【要 旨】 医療従事者、特に救急医療に従事する者にとって脳卒中初期診療は必須の技能である。また 脳梗塞発症から 3 時間以内に開始しなければならないt-PA (tissue plasminogen activator製剤) による治療が認可されたことをきっかけに、脳卒中初期診療に以前にも増して 迅速さ が 求められるようになった。適切なチーム医療を習得することを目標として、平成 19 年度より 浜松・東三河地域で ISLS(Immediate Stroke Life Support 脳卒中初期診療)コースを展開 した。院内外の受講者数は 200 名弱に及ぶ。
【キーワード】 ISLS(Immediate Stroke Life Support)コース、脳卒中治療ガイドライン 2004、医師臨床研 修制度
活動報告
を経験しながら研修をすすめていくが、神経内科や 脳神経外科は必須となっておらず、国民病といえる 脳卒中に対する、より効果的な研修の検討を必要で あった。開発にあたっては、すでに存在する心肺蘇 生コースや外傷コースとの整合性に配慮し、最低限 の時間で最大の効果が得られるように取り扱い内容 が厳選された。研修医にとどまらず、脳卒中を専門 としない医師や看護師、救急救命士といった、脳卒 中初期診療に携わる医療従事者が、みずからの脳卒 中初期診療スキルをレベルアップさせる(再)学習 をはじめるきっかけとして、ISLSコースを利用し、
これに座学や臨床経験・専門医の指導が組み合わさ ることで、迅速な脳卒中診療につながることが期待 されている3)。
方 法
当地域のコース展開の沿革
ICLS(Immediate Cardiac Life Support)コース導 入と同様の方法論で展開した4)。ISLS中部コース
(名古屋大学救急集中治療部有嶋拓郎医師が主催)
を受講した地元の医師、看護師、救命士(救急隊 員)の有志が集まりISLS浜松の原型が徐々に組織さ れていった。2007年10月14日第10回ISLS中部コー
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ス、2008年 2 月 2 日第16回ISLS中部コースの 2 回が 筆者を会場庶務担当者として当院会場で開催された
5)。その後ISLS中部から発展独立する型で2008年 2 月10日に静岡県西部・東三河を中心とした脳卒中初 期診療コースのための組織としてISLS浜松を正式に 立ち上げ、情報交換、連絡のためメーリングリスト を設けた。現在の参加者数は200名以上である(09 年 2 月 1 日現在)。コースの医学的レベルの保持、
質の担保のため、脳神経外科専門医、救急専門医を 世話人とし、共著者の当院第 2 脳外科中山禎司医師 を世話人代表とした。他に世話人は筆者に国立病院 機構豊橋医療センター脳外科酒井秀樹医師、聖隷三 方原病院救命救急センター志賀一博医師 、総合青山 病院脳・脊髄センター野村契医師の 3 名を加え合計 5 名である。庶務担当として国立病院機構豊橋医療 センター大谷里佳看護師、当院疋田ゆかり看護師が 参加している。
ICLSコース展開時の反省を生かし、会場施設担当 者の負担を軽減し、無理のない運営を図るために、
各病院でそれぞれ単独で開催するのではなく、持ち 回り開催とし、資器材も共有した。これは結果的に 地元受講生の便を図ることにもなった。また初心者 インストラクターの練習と、受講生の予習を兼ね て、コース直前には当院と開催施設で事前勉強会を 開催し、当日の学習効果の向上を図っている。
コース創設当時の内容
なお主要なコース開発者である富山大学医学部救 急災害医療の奥寺らによるコースの原型は以下のよ うなものである。すなわち以下の 4 つのモジュール を基本に構成し、コース主催者に理解を深めるため にさらにモジュールが加わることがあるというもの である6)7)。
意識障害の評価:
ECS、GCSにて迅速に意識障害の評価ができる 意識障害をきたす疾患の鑑別ができる
脳卒中初期診療のアルゴリズムを理解する 脳卒中スケール:
救急外来で用いられる脳卒中スケールを用いて評価 できる
病院前で必要な脳卒中スケールについて知る
