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薬剤科 池林 里美、名倉美恵子、佐藤かをり、玉腰 彩乃、坂田  淳 石津 直樹、片山 一孝

ドキュメント内 09-1 (ページ 121-125)

【要   旨】 一般的に、バンコマイシンのTherapeutic Drug Monitoring(TDM)実施によりMRSA感染症 に対する治療効果を最大限に発揮させ、副作用を避けることができるとされている。また、

効果的な治療により、総投与量の節約、入院期間の短縮など経済性の向上という点において 寄与できると考えられる1)。薬剤科では、バンコマイシン「MEEK」TDM解析ソフトVer.1.0

(明治製菓)を用いて、母集団平均値による初期投与設計および血中濃度測定後のベイズ推 定を行っている。今回我々は、2007年7月から2009年 2 月までに、薬剤科において初期投与設 計を実施した90件の症例を解析した。実際にバンコマイシンが投与された症例80件中、血中 濃度の測定指示が出された症例は63件であった。また、解析前後で処方の変更を依頼した件 数は23件であった。バンコマイシンによる感染症の治療には血中濃度測定による投与設計が 必要であり、薬剤科の関与により血中濃度を有効治療域へ補正することができた症例につい て併せて報告する。

【キーワード】 バンコマイシン、初期投与設計、ベイズ推定、TDM、トラフ値

活動報告

マイシンの実測トラフ値を有効血中濃度に到達させ ることができた症例について、報告する。

方 法

 バンコマイシン注の使用を考慮している、もしく は使用開始された患者に対し、解析ソフトによる初 期投与設計を実施した。性別、年齢、体重、血清ク レアチニン値をもとに投与量、点滴時間、投与間隔 をシミュレーションし、事前情報である母集団パラ メータとの比較から定常状態血中濃度を算出した。

既に投与が開始された患者に対し、シミュレーショ ンで算出された推定トラフ値が10〜20μg/mLの範 囲外であった場合は、投与量や投与間隔の変更を提 案した。また、推奨採血日の提案、および血中濃度 測定指示について医師への働きかけを行った。投与 開始より数日後、採血結果が得られた症例について は、点滴歴(年月日、時刻、点滴時間)および採血 記録・血中濃度をもとに、ベイズ推定値を算出し、

必要に応じて処方変更を提案した。結果は、初期投 与設計、ベイズ推定ともにレポートとしてカルテに

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県西部浜松医療センター学術誌 第 3 巻 第1号(2009)

綴じた。TDM解析の治療に対する貢献度を考える指 標の一つとして、解析前後で処方変更があった件数 についてまとめた。

結 果

 2007年7月から2009年 2 月までに、当院薬剤科に おいてバンコマイシンの血中濃度をシミュレーショ ンし、初期投与設計を実施した総件数は90件であっ た。このうち、実際にバンコマイシンが投与された 症例は80件であった。採血を実施してバンコマイシ ン血中濃度実測値を得られたものは、80件中63件、

投与中止や処方変更などの理由により実測値を得ら れなかったものが17件あった(図 1 )。

図1 TDM解析件数(2007.7〜2009.2) n=80

 また、血中濃度測定後のシミュレーションで補正 が必要となり、薬剤科の提案により処方変更が行わ れた症例は投与全例の約 3 割にあたる23件(うち 1 件は血中濃度測定なし)であった(図 2 )。

図2 処方変更の割合

内訳を表 1 に示す。症例 7 は、投与回数の変更によ り、有効治療域への血中濃度改善がみられた例であ り、詳細を後述する。症例21および22は、投与量の 変更により、有効治療域への血中濃度改善がみられ た。症例13、19および23は、血清クレアチニン値の 上昇がみられ、投与中止となった。症例 6 は、初期 投与設計の時点で処方変更されたが血中濃度測定指 示が出されなかった。一方、症例11は、投与期間中 に血清クレアチニン値が上昇していたが、投与は継 続された。本症例および症例 6 において、処方変更 前後の実測トラフ値が測定されていれば、動向が確 認できたであろうと考えられた。

表1 薬剤科の提案による処方変更症例一覧

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県西部浜松医療センター学術誌 第 3 巻 第1号(2009)

