3. 全試験を通しての結果の比較と解析
3.5 薬力学試験および解析
3.5.1 QT
に対する影響詳細で頑健な統計解析計画に基づいて,バリデーションが取れた心電図の中央測定機関を用い て(2.8.1項も参照),
4
つの第I
相臨床試験[試験1200.1
;CTD 5.3.3.2-1
(U -2055),試験1200.2;
CTD 5.3.3.2-2(U -3025)
,試験1200.3;CTD 5.3.3.2-4(U -1023),
試験1200.4;CTD 5.3.3.2-5
(U -3128)]で得られた心電図データに対する後ろ向き解析を行い,心臓に対する安全性に ついて解析した[CTD 5.3.3.2-6(U -1136)]。本解析の主要目的は,様々な投与量のアファチ ニブの投与を受けた患者における
QTc
の変化を評価すること,ならびにQTcF
とC
maxの間の相 関性に関する評価であった。心電図データから,アファチニブが心再分極に影響を与える(平 均変化量:<10 ms)が,用量反応関係はみられず,平坦であることが示唆された。補正QT
間 隔(QTcBおよびQTcF)とアファチニブの血漿中濃度の相関を評価した薬物動態/薬力学解析
(図
2.8.1: 1)では,最大耐量または最大耐量を超えた 100 mg
までの投与量において,治療域における血漿中濃度の直線回帰の傾きは
0
に近かった。検討対象とした心電図の形態変化から,ベースラインからの
T
波の変化が新たに5%~12%変化したことが明らかになった。これは,
多くの合併症を有し,併用薬の投与を受けている癌患者で予想される頻度である[CTD 5.4-9
(R08-2174)]。治験薬の影響を完全には排除できないが,併合データから,心拍数,AV伝導,
心脱分極および心再分極には,問題となる変化はなかったことが示唆される。本報告で解析し た上記
4
試験からは,アファチニブが心再分極に影響を与えるか否かは明らかではない。試験
1200.24[CTD 5.3.4.2-1(U -2519)
]は,アファチニブ50 mg
の連日経口投与がQTcF
に 影響を与える可能性を評価するべくデザインされた。治験薬との因果関係が否定できない毒性 が認められた患者では,40 mgまたは30 mg
への10 mg
ずつの減量が許された。ICH E14
に記載された,健康被験者を対象とし,プラセボを対照とする正式な「Thorough QT/QTc」試験は,倫理上の理由から実施できなかった。しかし,本試験デザインは,綿密な
QT
試験が 適切ではない状況でのQT
リスクの評価に関するCardiac Safety Research Consortium の勧告に
沿うものであった。1~24
時間の時間をマッチさせたQTcF
平均値は,ベースラインからDay 14
までの間で0.3 ms
の低下を示し(表3.5.1: 1),両側 90% CI
の上限は2.3 ms
であった。ベースラインとDay 14
のQTcF
平均値の標準偏差はそれぞれ17.7 ms
および17.0 ms
であった。表 3.5.1: 1 アファチニブ
50 mg 1
日1
回の投与を受けた癌患者における時間をマッチさ せた1~24
時間のQTcF
平均値におけるベースラインからDay 14
までの変 化量(試験1200.24
)統計値 アファチニブ
FAS-ECG2)の患者数 60
解析した患者数 49
QTcF,ms
ベースライン(Day -1) 平均(SD) 393.8 (17.7)
Day 14 平均(SD) 391.9 (17.0)
ベースラインからDay 14までの 平均(SE)1) –0.3 (1.5) 時間をマッチさせた平均変化量 両側90% CI –2.8, 2.3
1)1標本のt検定による。
2)FAS-ECG=心電図の解析対象集団
引用元:CTD 5.3.4.2-1(U -2519),Table 15.3.4.2.1: 1,15.3.4.2.1: 2
1~24
時間の時間をマッチさせたQTcF
平均値は,ベースラインからDay 1
までに1.0 ms(90%
CI
:–2.2, 0.2)とわずかに低下した。変化の大きさは,ベースラインと Day 14
の間の変化量(0.3ms
の低下)と同程度であった(CTD 5.3.4.2-1(U -2519))。1~24
時間の時間をマッチさせた心拍数は,ベースラインからDay 14
までにやや増加(1.3 bpm,90% CI:0.3, 2.4)し,Day 14
