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ADR(Alternative Dispute Resolution)

ドキュメント内 教育・保育関係の (ページ 158-167)

第5章 裁判及び裁判外の教育・保育紛争解決

第2節 裁判外教育・保育紛争解決

3 ADR(Alternative Dispute Resolution)

(1)ADRの沿革

Alternative Dispute Resolution (ADR)は字義どおりに訳すと、「代替的紛争解決」

であるが、実際の著書・論文等で用いられている日本語表記は、「代替的紛争処理」「裁 判外紛争解決」「裁判外紛争処理手続」「裁判外紛争解決手段」など、論者により多様で ある。あえてこれを和訳せず、「ADR」のまま使っている場合も少なくない。ADRに 相当する日本語がこのように一定していない理由の1つは、その内実が未だなお十分確 立するまでに至っていないからである。

ADRはさしあたり、中立で公平な第三者が介在して、紛争当事者が自主的に合意・

納得の上で紛争を解決・処理する方式であって裁判手続以外のもの、ということができ る。「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」(いわゆるADR法 2004 年 12 月制定)第一条中のカッコ書きは、裁判外紛争解決手続を、「訴訟手続によらずに民事上 の紛争の解決をしようとする紛争の当事者のため、公正な第三者が関与して、その解決 を図る手続」としている。ADRはこのように、現段階では、訴訟・裁判との関わりに おいて控除的に定義されているのである。

ADRの世界的な潮流は、1970 年頃のアメリカにおける「ADRムーブメント」がそ の契機で、これには少なくとも2つの動きが含まれていたようである(7)。1つは、かの 国における訴訟の大量化と遅延、手続の複雑化に対する危機意識に基づき、裁判所は紛 争を類型化して、フル装備の訴訟手続とそうでない別種の手続(調停や仲裁など)で扱 うべきだとする「裁判以外のドア」構想の提唱、他は、地域社会で起きた紛争は地域住 民が、自らの問題として調停し、紛争当事者が地域社会に復帰できるようにする「草の 根ADR」の実践である。ヨーロッパにおいても同じ頃、例えばイタリアで、「正義への アクセス」が議論されていた。法律扶助等による援助という「第一の波」、いわゆるクラ ス・アクション(集団的権利を現実化するための訴訟提起)などの「第二の波」、調停な どの非形式的な紛争解決手続をとるべきとした「第三の波」は、こうした議論にほかな らない。

わが国では明治の前半期、調停の機能を持つ民事紛争解決手続として「勧解」(フラン

ス法の conciliation の日本語訳)が存在し(8)、大正期には海事紛争に関する仲裁機関が

設けられ、これを皮切りにその後多くの個別調停手続が成立し、戦後も家事調停など裁 判外の紛争処理手続は重要な地位と役割を担ったが、訴訟・裁判が持つ一定の「限界」

との対比において裁判外紛争解決の理論と実際が飛躍的に盛んとなったのは、やはり 1970 年代以降のことである。

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その背景には、社会の複雑化や価値観の多様化、それに加えて政治・経済面での規制 緩和や国民の自己責任意識等々により、訴訟・裁判という紛争解決・処理システムだけ では十分な対応ができなくなった事情がある。かつて川島武宜は調停を、規範関係を不 確定にしたまま「丸く納める」(ママ)ところの、「非権利」的な法意識の残存物である旨 指摘し、否定的な考えを述べていたが(9)、調停を典型とするADRは、現代日本におい て新たな生命を吹き込まれているのである。

1970 年代以降、わが国のADRは学界でも実務界でも、活発な議論と実践がなされて きたが、それにいっそう棹さしたのは 2001 年 6 月の司法制度改革審議会意見書であった。

