【要 旨】 近年、リンパ浮腫に対して「複合的理学療法」の臨床効果が認められるようになり、我が国 でも標準的な治療法となりつつある。当院では2005年よりリンパ浮腫外来を開設し、2008年 には242名の患者が受診し、認知、定着されつつある。現時点では、専門医がいない、保険診 療でないため会計が確立されていない、理学療法士が施行すれば 2 単位の保険請求ができる が、看護師が施行しても請求できない、入院患者には請求できない等、問題点も多い。今後 は、理学療法士が実施し保険点数が算定できるようにすることや、他施設のように自費扱い で実施することを含めて、早急に検討する必要がある。
【キーワード】 リンパ浮腫
活動報告
癌、前立腺癌、直腸癌の手術後、放射線療法後、化 学療法後にリンパ管リンパ節の障害で原因となるリン パ節の周囲から浮腫が現れる「続発性浮腫」がある。
体液成分であるリンパ液は、循環し老廃物を運搬し リンパ節で濾過し免疫の機能をつかさどる。浮腫状 態が長期化すると流れが悪くなる、線維化がおこ る、皮膚が硬くなる、潰瘍を形成する、蜂窩織炎、急 性皮膚炎、リンパ瘻を繰り返し発症し悪化を呈する。
リンパ浮腫の病期は
0 期 潜在期 リンパ管シンチでリンパ管の閉塞は 見られるが、臨床的に浮腫は認めない 1 期 浮腫は軽度で、水分が多く指で圧迫すると圧
迫痕が残り、安静臥床で浮腫の軽減が見られ る
2 期 浮腫の程度が硬くなり、線維化や脂肪増生で 圧迫しても圧迫痕が残らず、安静では改善し ない
3 期 皮膚が硬さを増して角化がみられ、放置する と潰瘍を形成し象皮症になる 以上のように 分類される。
2 .リンパ浮腫の治療方法
静脈とリンパ管を吻合し流れを形成する外科的方 法と、早期のリンパ浮腫にはブロック注射が有効と され、リンパ管の流れを改善させる方法などが行わ
れているが、多くの場合保存的方法として「複合的 理学療法」が用いられている。深部リンパ管の弁構 造と弁構造のない表在リンパ、リンパ管の走行、体 液区分線、リンパ管システムを考慮して医療用リン パドレナージでマッサージを行う。その結果リンパ の流れを改善し、リンパ液の走行を新しい走行に移 行させる、更に逆流を防止するためにスリーブ、バ ンテージなど圧迫療法を実施する。圧迫した状態で 運動を行い、排液を促し、同時に皮膚のケアを行 う。早期発見、早期対応で良好な状態を維持させる ことを目的に対応をしている。
0 期 1 期ではマッサージとスリーブ、弾性ストキ ングを用い、2 期 3 期ではマッサージとバンテージ
(弾性包帯)を実施する。
3 .複合的理学療法外来(以下リンパ浮腫外来と略 す)の経過と流れ
リンパ浮腫外来の経過
2005年 7月 リンパセラピスト中級を修得 2005年12月 乳腺外来からの紹介患者への複合的
理学療法開始
2006年 4月 月曜の午後 各科外来紹介患者への 複合的理学療法開始
2007年 4月 月曜・木曜の午後 各科外来紹介患 者への複合的理学療法開始
2008年 4月 月曜午後・木曜全日 専任となる 木曜午前 入院患者への対応を開始
リンパ浮腫外来の受診方法
・医師より電話で依頼を受ける
・ 2 階処置室を窓口とし、木曜の午前は病棟に出 向き対応する。
・月曜・木曜の午後は14時より30分枠で予約を受 け、空いている診察室を利用し実施する。
リンパ浮腫外来の実際
紹介医師は、炎症反応が改善していること、血栓 がないことを血液検査、超音波検査、血管造影検査 などで確認した上で依頼をする。
来院時 皮膚の状態の観察、熱感、発赤、皮膚炎、
潰瘍、白癬、傷などの有無、手術方法及び治療内容 の確認、今回の浮腫がいつ、どこの部位から出現し たか、自覚症状、生活状況、通院時間、通院方法な どと併せて情報を得、治療計画を立案する。
マッサージは、上肢15分下肢30分を目安とし、呼 吸・心臓に負担がかからないように実施する。
患者への指導の実際
浮腫が表れた現状について、リンパ浮腫につい て、リンパ液の流れについて、リンパ液の働きにつ いて説明し、改善させていく方法を説明する。
立案した計画に沿って、前処置として肩を回す、深 呼吸をする、頚部のリンパ節のマッサージを行う。
