われわれは 2 月 7 日、日本をたち同日ロチェス ター国際空港に到着した。ロチェスター大学家庭医 療科では 2 年目研修医貝塚先生と、1 年目研修医大 塚先生の 2 人の日本人医師が研修中であった。2 月 7 日は貝塚先生と大塚先生が夕食に連れて行ってく ださりロチェスター大学家庭医学科のことやアメリ カの医療システム、研修システムについてお聞きす ることができた。
2 月 8 日はシュルツ先生宅のウェルカムパーテ ィーに招待された。
2 月 9 日からいよいよ家庭医学科での臨床研修が 始まった。午前中は患者へのアプローチを学ぶ実習 を見学させていただいた。この実習は研修医 2 年目 を対象として行われており、患者の家族構成や問題 点を研修医がプレゼンテーションし、どのように患 者やその家族にアプローチするべきかを指導教官や family therapist(家族療法という精神療法の一種を 行う専門職)とともに討論を行う。さらに実際に研 修医が患者およびその家族と患者宅やクリニックに て面談し、その様子を指導教官が評価し指導すると いった内容であった。この実習を見学してロチェス ター大学家庭医療科の研修医教育プログラムでは、
医師が患者とどのように信頼関係を構築していくか ということに関して大変細やかな教育が行われてい ることに私は大変感銘をうけた。午後はシュルツ先 生とクリニック(図 1 )およびロチェスター大学の 付属病院であるハイランド病院の見学を行った。そ の後ロチェスター大学の各科の研修プログラムの責 任者たちによる会議に参加した。会議では研修プロ グラムの卒業生の専門医試験の合格率が低い科の原
因や、研修医のアンケートからわかった時間外労働 が過度に行われている科の問題点について討論され ていた。アメリカでは研修の質を確保するための チェックが厳重に、そして詳細に行われているとの ことであった。研修医のスーパーローテーションシ ステムが最近から必修化され、まだその質について 詳細なチェックがされていない日本でも見習うべき ところは多いと感じた。
図1 ロチェスター大学家庭医療科のクリニック
2月10日の早朝は、ハイランド病院での喘息の講 義に出席し、午前中はシュルツ先生の外来を見学し た(図 2 )。
図2 シュルツ先生の外来の様子
シュルツ先生の外来には薬物乱用の患者、肥満で 減量のために胃切除を受けようと考えている患者、
健康診断に来た患者など多様な患者が来院していた が、シュルツ先生は多くの問題点を抱える患者には
多くの時間を費やし、事細かに問診を行っていた。
シュルツ先生にこのことを質問すると、家庭医は患 者のかかりつけ医(primary care physician)になっ ており患者の抱えるすべての問題を管理しなくては いけない、よってすべての問題を問診するには時間 が足りないくらいだとおっしゃっていた。確かに特 に高齢者では患者の抱える問題は 1 つではなく、
すべての問題を問診し記録するには 1 人当たり当然 30分から 1 時間の時間は必要である。日本ではかか りつけ医であっても、患者数の問題や診療報酬の問 題から、患者の抱えるすべての問題を詳細に問診し たり、相談に乗ることはできていないことも多いと 思う。しかし患者の満足感の面からもかかりつけ医 は患者の抱える特定の問題だけではなく、すべての 問題に対処するべきではないのかと感じた。午後は ロチェスター大学で医学教育の方法、たとえば講 義、少人数による討論、マンツーマン指導、自習の 利点と欠点についての討論に参加した。
2 月11日の午前中は、1 年目の研修医につき産科 の病棟業務の見学を行った。1 年目の研修医は産科 の指導医のもとで午前中に 2 件のお産の介助を行っ ていた。午後はシュルツ先生夫妻と10歳のお子さん とともに、ロチェスター市にある子供のための博物 館を見学し、その後家庭医の行う手技を集中してト レーニングする外来の見学を行った。3 年目の研修 医が指導医のもとで爪白癬やまき爪の治療、関節注 射などを行っていた。
2 月12日の午前中は、2 年目研修医が患者に対す るアプローチについて教官とともに少人数で討論す る会を見学し、午後は手技の講義に参加した。