意見書の「Ⅱ 第1 8(1) ADRの拡充・活性化の意義」に次のような記述がある。「(A DRは)厳格な裁判手続と異なり、利用者の自主性を活かした解決、プライバシーや営 業秘密を保持した非公開での解決、簡易・迅速で廉価な解決、多様な分野の専門家の知 見を活かしたきめ細かな解決、法律上の権利義務の存否にとどまらない実情に沿った解 決を図ることなど、柔軟な対応も可能である」「ADRが、国民にとって裁判と並ぶ魅力 的な選択肢となるよう、その拡充、活性化を図っていくべきである」。

もめごとが起きると当事者は、まず直接の相対(あいたい)で問題を解決しようと試 みるのが通例であるが、前述したように、相対交渉にも一定の限界があり、問題の解決・

処理に結びつかないことも少なくない。相対交渉が長引き解決のメドが立たないと思料 されると、次の方法として第三者の関与による紛争解決を試みることとなるが、その典 型である裁判もまた、万能の方法とは限らない(第四回 本誌四月号)。相対交渉と裁判 の長所をともに生かし、その短所をともに軽減する紛争解決・処理の方式が模索される ゆえんであるが、裁判外紛争処理(Alternative Dispute Resolution ADR)はそのよ うなものにほかならない。

ADRは中立的な第三者が関与して行う紛争処理方法の1つで、代替的紛争解決とも 訳され、小さな司法などと言われることもある。ADRは裁判に必然的に伴う遅延やそ の他さまざまな「重厚性」を和らげる機能を持つ。相対による当事者の「合意」のある 種の危うさを防ぎ、手続が低廉・簡便であることなどとともに、もめごとに係る問題領 域の専門家が関与することで、その知見を活かした解決ができること、非公開であるこ と、さらには、黒白をつけず、いい意味でのグレーゾーンでの解決・処理を図るという 機能を備えるなどのことから、トラブルの種類によっては極めて有益な解決・処理方法 とされるのである。権利義務の存否によってよりも、健全な常識や条理によって現実的 な結着が試みられることもその特色とされる。

ADRは、1970 年代頃から国際的に議論が交わされてきているが、「和」の精神が尊 ばれる日本の土壌において発達してきた調停などが、この文脈において改めて注目され ることとなった。調停は、日本にドイツ法を中心とした法体系が布かれた後、日本の社

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会規範とそれとのギャップから、市民の生活感覚に近い条理に基づく調停が発達してき たとも言われる(10)。わが国では 2004 年 12 月に、「裁判外紛争解決手続の利用の促進に 関する法律」が制定されたことにより、広範なADRの創設とその活用の地盤が整えら れるに至っている。

(2)ADRの種類・類型

ADRは、紛争解決・処理の形態や設置・運営の主体など、幾つかの観点から分類す ることができる。

まず、紛争の解決・処理の形態からは、裁断型ADRと調整型ADRに分けられる。

裁断型は、第三者であるADRの手続担当者(手続主宰者、手続関与者などと呼ばれる)

が積極的に介入・関与し、対立している当事者間の紛争に強制力ある判断=裁定を示し て紛争を決着させるタイプのもので、仲裁がこれに該当する。仲裁は、民事上の紛争に ついて、紛争当事者が、その解決を仲裁人に委ね、仲裁人の判断に終局的に服すること を合意する形態のADRで、いわば一種の私設裁判であるが、裁判と異なるのは、その ような合意があるかないかの点である(11)。仲裁には、仲裁の一般法である仲裁法(2003 年8月制定)だけが適用される仲裁と、特別法によるもの(例えば、公害紛争処理法に 定められている公害等調整委員会による仲裁など)、臨時に選定された仲裁人が行うアド ホック仲裁と常設の機関が行う機関仲裁、等の種類がある。仲裁の中でも最近注目され ているのは、スポーツに関しての日本スポーツ仲裁機構(Japan Sport Arbitration Agency JSAA 2001 年 4 月設置)である(12)

