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共感性の対象を探る

ドキュメント内 描画法にみられる共感性についての研究 (ページ 69-76)

第4章  TATにおける親和傾向と描画特徴との関係

第2節  共感性の対象を探る

1 問題

 著者は,これまで教育相談や学生相談などのカウンセリングにおいて,クライエント を理解し状態の改善をはかるために様々な描画法を用いてきた。描画法は,クライエン トが気づいていない,あるいは言葉で表現しにくい感清や欲求,パ・一一ソナリティの理解 には有用な方法であることは,第2章で述べた。これまでに描画と共感性との関係に関 する客観的な研究はなされていない。

 そこで,本研究では,共感性と描画特徴との関係を把握したいと考え,本調査研究④

では,描画法として,KFDを用いた。既述(第2章)のように, KFDは,それまで

の静的な家族画や人物画に動的要素を加えることで,多義的な情報が得られるといった 特徴がある。

 本調査研究④では,共感性と描画特徴との関係をさらに客観的に調べるために,KF DとTATとの関係を分析し,共感性と関連の深い親和性と,描画特徴との関係を調べ

る。

 描画からは多くの情報が得られるが,本調査研究④では女子学生のKFDにおける「人 物像の顔の方向」と「人物像問の距離」に着目する。また,TATの欲求項目のうち「愛 情」「独立」という項属に着目した。TATの曖情」とは,親,友人,異性などを愛し たり愛されたりしたいという欲求である。また,「独立」とは,他人から干渉を受けず自 分でやりたいという欲求である。本研究で使用した集団TATは, Muryay(1943)のTA

Tに基礎をおき,牛島ら(1995:改訂27版)によって考案された集団検査法である。

2 圏的と方法

(1)鶴的

 描画特徴のうちKFDのf人物像の顔の方向」と「人物像間の距離」に,描画者の親 和傾向がどのように反映されるのかを明らかにする。

(2)調査方法

 A県及びB県内の大学生,短大生,専門学校生の女子119名の調査対象者に,集団T AT検査終了後引き続き, KFDを教室において集団面接法により実施した。調査時期 は,1999年1◎月〜11月であった。描画活動が終了した後,描かれた人物が誰か,人物 を描いた順序,人物の行為,自分と「最も共感する人」(最も親しい相手)は誰か,自分

と「最も共感しない人](最も親しくない相手)は誰かを,被験者に矯紙の裏に記入させ た。以下それぞれを,槻しい相手」,「親しくない柏手」と記す。「共感する人」「共感し ない人」と「親しい相手」「親しくない相手」とは岡義ではないが,被験者には次のよう な説明をした。まず,供感ずる」とは「他人の体験を自分も同じように感じたり理解す ること」あるいは「相手の気持ちがわかること」などと説明したうえで,例えば描画中 に描いた人物の中では,「共感する人」は,よく話しをする人や親しい人などを想定し,

「共感しない人」は,話をしない人,親しくない人などを想定することを例示した。

 全体の所要時間は約5◎分であった。

 (KFD)全体の「平均距離」(認全距離÷全人数),「親しい相手の相対的な距離」(親 しい相手との距離÷全体の平均距離),「親しくない相手の相対的な距離」(親しくない櫓 手との距離÷全体の平均距離)という3つの距離に関する搬標,及び,KFDに描かれ た親しい相手の顔の方向(輪郭のみ・背面,横向き,正面)と,親しくない相手の顔の 方向が,被験者の親和傾向と関連するのかどうかを分析する。なお,被験者の親和傾向 を測定する指標としては,集団TAT法により測定した「愛情」「独立」の2つの下位尺 度を用いることにした。

3 結果と考察

(1)TATの「愛情凄「独立」得点の関係

 曖情」得点と「独立」得点との相関を求めた結果,中程度の有意な負の相関がみら れた(r=一.46,p〈.◎◎D。こうした結果が得られたことから,「愛情」得点と「独立」得点

は共に被験者の親和傾向を反映したものであるが,その方向が逆向きであると考えられ

る。

(2)顔の方向と親和傾向の関連

 親しい稲手の顔の方向により3群化(「輪郭のみ・背面」「横顔」「正面」)した群ごと の「愛情∬独立」それぞれの得点の平均値と標準偏差を求め(Table 4・2・1),1要因 3水準の分散分析を行った。その結果,「愛情」得点(F(2,86)=0.42),「独立」得点

(F(2,86)=O.37)で,ともに3群問に有意な違いはみられなかった。

 親しくない相手の顔の方向により3群化した群ごとの「愛情」「独立」得点の平均値と 標準偏差を求め(Table 4・2・1),無様の分散分析を行った結果,「愛情」得点のちがい

に有意な傾向がみられ(F(2,86)=2.42,p〈.1◎),「独立j得点に有意な違いがみられた

(F(2,86)瓢3.85,p<.05)。 LSD法により多重比較を行った結果,親しくない相手を「六

向き」に描いた被験者に比べ,「輪郭のみ・背面」で描いた被験者の方が曖情」得点が 有意に高く,親しくない相手を「横向き」「正面」に描いた被験者に比べ,「輪郭のみ・

背面」で描いた被験者の方が,「独立」得点は有意に低かった。

 蘭学」得点と「独立」得点の相関関係から,この2つの得点は,逆向きの関係にあ ると考えられた。親しくない相手を「輪郭のみ・背面」で描いた被験者の曖情」得点 が高く,「独立」得点が低いということは,曖情」得点と「独立」得点のこうした関係 を反映したものと考えられる。そして,こうした結果が得られたことから,KFI)にお いては,親しくない相手を「輪郭のみ・背面」で描く者は,「横向き」や「正面」に描く 者に比べて,より親和傾向が強いと考えられる。