2 月13日の午前中は、ロレンツ先生の、午後はエ プステイン先生の外来を見学した。医師により多少 の違いはあるものの、やはりかかりつけ医として患 者の抱えるすべての問題に関わるという姿勢は共通 していた。
週末は日本人研修医の貝塚先生、大塚先生ととも に車で 1 時間半程度の距離にあるナイアガラの滝や 地元の市場を観光したり、地元の大学生とスポーツ をしたりしてリフレッシュすることができた。
2 月16日の午前中は、再び患者へのアプローチを 学ぶ実習に参加し、午後は 3 年目の研修医の外来を
見学した。研修医の外来では常に指導教官が別の部 屋に待機しており、研修医は健康診断の患者や新た な問題を訴えていない患者以外はすべて指導教官に 相談しサインをもらわないといけないシステムに なっていた(図 3 )。
図3 研修医の指導をする教官。研修医は指導教官
に逐次報告、相談を行う指導教官に患者をプレゼンテーションし、指導教 官は研修医に対しその場で指導するというシステム は、研修医に対してその場その場で指導することが システムとして必ずしも確立していない日本の教育 現場にとりいれるべき部分も多いのではと感じた。
2 月17日の午前中は、研修医につき病棟業務を見 学した。これも外来業務と同じで、あらたな指示を 出したりするときには、研修医は逐次指導教官に報 告し指導を受けていた。午後は貧しい患者のために 寄付やボランティアで運用されている、原則的に無 料のクリニックの見学を行った。このクリニックで は週に 1 日医学生が受付から診察、ボランティアの 教官に相談した上での処方まで行っており(図4)
大変活気にあふれていた。日本の医学生の臨床実習 と比較して大変興味深く、活気にあふれており、勉強 になることもたいへん多いのではないかと感じた。
2 月18日の午前中は、病棟を見学し、午後はボテ ロ先生の外来を見学した。2 月19日の午前中は病棟 を見学し、午後は産科の講義を受けた。2 月20日の 午前中は 3 年目の研修医を対象とした講義および少 人数の討論に参加した。今後彼らが研修医を卒業し たのちに、自分たちが研修医を指導するにあたり、
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県西部浜松医療センター学術誌 第 3 巻 第1号(2009)
どのように仕事をまかすと効率的かという内容で あった。午後は研修医の外来を見学した。以上で 2 週間の短くもあったが濃密な研修が終了した。
図4 クリニックにて医学生の指導をするシュルツ先生
まとめ
2 週間の研修で感じたことは以下の 2 点である。
1 )米国ロチェスター大学家庭医療科の研修医教育 について
まず病気に対するアプローチという面では、指導 教官が外来、病棟業務にかかわらずその場で研修医 からの相談を受け指導していた。そして教官からの 承認を得ないと、研修医は医療を行えないシステム となっていた。さらに日本では重要であると認識さ れつつしっかりとした教育のなされていない、患者 や患者家族に対するアプローチに関する教育に非常 に重点が置かれていた。
2 )家庭医療科という分野について
家庭医療科の医師は患者のかかりつけ医として働 く。かかりつけ医は日本では時間的、診療報酬的制 約から必ずしも患者の抱えるすべての問題に対処で きていない。しかしロチェスター大学家庭医療科の 医師たちは、1 人平均して30分程度かけ詳細に患者 の病気や精神的、社会的背景にまでおよぶ問診を 行っていた。さらに適宜他の分野の専門医に紹介 し、また紹介した後も自分たちで患者の病気や心理 的、社会的問題をフォローアップしていた。保険の 問題や文化的背景の違いなど日本と米国には多くの 違いが存在している。しかし患者の心のよりどころ として機能するためにも、かかりつけ医には患者の
抱えるすべての問題に対処する姿勢が日本でもより 求められているのではないかと感じた。
最後に今回の研修を通して本当に多くのことを学 び、素晴らしい経験をすることができた。今後の私 の医療活動の中でも患者や、患者の家族に対するア プローチの姿勢などはすぐに応用できると考える。
今回の研修にあたり当院の小林院長、矢野副院長を はじめとする皆さん、ロチェスター大学家庭医療科 のシュルツ先生、貝塚先生、大塚先生をはじめとす る皆さんに大変お世話になりました。この場を借り て深謝いたします。