第4章 保育関係紛争の裁判外解決・処理
第2節 クレーム対応及び苦情解決の具体例
1 個別保育所の対応・解決
保育所におけるクレーム対応及び苦情処理ないしトラブル解決については、すでに 2002(平成 14)年、事例集が出されて関係者の参考に供されている(19)。先に触れた 2000
(平成 12)年 6 月の厚生省(当時)通知「社会福祉事業の経営者による福祉サービスに 関する苦情解決の仕組みの指針について」を受けての動きにほかならない。事例集では、
「保育方針および保育内容・方法・計画」「子ども同士・保護者同士の関係」「職員の能 力と資質等」「安全管理・安全指導」「健康管理」「家庭や地域、関係諸機関との連携・協 力」「園の運営・管理、事務や処理」「保育の新たな課題」の8項目に分類し、それぞれ について、多くの質問事例が挙げられ、その1つ1つに、「解決のための基本的視点」「具 体的な対応・解決の手順」「トラブル防止のための配慮事項」という見出しのもとに回答 が述べられるという「Q&A」形式で構成されている。
たとえば、「上の子が違う幼稚園に通園していた保護者が、幼稚園の方針や保育につい てことごとく批判してきます。特に行事のやり方に注文が多いのですが、どう対応すれ ばよいでしょうか」という幼稚園長のQに、「毎月の園だより、行事の前のお知らせなど
125
の工夫をしながら、具体的な子どもの姿から成長発達を伝えていく」などの助言を与え る、といった具合である(20) 。その事例数は、2013 年の加除時点で 321 ケースである。
保育所や幼稚園で生じる、あるいは所・園が対応に苦慮しているクレーム・トラブルの 実際を踏まえての質問と思われるから、ほぼあらゆるパターンの事例が収められている と考えてよく、貴重な資料たりえていると言える。以下ここでは、インターネット等で 知りえた保育所ごとの苦情対応・解決例の幾つかを、適宜分類して、園側の対応を紹介 してみる。
(1)噛みつき事例
①苦情:何度も噛まれることに心が痛む。
対応:痛い思いをさせたことに謝罪し、事実説明は適切に伝えるようにする。クラス 懇談で話し合い、噛み付きについて発達上の説明をする(21)。
②苦情:同じ子によく噛まれるので相手の保護者にも伝えてほしい。
対応:今までは加害者側の保護者には伝えないケースがあったが、前向きに考え、伝 えていくことも必要であると判断(22)。
③苦情:事情説明が、噛まれたという結果とその時の処置と謝罪だけでは不十分であり、
園としてどのように考えているのか。噛んだ相手に謝罪をさせてほしい。噛ん だ子どもの親は、事実を知っているのか。
対応:噛み付きの起きた時間・場所・原因を記録し、保育中の配慮を考える。相手方 の保護者に事実を伝えるが、ルールとして噛み付いた相手の名前は伝えない(23)。
④苦情:1才児に噛みつきがあり、それを保護者に謝罪して知らせた。午後7時 15 分頃、
かみつかれた A 君の母親から電話があり、「最近怪我したり、噛みつかれたりす る事が多い。うちの子が手を出してるのか、どういう状況だったのか教えてほ しい」
対応:調査の結果、勤務体制で保育士が手薄な時間に多発していることが分かった。
保育士の目が行き届いていなかったことを母親に詫びる(24)。
⑤苦情:1 日目に右頬を噛まれ、2 日目には左足首を噛まれて、2 日続けて噛まれたこと に対して納得がいかない。
対応:2 日続けて噛まれたことを担任が詫びる。噛む癖のある子どもは早朝の登園が 多いので、職員に特に気をつけて保育をしてもらう(25)。
126
噛みつきに関する苦情は多く、対応も①噛みつきは子どもの発達段階に起きるもので あるという理解を保護者に求める、②噛みついた保護者に連絡する、③噛みつきの責任 は園にあるので噛みついた子どもの名前は教えない、④噛みつきが起きる時間を調査し 検証、噛みつきをしている子どもにはしっかり大人との関係を作る等、さまざまである。
(2)園児同士の衝突事例
①苦情:うちの子が同じ子にたたかれる。大きな怪我になったらどう責任を取ってくれ るのか?・・その子の行動を見る保育士をつけるように要望。
対応:園長、主任立会いで面談。子どもには、叩かれたら「痛いからやめて」と声を 出して言うように指導している。保育士をつけて解決する問題ではない。子ど ものぶつかり合いは成長の過程で大事だと説明し、親は納得した(26)。
②苦情:怪我をしてもすぐに教えてくれない。
対応:今後、どの程度の怪我から保護者に連絡すべきかを職員間で検討(27)。
③苦情:子どものケガやトラブルについて事実経過の説明に納得がいかない。
対応:保育者間でトラブルの原因・背景を話し合い、時系列で保護者に説明するよう にする(28)。