次に、流す主要リンパ節を手の平でゆっくりと円 を描くようにマッサージを実施する。主要リンパ節 の近位より両手掌で静止クライス、シェップ、ド レー、ポンプと言った基本手技とS字のほぐし手 技、U字のほぐし手技、環状手技、放射線繊維症の ほぐし手技、ピアノ手技、下肢の潰瘍の手技など特 殊手技の組み合わせ状態を説明し実施する。リンパ の流れが改善した状態で逆流を防止するため、弾性 包帯、弾性着衣による圧迫療法の必要性を説明し、
実施する。
廃液効果を上げるため、圧迫療法下での運動療法 を説明し実施する。
自宅で続けられるように、自己マッサージとバン テージもしくはスリーブの方法と着用を本人と家族 に指導する。
上肢または下肢の左右を計測して記録に残し、必 要に応じて写真撮影を実施する。0 期 1 期の場合は 自己マッサージと症状に見合ったサイズと素材のス リーブ、グローブ、ストッキングを処方し購入、装 着の方法と取り扱いについて指導する。 2 期 3 期の 場合は、マッサージとバンテージを実施する。
問題発生時の対処の仕方、皮膚の保護とスキンケ アの方法、日常生活上の注意点について説明を行 う。
4 .受診患者の推移
2005年12月から 3 月まで:乳腺外科 計 5 名 2006年度:乳腺外科21、心臓血管外科 3 、婦人科 1
− 129 −
県西部浜松医療センター学術誌 第 3 巻 第1号(2009)
計54名
2007年度:乳腺外科73、心臓血管外科19、婦人科 16、その他 計115名
2008年度:乳腺外科170、心外23、婦人科23、その 他 計242名
結 果
2005年には 5 名であった受診患者は、2008年には 242名と増加した。最初は乳腺外科からの紹介のみ であったが、紹介する科も増加してきている。
考 察
2005年に受診患者 5 人で始めたリンパ浮腫外来で あるが、2008年度には計242人と大幅に増加し、こ こ数年間の間にリンパ浮腫外来は認知され、定着し つつあると考える。これは①2008年 4 月より診療報 酬改定でリンパ指導管理料が算定可能(月 1 回)に なったことや、②入院中の患者で子宮悪性腫瘍、子 宮附属器悪性腫瘍、前立腺悪性腫瘍、腋窩リンパ郭 清を行う乳腺悪性腫に対する手術を行った患者に対 しリンパ浮腫の重症化を抑制するため、医師の指示 に基づき看護師/理学療法士が実施し100点が加算さ れるようになったこと、が保険上認められたためで ある。このことは「複合的理学療法」の臨床効果が 認められるようになってきた結果である。
しかし専門医がいない、複合的理学療法の治療に 関しては保険診療でないため会計が確立されていな い、理学療法士が施行すれば 2 単位の保険請求がで きるが、看護師が施行しても請求できない、リンパ 浮腫及び複合的理学療法の認知が不十分である、外 来では再診料70点で施行しており、包帯については 本人請求としているが入院患者では請求できない 等、まだ解決しなければいけない問題点も多い。こ れに対し、理学療法士が実施し保険点数が算定でき るようにすることや、他施設のように自費扱いで実 施することを含めて、当院でも早急に検討する必要 がある。
通常のこれまでの治療では改善しないリンパ浮腫 に対して、複合的理学療法を希望する患者はこれか らも増加すると思われる。ターミナル期、癌手術後 のリンパ浮腫に苦しんでいる患者や家族にとって、
悩みを口にされる方も多く、マンツーマンで施術や 指導を行うリンパ浮腫外来を受診することは精神的 な支えにもなっている。今後は、外来日の増加によ り受診患者数の増加を目指し、またコスト面での取 り扱いを整備し病院経営にも貢献できるよう努力す る必要がある。今後、原疾患の治療が患者負担にな ることがないように、近い将来、系統的にリンパ浮 腫外来が保険医療として確立されることを願ってや まない。
文 献
1 ) 佐藤佳代子:リンパ浮腫の治療とケア 学書院2005第 1 版第 1 刷
2 ) 季羽倭文子:リンパ浮腫 中央法規 2003第 1 版
3 ) 廣田彰男:リンパ浮腫の理解とケア 学研2004