第5章 裁判及び裁判外の教育・保育紛争解決
第1節 現職教員の教育クレーム解決・処理認識
1 クレーム解決・処理体験
ここで再び、本論文冒頭の第 1 章で見た「教育クレーム」に関するアンケートのうち、
主として後半部分の、クレームの解決・処理についての質問に対する回答を示すと、概 略は次のとおりである。
● クレームはどのように処理されましたか。
①自分自身の対応で ②教頭・校長の対応で ③学校全体の対応で
④地域の協力を得て ⑤教育委員会に相談して ⑥専門機関に相談して
⑦その他( )
① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ① 無答 実 数 91 88 89 4 17 8 13 3 % 71% 69% 70% 3% 13% 6% 10% 2%
● クレームを受けてから解決までにどのくらいの時間を要しましたか。
①即日 ②2~3 日 ③1週間 ④2~3 週間 ⑤1ヶ月
⑥数ヶ月 ⑦1年以上
① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ 重複 その他 無答 合計 実数 17 34 18 13 12 21 6 2 1 4 128
% 13% 27% 14% 10% 9% 16% 5% 2% 1% 3% 100%
● 教員・学校だけではクレームに対応しきれず、手に負えなくなってしまったこと はありますか。
①ある ②ない
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① ② その他 無答 合計 実 数 25 98 1 4 128 % 19% 77% 1% 3% 100%
● 学校だけではクレーム・トラブルに対応しきれない場合、どのような外部機関が 問題の解決・処理に当たるのが適切・有効と考えますか、3 つまで挙げて下さい。
①市町村教育委員会 ②都道府県教育委員会 ③法律(弁護士)事務所
④裁判所 ⑤大学等 ⑥専門の教育紛争解決機関 ⑦その他( )
① ② ③ ④ ① ② ⑥ 無答 実 数 69 67 61 16 1 77 7 4 % 54% 52% 48% 13% 1% 60% 5% 3%
● ADRという言葉を聞いたことがありますか。
①ある ②ない
① ① 合計 実 数 5 123 128 % 4% 96% 100%
2 クレーム解決・処理機関認識
「クレームはどのように処理されましたか」の質問(複数回答可)に、教師らの多く が、自分自身の対応(71%)、学校全体の対応(70%)、教頭・校長の対応(69%)によ ってと答えている。これは、クレームの対象となった教師や学校が、一方当事者として 保護者らに対応して処理するという、いわゆる相対(あいたい)交渉で問題を落着させ ていることを示す。教育委員会(13%)や専門機関(6%)といった第三者機関(教委を 第三者機関とすることには問題があるが、ここではこの点に触れない)に事件を移すこ となく、いわば当事者限りで内部的に解決・処理されていることがここからわかる。
問題を「外部」に委ねず、「内々」で片付ける、ないしは片付いてしまうというこの傾 向は、おそらく全国的なものであり、アンケート実施後数年が経っている現在もさほど 変わらないであろうが、それ自体はごく自然な現象である。だからこそ教育行政当局も 教育研究者たちも、そのほとんどが「対応マニュアル」の作成や提言に力を入れ(1)、学
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校・教師側もまたそれを求めてやまないのである。教育界において「クレーム対応マニ ュアル」が流布している所以であり、その背景をなす状況が、ここに示されていると言 える。
保護者からのクレームは、その大部分が学校・教師側の対応で終息するということは、
それがあまり長期間にわたらないことを意味し、それは、「解決までにどのくらいの時間 を要しましたか」に対する回答にも表われている。「即日」から「数ケ月」に至るまでの 間に、極端な差は見られず、「2~3 日」(34%)を中心に、多くが 1 ケ月以内に決着して いることが知られる、そしてこれもおそらく、全国的に共通する傾向であろう。ただ、
数ケ月かかる場合(21%)、さらには 1 年以上かかる場合(6%)があることにも注意す る必要がある。学校・教師の手に負えず、また保護者の側も業を煮やして行政機関や裁 判所など「出る所に出て」事案を解決しようとするのは、この部分に含まれるのではな いかと推測する。「手に負えなくなってしまったことがありますか」との質問に、77%が
「ない」と回答する一方で、20%が「ある」と答えていることも、このことを示してい ると思われる。
学校・教師側だけでは対応しきれなくなった場合、「どのような外部機関が問題の解 決・処理に当たるのが適切・有効と考えますか」との質問(3 つまで回答可)に対して は、約半数が、市町村教委(54%)、都道府県教委(52%)、法律(弁護士)事務所(48%)
と答え、裁判所と答える者(13%)はわずかである一方、「専門の教育紛争解決機関」と 回答した教師が 60%に上っていることは、調査者自身が予想していなかったことで、や や意外であった。「専門の教育紛争解決機関」として回答者らが具体的に何を思い描いて いるのかは明らかではない。本アンケートを実施した時点では、「裁判外紛争処理」「教 育紛争 ADR」などの語は一切使っておらず、これらを受講者に紹介したのは、アンケー ト回収後の講義においてであり、現に教師らは、最後の質問「ADRという言葉を聞い たことがありますか」については、96%が「ない」と答えているのである。
にもかかわらず教師らは、入り組んでしまった教育トラブル・紛争を、裁判所での法 的な解決・処理にではなく、教育行政機関でもなく、それらとは別の専門機関に託そう と考えている。「専門の教育紛争解決機関」と回答した者がこのように多かった理由は、
調査に当たった執筆者自身にも不明であるが、これがもし教師らの真の考えであるとす れば、それは、筆者が構想している「教育紛争の裁判外解決・処理」ないし「教育紛争 ADR」につながっていくことを示唆するものである。
日々保護者らからのクレームに身をさらして呻吟している現職教師たちがおそらくは 未だイメージを明確に描ききっていないであろう「専門の教育紛争解決機関」を、中立 で公正な方式として提示し、これを現実に作動させ、教育紛争さらには保育紛争をも含 んで、その適切な解決・処理のルートを豊富に用意し、「正義の総量」を増大させていく
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ことは、「クレーム社会」の度を増していくであろう現代日本の状況に、小さからず寄与 できると考えるのである。アンケートの結果にも部分的に示唆されているように、教育・
保育に関するトラブル・紛争は、事案によっては訴訟よりも、紛争当事者が多かれ少な かれ、いわば当事者自身のコントロールのもとで主体的に解決しうる、ADR方式が有 効かつ有益であると考えることができる。そこで最後に、相対(あいたい)交渉でも裁 判でもない紛争解決方式としての、前にも触れたADR(裁判外紛争解決方式)の教育 分野における適用ないし応用の可能性について、アメリカにおける障害児教育ADRの 例をも差し挟みながら、そのアイデアを述べて、本論文のしめくくりとする。