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服部 かよ、内藤 慶子、小林 幹正、鈴木 晶子 鈴木 孝典、中埜 秀史、 島 桂子、内藤 克美

ドキュメント内 09-1 (ページ 37-40)

【要   旨】 涙嚢鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy;DCR)は後天性涙道閉塞症に対して外科的に新た な涙道を形成する根治的な治療法である。これにはシリコンチューブが使用されるが、ここ で使用されたチューブは数ヵ月後に除去するとされている1)。今回我々は 10年前にDCR を施 行した患者の口蓋部から、なんらかの理由で留置されたままとなっていたチューブが露出し た1例を経験した。同症例のように医原性の鼻涙管異物が口腔内に露出した例はまれである が、このように他科での治療後に口腔内の異常を主訴に口腔外科を受診する場合もあるため、

我々歯科医師も他科領域の手術に関して知識を習得しておくべきだと考えられた。

【キーワード】 口腔内異物症、鼻涙管異物症、後天性涙道閉塞症、涙嚢鼻腔吻合術(DCR)

症例報告

腔内へ露出した可能性が疑われたため摘出を勧める も、自覚症状が軽度であったために一旦は経過観察を 希望された。しかし2006年 4 月、右側上顎部の違和 感、右眼の間欠性流涙および眼脂を訴え手術を希望し 再来院となった。

現 症:

口腔外所見;右眼の間欠性流涙および眼脂を認めた。

口腔内所見;口蓋ヒダ部より10mm後方の硬口蓋部 に粘膜の陥凹を中心とした周囲粘膜の膨隆および変 性を認めた(図 1 )。

図1 硬口蓋部に粘膜の陥凹を中心とした周囲粘膜

の変性および膨隆を認める。

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県西部浜松医療センター学術誌 第 3 巻 第1号(2009)

画像所見;パノラマX線写真において、右側上顎第 2 小臼歯根尖上方の上顎洞付近に線状のX線不透過像 を認めた(図 2 )。CT写真では、右側中鼻道部の 鼻腔粘膜から上顎骨口蓋突起にかけて中CT値を呈す る筒状の構造物を認め、さらに異物周囲の骨は軽度 吸収されていた(図 3 )。

図2 右側上顎第 2 小臼歯根尖上方の上顎洞部付近

に線状のX線不透過像を認める。

図3 異物は中鼻道付近の粘膜から口蓋骨にかけて

存在し、異物周囲の骨は軽度吸収していた。

臨床診断:右側鼻涙管異物。

処置ならびに経過:2006年 4 月、右眼の流涙および 眼脂等の眼症状の訴えが強いため、当院眼科を受診 したところ、結膜炎と診断されセフェム系抗菌薬の 点眼薬にて経過観察となった。術前までに眼症状は 軽快傾向を呈したが、上顎部の違和感は改善せず、

2006年 5 月、局所麻酔下に口腔内異物除去を施行し た。異物周囲に沿って口蓋粘膜をメスにて粘膜下ま で切開し、異物周囲の肉芽組織とともに異物を引き 抜き摘出した。摘出された異物は長さ22mm、太さ 5 mm径のシリコンチューブと思われた(図 4 )。摘出 部は縫合により一次閉鎖した。術後の経過は良好 で、その後の外来通院においても創の 開や瘻孔形 成等の異常は認めておらず、創の治癒が進むにつれ 上顎部の違和感も消失した。また術後 1 週には流涙 や右眼の違和感等の眼症状も改善した。