④苦情:降園後、子どもの首に引っかいたような跡があった。子どもに確認すると滑り 台で遊んでいるときに、他の子がロープを使って遊んでいた模様でそれが首に こすれた模様とのことであった。危険だから改善してほしい。
対応:ロープを持って遊んでいた子がいた事実を確認し、注意不足を認識。職員会議 で再度徹底し、保護者に謝罪する(29)。
⑤苦情:ある保護者から「あなたの子どもにいつもひっかかれているので謝罪して欲し い」と言われたが、すべてのひっかきが自分の子どもがしていることと思えず、
謝罪できなかった。相手の保護者にどのように対応したらいいかわからない。
対応:ひっかきが起きたことは園の責任であり、相手の保護者に謝罪。個人的なトラ ブルに発展しないよう園の対応を見直す(30)。
⑥苦情:保育中、園児が木から落ち、背中に擦り傷。傷の状態から応急処置で大丈夫と 判断し消毒。母親にけがのことを伝えたが、その夜父親から電話。小さなけが
127 が 3 回続き、園の対応に不信感を持つ。
対応:園長より電話で経緯を説明し、一応納得。今後は、小さなケガでも保護者に連 絡し、病院に行くかどうか必ず保護者に相談する。園は、事後報告書は整備し ていたが、今後は「けが報告書」を備えることにする(31)。
(3)保健衛生・管理事例
①苦情:夕方迎えに行くと子どもの髪の毛がボサボサである。・・・保育士にやってほし い。
対応:乳児クラスは保育士がやっていたが、幼児クラスは自分で出来るようなしばり 方を指導している。保育士の手助けはあるが、母親の気に入るようには難しい。
保育士と話し合っていきたい(32)。
②苦情:同じ子どもとのケンカで、顔などに傷を負うことが続いている。子ども同士の こととは言え、きちんと対応をして欲しい。爪を確認し、ケガする前に爪を切 って欲しい。相手の子どもと距離をとって座らせて欲しい。行為に対して、子 どもたちと考える場を持って欲しい。ただ謝罪するだけではなく、園として、
どのように考えているのか。
対応:子どもが痛い思いをしたことを詫び、緊急会議で見直しと改善策を話し合った ことを報告。毎朝爪を登園時に確認徹底し、伸びていたら直ちに切る。職員の 配置数を増やし、個別の配慮を行なう(33)。
③苦情:薬を持たせて登園したが、与薬表に服用したかどうかのチェックがないまま、
返された。薬はなくなっているが、きちんと飲ませていただいたか。
対応:薬は与えたが、与薬表に気がつかなかったことを謝罪(34)。
④苦情:バス内に於いても、衛生面には配慮して欲しい。バスでの送迎を依頼している。
その際、通園バックを足元に置いてあるのを見た。
対応:送迎バスにシートを用意。満員でバックを置けない場合は、直接床に接しない ようにシートにバックを置くこととする。衛生面に特に注意すべき、保育園職 員の意識改善をはかる(35)。
⑤苦情:3才未満児クラスでは、食後に個人用口拭きタオルを使用して衛生的だが、3 才以上児クラスではどのように対応しているのか。家庭にいる時は袖口で拭い てしまう悪癖となりかねないので、保育園で個人用タオルで口拭きをして欲し
128 い。
対応:3歳以上にも口拭きタオルを使用するよう徹底(36)。
(4)食事事例
①苦情:牛乳は身体に良くないので飲ませないで欲しい。(牛乳は身体に良くないという 本が出ていることにより)。
対応:医師の診断書により対応することにする(37)。
②苦情:離乳食から幼児食に移行した場合、味付けを薄めにして欲しい。
対応:試食会を設け、感想・意見を保護者から聞き、改善努力する(38)。
③苦情:従来残すことなく食べていた年長の女児が、正月明けから仮病の腹痛を理由に 給食を摂らなくなり始めたため、偏食に陥らぬよう、「それならおやつも減らし ましょうね」と担任が声掛けしたところ、家庭で子どもからおやつが少ししか 食べられなくなると聞いたので、母親と祖母が事実確認のため園を訪れる。
対応:担任・主任保育士で事情を説明したところ、食べたくないものは食べなくても 良いから、食べたいものを食べさせてほしいとの要望で、様子を見ることにな った(39)。
(5)職員等の言動・対応事例
①苦情:実習生が園児に対して発した「○○ちゃんてかわいくない」という言葉を耳に した母親から、実習生に注意してほしいと。
対応:その場で保育士が実習生に注意できなかったことの反省をし、実習生の在籍校 へも連絡を取り、実習生を送り出す前にしっかりと注意してほしいとお願いし た(40)。
②苦情:最近、忙しいのは解るが、朝とか帰りに挨拶をしてくれない先生がいるので、
気分が悪い時もある。
対応:保護者に挨拶を交わすよう、職員間の意識統一を図る。不愉快な思いをさせた ことを謝罪(41)。
③苦情:担当保育士から「子どもが体調不良から最近泣くことが多い。不調のとき誰か に在宅養育してもらえないのか」と言われた。「泣く子は見てもらえないのか」
と保護者から不快感の訴え。