2. 個々の試験結果の要約
2.2 健康被験者における基本的薬物動態試験
表題:健康男性に[14
C]-アファチニブマレイン酸塩 15 mg
溶液を単回投与したときの[14C]-アフ
ァチニブの代謝および薬物動態資料番号(報告書番号):[CTD 5.3.3.1-1(U -1759)]
目的:本試験の目的は,健康男性を対象に[14
C]-放射標識アファチニブを単回投与したときのア
ファチニブの代謝および薬物動態を評価することであった。ヒト血漿中および排泄物中の代謝 物を測定した。代謝物の構造を解析して,動物での代謝物と比較した。さらに,排泄のマスバ ランス,[14C]-放射能の蛋白結合,アファチニブの血漿中濃度ならびに血球,血漿,尿および糞
便中の[14
C]-放射能を測定した。アファチニブの安全性および忍容性も検討した。
方法:本試験は非盲検,代謝物プロファイリングおよび薬物動態検討試験であり,健康成人男 性被験者
8
名を組入れた。[
14C]-放射標識アファチニブを含む投与量 15 mg
を単回経口投与した。安全性に関して,有害事象の発現率および重症度ならびにバイタルサイン,心電図および安全 性に関する臨床検査パラメータの変化を評価した。血漿,全血,糞便および尿中の[14
C]-放射能
を測定し,血中および血漿中の放射能濃度からPK
パラメータを求めた。血漿,尿および糞便 中の放射能濃度からアファチニブの排泄速度および排泄量(マスバランス)を求めた。[14 C]-放射能の血漿蛋白結合率を測定した。血漿中および尿中のアファチニブ濃度も測定し,これら の濃度からアファチニブのPK
パラメータを算出した。結果:血漿中アファチニブ濃度ならびに血漿中および血中[14
C]-放射能濃度は,投与後約 6
時間 で最大値に達した。アファチニブおよび[14C]-放射能の血漿中ならびに血中濃度-時間推移の形
状は,投与の12
時間後まで類似していた。12時間後以降,血漿中アファチニブ濃度は,[14 C]-血漿中放射能濃度および[14C]-血中放射能濃度よりも速やかに低下した。
血漿中のアファチニブと血漿中および血中の[14
C]-放射能の PK
パラメータの幾何平均値の比較 を表2.2.1:1
に示す。投与後最初の24
時間にアファチニブは血漿中の総[14C]-放射能量の 73%を
占め(
AUC
0-24の比較),最終測定可能濃度までの時間では62%を占めた( AUC
0-tzの比較)。また,投与後最初の
24
時間では,血中[14C]-放射能の約 80%は血漿中に認められた(AUC
0-24) が,最終測定可能濃度までの評価では52%が血漿中に認められた(AUC
0-tzの比較)。表 2.2.1: 1 アファチニブ(2.25 MBq [14
C]-標識アファチニブ)溶液 15 mg
の単回経口投 与後の血漿中アファチニブと血漿中および血中[14C]-アファチニブ-EQ
の薬 物動態パラメータの比較(試験1200.25)
血漿中アファチニブ (N=8)
血漿中[14C]-アファチニブ-EQ (N=8)
血中[14C]-アファチニブ-EQ (N=8)
パラメータ 単位 gMean gCV [%] 単位 gMean gCV [%] 単位 gMean gCV [%]
AUC0-24 [ng·h/mL] 80.2 34.9 [ngeq·h/mL] 110 40.1 [ngeq·h/mL] 138 47.1 AUC0-tz [ng·h/mL] 144 32.3 [ngeq·h/mL] 231 69.9 [ngeq·h/mL] 446 59.1 Cmax [ng/mL] 6.19 38.4 [ngeq/mL] 7.58 36.0 [ngeq/mL] 8.01 41.2 tmax1) [h] 6.00 (1.50- 8.02) [h] 6.00 (0.750-8.02) [h] 6.00 (0.750-6.08) t½ [h] 33.9 14.3 [h] 118 65.1 [h] 195 83.9 CL/F [mL/min] 1530 31.2 [mL/min] 325 51.1 [mL/min] 141 104 Vz/F [L] 4500 37.6 [L] 3330 37.1 [L] 2390 34.8 1)中央値および範囲を示す。
引用元:CTD 5.3.3.1-1(U -1759),Table 11.5.2.5: 1,Table 15.5.2.1: 1, 15.5.2.1: 3, 15.5.2.1: 5
アファチニブのみかけの終末相の半減期(t1/2)の幾何平均値は
33.9
時間である一方,血漿中[
14C]-放射能の半減期の幾何平均値は 118
時間,血中[14C]-放射能は 195