呼吸・循環管理:脳卒中初期診療における呼吸・循 環管理のさまざまな方法について知る症例提示:代 表的な脳卒中症例の検討を通して、脳卒中患者に対 する判断・対処ができる
ISLS浜松コースの現況
ISLS中部コース開設当初は、画像診断、内科診 療、外科診療、リハビリテーション、意識障害と脳 卒中スケール、薬物療法などの細分化された講義と 診療デモンストレーション見学、意識障害診療実 習、NIHSSの取り方の実習、模擬診療実習を組み合 わせて行っていた。
現在のISLS浜松コースでは、午前中に任意参加の 脳卒中セミナーとして従来の細分化された講義を
「ISLSコース脳卒中初期診療概論」という形でまと め、さらにプレ実習(GCS: Glasgow Coma Scaleと NIHSS : National Institutes of Health Stroke Scale)、 薬物療法講義を行っている。午後をコース本体とし て診療デモンストレーション見学、意識障害診療実 習、NIHSSの取り方の実習、模擬診療実習を行って いる。テキストは市販のISLSコースガイドブックを 指定している8)。指導資料は参加インストラクター がISLS中部の資料を参考にまとめ上げ、メーリング リスト上に公開している。現在のISLS浜松コースの 内容を具体的に説明する。
表1 時間割
9:30 〜 受付 脳卒中セミナー 10:00-10:05(5 分) 開催挨拶
10:05-10:10(5 分) 会場オリエンテーション 10:10-10:20(10 分) ISLS について
10:20-11:00(40 分) ISLS 講義
11:00-11:40(40 分) プレ実習(GCS と NIHSS) 11:40-12:00(20 分) 薬物療法
12:00-12:50(50 分) 昼食 ISLS コース 12:50-13:05(15 分) デモ 13:10-14:00(50 分) 意識障害 14:10-15:00(50 分) NIHSS 15:10-17:10(120 分) 模擬診療 17:20-17:30 修了式 17:30-18:00 意見交換
1 )ISLSコース脳卒中初期診療概論
スライドを用いた講義である。総論としてコース の内容、目的、到達目標、診療アルゴリズムと手 順、脳卒中の症状、呼吸循環管理、リハビリテー ションを説明する。各論としては脳梗塞、脳出血、
クモ膜下出血について説明する、最後にt-PA使用で 症状が劇的に改善した症例を動画で供覧する。
2 )プレ実習
午後の模擬症例を用いた実習の準備として、
GCS:Glasgow Coma ScaleとNIHSS : National Insti-tutes of Health Stroke Scale の取り方を隣席の受講 生とペアになって正常例で練習する。
3 )薬物療法
t-PA:tissue plasminogen activator製剤についての 説明は製薬メーカーに講師派遣を依頼し、講義を 行っている。
4 )意識障害
脳卒中の診療アルゴリズムと意識評価のスケール 評価を学ぶ。模擬症例を用い、診療アルゴリズムを たどりながら、JCS: Japan Coma Scale、GCS、ECS:
Emergency Coma Scaleを評価する実習を行う。
図1 意識障害ブース:気管挿管された患者の意識
レベルをGCSで評価する5 )NIHSS
模擬症例を用い、NIHSSを迅速、正確に評価、記 載する実習を行う。
6 )模擬診療
模擬患者、疑似モニター(脈拍、酸素飽和度、血 圧、体温を表示)を用いてERでの脳卒中診療を5〜
6 例シュミレーションする。中等症は、t-PA適応の 可能性がある症例を取り上げ、重症は、呼吸循環管 理を主体に実習する。
図2 模擬診療ブース:中等症の患者の初期診療を
行っている結 果
院内外の受講者数は200名弱に及ぶ。現在までの 開催実績を表 2 に示す。
救急外来における脳卒中診療が適切に行われるよ うになり、当院救命救急センターでも迅速にt-PA投 与が行われ、完全回復を示した症例がでている。
症例:40代 女
主訴:呂律不全 左半身の脱力
