3. 全試験を通しての結果の比較と解析
3.4 外因性因子
3.4.3 食事
3.4
外因性因子した結果,患者が投与前
2~3
時間以内に食事を取った場合に曝露量が有意に減少することが示 唆された。患者がアファチニブの投与の
3
時間以上前に食事を取った場合には,影響は認められなかった。アファチニブの投与から
1
時間以上経過後に食事を取った場合でも,アファチニブの薬物動態 に対する影響は認められなかった。3.4.4
薬物相互作用アファチニブはin vitroで
P-糖蛋白の基質であることが示された(推定 K
m 値は,Caco-2細胞 で10~30 µM,ヒト P-糖蛋白発現 LLC-PK1
細胞で9.3 µM)(3.1.5.1
項参照)。そこで,健康被 験者を対象としたバイオアベイラビリティ試験を実施し,アファチニブを強力なP-糖蛋白阻害
剤([試験1200.79;CTD 5.3.3.4-1(U -1163)
],2.7.1項および[試験1200.151;CTD 5.3.3.4-2
(U -1170)],
2.7.2
項)または強力なP-糖蛋白誘導剤([試験 1200.152
;CTD 5.3.3.4-3
(U -1140)],2.7.3
項)と併用投与したときのアファチニブの曝露を評価した。最初の試験(試験
1200.79)は, P-糖蛋白の阻害がアファチニブのバイオアベイラビリティに及
ぼす最大の影響を検討することを目的としてデザインされた。この時点では,健康被験者を対 象としたより高用量の試験は実施されておらず,P-糖蛋白の阻害がアファチニブの曝露に及ぼ す影響も不明であったため,感度および安全上の理由から,アファチニブの投与量として20 mg
を用いた。ジゴキシンおよびフェキソフェナジンを用いた試験を含む複数の試験[CTD 5.4-19(P07-13746)],[CTD 5.4-20(R02-1004)],[CTD 5.4-21(R02-1005)],[CTD 5.4-22(R07-1374)] において,リトナビルは
P-糖蛋白および CYP3A
双方の極めて強力な阻害剤であると同定され たことから,P-糖蛋白阻害剤としてリトナビルを用いた。また,米国FDA
は,薬剤の曝露の最 大増加量の推定に用いる適切なP-糖蛋白阻害剤としてリトナビルを挙げている[CTD 5.4-15
(P12-05791)]。リトナビルによる酵素誘導効果を避け,アファチニブの曝露に対する最大作用 を観察するため,リトナビル
200 mg
を1
日2
回3
日間(Day -1,Day 1
およびDay 2)投与し,
3
回目の投与であるDay 1
の朝,リトナビル投与から1
時間後にアファチニブを投与した。リトナビルの存在下で,アファチニブの血漿中濃度-時間推移は若干上昇した(図
3.4.4: 1)。し
かし,リトナビルの併用時または非併用時のアファチニブの血漿中濃度-時間曲線の幾何平均値 は平行した減衰を示した。終末相の半減期に変化はみられなかった(リトナビルとの併用時:34.1
時間,リトナビルとの非併用時:35.9時間)。アファチニブのt
maxの中央値は,リトナビル と併用投与しても変化しなかった(リトナビルの併用時または非併用時,いずれの場合もt
maxの中央値は
4.00
時間)。P-糖蛋白および CYP3A4
の強力な阻害剤であるリトナビルと併用投与したとき(アファチニブの
1
時間前に投与),アファチニブの吸収速度および吸収量は上昇した。アファチニブの相対的 曝露量は,それぞれAUC
0-∞で147.6%, AUC
0-tz で149.0%および C
maxで138.5%まで増加した(表
2.7.1: 2)。
引用元:CTD 5.3.3.4-1(U -1163),Figure 11.5.2.1: 3
図
3.4.4: 1
リトナビル200 mg
併用時および非併用時のアファチニブ20 mg
単回投与後のアファチニブ(BIBW 2992 BS)の血漿中濃度-時間推移の幾何平均値(試 験
1200.79)
試験
1200.79
は“worst case scenario”試験として実施したため,強力なP-糖蛋白阻害剤をアファ
