第6章 臨床場面における共感性
第1節 カウンセラー評定の共感性とクライエントの自己評定の 共感性との関連(調査研究⑦)
1 問題と目的
心理療法における面接過程をとらえる試みは,これまでカウンセリングや遊技療法な どの実践過程において,様々に行われている。本研究(調査研究⑦)では,面接過程の 中でカウンセラーがクライエントの共感性の程度を判断する場合,カウンセラーはクラ イエントの共感性のどのような側面を判断材料にしているのかを検討する。
2 方法
調査対象:A県内の大学生女子35名であった。
調査時期:2000年7月および2001年1月であった。
調査項目;
①学生(以下,クライエントと記す)35名
・本共感性質問紙:「いつもそうである」から「いつもそうでない」までの5件法の回答 形式である。
②カウンセラーである心理学教員(以下,カウンセラーと記す)2名
・共感性7段階の評定用紙:「最も高い」「かなり高い」「やや高いほう」「中くらい」「や や低いほう」「かなり低い」「最も低い」の7段階の評定形式である。
面接場面では,肯定感情共有不全,肯定感情共有,否定感情共有,否定感情共有不全 の各因子についてのエピソードなどを,カウンセラーからクライエントに話をする形で 提示し,クライエントの言葉,話の内容,表情などの反応を総合的に判断して,カウン セラー評定を記入する。面接中に気づいた点などについては,評定用紙の記入欄にメモ をとるようにした。評定にあたっては,Gendlin(1972)の体験過程スケール(EXPスケ ール)の評定基準(池見,1995)などを参考にした。なお,用いた共感性7段階評定用 紙を,本論文末尾の,Appendix 4に示す。
手続き
(1)実施法
意識調査という説明で,3クラス136名について,授業中に集団実施法により共感性 質問紙を実施した。調査終了後,さらに面接法による調査への協力を依頼し,協力を申 し出た学生について,翌週から,放課後に1日あたり3〜5名程度の一別面接法を実施 した。なお,調査を担当したのは,筆者の他に,カウンセラーで大学の心理学の教員1 名の計2名であった。学生35名に対して,2名の心理学の教員がそれぞれ別室で面接を 実施し,2人の得点の平均値をデータとして使易した。実施方法は,学生との面接を実 施し,面接直後にカウンセラーがクライエソトー人ひとりの評定を7段階評定用紙に評 定した。なお,評定の考慮に時間を要するケースについては,面接中に評定用紙に記録
したメモなどを参考に,そのHのうちに評定を行った。
(2)再調壷:同じ被験者35名について,6ヶ月後に,共感性質問紙の再調査を実施し
た。
3 結果
(1)カウンセラー評定値とクライエントの自己評定値との関連
カウンセラー評定の共感性7段階の評定値及びクライエントの共感性質問紙の自己評 定の平均値と標準偏差を,Table 6・1・1に示す。面接直後にカウンセラーがクライエソト ー人ひとりの共感性を評定した評定値を弩的変数,カウンセリングを受ける前にクライ エントが自己評定した共感性尺度の得点から算出した下位尺度得点を説明変数に,ステ
ップワイズ法による重回帰分析を行った結果をTable 6・1・2, Fig 6・1・1に示す。
分析の結果,肯定感情共有下位尺度得点が有意な正の回帰を示し,否定感情共有不全 下位尺度得点が負の回帰を示す傾向にあった。これは,カウンセラーがクライXントの 共感性の程度を判断する場合には,クライエントの肯定感情に対する共有という側面を 主な判断材料とし,否定感情に対する共有不全という側面も判断材料にしている可能性 があることを示唆するものである。
(2)再調査による信頼性の検討
ところで,クライエントが自己評定した共感姓尺度の得点から算出した共感性に関す る下位尺度得点が不安定なものであるならば,こうした結果はあまり意味をもたない。