ではわずかな増加(0.1 bpm,90% CI:–1.9, 2.0,(CTD 5.3.4.2-1(U -2519))がみられた 。
QTcF
のベースラインからの変化量について,Day 1
およびDay 14
のアファチニブ投与後1~24
時間における調整平均およびCI
の経時変化を図5.2: 6
および表.5.1: 8に示す。QTcFのベース ラインからの変化の調整平均は,すべての時点で小さかった。調整平均の変化量の最大値は,Day 1(7
時間後)では0.4 ms,Day 14(1
時間後)では1.6 ms
であった。CIの上限は両日共に10 ms
をはるかに下回り,上限の最大値は,Day 1(7時間後)では3.8 ms,Day 14(1
時間後)では
5.2 ms
であった。QTcF
変化の経時変化は,未補正 QT間隔(すなわち,投与後2~5
時間の時点における一貫し た短縮,下記参照)の経時変化と同様のパターンを示した。これは,心拍数が変化している場合は
Fridericia
の式では正確な補正ができないというよく知られた事実に関連する可能性が高い。したがって,心拍数の変化が最も大きい時点で,(QT の短縮よりは小さいが)QTcF の短 縮がみられた。
線形混合モデルを用いて,アファチニブの血漿中濃度と,時間をマッチさせた
QTcF,QT
およ び心拍数のベースラインからDay 1
およびDay 14
までの変化量との間の関係を定量化した。QTcF
およびQT,ならびに C
maxの幾何平均における予測値(90% CI)に関するこれらの解析結 果を表 3.5.1: 2に示す。推定された傾きは0
に近く,アファチニブの曝露量とQTcF
延長また はQT
延長との間に関連性がないことが示された。表
3.5.1: 2
アファチニブの血漿中濃度とベースラインからDay 1
およびDay 14
までのQTcF
およびQT
の変化との関係に関する線形混合モデル解析(試験1200.24)
Day 切片
[ms]
傾き [ms/(ng/mL)]
Cmaxの幾何平均 [ng/mL]
QTcF/QTの 予測値
[ms]
90% CI [ms]
QTcF
Day 1(1~24時) –1.22 0.0072 44.7 –0.90 –2.22, 0.42 Day 14(0~24時間) 4.13 –0.0493 86.6 –0.14 –2.83, 2.55 QT間隔
Day 1(1~24時間) 0.09 –0.0909 44.7 –3.97 –6.28, –1.66 Day 14(0~24時間) 7.98 –0.1010 86.6 –0.76 –5.40, 3.87 Per Protocol set-ECG
引用元:CTD 5.3.4.2-1(U -2519),Table 12.5.2.10: 1
時間をマッチさせた
QTcF
のベースラインからの変化量の個別値,ならびにアファチニブの平 均血漿中濃度について,Day 1とDay 14
を併合して図3.5.1: 1
に示す。Per Protocol set-ECG
引用元:CTD 5.3.4.2-1(U -2519),Figure 15.3.4.2.2.5: 3
図
3.5.1: 1
アファチニブの血漿中濃度と時間をマッチさせたQTcF
のベースラインからDay 1
およびDay 14
までの変化量との関係(試験1200.24)
3.5.2
皮膚生検におけるEGFR
関連バイオマーカーの変化に対する影響試験
1200.1[CTD 5.3.3.2-1(U -2055)
],試験1200.2[CTD 5.3.2.3-4(U -3715)
]および試験1200.3[CTD 5.3.3.2-4(U -1023)
]では,アファチニブ投与によるバイオマーカーの薬力学的 変化を皮膚および腫瘍生検においてEGFR
活性化の指標となるいくつかのマーカーについて免 疫組織化学を用いて評価した。また,腫瘍生検または各試験の前に入手した切除片に基づくEGFR,HER2
またはエストロゲン受容体(ER)またはプロゲステロン受容体(PrR)の免疫組織化学と客観的腫瘍縮小効果との間の関連性を探索した。
各試験のアファチニブの投与前と最初の投与コース終了時に,健側前腕からパンチ生検を行い,
皮膚におけるバイオマーカーの変化を確認した。腫瘍生検におけるバイオマーカーの変化につ いては,最大耐量で投与を受けた
6