チニブと同時に(臨床的により意義のある),または6
時間遅れて(アファチニブの吸収はほぼ 完了するので,消化管への影響は最小限になる)投与したときの当該阻害剤の影響を検討する ため,別の試験[試験1200.151;CTD 5.3.3.4-2(U -1170)
]を実施した。さらに,アファチニ ブ40 mg
は健康被験者に対して安全に投与できることが示された[試験1200.80
;CTD 5.3.1.1-1(U -1164)]ため,より臨床的に意義のある投与量,アファチニブ
40 mg
で試験を行った。3 回目の投与以外は,リトナビルの投与は試験1200.79
の投与スケジュールと同様であった。試 験1200.151(CTD 5.3.3.4-2(U -1170))の相対バイオアベイラビリティの結果を表 3.4.4: 1
に 示す。AUC
および Cmaxの調整後の90%CI
が,生物学的同等性の基準値である80~125%の範囲内で
あった(リトナビルとの同時投与時のAUC
の上限のみ,125%をわずかに上回った)。以上のこ とから,リトナビルをアファチニブと同時またはアファチニブの6
時間後に投与したとき,臨 床的に問題となるようなリトナビルとの薬物相互作用は生じないと結論付けた。このことは,リトナビルまたは類似した
P-糖蛋白阻害剤をアファチニブと同時またはアファチニブの投与
後に投与するのであれば,治療用量であるアファチニブ40 mg
ではこれらの阻害剤と安全に併 用可能であることを示している。試験
1200.151
[CTD 5.3.3.4-2(U -1170)]でアファチニブの曝露量に対する影響が無視できる 程度であったことは,試験デザインにおける2
つの相違点によって説明されうる。1.
リトナビル投与のタイミング:試験1200.151(CTD 5.3.3.4-2(U -1170))ではアファチニ
ブと同時にリトナビルを投与したため,アファチニブのバイオアベイラビリティに影響を与えるほどに
P-糖蛋白は完全に阻害されていなかった。また,アファチニブの 6
時間後にリトナビルを投与した場合は,その時点でアファチニブの吸収はほぼ完了していたことが推定される。
一方,試験
1200.79[CTD 5.3.3.4-1(U -1163)
]は「worst case scenario」を検討する試験とし てデザインされ,アファチニブの1
時間前にリトナビルを投与したため,アファチニブの投与 時点で,消化管および肝臓でのリトナビル濃度は十分高くなっていた。2.
試験を行ったアファチニブの投与量:P-糖蛋白輸送がアファチニブのバイオアベイラビリテ ィに及ぼす影響は,アファチニブ20 mg(試験 1200.79;CTD 5.3.3.4-1(U -1163))投与時よ
りも40 mg(試験 1200.151;CTD 5.3.3.4-2(U -1170))投与時の方が低いと考えられる。これ
は
P-糖蛋白トランスポーターの飽和によるものであり,アファチニブの用量範囲 20~50 mg
で用 量 比 を 上 回 る 曝 露 の 増 加 が 認 め ら れ た こ と と 合 致 す る [ 試 験
1200.80; CTD 5.3.1.1-1
(U -1164)]。このことを考慮すると,40 mgよりも高用量では,アファチニブのバイオアベ イラビリティに対する
P-糖蛋白阻害の影響は,アファチニブ 40 mg
での影響よりもさらに小さ いと考えられる。表
3.4.4: 1
アファチニブ40 mg
を単独投与およびリトナビル200
㎎と併用投与(1
日2
回
3
日間投与,3
回目のリトナビル投与はアファチニブと同時またはアファ チニブの6
時間後)したときのAUC
0-∞,AUC
0-tzおよびC
maxを比較した相対 バイオアベイラビリティ(試験1200.151)
リトナビルを同時投与 アファチニブの6時間後にリトナビルを投与 アファチニブ
40 mg 調整幾何平均
の比[%]1)
両側90% CI [%] 調整幾何平均 の比[%]1)
両側90% CI [%]
パラメータ 下限 上限 下限 上限
