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麻酔科   岩本 竜明、久米 容子

ドキュメント内 09-1 (ページ 31-36)

【要   旨】 患者自己調節鎮痛法(patient controlled analgesia : PCA)は、痛みに対して患者自身が自分 の判断で鎮痛薬を投与することで、より迅速かつ効果的な鎮痛を得ることを目的とした鎮痛 法である。近年、深部静脈血栓塞栓症対策の周術期抗凝固治療を受ける患者が増加している。

それに伴い当科では、硬膜外カテーテルを使用しない術後疼痛対策として、昨年より経静脈 的 PCA(IVPCA)を導入した。整形外科人工関節置換術患者を主な対象とした、フェンタニ ルを用いたディスポーザブルポンプによるIVPCAで、従来の持続硬膜外鎮痛法と比べてほぼ 同等の有効性が得られた。

【キーワード】 IVPCA、術後鎮痛、フェンタニル、硬膜外カテーテル

原  著

一方近年、術後鎮痛の必要性の認識の高まり、硬膜 外カテーテル挿入時の重篤な合併症である神経損傷 の報告、深部静脈血栓塞栓症予防のための周術期抗 凝固治療の広がりなどの影響で、硬膜外カテーテル を必要としない術後鎮痛法としてオピオイドを用い たIVPCAが普及しつつあり、持続硬膜外鎮痛法と同 等の有効性が報告されている2),3)。PCAは、もともと 少量のオピオイドを医療者の手によって患者の様子 を見ながら頻繁に静注することが鎮痛法として有用 であるところを、省力化の方法として考案された

4)。従来の鎮痛法では、患者が痛みを感じてから鎮 痛薬が投与されるまでに、ナースコール、医療ス タッフによる痛みの評価、鎮痛薬の処方、投薬の準 備、といったステップが必要となる。PCAでは、患 者自らがPCA用機器(ポンプ)のボタンを押して鎮 痛薬を投与することでこれらのステップを省くこと ができ、痛みに対しより迅速な対処が可能となる。

このため、医療者側の省力化だけでなく患者の満足 度の向上も期待できるとされる。IVPCAで使用され るオピオイドとしては、フェンタニル、モルヒネ、

ブプレノルフィン、ペチジン、ペンタゾシンなどが あるが、用量依存性に鎮痛効果が期待できることか ら、フェンタニルとモルヒネが多く使用されてい る。術後鎮痛に必要なオピオイドの量(血中濃度)

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県西部浜松医療センター学術誌 第 3 巻 第1号(2009)

は、個人差や術式による差が大きく、また経時的に も大きく変化する。血中濃度が低すぎれば十分な鎮 痛が得られないが、高すぎれば眠気、呼吸抑制など の原因となる。従って、オピオイドを用いた鎮痛で は、その時々に応じた適切なオピオイドの血中濃度 を維持することが必要となる。手術終了時点で鎮痛 域にあるオピオイドの血中濃度が徐々に低下してく ると痛みが出現する。その際患者自らボタンを押し てオピオイドを少量投与し血中濃度を有効域に引き 上げる、ということを繰り返す少量頻回投与によ り、オピオイドの血中濃度を、患者ごとの最低鎮痛 有効濃度(minimum effective analgesic concentration :MEAC)近辺に維持する、というのがIVPCAの考え 方である(図 1 )。

図1 IVPCAと従来の鎮痛法の模式的な鎮痛薬血中

濃度推移の比較。従来の鎮痛薬投与法では、鎮痛薬 が個人差に関係なく投与されがちである。また、比 較的間隔があいて投与されるため、鎮痛薬の血中濃 度が大きく変動する。それに対し、IVPCAでは、鎮 痛薬が患者ごとに鎮痛の程度にあわせて少量頻回投 与されるため、鎮痛薬の血中濃度が患者ごとの MEACに近い値に維持される。

疼痛が強ければ頻回にボタンが押されるが、疼痛が 減少すればボタンを押す頻度が減少し、疼痛の強度 に応じた鎮痛が図られることになる。しかし注意し なければならないのは、実際には患者がボタンを押 すか否かは疼痛以外の影響も受けるということであ る。例えば、疼痛は我慢しなければならないものだ という考えや、鎮痛薬、あるいはその副作用に対す る恐怖は、ボタンを押す行為に対して抑制的に働

く。また、1 回投与量の設定が低すぎるなどの理由 でボタンを押しても十分な効果が得られなければ、

その後、ボタンを押さなくなる可能性がある。さら に、オピオイドの血中濃度がMEACを大きく下回っ てからではボタンを押しても血中濃度がMEACまで 上昇せず、十分な効果が得られないことがある。

従って、IVPCAを有効に機能させるためには、適切 な設定だけでなく、疼痛を感じ始めたらボタンを押 すことが必要である、ということを術前から患者に 対して十分に説明することも重要となる。

