2. 個々の試験結果の要約
2.6 母集団薬物動態解析
2.6.3 試験1200.10,試験1200.11,試験1200.22,試験1200.23,試験
表題:様々な種類の癌を有する患者におけるアファチニブ単独療法の併合母集団薬物動態解析 資料番号(報告書番号):[CTD 5.3.3.5-3(U -1394)]
目的:本併合母集団薬物動態解析の目的は,対象患者集団におけるアファチニブの薬物動態を 記述し,様々な内因性および外因性因子によるアファチニブの薬物動態への影響を評価または 再評価することであった。
方法:解析ソフトウェア
NONMEM
に実装されている非線形混合効果モデルを用いて,母集団 薬物動態解析を実施した。頭頚部扁平上皮癌(HNSCC)患者を対象とした第II
相試験[試験1200.28;CTD 5.3.5.4-14(U -3254)
],病期IIIB
期またはIV
期の転移性NSCLC
の日本人患者 を対象とした第I/II
相試験[試験1200.33;CTD 5.3.3.2-9(U -2037)
],病期IIIB
期またはIV
期のNSCLC
患者を対象とした第III
相試験[試験1200.32;CTD 5.3.5.1-1(U -1199)]の薬物
動態データを,以前に第II/III
相試験データを用いて行った母集団薬物動態解析[CTD 5.3.3.5-2(U -1592)]の解析データセットと併合し,新たな薬物動態解析データセットとした(CTD
5.3.3.5-3(U -1394))。以前の母集団薬物動態解析に用いた解析データセットには,転移性乳
癌患者を対象とした
2
件の第II
相試験[試験1200.10
;CTD 5.3.5.4-10
(U -1598),試験1200.11
;CTD 5.3.5.4-11(U -2463)
],病期IIIB
期またはIV
期のNSCLC
患者を対象とした第II
相試験[試験
1200.22;CTD 5.3.5.2-4(U -3047)
]),病期IIIB
期またはIV
期のNSCLC
患者を対象と した第IIb/III
相試験[試験1200.23;CTD 5.3.5.1-2(U -3048)
])の薬物動態データが含まれ る。モデル構築では,以前の母集団薬物動態解析[CTD 5.3.3.5-2(U -1592)]で得られた最終モデ ルを出発点として用いた。このモデルをまず,新たに追加したデータとアファチニブの薬物動 態に関する最新の知識に基づいて改良した。この作業では主に,分布動態と非線形薬物動態を 記述するモデルを検討し,食事と体重の影響のモデルへの組込みについて評価した。そして改 良されたモデルに基づいて,共変量解析を実施した。
内因性および外因性因子がアファチニブの薬物動態に及ぼす影響を逐次変数増加法/変数減少 法用いて評価および再評価した。この際,検討するパラメータと共変量の組合せは,生理学的 根拠,既存の知識(以前の共変量解析から得られた知識など)または一般的に興味のある共変 量であるか否かに基づいて事前に規定した。
最終モデルのパラメータ推定値の信頼区間はブートストラップ解析により求めた。最終モデル の予測性能を,Quantitative Predictive Checkにより評価した。
解析で統計的有意性が示された共変量について,アファチニブの薬物動態への影響の程度をシ ミュレーションにより評価した。
結果:
モデル構築に使用したデータ
患者
927
名から得られた4460
時点の血漿中濃度データ(薬物動態解析データセット)をモデル 構築および共変量解析に使用した。ほぼすべての薬物動態データは第3
コースまでの間に採取 されていた。投与コースは試験1200.32
の21
日間を除き,28日間であった。モデル構築では,NSCLC患者
764
名,乳癌患者90
名,頭頚部扁平上皮癌患者73
名の薬物動態 データを使用した。これらの患者の年齢の中央値は59
歳,体重の中央値は62 kg
であった。女 性が約60%を占めた。またアジア人の患者が 62.5%
(中国人8.5%,日本人 13.4%,韓国人 7.2%,
東南アジア人
7.7%,台湾人 23.0%,そのほかのアジア人 2.7%)を占め,白人が 35.9%であった。
腎機能と肝機能については,ベースラインの
CRCL
の中央値が79 mL/min,肝機能の代替マー
カー(ALT,AST,BIL)はすべて,ほとんどの患者(ベースラインで81.6%)で標準範囲の上