Tab藍e 4−24相手の顔の向きごとのTAT「愛情」「独立」得点の平均と標準傭差

対象 顔の向き人数τATの曖愉鶴        平均(SD)

     輪郭または背面  13 4.62(1.19)

親しい相手   横向き 254.32(1.14)

        正  衝   51  4.27 (1.23)

¥ATのr独立」得点  平均くS◎)

 3.15 (C.99)

 3.32 (1.18)

 3.08 (1.16)

      輪郭または背面  14 4.93(1.◎◎)

親しくない相手   横向き  31 4.10(1.33)

        正:  扇匪  44  4.32 (1.12)

2.43 (1.e2)

3.19(1.31)

3.36 (1.12)

注:括弧内は標準偏差(SD)である

(3>距離と親和傾向の関連

 それぞれの距離指標と「愛情∬独立」得点との相関を求めた(Taわle 4・2・2)。その 結果,曖情」得点と「平均距離」との問に有意な正の相関がみられ,曖情」得点と「親

しくない相手との距離」との問には,有意な負の相関がみられた。さらに,f独立」得点 と呼均距離」との問に有意な負の相関がみられ,「独立」得点とゼ親しくない相手との 距離」との關には,有意な正の相関がみられた。なお,「平均距離」は,41.◎(B=626)

であった。こうした関係がみられたことから,KFDから求めた人物像間の距離に関す る指標と,親和傾向との関係をより詳細に分析するために,次のような3つのモデル

(Fig 4・2・1,Fig 4・2・2,Fig 4・2・3)をつくり,どのモデルがデータに対する当てはま

りがよいかを比較した(第3章第2節の,注1)に同じ)。その結果,モデル2のデータ に対する当てはまりが3つのモデルの中で一番良好であった。さらに,GFI, AGFI, RMSEA などの数値くT&ble 4・2・3)からみてもモデル2は受容 可能なモデルと考えられる。モ デル2のパス係数(Fig 4・2・4)をみてみると,呼均距離」は親和傾向に正の影響を 与え,f親しくない相手の棺対的な距離」は負の影響を与えている可能性が示唆される。

以上の結果から,K:FDにおける人物像聞の距離がより大きい被験者ほど親和傾向が強 く,KFDにおいて親しくない相手を相対的により近くに描いている被験者ほど親和傾 向が強いと考えられる。

 TATで測定した「愛情」「独立」は,被験者の親和傾向を反映し,人物像問の平均 距離は親和傾向に正の影響を与え,親しくない相手との距離は負の影響を与えている

と考えられる。女子大生が親しくない人として最も描かれるのは父親である億比,

1988)。ここで「父親」は社会との窓臼になる人と捉えられることや,人物像聞の距離 は心理的距離を表すことなどから,親しくない相手として描かれることが多い「父親」

を近くに描いている者ほど親秘頃向が強いということは,この親和の対象はKFDに表 れる人間関係よりも家族の外の社会にいる者へと考えられる。これは,愛情の対象が,

家族外の関係に向けられていくことが多いという膏年期の特徴に一致した結果であると 推察される。本研究では,女子学生だけを調査対象としたが,今後は発達段階や性別に

よる検討も行いたい。

Table 4−2−2家族鰹内の距離とTAT「愛情」「独立」得点の相関 TATの「愛情」得点  ¥ATの「独立」得点  相手係数  p   相関係数  p     平均義民

親しい人の相対躁離 親しくない人の相対距離

.29 **

つ◎ n.s.

一.22 *

一.22 *

一一D14 n.s.

.24 *

*:Pく.95 **:P〈.◎1

Table・4−2−3各モデルの適含度指標 モデル   G臼

モデノレ1    .95 モデノレ2    .99

モデル3  .97

A窃臼

.85

.94

.84

1ミ醗SEA     AlC

.144 34. e8

.032    葉8.壌8

.150 21.92

4 総合的考察

 本調査研究④では,TATにみられる親和傾向と,描画特徴としての入物像間の距離 や顔の方向について検討した。それらの結果から,青年期女子の共感性の対象について 探索的検討を行った。

 今後はさらに,こ②ように描画にみられる多様な特徴を,臨床的な知見を加味して読 みとることで,共感性と描画との関係がより明らかになるものと思われる。そこで,本 論文では,第7章第1節において,本調査研究④の数理統計的検討から得られた知見に ついて,実際に描画法を用いた臨床事例を通して検証する。また,本調査研究④では,

女子学生を対象にしたが,今後は,男子大学生をはじめとした男性に対しても,晶晶の 調査・分析を行い,女子学生と類似した結果が得られるのかどうか検証したい。

ドキュメント内 描画法にみられる共感性についての研究 (ページ 69-76)