はじめに
急性細菌性前立腺炎は日常診療でしばしば遭遇す る疾患であるが、この内 3 〜 5 %が前立腺膿瘍に移 行すると言われている1)。比較的小さな膿瘍では保 存的治療のみで治癒が期待できるが、大きな膿瘍で は何らかの外科的治療が必要となる2 )。今回我々 は、前立腺膿瘍に対して経会陰膿瘍穿刺ドレナージ を施行し治癒を得た 1 例を経験したので、文献的考 察を加えて報告する。
症 例
患 者:60歳、男性
主 訴:排尿困難、全身倦怠感
既往歴:以前に尿糖を指摘されるも放置 家族歴:特記すべきことなし
生活歴:アレルギーなし、喫煙なし、機会飲酒 現病歴: 1 週間前から続く排尿困難と全身倦怠感を 主訴に近医を受診。ショックを伴う尿路感染症と診 断され、同日当院救急外来紹介受診となった。
初診時現症:意識清明。血圧 90/55 mmHg、脈拍 126 /min 整、呼吸数 24 /min、SpO2 95%(room air)、体温 36.0℃。頭頸部、胸腹部、四肢に特記す べき所見なし。直腸診にて前立腺両葉に軟らかい腫 瘤を触知した。
初診時検査所見:WBC 47900 /μl (Band 10.0 %, Seg 87.0 %, Lympho 1.0 %, Mono 1.0 %, Eosino 0.0
前 立 腺 膿 瘍 の 1 例
− 57 −
県西部浜松医療センター学術誌 第 3 巻 第1号(2009)
入院後経過:前立腺膿瘍、敗血症及び敗血症性 ショック、DIC(急性期DIC診断基準3)による)と 診断。膿培養及び血液培養からは、K l e b s i e l l a pneumoniaeが検出された。入院同日より抗生剤、カ テコラミン、メシル酸ナファモスタットにて治療を 開始した。残尿は少量であり、膀胱へのカテーテル 留置や間欠導尿は施行しなかった。第 4 病日に ショック離脱。DICはやや遷延するも第11病日には 軽快した。膿瘍腔に留置したカテーテルからは、留 置直後よりほとんど排液を認めなかった。また、入 院時随時血糖326 mg/dl、HbA1c 7.9%より糖尿病と 診断。2 型糖尿病であり、グリニド系薬内服にてコ ントロールした。第21病日にドレナージカテーテル を両側とも抜去。その後も再燃なく、第31病日に独 歩退院となった。
考 察
未治療の糖尿病を背景として発症し、敗血症と DICを併発するも、経会陰膿瘍穿刺ドレナージにて 治癒を得た前立腺膿瘍の 1 例である。前立腺膿瘍 は、前段階である急性細菌性前立腺炎にて微小膿瘍 が多数形成され、最終的に臨床的に確認可能な大き さになることで発症すると考えられている4)。本症 例のように未治療の糖尿病の他、維持透析、HIV感 染、免疫抑制剤投与など易感染性宿主であることが 危険因子とされる1 )。また、前立腺生検、尿道カ テーテル留置などの経尿道的操作後に発症した急性 細菌性前立腺炎では、前立腺膿瘍への移行率が高い
5)。急性細菌性前立腺炎及び前立腺膿瘍の感染経路 としては、尿道からの逆行性感染の他、直腸からの リンパ行性または血行性感染もあるとされ6)、本症 例では膿尿が比較的軽微であったことから、後者の 可能性も考えられる。起炎菌としては、グラム陰性 桿菌、特に大腸菌が占める率が高い7)。
前立腺膿瘍に特徴的な症状はないが、急性細菌性 前立腺炎の多くは適切な抗生剤の投与にて36〜48時 間以内に軽快を認めるため8)、それ以上症状が遷延 する場合には前立腺膿瘍を疑うべきとされる9)。画 像検査としては経直腸エコーが最も簡便で有用であ り、他にCT・MRIは周囲への膿瘍の広がりを評価す る際に有用である4)。本症例においても、単純CTと
経腹・経直腸エコーにて、診断は比較的容易であっ た。
前立腺膿瘍の治療では、小さな膿瘍では抗生剤投 与を中心とした保存的治療のみで治癒が期待できる が、大きな膿瘍では何らかの外科的ドレナージが必 要となる2)。外科的ドレナージの一つとして、経尿 道的前立腺膿瘍壁切除術が有効であるが、これに は、麻酔のリスク、菌血症の危険性、前立腺辺縁領 域の膿瘍に対して治療が困難であるなどの問題があ る4)。これに対して、近年では経直腸エコーガイド 下の膿瘍穿刺吸引が推奨されている。穿刺のアプ ローチには経会陰と経直腸の 2 通りがあるが、本症 例では前者を選択し、さらにドレナージカテーテル を膿瘍腔に留置した。諸家の報告では、膿瘍が前立 腺を超えて周囲に波及した場合などを除けば、通常 は穿刺吸引のみで治癒が望めドレナージカテーテル の留置は不要とされ、この場合穿刺点から前立腺ま での距離が短い経直腸アプローチが好まれる傾向に ある4)。本症例においてもドレナージカテーテルか らはほとんど排液を認めず、結果的には穿刺吸引の みで十分であった可能性が考えられる。