AUC0-∞ 118.56 111.71 125.82 110.76 104.94 116.91 AUC0-tz 119.30 112.24 126.81 110.23 103.84 117.01 Cmax 104.06 96.68 112.00 105.09 96.43 114.53 1)対照投与:アファチニブ40 mg単独投与
引用元:CTD 5.3.3.4-2(U -1170),Table 11.5.2.3: 1,11.5.2.3: 2
強力な CYP3A4 および
P-糖蛋白誘導剤であるリファンピシンを 7
日間前投与すると,アファ チニブの曝露量は33.8%
(AUC0-∞およびAUC
0-tzに基づく)ならびに21.6%(C
maxに基づく)減 少した[試験1200.152;CTD 5.3.3.4-3(U -1140)
]。表3.4.4: 2
に相対バイオアベイラビリティ の結果を示す。アファチニブの曝露の変動が大きいことを考慮してこのP-糖蛋白の誘導による
影響の程度を評価すると,P-糖蛋白誘導剤(強力,中程度または弱い)との併用時にアファチ ニブの開始用量の調節は不要であると考えられる。アファチニブの用法用量において,開始用量は
40 mg
とし,忍容性が良好であれば50 mg
まで 増量することが推奨される。P-糖蛋白の誘導によって曝露量が中程度減少しても,必要に応じ て増量することで調整可能である。表 3.4.4: 2 リファンピシン
7
日間の前投与の有無によるアファチニブ40 mg
投与時のAUC
0-∞,AUC0-tzおよびC
maxを比較した相対バイオアベイラビリティ(試験1200.152)
アファチニブ 40 mg
調整幾何平均の比 [%]
試験/対照1)
両側90% CI [%]
個体内gCV [%]
パラメータ 下限 上限
AUC0-∞ 66.20 60.82 72.06 16.1
AUC0-tz 66.18 60.66 72.21 16.5
Cmax 78.41 72.36 84.97 15.6
1)試験投与:アファチニブおよびリファンピシン,N=22;対照投与:アファチニブ単独,N=22 引用元:CTD 5.3.3.4-3(U -1140),Table 11.5.2.3: 1
ア フ ァ チ ニ ブ は in vitro で
BCRP
の 基 質 で あ る こ と も 明 ら か に な っ た ([CTD 5.3.2.2-1(U -2809)],3.1.5.2項)。既に文献[CTD 5.4-23(R12-2396),CTD 5.4-24(P12-06022)]で 報告されているように,同じ試験でリトナビルは
BCRP
の阻害剤であることが示され,IC50値 は 65 µMであった。リトナビルは,その溶解性から消化管での濃度が139 µM
に達しうる[CTD4.3-50
(P10-04633)]ため,試験1200.79
および試験1200.151
でリトナビルの投与を受けた患者 では,BCRP は阻害されていたと推測される。したがって,BCRP の阻害がアファチニブの曝 露量に対して重要な影響を与えたとすれば,これは両試験で認められた影響の一部である。さ らに,このような影響は中程度(試験1200.79)でしかなく,BCRP
の潜在的阻害剤をアファチ ニブと同時またはアファチニブの投与後に投与することによって回避することが可能である(試験
1200.151)。結果として,試験 1200.79
および試験1200.151
で観察されたアファチニブ とリトナビルを併用した時の影響は,P-糖蛋白と BCRP
の両者(CYP3A4についてもいえるが,これはアファチニブとは関連性がない)が阻害されたことでアファチニブの薬物動態特性が影 響を受けた「worst case scenario」を示していると結論付けた。
3.1.5.3
項に概要を示すとおり,ほかの薬物トランスポーターに基づく薬物相互作用は生じないことが予想される。また,アファチニブは酵素を阻害も誘導もせず(3.1.4 項参照),酵素によ る代謝もごくわずかである(3.2.2項参照)ことから,代謝酵素(特に