IVPCAの設定と機器

 IVPCAの設定はロックアウトタイム、ボーラス投 与量、持続投与量により決定される。ロックアウト タイムは一度ボタンを押した後再度ボタンが有効に なるまでの時間である。使用するオピオイドの効果 発現時間を参考にして決められる。フェンタニルは モルヒネに比べて効果発現時間が短いのでロックア ウトタイムも短めに設定することが可能である。

ボーラス投与量はボタンを 1 回押した際に投与され るオピオイドの量である。患者がボタンの効果が実 感でき、かつ眠気を生じない量である必要がある。

ボーラス投与以外に持続投与が鎮痛維持に有効か否 かについては賛否両論がある5),6)。IVPCA用の機器と して現在使用されているものは、機械式ポンプと ディスポーザブルポンプに分けられる。機械式ポン プの利点は、投与量やロックアウトタイムについて 患者ごとにきめ細かく設定可能であること、投与 量、回数の記録が残ることなどがある。欠点として は、ポンプ購入のための初期投資が必要、使用方法 が複雑、などがあげられる。ディスポーザブルポン プは細かな設定変更はできないが、安価、使用方法 が簡単、ポンプの誤設定などのトラブルがないなど の利点がある。いずれの場合もIVPCA開始前には、

オピオイドの血中濃度を有効域にあげるためのロー ディングが必要となる。通常は手術終了にあわせて ある程度のオピオイドを投与していくことで術中に ローディングを行うことが可能であるが、覚醒後に 鎮痛が不十分である場合には回復室等でのローディ ングが必要である。

当院におけるIVPCA

 当院では、整形外科領域での深部静脈血栓塞栓症

予防の周術期抗凝固療法施行例の増加に伴い、昨年 9月から、主に人工関節置換術の患者を対象として IVPCAを導入し、現在では、人工股関節置換術の患 者のほぼ全例でIVPCAを施行している。当科では術 中の鎮痛薬としてフェンタニルを使用しているた め、IVPCAでもフェンタニルを使用し、術中より ローディングを行っている。PCA機器としては、初 期投資の必要がない、使用法が簡単であるなどの理 由により、ディスポーザブルポンプを使用してい る。設定は、ロックアウトタイム10分、ボーラス投 与量15μg、持続投与量15μg/hrとしている。ま た、吐き気嘔吐対策として、1)15歳以上の女性、

2)非喫煙者、3)術後吐き気嘔吐の既往、のいずれ かにあたる場合には、2.5 mgのドロペリドールを薬 液に混注している。今回、IVPCA使用患者に対する アンケート形式の調査および、持続硬膜外鎮痛群と のレトロスペクティブな比較により、IVPCAの有 効性について検討した。

対象と方法

 研究 1 .2008年 9 月以降、術後IVPCAが行われた 整形外科患者43例を対象に担当看護師に対する術後 アンケート形式で、鎮痛効果(  6 段階フェイスス ケール評価)、副作用(呼吸抑制、吐き気嘔吐、掻 痒感)ポンプの使いやすさなどについて調査した。

研究 2 .2008年 4 月以降の整形外科人工股関節置換 患者79名を術後鎮痛法により 2 群に分け(硬膜外持 続鎮痛群42名、IVPCA群37名)、併用鎮痛薬使用の 有無、吐き気嘔吐の有無、術後悪寒シバリングの有 無に関する記録を診療録から抽出し、その頻度を両 群でレトロスペクティブに比較検討した。吐き気嘔 吐、悪寒シバリングについては、レトロスペクティ ブな研究であるためスケーリングはせず、ごく軽症 のものでも訴えがあれば有とした。X2検定を用いて 比較し、P<0.05を有意とした。

結 果

 鎮痛効果:研究1のフェイススケールを用いた鎮 痛効果の評価では、IVPCA使用患者でのフェイスス ケールのメディアン値は 2 であった(図 2 )。

図2 研究 1  フェイススケールによる鎮痛の評価

IVPCA群と持続硬膜外鎮痛群の比較では、鎮痛薬の 併用を要した患者の割合は、両群で有意差はなかっ た(図 3 )。

図3 研究  2 各群内で、併用鎮痛薬を要した患

者、吐き気嘔吐を有した患者、シバリングを有した 患者が占める割合の比較。E群:硬膜外持続鎮痛 群、IP群:IVPCA群。いずれもE群で多い傾向があ るが、有意な差はない。

副作用:吐き気嘔吐及び悪寒シバリングの頻度の比 較では、ともにIVPCA群で低い傾向にあったが有意 差はなかった。呼吸抑制に関しては、研究 1 の調査 結果から、IVPCA中に呼吸回数の低下( 8 回/分未 満)をみた症例はなかったが、パルスオキシメータ の値が93以下に低下した例が 2 例あった。いずれも 酸素投与により対処された。

考 察

 今回の研究では、硬膜外持続鎮痛群との比較で併 用鎮痛薬を必要とした患者の割合に差はなかったこ とから、IVPCAによって、従来行ってきた硬膜外鎮

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