前立腺膿瘍は、診断が遅れた場合には敗血症から 致死的ともなり得る疾患である10)。本症例では受診 時既に敗血症とDICを併発していたが、膿瘍ドレ ナージとその後 1ヵ月間の入院加療にて治癒を得る ことができた。前立腺膿瘍に対しては、なるべく迅 速な診断と外科的ドレナージが必要であると考えら れる。
文 献
1 )Meares EM Jr: Prostatitis syndromes: new per-spectives about old woes. J Urol 1980;123:141-7.
2 )Collado A, Palou J, Vicente J, et al. Ultrasound-guided needle aspiration in prostatic abscess.
Urology 1999;53:548-52.
3 )丸藤哲、射場敏明、江口豊、他:急性期DIC診 断基準 多施設共同前向き試験結果報告.日本 救急医学会雑誌 2005;16:188-202
4 )江原英俊、出口隆:外科的処置を要する泌尿器 科領域の重症感染症 前立腺膿瘍, 精巣上体炎, 陰茎膿瘍.泌外2008;21:453-9.
5 )Milla´nRodr´guez F, Palou J, Villavicencio-l Mavrich H, et al. Acute bacterial prostatitis:two different sub-categories according to a previous manipulation of the lower urinary tract. World J Urol 2006;24:45-50.
6 )Roberts RO, Lieber MM, Jacobsen SJ, et al. A re- view of clinical and pathological prostatitis syn-dromes. Urology 1997;49:809-21.
7 )Weinberger M, Cytron S, Pitlik SD, et al. Pros-tatic abscess in the antibiotic era. Rev Infect Dis 1988;10:239-49.
8 )Nickel JC. Prostatitis:evolving management strat-egies. Urol Clin North Am 1999;26:737-51.
9 )Kravchick S, Cytron S, Ben-Dor D, et al. Acute prostatitis in middle-aged men:a prospective study. BJU Int 2004;93:93-6.
10)Granados EA, Riley G, Vincente J, et al. Prostatic abscess:diagnosis and treatment. J Urol 1992;148:
80-2.
− 59 −
県西部浜松医療センター学術誌 第 3 巻 第1号(2009)
はじめに
平成19年度末における外国人登録者数は、わが国 における過去最高で、総人口の1.69%にあたると発 表された1)。特に南米出身者は増加傾向で、ブラジ ル登録者数は31万人近くに及び、全体の約15%を占 める。我々の住む浜松市は、自動車産業などが盛ん であり、全国的に見ても南米出身者が多い地域であ る。そのため当院で取り扱う外国人による妊娠・分 娩の件数も増加していることが予測される。
方 法
平成16年 1 月から平成20年 6 月までの外国人妊婦 の分娩を対象に、分娩様式・国籍・妊婦健診の受診 状況などを調査した。
結 果
1 〈外国人妊婦の分娩件数〉当院における平成16年 1 月から平成20年 6 月までの外国人妊婦の分娩は、
平成16年53件(5.2%)、平成17年75件(7.0%)、平 成18年83件(7.5%)、平成19年98件(9.3%)、平成 20年 6 月まで50件(9.3%)で、総数359件であった。
経年的に分娩件数が増加しており、また割合も増え