調整型のADRは、手続主宰者が紛争当事者間で自主的な和解が成立するよう援助・

助力・促進するもので、調停・あっせんがこれに該当する。調停には民事調停法に基づ く民事調停や家事審判法に基づく家事調停などのような司法型のものと、和解の仲介を 目的として行政や民間が提供するものとがある。このうち民事調停は、「民事に関する紛 争につき、当事者の互譲により、条理にかない実情に即した解決を図ることを目的とす る」ものである。なお、「あっせん」は、調停に比べて手続主宰者の権限や中立性・公正 性の要請がさほど強くないものを指して言うのが通例である。

設営主体の面からADRを分類すると、司法型・行政型・民間型の三つに大別できる。

司法型ADRとしては、前述した民事調停・家事調停のほか、個別労働関係民事紛争を 解決するための労働審判がある。行政型ADRは、国や自治体の行政機関などがその管 轄する事項を効果的に実施し、紛争をその後のよりよい施策につなげる等の目的で設置 するもので、わが国のADRの特色の1つは、行政型が充実している点にある。国民生 活センター・中央労働委員会・都道府県労働委員会・公害等調整委員会・都道府県公害 審査会などがその例である。都道府県の社会福祉協議会に置かれる運営適正化委員会は、

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社会福祉法に基づき、福祉サービスに関する利用者等からの苦情を適切に解決するAD Rである。

司法型・行政型以外のADRが民間型であるが、これは、同業者間の紛争を対象とす るもの(日本海運集会所や日本商事仲裁協会など)、弁護士会が設営するもの(都道府県 弁護士会の仲裁センターや示談あっせんセンターなど)、弁護士以外の法律専門職の団体

(司法書士会や土地家屋調査士会など)によるもの、業界団体が設営するもの(医薬品 PLセンターや消費生活用製品PLセンターなど)等々、多岐にわたる。民間型のAD Rに関してはADR法が、利用者の信頼の確保と一定の法的効果(時効中断効など)の 付与などを目的として、調停・和解の仲介業務について法務大臣の認証を受けることが できる制度を用意している。

ADRは、その効力形態から調停型・あっせん型・仲裁型とか、その設置主体から司 法型・行政型・弁護士会型・民間型などに分けられる。後者について述べると、司法型 ADRは裁判所に付設されるADRで、民事調停法にいう民事調停と家事審判法にいう 人事調停がその典型例である。それは、条理にかない実情に即した紛争解決を図り(民 事調停法第一条)、「当事者間における紛争の自主的解決のために第三者が仲介ないし助 力する」ものである(13)。調停は当事者間の合意を本質とし、当事者の自主性ないしは選 択の比重が大きいが、ただ、その基本はなお「法的解決」に彩られているように思われ る。

行政型ADRは、国や地方公共団体が設置するADRで、中央労働委員会や中央建設 工事紛争委員会、国民生活センターなどがある。このうち国民生活センターは 1970 年に 特殊法人として設置され、2002 年 12 月には「独立行政法人国民生活センター法」によ って独立行政法人化され、国民生活の安定及び向上に寄与するため、総合的見地から、

国民生活に関する情報の提供及び調査研究を行うことを目的としている(第 3 条)。自治 体の消費生活センターを通じ、消費者からの消費生活に関する相談(苦情、問い合わせ、

要望等)の受付、危害情報の収集・蓄積、これに基づく情報提供、市販商品テストや結 果に基づいたメーカーへの改善要請などが主な業務であり、センターの理事長が資格認 定した消費生活専門相談員が実務を担っている。

社会福祉サービスに関する苦情解決を行う行政型ADRとしては、社会福祉法第八三 条に基づいて各都道府県の社会福祉協議会に置かれる運営適正化委員会を挙げることが できる。運営適正化委員会は、福祉サービス利用援助事業の適正な運営の確保とともに、

福祉サービスに関する利用者等からの苦情を解決することをその任務としているのであ る。ちなみに、ADRではないが、保育園における苦情処理が各園でインターネットに より公開されているのも、社会福祉法第八二条の「社会福祉事業の経営者による苦情の 解決」規定に基づく。保育園児が小中学校に入学後も同様の苦情処理サービスを受ける

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