限を下回った。ベースラインのECOG
パフォーマンス・スコアは0
と1
がそれぞれ40%と 55.7%
であった。
アファチニブの薬物動態の最終モデル
アファチニブの血漿中濃度-時間推移は,一次吸収過程と線形の消失過程を有する
2-コンパート
メントモデルで適切に記述できた(表 5.1: 8)。個体間変動は相対バイオアベイラビリティと吸 収速度定数に組込まれた。分布動態は中心コンパートメントから末梢コンパートメントへの移 行速度定数(K23)とその逆の移行速度定数(K32)でパラメータ化した。曝露量が用量比をわずかに上回る割合で増加する特徴を記述するため,相対バイオアベイラビ リティが用量依存的に変化することを表す関数を,第
I
相試験データの母集団薬物動態解析か ら取り入れた([CTD 5.3.3.5-4(U -1393)],2.6.4項)。この関数では,相対バイオアベイラビ リティは,投与量70 mg
まではべき関数に従い用量と共に増大し,70 mgを超えると一定に保 たれた。相対バイオアベイラビリティを介してアファチニブ曝露量に影響を及ぼす統計的有意な共変量 として,アファチニブ投与前
3
時間未満と投与後1
時間未満の食事摂取,ECOGパフォーマン ス・スコア,LDH,アルカリホスファターゼ値(AP)が同定された。みかけのクリアランス(CL/F)
に有意な影響を及ぼす共変量として,体重,CRCL,TPROが同定され,また性別も,わずかだ が(体重で調整後も)有意な影響が認められた。さらに体重は,中心コンパートメントの分布 容積(V2
/F)への影響が認められた。
アファチニブの薬物動態に統計的に有意な影響を及ぼすことが明らかになったこれらの共変量 は,アルカリホスファターゼ値と総蛋白を除き,第
II
およびIII
相試験データを用いて実施し た以前の母集団薬物動態解析[CTD 5.3.3.5-2(U -1592)]の薬物動態モデルに既に含まれてい る。頭頸部扁平上皮癌患者と乳癌患者または
NSCLC
患者の間で,薬物動態に統計的に有意な差が 認められた。この差は,頭頸部扁平上皮癌患者の相対バイオアベイラビリティを増加させるこ とにより記述された。薬物動態解析データセットから各共変量のベースライン値の最頻値/中央値を求め,それらを 用いて「典型的な患者」(NSCLC患者,女性,62 kg,ECOGパフォーマンス・スコア
1,CRCL 79 mL/min,LDH 241 U/L,AP 106 U/L,TPRO 72 g/L)を定義した。この「典型的な患者」に用
量
40 mg
を1
日1
回投与したときの各パラメータの「典型的な」値は,食事効果がないとした場合,CL/Fが
44.0 L/h,定常状態におけるみかけの分布容積が(V
ss/F)2370 L,終末相消失半
減期が45.0
時間,一次吸収速度定数(KA)が0.252/h
であった。相対バイオアベイラビリティ(F1)の個体間変動を変動係数で表すと
47.5%,KA
の個体間変動は77.3%であった。
用量非線形性に関して,実際にアファチニブを
20,30,40
または50mg
投与した場合,線形等 価用量(薬物動態が線形であると仮定したときに曝露量が同じになる投与量)は,14,26,40(参照投与量)または
56 mg
であった。アファチニブの薬物動態に有意な影響を及ぼす共変量
食事:アファチニブ投与前
3
時間未満および投与後1
時間未満の食事摂取により,AUCτ,ssが26.1%減少した。
CRCL:CRCL
が120 mL/min
未満の患者では,CRCLの1
単位減少につき,みかけのクリアラ ンス(CL/F)が0.484%ずつ減少した。たとえば,CRCL
が60
および30 mL/min
の患者では,AUC
τ,ssが,CRCL 79 mL/min(解析対象集団の中央値)の患者と比べてそれぞれ13.0%および 42.1%増加し, CRCL
が90
および120 mL/min
の患者ではそれぞれ6.23%および 19.8%減少した。
体重:体重によるアファチニブ曝露量の変化は,みかけのクリアランス(CL/F)と中心コンパ ートメントのみかけの分布容積(V2/F)がそれぞれべき指数
0.595
と0.899
のべき乗モデルに 従うことにより記述された。これはAUC
τ,ssが,体重42 kg(2.5
パーセンタイル)の患者では 体重62 kg(解析対象集団の中央値)の患者と比べて 26.1%増加し,体重 95 kg