症 例

 患者は37歳男性で、前十字靭帯再建後の右膝化膿 性関節炎により入院した。関節液よりStaphylococ-cus epidermidis 陽性となるが、セフェム耐性であっ たため、術後よりバンコマイシン注 1 回 1 g 1 日 2 回の投与が開始された。この時、母集団平均値によ る初期投与設計を実施し、バンコマイシン血中濃度 の推定トラフ値は15.03μg/ mLと推定された。投与 開始から 2 日後、バンコマイシンの4回目投与直前 の採血によりトラフ値を測定したところ、7.8μg/

mLと予測より低値であった。この実測値をもとに ベイズ推定を行うと、1 回 1 g  1 日 2 回、1 回0.5g 1 日  4  回で投与した場合それぞれ12.59μg/mL、

15.61μg/ mLと推定された。このため、投与開始か ら5日後、投与方法を 1 日 4 回投与へ切り替え、投 与を継続した。投与開始から 8 日後、再度採血を 行い、トラフ値を測定すると、13.7μg/mLまで上 昇したことが確認された。この時点でStaphylococ-cus epidermidis 陰性であった。

考 察

 投与開始から 2 日後に測定した実測トラフ値が低 値である理由として、週末を避け、やや早い段階で の採血を提案したために、定常状態へ十分到達して いなかった可能性がある。本症例は、腎機能正常者 であり、定常状態到達時間はバンコマイシン血中濃 度半減期の 4 〜 5 倍時間、つまり24〜48時間程度で あるとされている。しかしながら、現実的にはそれ よりもやや長い時間を要すると考えられた。バンコ マイシンの投与方法を 1 日 2 回から 4 回へ変更した ことにより、実測トラフ値は13.7μg/ mLとなり、

有効治療域へ到達した。一般的に定常状態到達後の 血中濃度は、薬剤の投与量に比例すると言われてい るが、バンコマイシンの通常用量は 1 日 2 gであり、

増量ではなく投与回数を増加させることで血中濃度 の上昇に対応することができた。

おわりに

 今回、薬剤科の提案により23件で処方変更があ り、バンコマイシンの投与設計には血中濃度の測定 が重要であることが実感された。TDM解析は治療に

対する貢献度の指標の一つといえる。しかしなが ら、処方変更後に、再度トラフ値を測定して血中濃 度が有効治療域へ到達したことを確認している症例 は  4  件と極めて少なかった。この理由の一つとし て、当院のバンコマイシン平均投与日数が9.2日と短 いために、シミュレーション後のトラフ値測定に至 らないのではないかと考えられた。また、治療が先 行し、初回のシミュレーションでトラフ値が高値と なり中止を提案することもあった。

 今後の課題として、バンコマイシン投与開始時に はシミュレーションを実施するよう啓蒙していくこ と、処方変更後もトラフの測定を促し血中濃度の推 移を確認することがあげられる。また、現在モニタ リングが不十分な透析患者にも積極的に関与してい きたいと考える。

 解析上の問題として、計算によって推定されるト ラフ値と実測値がかけ離れてしまうために、ベイズ 推定が行えないケースが生じることがあげられる。

このような症例においては、感染部位、熱発の有無 など患者の状態、浸出液が多い症例ではないか等、

患者のバックグラウンドから、予測値が外れる理由 を調査し補正時に反映できないか検討していく予定 である。

文 献

1 ) Welty  TE,  Copa  AK:Impact  of  vancomycin therapeutic drug monitoring on patient care. Ann Pharmacother,28:1335-1339,1994

2 ) 奥村勝彦、平田純生、古久保拓:Q&Aで学ぶ TDM活用ガイド 薬局55(2004)

3 ) 矢後和夫、木村利美:図解よくわかるT D M

(2004)

はじめに

 現在成人の死因のトップは悪性新生物(がん)で あり、年間の死亡者数は他の疾患を引き離し、年々 増加傾向にある1)

 当院は、2007年1月に「地域がん診療連携拠点病 院」の指定を受けたことにより、静岡県の西部地域 におけるがん診療の中心的病院の一つとなり、今後 今まで以上にがん治療患者の増加が推察される。

 当院では抗がん剤治療は入院および外来によって 行われているが、その抗がん剤の混注は被曝対策が 十分に取られていない状況下で行われていた。

 本報では、薬剤科における抗がん剤混注業務導入 までの経緯と現状について報告する。

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