そこで,6ヶ月の間隔をおいて同様の調査を35名のクライエントに対して行い,4つの 下位尺度得点を改めて算出し,6ヶ月の期問をおいた前後での評定値をもとにした下位 尺度得点の相関を求めた(Table 6・1・3)。その結果,4つの困画すべてに関して有意な 相関がみられた。これは,クライエントの評定値をもとにした共感性の各下位尺度得点
が比較的安定したものであることを示唆するものであり,本研究で用いた共感性の各側 面はそれぞれ安定した個人の特性を反映したものであると考えられる。
Table 6・蒙4本人欝潅による共感姓4下佼尺度得点とカウンセラー詳建簸との蘭連の単均とS◎
ll h 観 眠}
本人評定のF3 本人評定のF2 本人評定のF3 本人評定のF4
カウンセラー一・・ ge定共感性3段階
3.11 3.77 3.49 2.94 1.82
O.68 e.71 0.66 0.88 0.82
5§P◎55333り◎3
注:SOは標準偏差である
Fl;欝定感情共有率全, F2:肯建感情共有 F3:沓定感情共窟不全、 F4:否定感情共有
Table 6−1−2カウンセラー一Pt xeの共感性を目的変数にした重回帰分析の結果
説明変数 標準偏回帰係数 目的変数との相関係数
1234FFFF
肯定感情共有不全肯定感情共有 否定感情共有 否定感情共膚不全
.38 *
r27 +
一.36 *
.43 **
.36 * 一.35 *
.26 **
**:p〈.el *:p〈.gs ÷;p〈.1
ステップワイズによlj残った冒的変数の標準偏園帰係数のみを示す。
Table 64−32時点で評定した下位尺度得点の相関
下位尺度 相之係数
壌234FドFF
二三感情共有上金 考定感構共有 否定感情共膚 否定感惰共有零全.75
,83
.81
.90
***
***
***
***
注:S研ま標準傭差である (***:p〈.eel)
肯定感情共有不全
肯定感情共有
.38ユ
R :.26
カウンセラー評定の共感性
否定感情共有
一一D27
否定感情共有不全
(一:p〈.05 . :p〈10)
※ステップワイズによ9残った国的変数の標準偏園帰係数と決定係数のみを尽す
Fig 6−1−1自己評定値から算出した共感性の各因子得点と
カウンセラー評定の共感性との関連のパス図
4 考察
本研究(調査研究⑦)では,クライエントの共感性をカウンセラーが判断する場合,
共感性のどの側面を判断材料にしているのかについて,主に感情の種類(肯定感情と否 定感情)について調べる目的で,本共感性尺度を周いて検討した。
その結果,面接過程において,カウンセラーがクライエントの共感性の程度を判断す る場合には,クライエントの肯定感情を共有できる側面を主な判断材料とし,否定感情 を共有できない側面も判断材料にしている可能性があることが示唆された。
カウンセリングの面接過程におけるカウンセラーの側の評定には,治療関係のカウン セラーとクライエントとの相互作用のレベルで生じた共感体験も判断材料に含まれてい る可能性がある。そのため,本研究(調査研究⑦)でとらえられた,カウンセラーの側 の評定には,臨床場面における共感性を検証する可能性を示唆するものと考えられる。
本研究(調査研究⑦)では,臨床場面におけるカウンセラー評定とクライエント評定の 共感性の関連を,考案された本証感性質問紙を用いて検証を試みた。なお,ここでの被 験者のほとんどほ健常な学生であったことから,今後さらに心理治療場面の検討なども
していきたい。
これらの試みにより,治療関係や治療過程を検討するうえでの有用な視点が示唆され,
それらは臨床場面における共感性の理解にも有用なものと考える。また,面接過程にお けるカウンセラーの側の評定には,治療関係のカウンセラー一とクライエントとの相互作 用のレベルで生じた共感体験も判断材料に含まれている可能性がある。そのため,本論 文では,第7章・第8章において,実際の心理治療やカウンセリングの事例による検証 を加えることとする。