2. 個々の試験結果の要約
2.6 母集団薬物動態解析
2.6.2 試験1200.10,試験1200.11,試験1200.22,試験1200.23の母集団薬物動
表題:進行性または転移性
NSCLC
患者と転移性乳癌(BC)患者におけるアファチニブ単独療 法の併合母集団薬物動態解析資料番号(報告書番号):[CTD 5.3.3.5-2(U -1592)]
目的:本併合母集団薬物動態解析の目的は,対象患者集団でのアファチニブの薬物動態の特性 を評価すること,および様々な内因性および外因性因子がアファチニブの薬物動態に及ぼす影 響を共変量解析により検討することである。これらの内因性および外因性因子として,人口統 計学的因子(年齢,性別,民族性,体格,飲酒,喫煙歴),腎障害および肝障害,疾患特異的変 数(ECOGパフォーマンス・スコア,肝転移の有無,癌の種類)などを評価した。またアジア での申請のため,アジア人と白人の間,および中国人,韓国人,台湾人,そのほかのアジア人 と非アジア人の間で薬物動態の違いを評価した。さらに,必要に応じて曝露量-反応関係の検討 を行えるよう,各患者の事後分布に基づく推定曝露量を得ることも目的とした。
方法:解析ソフトウェア
NONMEM
に実装されている非線形混合効果モデルを用いて,母集団 薬物動態解析を実施した。転移性乳癌患者を対象とした第II
相2
試験[試験1200.10;CTD 5.3.5.4-10
(U -1598),試験1200.11
;CTD 5.3.5.4-11
(U -2463)],病期IIIB
期/IV期のNSCLC
患者を対象とした第II
相1
試験[試験1200.22;CTD 5.3.5.2-4(U -3047)
],および病期IIIB
期/IV 期のNSCLC
患者を対象としたピボタル第III
相試験[試験1200.23;CTD 5.3.5.1-2
(U -3048)]のデータを併合した。試験
1200.23
に関しては,最後の患者の組入れ後における 中間データを,モデル構築と共変量解析に使用した(薬物動態解析データセット)。アファチニブの薬物動態に対する内因性および外因性因子の影響は逐次変数増加/変数減少法 により検討した。この際,試験するパラメータと共変量の組合せは,生理学的根拠,または一 般的に興味のある共変量であるか否かに基づいて事前に定めたものを検討した。最終モデルが 確立された後,再度,アジア人と非アジア人の患者における薬物動態の差を検討した。そのた
め,民族的要因の影響を最終モデルで個体間変動を導入したパラメータに導入し,ブートスト ラップ解析によりパラメータの推定値を評価した。
この基本モデルの予測性能を
Numerical Predictive Check
およびVisual Predictive Check
により評 価した。最終モデルのパラメータ推定値の信頼区間はブートストラップ解析により求めた。試験
1200.23
の最終データ取得後,薬物動態解析データセットに含まれていた中間データを最終データに置き換え,完全な薬物動態データセットとした。さらにこのデータセットに基づいて,
最終モデルの予測性を
Quantitative Predictive Check
により確認した。解析で統計的有意性が示された共変量について,それらがアファチニブの薬物動態へ及ぼす影 響の程度をシミュレーションにより評価した。P-糖蛋白阻害剤併用がバイオアベイラビリティ に影響(バイオアベイラビリティの
48%増加)を及ぼすことが第 I
相試験([CTD 5.3.3.4-1(U -1163)],2.7.1項)の結果で示されており,シミュレーションにおいては,P-糖蛋白阻害 剤併用がバイオアベイラビリティに及ぼす影響を最終モデルに組入れた。この値は,その目的 のために特に実施された第
I
相試験(CTD 5.3.3.4-1(U -1163),2.7.1項)の結果に基づいてい る。結果:患者
506
名から得られた2550
時点の血漿中濃度(薬物動態解析データセット)をモデル 構築と共変量解析に使用した。ほぼすべての薬物動態データは第3
コースまでの間に採取され ていた。アファチニブの血漿中濃度-時間推移は,吸収ラグタイム(ALAG),一次吸収過程および線形 の消失過程を含む
2-コンパートメントモデルにより最も良く記述できた。個体間変動は相対バ
イオアベイラビリティ(F1)と一次吸収速度定数(KA)の変動で表すことができた。相対バイ オアベイラビリティ(F1)については,個体間変動に加えて,投与コースを用いた時期間変動 も取り入れた。中心コンパートメントから末梢コンパートメントへの移行速度定数(K23)と その逆の移行速度定数(K32)について,頑健性のある推定はできなかった。そのため,これ らのパラメータの値は,第I
相試験データを用いて以前に実施した母集団薬物動態解析([CTD5.3.3.5-1(U -1522)
],2.6.1 項)で得られた値に固定した。曝露量はわずかに用量比を上回る 増加を示したが,これは実際の投与量を,相対バイオアベイラビリティに影響を及ぼす共変量 として加えることにより記述できた。相対バイオアベイラビリティを介してアファチニブ曝露量に影響を及ぼす統計的に有意な共変 量として,アファチニブ投与前
3
時間以内および投与後1
時間未満の食事摂取,体重,ECOG パフォーマンス・スコア(ECOG)およびLDH
が同定された。みかけのクリアランス(CL/F)では,CRCLと性別による有意な影響が認められた。
薬物動態解析データセットに含まれる各共変量のベースライン値の最頻値/中央値を用いて