所見:意識清明 NIHSS7点(左顔面軽度麻痺、左 上下肢軽度麻痺、左半身軽度感覚障害、軽度失語、
軽度構語障害、視覚で左方無視)
脳CT:異常所見なし
脳MRI:右側頭葉に小さな高信号域散在
経過:発症後 2 時間でt-PA治療開始。投与開始15分 後に左上肢麻痺の改善、30分後に構語障害の改善、
45分後に構語障害と左麻痺が消失した。感覚障害は やや遷延したが14時間後に軽快した。脳出血などの 合併症は発生せず、第 7 病日に自宅退院した。現在 抗血小板薬内服で外来通院管理中である。
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図3 MRI拡散強調画像
考 察
コース展開には若干の問題も生じている。いずれ ICLSコースと同様な制度が立ち上がると思われるが 現在のところコースの開催要件9 )、インストラク ター資格10)などが明確には確立していないこと。ま た現在受講料は8,000円から10,000円程度で運用して いるが、インストラクターへの謝金は支弁できず、
交通費実費程度の支給となっていることなどであ る。様々な困難を克服して地域の脳卒中診療レベル の向上を目指して関係者一同今後も努力を続けてい く所存である。
文 献
1 )http://www.isls.jp/index.html ISLS(脳卒中初期診療)公式サイト [internet].[accessed2009-2-1].
2 )志賀一博、加藤俊哉、中山禎司、他:PSLS・ISLS ハイブリットコースの試み.日救急医会誌.
2008;19:8:719
3 )ISLS(脳卒中初期診療)公式サイト コース概要
[internet].[accessed2009-2-1]
http://www.isls.jp/gaiyou.html
4 )加藤俊哉、佐々木俊哉、矢野邦夫:当院におけ るICLS(Immediate Cardiac Life Support)コー ス開催の実際.県西部浜松医療センター学術 誌.2007;1:23-27
5 )有嶋拓郎、加藤俊哉、柴山美紀根、他.:Off The Job Trainingの円滑な運営 ISLS中部コース の活動.日本集中治療医学会雑誌.2008;15:
suppl:191
6 )脳卒中とシュミレーション学習 救急医学31:1495-1501,2007 若杉雅浩 奥寺敬
7 )ISLSコースの内容
ISLS(脳卒中初期診療)公式サイトコース概要 http://www.isls.jp/naiyou.html
[internet].[accessed2009-2-1]
8 )「ISLSコースガイドブック」編集委員会編 日本救 急医学会・日本神経救急学会監修.ISLSコース ガイドブック.へるす出版;2006.
9 )ISLSコース開催要件(案)
[internet].[accessed2009-2-1]
http://www.isls.jp/youken.html 10)ISLSコーススタッフ
[internet].[accessed2009-2-1]
http://www.isls.jp/stuff.html 表2 開催実績
受講者 指導者
日付 コース名 会場施設 医師 看護師 救急隊員 他 見学者 医師 看護師 救急隊員 他 2007年10月14日 第10回ISLS中部コース 浜松医療センター 9 24 3 6 21 8 1 2008年 2月 2日 第16回ISLS中部コース 浜松医療センター 9 12 0 0 16 6 0 2008年 3月 2日 第 1 回ISLS浜松コース 聖隷三方原病院 7 15 5 5 20 12 1 2008年 5月18日 第 2 回ISLS浜松コース 豊橋医療センター 10 14 5 4 9 20 1 2008年 8月24日 第 3 回ISLS浜松コース 浜松赤十字病院 3 27 0 1 13 15 3 2008年12月 7日 第 4 回ISLS浜松コース 総合青山病院 6 20 0 0 12 18 2 2009年 3月 1日 第 5 回ISLS浜松コース 島田市民病院 13 7 0 2 15 7 2
合計 57 119 13 18 106 86 10
人