時間であったことから,アファチニブよりも終末相の半減期の長い代謝物が血漿および血中に
1
つあるいは複数存在す ると考えられた。しかし,PK採血時点は投与後96
時間までに限られていたために,本試験で は血漿中および血中[14C]-放射能の終末相半減期は過小評価された可能性がある。被験者の血漿,
尿および糞便中の代謝物プロフィファイルは,3.2.2 項および[CTD 2.6.4_5.1 項]を参照のこ と。アファチニブのみかけの全身クリアランス(CL/F)は比較的高かった(表
2.2.1:1)。終末
相でのみかけの分布容積(Vz/F)も大きく(表 2.2.1:1),本剤の高い組織分布が示唆された。し
かし,アファチニブのヒトでの絶対バイオアベイラビリティ(F)は不明であるため,みかけ の全身クリアランスおよびみかけの分布容積の値の解釈には注意が必要である。総[14
C]-放射能の投与後 120
時間の尿中排泄率が3.11%であり,未変化体アファチニブの尿中排
泄率は0.687%であった(表 2.2.1:2)。
投与後
216
時間(最終測定ポイント)までの総[14C]-放射能の尿中排泄率は 4.29%であった。0
~96時間のアファチニブの腎クリアランス(11.4 mL/min)は血漿中の[14
C]-放射能のクリアラ
ンスに比べて低かった。総[14C]-放射能の主な排泄経路は糞便であり,投与後 312
時間までに85.4%が排泄された。投与後 312
時間までの[14C]-放射能の平均回収率は 89.5%であった。
表
2.2.1: 2
アファチニブ(2.25 MBq [
14C]-
標識アファチニブ)溶液15 mg
の単回経口投 与後の尿中アファチニブと尿中および糞便中[
14C]-
アファチニブ-EQ
の薬物 動態パラメータの比較(試験1200.25
)尿中アファチニブ (N=8)
尿中[14C]-アファチニブ-EQ (N=8)
糞便中[14C]-アファチニブ-EQ (N=7)
パラメータ 単位 gMean gCV [%]
単位 gMean gCV [%]
単位 gMean gCV [%]
fe0-120 [%] 0.687 55.0 [%] 3.11 31.3
fe0-216 [%] 4.291) 30.5
CLR,0-96 [mL/min] 11.4 45.2 [mL/min] 22.4 19.2
fe0-312, faeces [%] 85.4 5.82
1) N=3
引用元:CTD 5.3.3.1-1(U -1759),Table 11.5.2.5: 2, Table 15.5.1.2: 12から改変
投与後
6
時間の[14C]-放射能の赤血球分布は中程度であった。 [
14C]-放射能の蛋白結合率は投与 6
時間後に
57.2~88.4%であった。しかし,濃度はすべてバリデートされた定量範囲の下限付近
であったことから,解釈には注意が必要である。
結論:総[14
C]-放射能の主な排泄経路は糞便であった。[
14C]-放射能の総回収率は 89.5%であっ
た。アファチニブならびに血漿中および血中[14C]-放射能のいずれも,投与後約 6
時間で最高血 漿中濃度に達した。みかけの終末相半減期(t1/2)の幾何平均値はアファチニブ
33.9
時間,血漿中[14C]-放射能 118
時間,血中[14C]-放射能 195
時間であったことから,アファチニブよりも終末相半減期の長い代 謝物が血漿および血中に1
つあるいは複数存在すると考えられた。アファチニブのみかけの全 身クリアランス(CL/F)は比較的高く,血漿中および血中[14C]-放射能の CL/F
幾何平均値は低 かった。アファチニブならびに血漿中および血中[14C]-放射能は終末相でのみかけの分布容積
(Vz
/F)が大きく,本剤の高い組織分布が示唆された。
2.2.2
試験1200.35
表題:健康男性を対象にアファチニブ
20 mg
錠剤(市販予定製剤)とアファチニブ内服液およ びアファチニブ錠剤(第II
相用治験製剤)を単回経口投与したときの相対バイオアベイラビリ ティの比較(非盲検,無作為化,単回投与,3元配置クロスオーバー第I
相試験)資料番号(報告書番号):[CTD 5.3.1.1-2(U -2233)]
目的:本試験の主目的は,健康男性にフィルムコート速放錠(市販予定製剤(FF),すなわち 第
III
相用治験製剤)として投与したアファチニブ20 mg
の相対バイオアベイラビリティ(BA)および薬物動態を,内服液ならびに第
II
相試験および一部の第I
相試験で使用した第II
相用治 験製剤(TF2)と比較検討することであった。方法:本試験は非盲検,無作為化,単回投与,3 元配置クロスオーバーデザインに従い実施し た。健康成人男性