「典型的な患者」(女性,体重
64 kg,ECOG
パフォーマンス・スコアが0
または1,CRCL
が78 mL/min, LDH
が257 U/L)を定義した。この「典型的な患者」に投与量 50 mg
を1
日1
回投与したときの各パラメータの値は,クリアランス(CL/F)41.1 L/h,定常状態における分布 容積(Vss/F)2317 L,終末相の消失半減期
46.4
時間,吸収速度定数0.242 h
-1,吸収ラグタイム0.215
時間であり,食事の影響はみられなかった。相対バイオアベイラビリティにおける個体間変動を変動係数で表すと
41.2%,吸収速度定数における個体間変動は 68.0%,相対バイオア
ベイラビリティにおける時期間変動は26.6%であった。
用量非線形性に関して,50 mg1日
1
回投与に対する40,30
および20 mg
の1
日1
回投与の定 常状態における濃度-時間曲線下面積(AUCτ,ss)は,線形の薬物動態を仮定した場合は,それぞ れ80%,60%および 40%であるのに対し,実際は 69%,48%および 27%であった。
アファチニブの薬物動態に有意な影響を及ぼす共変量
食事:アファチニブ投与前
3
時間以内および投与後1
時間未満の食事摂取により,AUC
τ,ssが34%
減少した。
体重:体重のアファチニブ曝露量に与える影響は,べき指数-0.731 のべき乗モデルにより記述 できた。これは,AUCτ,ssが体重
64 kg(解析対象集団の中央値)の患者と比べて体重 45 kg(5
パーセンタイル)の患者では29%増加し,体重 91 kg(95
パーセンタイル)の患者では23%減
少することを意味する。ECOG
パフォーマンス・スコア:ECOGパフォーマンス・スコアが2
以上の患者は,AUCτ,ssがECOG
パフォーマンス・スコアが0
または1
の患者と比べて37%増加した。
LDH:アファチニブ曝露量の変化は LDH
の線形関数(傾き0.000536)で記述された。これは,
LDH 133 U/L(5
パーセンタイル)の患者では,257 U/L(解析対象集団の中央値)の患者と比べて,定常状態における濃度-時間曲線下面積(AUCτ,ss)が
7%減少し,784 U/L(95
パーセン タイル)の患者では28%増加することを意味する。
CRCL:CRCL
が120 mL/min
未満の患者では,CRCLの1 mL/min
減少につき,CL/Fが0.312%
ずつ直線的に減少した。これは
CRCL
が50
および30 mL/min
の男性患者ではAUC
τ,ssが,CRCL
78 mL/min(解析対象集団の中央値)の患者と比べてそれぞれ 11%および 21%増加したことを
意味する。
性別:女性患者では
CL/F
が男性患者より12%低く,AUC
τ,ssが14%増加した。
アファチニブの薬物動態に有意な影響を及ぼさない共変量
年齢,喫煙歴,飲酒,患者集団(癌の種類),肝転移はアファチニブの薬物動態に有意な影響を 及ぼさなかった。
アジア人(部分集団を含む)と非アジア人の患者でアファチニブの薬物動態に統計的有意差は 認められなかった。黒人患者についても明らかな差は認められなかった。ただし,黒人集団の データは限られていた(薬物動態解析データセットに含まれる患者のうち黒人患者は
1.6%であ
った)。アファチニブの薬物動態に対する肝障害の影響を評価するため,個々の代替マーカー(アラニ ンアミノトランスフェラーゼ(ALT),アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST),ビ リルビン(BIL)),総血漿蛋白および
NCI
臓器不全作業部会に基づき採用した肝機能分類がみ かけのクリアランス(CL/F)と相対バイオアベイラビリティ(F1)に及ぼす影響を評価した。NCI
分類では,肝の障害度がALT,AST,BIL
に基づいて,軽度1,軽度 2,中等度の 3
つに分 類される。変数増加法における単一の共変量の影響を検討した後,このNCI
分類を用いてさら に肝機能の影響を評価した。軽度(1および2)の肝障害はみかけのクリアランスと相対バイオ
アベイラビリティのいずれにも統計的に有意な影響を及ぼさなかった。中等度の肝障害を有す る患者ではみかけのクリアランスがわずかに低い傾向がみられたが,統計的に有意な差ではな かった。ただしこの患者集団からは,血漿中濃度データのうちのわずか0.6%しか入手できなか
った。シミュレーション
個々の共変量の影響をシミュレートした結果,いずれの共変量もそれ自体は,アファチニブの 血漿中濃度の実測値のばらつき(90%予想区間)を超える影響を持たないことが示された(各 薬物動態解析データセットにおける共変量のベースライン値の最頻値/中央値を用いて定義し た「典型的な患者」との比較)。
共変量の組合せによる影響については,最悪のシナリオ,すなわち,体重
45 kg(5
パーセンタ イル),ECOG
パフォーマンス・スコア2, CRCL 30 mL/min, LDH 784 U/L
(95パーセンタイル),強力な
P-糖蛋白阻害剤を併用している女性患者の場合, AUC
τ,ssが薬物動態解析データセットにおける各共変量のベースライン値の最頻値/中央値で定義された「典型的な患者」(女性,体重
64 kg,ECOG
パフォーマンス・スコア0
または1,CRCL 78 mL/min,LDH 257 U/L,P-糖蛋白
阻害剤・誘導剤の併用なし)と比べて4.15
倍増加すると予想された。試験1200.23の最終データ
試験