感情を分けることにより,この尺度が,肯定感情との関係は深いが,否定感情との関係が弱いと