名以上の患者を対象として,アファチニブの投与前と最初 の投与コースの終了時に検討を行った。表 3.5.2: 1に検討したバイオバーカーと薬力学的分析 の一覧を示す。腫瘍生検については,標本数が少なかったため解析を行うことはできなかった。(予測値および90%信頼区間を横線で示す)
(Cmaxの幾何平均を縦線で示す)
表
3.5.2: 1
試験1200.1
,試験1200.2
および試験1200.3
で皮膚生検において検討したバ イオマーカー試験 皮膚生検で検討したバ イオマーカー
腫瘍生検で検討したバ イオマーカー
そのほかの薬力学的分析
試験1200.1 CTD 5.3.3.2-1
(U -2055)
EGFR, p-MAPK, p-Akt, Ki67, p27KIP1
EGFR, MAPK, Akt, Ki67, p27KIP1
EGFRおよびHER2の発現(腫瘍生 検に基づく)と客観的腫瘍縮小効果 との相関性
試験1200.2 CTD 5.3.3.2-2
(U -3025)
CTD 5.3.2.3-4
(U -3715)
EGFR, p-EGFR, p-MAPK, p-Akt, Ki67, p27KIP1
EGFR, p-EGFR, HER2, p-MAPK, p-Akt, Ki67, p27KIP1
EGFR,HER2,エストロゲン受容体 およびプロゲステロン受容体の発現
(腫瘍生検に基づく)と客観的腫瘍 縮小効果との相関性
試験1200.3 CTD 5.3.3.2-4
(U -1023)
EGFR, p-EGFR, p-MAPK, p-Akt, Ki67, p27KIP1
EGFR, p-EGFR, HER2, p-MAPK, p-Akt, Ki67, p27KIP1
EGFR,HER2,エストロゲン受容体 およびプロゲステロン受容体の発現
(腫瘍生検に基づく)と客観的腫瘍 縮小効果との相関性
皮膚組織で検討したバイオマーカーは,EGFR の活性化の指標となる重要なマーカーである。
アファチニブによる
EGFR
の阻害は,p-EGFR,p-MAPK,p-Aktのレベルを減少させ,Ki-67の 発現によって示される表皮角化細胞の増殖を抑制すると考えられる。非臨床のモデルでは,分裂停止と
EGFR
伝達経路の阻害はサイクリン依存性阻害剤p27
KIP1の誘 導に関連することが示されているので[CTD 5.4-28(R12-2770)],このマーカーの発現につい ても調べた。試験1200.1[CTD 5.3.3.2-1(U -2055)
](図5.2: 7
および図5.2: 8)ならびに試験 1200.2[CTD 5.3.2.3-4
(U -3715)]では,Ki67
の発現が有意に減少した。この作用は,10~100 mg
の用量レベルおよび評価を行った各時点では用量依存的ではなかった。さらに,試験1200.3
[CTD 5.3.3.2-4(U -1023)]では,統計的に有意ではないものの,投与によって表皮角化細胞 の
Ki67
の発現が減少する傾向がみられた。試験1200.2
(CTD 5.3.2.3-4(U -3715))では,p27
KIP1 陽性の表皮角化細胞の有意な増加が認められた。アファチニブは,試験を行ったそのほかのバイオマーカーに対して明らかな作用を示さなかっ た(表 3.5.2: 1参照)。
以上の探索的な検討結果から,アファチニブの投与は,表皮角化細胞の増殖に対して有意な,
用量依存的ではない阻害作用(Ki67発現量の変化として測定される)を示すことが明らかにな った(試験
1200.1;CTD 5.3.3.2-1(U -2055),試験 1200.2;CTD 5.3.2.3-4(U -3715))。試験 1200.2[CTD 5.3.2.3-4(U -3715)]では,アファチニブの投与中に分化した細胞(p27
KIP1陽性 の表皮角化細胞)の有意な増加が認められた。ただし,皮膚組織における変化を反応の代替マーカーとして用いることには,以下のような限 界がある。
• たとえば,アファチニブの皮膚生検検体における作用と標的における作用との関係は不明 である。これらの組織は
EGFR/HER2
阻害[CTD 5.4-29(R10-4568)]に対しては異なる 反応を示す可能性があり,アファチニブの分布が皮膚と腫瘍コンパートメントとの間で異 なる可能性がある。• 生物学的評価が可能な腫瘍組織を有する患者が少数であったため,本試験における皮膚組 織での生物学的評価と臨床的ベネフィットの関係の解釈には注意が必要である。
• 皮膚生検は,アファチニブの