図4 摘出されたチューブは長さ22mm、太さ5mm

のシリコンチューブであった。

考 察

 口腔内異物症に関する報告は、歯科口腔外科およ び耳鼻咽喉科において度々散見され、その原因は異 物の種類により食物性、医原性、外傷性などに大別 される2)。その発生部位は上顎洞で最も多く、頬粘 膜、口腔前庭、舌などでの報告もみられている2) 上顎洞内異物症例の多くは、歯根や歯科治療におけ るリーマーやファイルといった医療器具、さらには 印象材、根管充填材といった歯科器材の報告が多い 3)4)、頬粘膜、口腔前庭、舌といった口腔内軟組 織においては医原性異物に加え、食物性および外傷 性異物の報告例も多い2)。今回我々は鼻涙管異物を 経験したが、我々の渉猟し得た限りでは本症例のよ うに鼻涙管内に挿入された医原性異物の報告例は認 めなかった。これは上顎洞や口腔内軟組織とは異な り、鼻涙管は内腔約 2 mm、全長約13〜25mmという 極めて狭い管であるため、偶発的に何らかの異物が 挿入されること自体が極めてまれと考えられるこ と、また最も医原性の鼻涙管異物の原因となり得そ うなDCRやシリコンチューブ留置術(direct silicon intubation;以下DSIと略す)といった後天性涙道閉 塞症の治療に使用されるシリコンチューブも、通常 の術式では数ヶ月後に除去するとされているために チューブが永久留置されることはなく、通常は異物 とはなり得ないことが考えられた。

 現在、DSIやDCRに広く用いられているチューブ にヌンチャク型シリコンチューブ(N-ST)がある。

これは1993年に栗橋らにより考案されたヌンチャク 型をしたシリコンチューブで、その形態から涙道内 での安定性がよく固定の必要がない画期的なチュー ブとされている5 )6)。本症例でDCRが施行された 1996年にはN-STは一般に普及されていた可能性が高 いと考えられたが、摘出されたチューブはN-STとは 異なる形状のシリコンチューブであった。また今回 の症例では、除去されるべきはずのチューブが留置 されたままとなっていたが、これが除去されずに放 置されていたものか、それとも意図的に留置されて いたのかは定かではない。しかし長期にわたるシリ コンチューブの留置により、何らかの原因で鼻涙管 を下降したチューブが鼻涙管開口部から脱出し、肉 芽組織を形成しながら鼻腔底粘膜や上顎骨口蓋突起

を圧迫吸収し、口蓋粘膜を突き破り口腔内に露出し たと考えられた。本症例のように鼻涙管閉塞症に対 して使用されたシリコンチューブが口腔内に露出し た例もまれで、我々が渉猟し得た限りでは同様の報 告例は認めなかった。これはチューブの偏位が生じ た時点で流涙の再発等の何らかの自覚症状が生じる ために、患者自身が早期に異常を自覚でき、通常は 口腔内へのチューブの脱出までには至らないためで あると考えられた。このようにチューブが十年後に 異物として排出されたことを考えると、使用された チューブは通常通り除去することが望ましいように 思われた。

 今回我々は、DCRに使用されたと思われるシリコ ンチューブが口腔内に露出した1例を経験したので その概要を報告した。本症例のように他科での治療 後に、何らかの口腔領域のトラブルを主訴に患者が 歯科口腔外科を受診する場合もあるため、我々歯科 医師もこのような隣接した他科領域の手術に関し て、十分に知識を習得していかなければならないと 本症例を通して改めて認識させられた。

文 献

1 )栗橋克昭:慢性涙嚢炎・鼻涙管閉塞症(涙嚢鼻 腔吻合術)、丸尾敏夫.眼科診療プラクティス 19外眼部の処置と手術.文光堂;1998.220〜

226.

2 )MeguriShun-ichi:Clinical Investigation of Foreign Bogies in the Oral Cavity.Hospital Dentistry &

Oral-Maxillofacial Surgery.2004;16:121〜125.

3 )大山厳雄、長谷川和樹、宮本日出男、他:上顎 洞内異物迷入16例の臨床的検討.日口外誌.

2008;54:253〜255.

4 )中埜秀史、増本一真、内藤克美:歯科治療中に 発 生 し た 上 顎 洞 内 異 物 の 2 例 . 日 口 外 誌 . 2004;50:412〜414.

5 )廣瀬浩士:涙道疾患の手術的治療.現代医学.

2004;51:491〜498.

6 )保手浜靖之:ヌンチャク型シリコンチューブ

(NST)の安全・確実な挿入法.眼科.2003;

45:191-196.

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県西部浜松医療センター学術誌 第 3 巻 第1号(2009)

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