22
名を組入れた。各治験薬投与期にアファチニブ20 mg
を単回投与し,96 時間までPK
用採血を実施した。3つの治験薬投与期の間にはそれぞれ3
週間以上のウォッシ ュアウト期間を設けた。主要評価項目はアファチニブのAUC
0-∞ およびC
maxであった。AUC
0-∞および
C
maxの被験者内比の中央値の点推定値(幾何平均値)ならびにこれらの両側90%CI
を 算出した。さらに,健康成人男性でのアファチニブの基本的な薬物動態パラメータも求めた。結果と結論:各種製剤の相対バイオアベイラビリティの結果を[CTD 2.7.1_2.2項]に示す。
t
max の中央値は3
製剤ともすべて5
時間であった。終末相半減期(t1/2)は27.5~30.4
時間,分布容 積(Vz/F)は 6960~8100 L
であった。みかけの全身クリアランス(CL/F)も高く,2900~3230mL/min
であった。2.2.3
試験1200.80
表題:健康成人男性を対象にアファチニブ 20 mg,30 mg,40 mgおよび
50 mg
錠(市販予定製 剤)を経口投与したときの薬物動態,安全性および忍容性(非盲検,単回投与,用量漸増第I
相試験)資料番号(報告書番号):[CTD 5.3.1.1-1(U -1164)]
目的:健康成人男性被験者に
4
用量(20 mg,30 mg,40 mgおよび50 mg
の市販予定製剤)の アファチニブ錠を単回投与し,用量比例性を含む薬物動態,安全性および忍容性を評価する。方法:本試験は,非盲検,用量漸増法,単回投与,個体間比較試験として,単一施設で健康成 人男性を対象に実施した。4用量群に
12
名ずつ計48
名の被験者を組入れた。投与法はアファ チニブ20 mg,30 mg,40 mg
または50 mg
の単回経口投与であり,それぞれの含量の速放性の フィルムコート錠(FF)を投与した。各群内で1
投与量を検討した。主要評価項目はAUC
0-∞,AUC
0-tz,および C
maxであり,アファチニブの用量比例性について評価した。さらに,健康成人 男性でのアファチニブの基本的な薬物動態も検討した。結果:評価した投与量の用量比例性の解析については,[CTD 2.7.1_2.3項]に示す。アファチ ニブの血漿中濃度-時間推移の形状は,全用量群で類似していた(図
5.2: 3
参照)。健康成人男 性におけるアファチニブの主な薬物動態パラメータを表2.2.3:1
に示す。表
2.2.3: 1
単回投与後のアファチニブの主要PK
パラメータの比較(試験1200.80
)20 mg
(N=12)
30 mg (N=12)
40 mg (N=11)
50 mg (N=12) パラメータ 単位 gMean gCV
[%]
gMean gCV [%]
gMean gCV [%]
gMean gCV [%]
Cmax [ng/mL] 7.78 42.3 13.7 44.7 24.3 33.1 37.1 37.4
Cmax,norm [ng/mL/mg] 0.389 42.3 0.457 44.7 0.608 33.1 0.741 37.4
AUC0-∞ [ng·h/mL] 189 35.1 327 35.5 549 32.1 724 48.7
AUC0-∞,norm [ng·h/mL/mg] 9.43 35.1 10.9 35.5 13.7 32.1 14.5 48.7
tmax1) [h] 5.00 (2.00–
8.00)
5.00 (1.00–
6.00)
5.00 (5.00–
6.00)
5.00 (4.00–
5.00) t1/2 [h] 30.7 10.6 32.9 24.8 29.6 12.6 28.5 15.5 CL/F [mL/min] 1770 35.1 1530 35.5 1210 32.1 1150 48.7 Vz/F [L] 4700 43.9 4350 42.7 3110 39.1 2840 54.8 1)中央値および範囲を示す。
引用元:CTD 5.3.1.1-1,U -1164,Table 11.5.2.3:1
アファチニブの吸収速度は中程度であり,いずれの投与量も投与後
5
時間(tmax中央値)で最 高血漿中濃度に達した。アファチニブ血漿中濃度には中程度から高度の個体間変動が認められ,各採取時点の
gCV
は23.5~216%であった。終末相半減期(t
1/2)の幾何平均値は28.5~32.9
時 間であった。みかけの全身クリアランス(CL/F)およびみかけの分布容積(Vz/F)は高く,い
ずれも用量の増加と共に低下した。結論:評価したいずれの投与量も,tmaxの中央値は投与後