の患者(97.5パ ーセンタイル)では22.4%減少することを意味する。
ECOG
パフォーマンス・スコア:ECOGパフォーマンス・スコアが1
(解析対象集団の最頻値)の患者と比べて
ECOG
パフォーマンス・スコアが0
の患者および2
以上の患者のAUC
τ,ssはそれぞれ
7%小さいおよび 18%大きかった。
性別:ほかの共変量(特に体重)で調整後,女性患者ではみかけのクリアランス(CL/F)が男 性患者より
12.9%低く,AUC
τ,ssが14.8%大きかった。
AP:AP
が251 U/L
未満の患者では,APが1
単位減少するごとに相対バイオアベイラビリティが
0.128%ずつ減少した。たとえば,AP
が49 U/L(2.5
パーセンタイル)の患者では,AUCτ,ss がAP 106 U/L(解析対象集団の中央値)の患者と比べて 8.96%減少し,AP
が509 U/L(97.5
パ ーセンタイル)の患者では22.8%増加した。
LDH:アファチニブ曝露量の変化は LDH
の線形関数(傾き0.000331)で記述された。たとえ
ば,LDH 126 U/L(2.5パーセンタイル)の患者では,241 U/L(解析対象集団の中央値)の患 者と比べて,AUCτ,ssが
3.81%減少し,893 U/L(97.5
パーセンタイル)の患者では21.6%増加し
た。TPRO:みかけのクリアランス(CL/F)の変化は TPRO
の線形関数(傾き0.00436)で記述され
た。これは,TPROが
60 g/L(2.5
パーセンタイル)の患者では,72 g/L(解析対象集団の中央値)の患者と比べて
AUC
τ,ssが4.97%減少し,TPRO
が85 g/L(97.5
パーセンタイル)の患者では
6.01%増加することを意味する。
頭頚部扁平上皮癌患者:頭頸部扁平上皮癌患者では相対バイオアベイラビリティが乳癌患者と
NSCLC
患者と比べて1.35
倍高く,そのためAUC
τ,ssが35%大きかった。
アファチニブの薬物動態に有意な影響を及ぼさない共変量
年齢,喫煙歴,飲酒,肝転移はアファチニブの薬物動態に有意な影響を及ぼさなかった。
乳癌患者と
NSCLC
患者の間でも差はなかった。NSCLC部分集団内でも差はなかった。アジア人(検討した部分集団を含む,つまり中国人,日本人,韓国人,台湾人,東南アジア人,
その他のアジア人)と白人の患者間でアファチニブの薬物動態に統計的有意差はなかった。ア メリカ先住民/アラスカ先住民患者または黒人患者についても,ほかの患者との明らかな差は 認められなかった。ただし,これらの集団のデータは限られていた(薬物動態解析データセッ トに含まれる患者
927
名のうちそれぞれ6
名と9
名)。肝障害の影響を評価するため,個々の代替マーカー(ALT,AST,BIL)および
NCI
臓器不全 作業部会から採用した肝機能分類に基づく複合的尺度がみかけのクリアランス(CL/F)と相対 バイオアベイラビリティ(F1)に及ぼす影響を評価した。NCI
分類では,肝の障害度が軽度1,
軽度
2,中等度,重度 1,重度 2
の5
段階に分類される。変数増加法の単一の共変量の影響の検討に引き続き,詳細な評価のためにこの分類を選択した。重度に分類される患者はなく,薬物 動態解析データセットに含まれるデータのうち,中等度の肝障害を有する患者のデータは全デ ータのわずか
0.8%であった。軽度(1
および2)の肝障害の患者における曝露量増加を解析し
た結果,変数減少法の過程で正式に有意水準に達した。しかし,効果の大きさ(相対バイオア ベイラビリティの7%増加)は正確に推定できず(ブートストラップ解析で求めた 95% CI:-1.1
~16%),中等度の障害による影響のさらなる増加も(傾向も含めて)認められなかった。
シミュレーション
個々の共変量の影響をシミュレーションした結果,いずれの共変量もそれ自体は,アファチニ ブの実測値のばらつきの範囲(90%予測区間)を超える影響を引き起こさないことが示された
(薬物動態解析データセットの各共変量のベースライン値の最頻値/中央値で定義される「典 型的な患者」との比較)。
患者背景がほぼ同じであると仮定すると,血漿中濃度推移の中央値および
90%予測区間は以前
の最終モデル[CTD 5.3.3.5-2(U -1592)]と最新のモデルとで非常に類似していた。結論: